―とある執事の電撃作戦―
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「これは脅しなどではない。確定事項だ」
意識を取り戻したフィリップの右目越しに、彼の脳を奪いこちらを見ているであろう小悪党へギルベルトが告げる。本気で怒っている様子に思わず口笛を吹きたくなるくらい、純粋な殺気だ。
レオが追尾した小悪党どもの拠点である工場が見え、オープンカー状態だった車の屋根部分が閉められていくのに、シルビが邪魔にならぬよう車から飛び降りようとすると、レオとザップに思いっきり引き擦り込まれた。
「ちょっ」
「置いてくなよ!」
「多分外に行っても出番ねーぞ!」
「出番が欲しくて飛び降りようとした訳じゃねぇよ!」
言い合っている間に天幕がきっちりと閉められる。窓の外で響く機械音に狭い車内から外を見れば、車の外装がどんどん変わっていくのが見えた。
なんというか、少年の夢のような格好良さである。そうでなくとも機械オタクな知り合い達が見れば確実に目を輝かせるだろう。シルビは申し訳ないがそこまで興味は無い。
そうして変形した車が、小悪党共のいる工場へと突っ込んでいく。
ノーブレーキで。
「マジ!?」
「対ショック体勢! レオ君フィリップさん抑えんの手伝えぇ!」
慌てて意識を取り戻しても動けないでいるフィリップを座席へ押さえつける。シルビ自身も狭い車内で椅子にも座れないまま体勢を一応固定したところで、車が工場の入り口を破壊した。
同時に、工場内で待ち構えていた小悪党達を、車の外部へ装着された銃口から発射される銃弾が粉々にしていく。本来なら銃で撃ったくらいではそんな表現はしないだろうが、窓の外は粉々になった肉片の雨が降り注いでいた。
ザップがホースを経由して外へ流れた血が刃となり、車の回転に合わせて周囲の生き残りを分断していく。そうして作り上げた惨状を顧みることなく再び走り出した車は、工場内部の従業員休憩室だと思われる二階部分の一室を目指していた。
まさかこのまま二階へ上がるのかと一瞬思ったがそんな事は無く、外部の銃口から放たれた銃弾の雨がその部屋を粉砕する。中にいた小悪党共と一緒にケースへ入れられたフィリップの脳が落下しかけ、ザップの血がそれを受け止めようと伸びた。
だが後少しというところで、外人が全てを誤解した似非くさいニンジャ風の異界人へ掻っ攫われる。
「済まねえ」
「仔細ありません」
ギルベルトとザップが短く言葉を交わす。
おそらくあの異界人が、この小悪党共のリーダー格か何かなのだろう。脳の入ったケースを抱え込んで、走るトラックの上へと飛び乗るそいつの笑い声が耳障りだ。
奪われた脳に繋がった左目と、身体へ残っている右目とでこの光景を見ているのだろうフィリップが、恐怖で顔を青褪めさせていた。息も荒く下手をすれば過呼吸を起こしそうだ。シルビが手を押し付けるようにしてその顔へ滲む汗を拭ってやると、右目が怯えの色を浮かべながらもシルビを見た。
「シルビ?」
「フィリップさんが」
レオもフィリップの様子に気付いて手を伸ばす。
「大丈夫ですフィリップさん。僕ら地獄の底まで追いかけます。見失う事はありません」
『神々の義眼』を持つレオが言うと、本当の事のように思える。『義理』とはいえ本来『神々の持ち物』であるそれなら、地獄の底を通り越して天国の天辺だって見られるだろう。
問題があるとすれば行けるかどうかだが、そもそも比喩的発言なので細かい事は気にしない。ただシルビがいれば行ける気はする。
後ろから単車に跨った生き残りが追いかけてきていたが、それも撃たれて退けられていく。だが後ろだけ見ている訳にも行かない。
脳を抱えた異界人が乗るトラックの後部が開く。そうしてこちらを向いて並べられていたミサイルの弾頭が全て発射されてくるのに、シルビはギルベルトの顔の横へ手を伸ばした。
「五発、お願い出来ますか」
「五発といわずいくらでも」
「ではお願いします」
指を鳴らす。ギルベルトの運転する車を狙って全弾発射されたミサイルへ対し、それぞれの進行方向へ『第八の炎』の輪を作り上げる。ソレを潜っていったミサイルは後方で現れ、単車で追いかけてきていた生き残り達へと直撃した。
一発も車には当たらない。当てさせる訳が無い。
トラックの上にいる異界人が、手で何かの合図をする。直後両脇へ積まれていた巨大コンテナが崩れだし、今度は上からの妨害だ。
レオがフィリップを庇いながらも叫び声を上げる。喉が枯れそうだなとどうでもいい事を考えていると、コンテナの落下音とエンジンの荒ぶる音に紛れてギルベルトの声がした。
「少し揺れます。掴まってください」
それは確実に“少し”ではなかったが誰も文句は言えない。装甲が剥がれたと思ったら再び車の外側で変形が起こる。
落下していくコンテナの、ギリギリの隙間を走り抜けてトラックへと突っ込んだ。荷台部分を跳ね上がらせ、爆発するそれを追い越すように走り抜ける。
「脳! 脳どうすんすか! 一緒に吹っ飛んで……!」
脳を抱えていた異界人が、運転するギルベルトの目の前で大刀を振り上げていた。
意識を取り戻したフィリップの右目越しに、彼の脳を奪いこちらを見ているであろう小悪党へギルベルトが告げる。本気で怒っている様子に思わず口笛を吹きたくなるくらい、純粋な殺気だ。
レオが追尾した小悪党どもの拠点である工場が見え、オープンカー状態だった車の屋根部分が閉められていくのに、シルビが邪魔にならぬよう車から飛び降りようとすると、レオとザップに思いっきり引き擦り込まれた。
「ちょっ」
「置いてくなよ!」
「多分外に行っても出番ねーぞ!」
「出番が欲しくて飛び降りようとした訳じゃねぇよ!」
言い合っている間に天幕がきっちりと閉められる。窓の外で響く機械音に狭い車内から外を見れば、車の外装がどんどん変わっていくのが見えた。
なんというか、少年の夢のような格好良さである。そうでなくとも機械オタクな知り合い達が見れば確実に目を輝かせるだろう。シルビは申し訳ないがそこまで興味は無い。
そうして変形した車が、小悪党共のいる工場へと突っ込んでいく。
ノーブレーキで。
「マジ!?」
「対ショック体勢! レオ君フィリップさん抑えんの手伝えぇ!」
慌てて意識を取り戻しても動けないでいるフィリップを座席へ押さえつける。シルビ自身も狭い車内で椅子にも座れないまま体勢を一応固定したところで、車が工場の入り口を破壊した。
同時に、工場内で待ち構えていた小悪党達を、車の外部へ装着された銃口から発射される銃弾が粉々にしていく。本来なら銃で撃ったくらいではそんな表現はしないだろうが、窓の外は粉々になった肉片の雨が降り注いでいた。
ザップがホースを経由して外へ流れた血が刃となり、車の回転に合わせて周囲の生き残りを分断していく。そうして作り上げた惨状を顧みることなく再び走り出した車は、工場内部の従業員休憩室だと思われる二階部分の一室を目指していた。
まさかこのまま二階へ上がるのかと一瞬思ったがそんな事は無く、外部の銃口から放たれた銃弾の雨がその部屋を粉砕する。中にいた小悪党共と一緒にケースへ入れられたフィリップの脳が落下しかけ、ザップの血がそれを受け止めようと伸びた。
だが後少しというところで、外人が全てを誤解した似非くさいニンジャ風の異界人へ掻っ攫われる。
「済まねえ」
「仔細ありません」
ギルベルトとザップが短く言葉を交わす。
おそらくあの異界人が、この小悪党共のリーダー格か何かなのだろう。脳の入ったケースを抱え込んで、走るトラックの上へと飛び乗るそいつの笑い声が耳障りだ。
奪われた脳に繋がった左目と、身体へ残っている右目とでこの光景を見ているのだろうフィリップが、恐怖で顔を青褪めさせていた。息も荒く下手をすれば過呼吸を起こしそうだ。シルビが手を押し付けるようにしてその顔へ滲む汗を拭ってやると、右目が怯えの色を浮かべながらもシルビを見た。
「シルビ?」
「フィリップさんが」
レオもフィリップの様子に気付いて手を伸ばす。
「大丈夫ですフィリップさん。僕ら地獄の底まで追いかけます。見失う事はありません」
『神々の義眼』を持つレオが言うと、本当の事のように思える。『義理』とはいえ本来『神々の持ち物』であるそれなら、地獄の底を通り越して天国の天辺だって見られるだろう。
問題があるとすれば行けるかどうかだが、そもそも比喩的発言なので細かい事は気にしない。ただシルビがいれば行ける気はする。
後ろから単車に跨った生き残りが追いかけてきていたが、それも撃たれて退けられていく。だが後ろだけ見ている訳にも行かない。
脳を抱えた異界人が乗るトラックの後部が開く。そうしてこちらを向いて並べられていたミサイルの弾頭が全て発射されてくるのに、シルビはギルベルトの顔の横へ手を伸ばした。
「五発、お願い出来ますか」
「五発といわずいくらでも」
「ではお願いします」
指を鳴らす。ギルベルトの運転する車を狙って全弾発射されたミサイルへ対し、それぞれの進行方向へ『第八の炎』の輪を作り上げる。ソレを潜っていったミサイルは後方で現れ、単車で追いかけてきていた生き残り達へと直撃した。
一発も車には当たらない。当てさせる訳が無い。
トラックの上にいる異界人が、手で何かの合図をする。直後両脇へ積まれていた巨大コンテナが崩れだし、今度は上からの妨害だ。
レオがフィリップを庇いながらも叫び声を上げる。喉が枯れそうだなとどうでもいい事を考えていると、コンテナの落下音とエンジンの荒ぶる音に紛れてギルベルトの声がした。
「少し揺れます。掴まってください」
それは確実に“少し”ではなかったが誰も文句は言えない。装甲が剥がれたと思ったら再び車の外側で変形が起こる。
落下していくコンテナの、ギリギリの隙間を走り抜けてトラックへと突っ込んだ。荷台部分を跳ね上がらせ、爆発するそれを追い越すように走り抜ける。
「脳! 脳どうすんすか! 一緒に吹っ飛んで……!」
脳を抱えていた異界人が、運転するギルベルトの目の前で大刀を振り上げていた。