―とある執事の電撃作戦―
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「お前実はお貴族サマ?」
「下町の生まれだけどぉ?」
「なんだよ。金持ちなら金借りよーと思ったのに」
「金持ちならこんな場所で店番してねぇだろぉ」
フィリップが補佐としてやってきて数日。今日はレオがフィリップへヘルサレムズ・ロットを案内するとかで暇なのか、ザップがシルビの勤める『WATABEドラッグストア』へ来ては駄弁っていた。
というよりはこの店に来る客が少ない事と、タイミングさえ合えばシルビが作った昼食をタダで食べられると学びでもしたのだろう。いつも金欠を訴えている男である。
店番をしながらカウンターの影で片付けている書類は『復讐者』とも違う副職の書類だ。シルビのサインが必要なものは少ないが、内容は実のところ薬局のカウンターで軽く片付けていい内容ではない。だが置き忘れていっても見るのは店長くらいだ。一人なら最悪消せる。
「……クソ真面目な奴は苦手なんか」
「生憎上辺だけの博愛主義者だぁ。クソ真面目なだけなら温かい目で見られるよ」
「だったら大人になれや」
「ザップさんに諭されんのは予想外だったなぁ。……困ってる?」
「どうだかな」
フィリップが来たあの日から、シルビはライブラへあまり顔を出さなくなった。正確には毎日ちゃんと顔を出してはいるが、用が無ければすぐに事務所を出てしまう。
何が怖いってその行動について、リーダーであるクラウスも副官的存在であるスティーブンも何も言ってこないことかもしれない。シルビはライブラと提携を組んだが故に協力している立場で、シルビの背後にはそれなりの取引も動いている。
だがそれを分かっていて、シルビは行けないのだ。
「弟に連絡を取って聞いてみたんだけど。そしたら確かにラインヘルツ家へ行った事はあるらしいんだが、フィリップ・レノールという人物へ名乗った覚えは無ぇって言われて」
「はぁん? それが?」
「だとしたら彼は単に誰かが弟を呼んだ時の呼び方を聞いて覚えてただけで、あんな気安く話しかけてきやがったのかとか、テメェは俺の弟に思慕してんのかとか思い出しただけでちょっと苛々してきたやべぇちょっとその辺のゴロツキに喧嘩売って駄目だそんなことしたら殺しちゃう」
「ブラコンかっ」
別にフィリップは微塵たりとも悪くは無い。いや、最初にシルビと弟を間違えた事は悪いが、あとは本当にシルビが一方的にブラコンを拗らせているだけだ。
書類の最後の一枚へサインし、ため息を吐きながら副職の本部へあるシルビ不在時受け渡し用の箱へ転移させる。これでまた暫くは副職のほうの仕事は無いはずだ。
「明日になったらちゃんと話すよ。今の状態じゃギルベルトさんにも悪ぃからなぁ」
「ふーん」
と、思っていた次の日。今度はフィリップのほうが大変な事になっていた。お陰でシルビは普段通りの態度を取るしかなく、朝にライブラへ顔を出してから今まで通り逃げるようにライブラの事務所を出て、また夜に出向く羽目になってしまったのである。
やはり謝罪というのはどんな案件の場合でも時間を置くなということだろう。
「いやでも、ちょっと抜けてるっていう可能性も無きにしも非ずかなぁ」
「ヒデー」
ギルベルトによって意識を失わされたフィリップの、脳抜きの際に残された右目から『神々の義眼』を利用してレオが脳を奪った小悪党の居場所を追尾している横で呟けば、レオが思わずといったふうに返してきた。
「だって全て彼の浅慮だろぉ? 俺と弟を間違えたのも脳を奪われたのも」
「シルビもHLに染まってきてんな。フツーは脳を奪われるとか思わねーって」
「油断したら巨人に掴まって、頭から丸齧りが日常茶飯事だったことあるぜぇ?」
「どういうこと!?」
脳の在り処を突き止めたらしいレオに、シルビはフィリップの身体を担いでギルベルトの車へと乗せる。追尾している以上レオは付いて行かねばならず、フィリップは現在無力なのでシルビも主に二人の護衛として付いていくのだ。
クラウスと話していたギルベルトが車へ向かってくるのに、レオとシルビも乗り込もうとして後ろからザップへ背中を蹴られる。レオとダルマ倒しの様に車内へもつれ込んだところで、シルビを押し込むようにしてザップも車内へと座り込んできた。
「水臭せえな。こういう時は言ってくれねえとギルベルトさん」
「……申し訳ありません。丁度、お声掛けをしようと思っていたところです」
「ソレはいいけど狭けぇよ! これ四人乗りぃ! 後部座席で四人じゃねぇんだよぉ!」
「じゃーテメーボンネット行けや」
「人が空間転移出来るから落ちても平気だと思ってんだろぉ! 平気だよ畜生!」
「平気なのかよ! いやシルビ危ないって!」
「狭くて申し訳ありませんが、ボンネットへ居座るのはご遠慮ください」
チェインの様に『質量希薄』が出来たら良かったと思う。というかシルビだけ車ではなく空間転移で追いかければ良いのではと思ったが、それを主張する前に車は既にフルスピードで走り出していた。
仕方なくオープンカーなのをいい事に背もたれ部分へ座り直し、足だけレオとザップの間へ置かせてもらう。走行中の風が全身へ当たるが仕方ない。
それにこうしておけばいつでも降りられる。シルビなら走行中の車から落ちたところで空間転移出来るのだから。
「下町の生まれだけどぉ?」
「なんだよ。金持ちなら金借りよーと思ったのに」
「金持ちならこんな場所で店番してねぇだろぉ」
フィリップが補佐としてやってきて数日。今日はレオがフィリップへヘルサレムズ・ロットを案内するとかで暇なのか、ザップがシルビの勤める『WATABEドラッグストア』へ来ては駄弁っていた。
というよりはこの店に来る客が少ない事と、タイミングさえ合えばシルビが作った昼食をタダで食べられると学びでもしたのだろう。いつも金欠を訴えている男である。
店番をしながらカウンターの影で片付けている書類は『復讐者』とも違う副職の書類だ。シルビのサインが必要なものは少ないが、内容は実のところ薬局のカウンターで軽く片付けていい内容ではない。だが置き忘れていっても見るのは店長くらいだ。一人なら最悪消せる。
「……クソ真面目な奴は苦手なんか」
「生憎上辺だけの博愛主義者だぁ。クソ真面目なだけなら温かい目で見られるよ」
「だったら大人になれや」
「ザップさんに諭されんのは予想外だったなぁ。……困ってる?」
「どうだかな」
フィリップが来たあの日から、シルビはライブラへあまり顔を出さなくなった。正確には毎日ちゃんと顔を出してはいるが、用が無ければすぐに事務所を出てしまう。
何が怖いってその行動について、リーダーであるクラウスも副官的存在であるスティーブンも何も言ってこないことかもしれない。シルビはライブラと提携を組んだが故に協力している立場で、シルビの背後にはそれなりの取引も動いている。
だがそれを分かっていて、シルビは行けないのだ。
「弟に連絡を取って聞いてみたんだけど。そしたら確かにラインヘルツ家へ行った事はあるらしいんだが、フィリップ・レノールという人物へ名乗った覚えは無ぇって言われて」
「はぁん? それが?」
「だとしたら彼は単に誰かが弟を呼んだ時の呼び方を聞いて覚えてただけで、あんな気安く話しかけてきやがったのかとか、テメェは俺の弟に思慕してんのかとか思い出しただけでちょっと苛々してきたやべぇちょっとその辺のゴロツキに喧嘩売って駄目だそんなことしたら殺しちゃう」
「ブラコンかっ」
別にフィリップは微塵たりとも悪くは無い。いや、最初にシルビと弟を間違えた事は悪いが、あとは本当にシルビが一方的にブラコンを拗らせているだけだ。
書類の最後の一枚へサインし、ため息を吐きながら副職の本部へあるシルビ不在時受け渡し用の箱へ転移させる。これでまた暫くは副職のほうの仕事は無いはずだ。
「明日になったらちゃんと話すよ。今の状態じゃギルベルトさんにも悪ぃからなぁ」
「ふーん」
と、思っていた次の日。今度はフィリップのほうが大変な事になっていた。お陰でシルビは普段通りの態度を取るしかなく、朝にライブラへ顔を出してから今まで通り逃げるようにライブラの事務所を出て、また夜に出向く羽目になってしまったのである。
やはり謝罪というのはどんな案件の場合でも時間を置くなということだろう。
「いやでも、ちょっと抜けてるっていう可能性も無きにしも非ずかなぁ」
「ヒデー」
ギルベルトによって意識を失わされたフィリップの、脳抜きの際に残された右目から『神々の義眼』を利用してレオが脳を奪った小悪党の居場所を追尾している横で呟けば、レオが思わずといったふうに返してきた。
「だって全て彼の浅慮だろぉ? 俺と弟を間違えたのも脳を奪われたのも」
「シルビもHLに染まってきてんな。フツーは脳を奪われるとか思わねーって」
「油断したら巨人に掴まって、頭から丸齧りが日常茶飯事だったことあるぜぇ?」
「どういうこと!?」
脳の在り処を突き止めたらしいレオに、シルビはフィリップの身体を担いでギルベルトの車へと乗せる。追尾している以上レオは付いて行かねばならず、フィリップは現在無力なのでシルビも主に二人の護衛として付いていくのだ。
クラウスと話していたギルベルトが車へ向かってくるのに、レオとシルビも乗り込もうとして後ろからザップへ背中を蹴られる。レオとダルマ倒しの様に車内へもつれ込んだところで、シルビを押し込むようにしてザップも車内へと座り込んできた。
「水臭せえな。こういう時は言ってくれねえとギルベルトさん」
「……申し訳ありません。丁度、お声掛けをしようと思っていたところです」
「ソレはいいけど狭けぇよ! これ四人乗りぃ! 後部座席で四人じゃねぇんだよぉ!」
「じゃーテメーボンネット行けや」
「人が空間転移出来るから落ちても平気だと思ってんだろぉ! 平気だよ畜生!」
「平気なのかよ! いやシルビ危ないって!」
「狭くて申し訳ありませんが、ボンネットへ居座るのはご遠慮ください」
チェインの様に『質量希薄』が出来たら良かったと思う。というかシルビだけ車ではなく空間転移で追いかければ良いのではと思ったが、それを主張する前に車は既にフルスピードで走り出していた。
仕方なくオープンカーなのをいい事に背もたれ部分へ座り直し、足だけレオとザップの間へ置かせてもらう。走行中の風が全身へ当たるが仕方ない。
それにこうしておけばいつでも降りられる。シルビなら走行中の車から落ちたところで空間転移出来るのだから。