―とある執事の電撃作戦―
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「シルビって心配性?」
「なんでぇ?」
ギルベルトの補佐が来るという日。運転するスクーターが信号で停まったのを機にレオが尋ねてくる。ライブラへ向かう途中で出会ったので乗せてもらったシルビは、スクーターの後部から振り返ったレオを見返した。
「だってさ、ギルベルトさんの怪我にスゲー反応してたじゃん。オレだって心配だけどあそこまでテンパってなかったし」
「んー、心配性っていうか、どうすればいいのか分からなくなるのが苦手なのかなぁ。泣かれるのも困るから」
信号が変わってスクーターが動き出す。
「それはちょっと分かる。妹が泣いてるのとか見ると『なんでっ!?』って驚くもんな」
「俺の場合はそれが家族に限った事じゃねぇっていうか……妹さんいるのかぁ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 妹がいるよ」
「へぇ、俺も弟がいるぜぇ。あと兄と姉が一人ずつ」
「兄弟多いんだな」
そんな事を話しながら到着したライブラの事務所で、ギルベルトの補佐としてやってきた男はフィリップ・レノールと名乗った。
シルビよりも少し小さいが、通常であれば大声と分類される声量で挨拶し、直角に頭を下げる姿からして、よく言えば真面目で礼儀正しいのだが、悪く言うと愚直だとでも言うべきか。何だか認識や思い込みが強そうで、少しシルビの苦手とするタイプかもしれない。
「補佐と言わず、全ての業務をこのフィリップへドンとお任せを!」
「ああ……熱血漢だなぁ」
思わず呟いたのが聞こえたのか、フィリップがシルビを振り返った。目が合って、何故か凝視するように見つめられる。
そんなに見つめられるような発言だったつもりはなく、見つめられる事に戸惑っていると興奮した様子で歩み寄ってきた。また腰を折って苦しんでいたギルベルトやレオ達がそんなフィリップとシルビを見やる。
「ミスタ・『カズヒト』!」
「カズヒト……?」
スティーブンが訝しげに繰り返した。
「以前お見かけした時とは色が違いますが、髪を染められたのですか? 貴方がヘルサレムズ・ロットへ、しかもミスタ・ギルベルト達とご一緒だとは――」
「――Sig.レノール」
思ったよりも硬い声が出てしまった。だがソレを聞いて目の前の男は黙り込む。
「その言葉は貴方がラインヘルツ家のバトラーとして発言していると理解してよろしいか。でしたら私も“それなり”の態度を取らねばなりません」
「え……」
「私は髪を染めておりません。それから俺の名前は『カズヒト』じゃない。訂正としては以上ですが“警告”として一つ。――俺と弟を間違えるような奴が俺の弟の名を勝手に呼ぶんじゃねぇ」
言ってから、周囲の空気に気付いてやってしまったと後悔した。瞠目しているライブラのメンバーにしまったと思いつつも、仕方が無かったのだと内心で言い訳する。
だって、こんな知らない男が最愛の弟の名前を気安く呼んだのだ。
「ぁ、っと、失礼しました。ミスタ・フィリップ」
「いえ、こちらこそ初対面で申し訳ありません」
浮かべた笑顔は互いに引き攣ったものになってしまった。シルビは後悔によるものだが、彼はどういった理由からか。いずれにせよ彼を怖がらせた事は間違いないだろう。ヘルサレムズ・ロッドへ来てすぐにそんな目に合わせてしまい申し訳ないと思った。
紹介は終わったので通常業務へ戻るように言われ、それぞれが散らばっていく。シルビも緊急事態で呼ばれるまで薬局のほうにいる事にして事務所を出ると、外へ出た途端頭の上に何かが乗っかってきた。
「何か用ですかチェインさん」
「怒ってる?」
人の頭の上でしゃがんで聞いてくるチェインのそれは、彼女が頭へ乗った事に関してかフィリップへ対してやってしまった事に関してか。おそらく後者だとは分かっているので、チェインを頭へ乗せたまま歩き始める。
「俺の知らねぇ奴がああも気安く弟のことを話すの、なんていうか、嫉妬してるだけです」
そうだ嫉妬だ。シルビでさえヘルサレムズ・ロットへ来る少し前から弟へ会っていないというのに、シルビが苦手かもしれないと思った相手がその弟の話題を出してきたのが腹立たしい。
弟にも交友関係があるとは分かっているが、何処の馬の骨とも知れないヤツが気安く弟と親しくするなと。更にはシルビと弟を見間違える程度の付き合いの癖にと思う。
結局のところブラコンであった。
「弟さんいるの?」
「今はイタリアにいます」
端的に答えて曲がり角を曲がる。シルビの頭の上から街灯の上へと移動したチェインに足を止めて振り返った。
「……あの子の事をラインヘルツ家が知ってるってのは、十中八九ライブラとは関係ねぇ繋がりだと思います。少なくとも俺はクラウスさんのご実家と関わりを持った覚えが無ぇ。だから外交目的の脅迫とかはしないってクラウスさん達へ伝えてもらえますか?」
「脅迫したじゃない」
「言ったでしょう。『嫉妬』です。あと大声でキャラが被る」
最後に冗談を混ぜたところでチェインが肩を竦めて姿を消す。伝えに行ったのだろうと判断してシルビも再び薬局へ向けて歩き出した。
フィリップがいる間は、気まずい思いのままだろう。
「なんでぇ?」
ギルベルトの補佐が来るという日。運転するスクーターが信号で停まったのを機にレオが尋ねてくる。ライブラへ向かう途中で出会ったので乗せてもらったシルビは、スクーターの後部から振り返ったレオを見返した。
「だってさ、ギルベルトさんの怪我にスゲー反応してたじゃん。オレだって心配だけどあそこまでテンパってなかったし」
「んー、心配性っていうか、どうすればいいのか分からなくなるのが苦手なのかなぁ。泣かれるのも困るから」
信号が変わってスクーターが動き出す。
「それはちょっと分かる。妹が泣いてるのとか見ると『なんでっ!?』って驚くもんな」
「俺の場合はそれが家族に限った事じゃねぇっていうか……妹さんいるのかぁ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 妹がいるよ」
「へぇ、俺も弟がいるぜぇ。あと兄と姉が一人ずつ」
「兄弟多いんだな」
そんな事を話しながら到着したライブラの事務所で、ギルベルトの補佐としてやってきた男はフィリップ・レノールと名乗った。
シルビよりも少し小さいが、通常であれば大声と分類される声量で挨拶し、直角に頭を下げる姿からして、よく言えば真面目で礼儀正しいのだが、悪く言うと愚直だとでも言うべきか。何だか認識や思い込みが強そうで、少しシルビの苦手とするタイプかもしれない。
「補佐と言わず、全ての業務をこのフィリップへドンとお任せを!」
「ああ……熱血漢だなぁ」
思わず呟いたのが聞こえたのか、フィリップがシルビを振り返った。目が合って、何故か凝視するように見つめられる。
そんなに見つめられるような発言だったつもりはなく、見つめられる事に戸惑っていると興奮した様子で歩み寄ってきた。また腰を折って苦しんでいたギルベルトやレオ達がそんなフィリップとシルビを見やる。
「ミスタ・『カズヒト』!」
「カズヒト……?」
スティーブンが訝しげに繰り返した。
「以前お見かけした時とは色が違いますが、髪を染められたのですか? 貴方がヘルサレムズ・ロットへ、しかもミスタ・ギルベルト達とご一緒だとは――」
「――Sig.レノール」
思ったよりも硬い声が出てしまった。だがソレを聞いて目の前の男は黙り込む。
「その言葉は貴方がラインヘルツ家のバトラーとして発言していると理解してよろしいか。でしたら私も“それなり”の態度を取らねばなりません」
「え……」
「私は髪を染めておりません。それから俺の名前は『カズヒト』じゃない。訂正としては以上ですが“警告”として一つ。――俺と弟を間違えるような奴が俺の弟の名を勝手に呼ぶんじゃねぇ」
言ってから、周囲の空気に気付いてやってしまったと後悔した。瞠目しているライブラのメンバーにしまったと思いつつも、仕方が無かったのだと内心で言い訳する。
だって、こんな知らない男が最愛の弟の名前を気安く呼んだのだ。
「ぁ、っと、失礼しました。ミスタ・フィリップ」
「いえ、こちらこそ初対面で申し訳ありません」
浮かべた笑顔は互いに引き攣ったものになってしまった。シルビは後悔によるものだが、彼はどういった理由からか。いずれにせよ彼を怖がらせた事は間違いないだろう。ヘルサレムズ・ロッドへ来てすぐにそんな目に合わせてしまい申し訳ないと思った。
紹介は終わったので通常業務へ戻るように言われ、それぞれが散らばっていく。シルビも緊急事態で呼ばれるまで薬局のほうにいる事にして事務所を出ると、外へ出た途端頭の上に何かが乗っかってきた。
「何か用ですかチェインさん」
「怒ってる?」
人の頭の上でしゃがんで聞いてくるチェインのそれは、彼女が頭へ乗った事に関してかフィリップへ対してやってしまった事に関してか。おそらく後者だとは分かっているので、チェインを頭へ乗せたまま歩き始める。
「俺の知らねぇ奴がああも気安く弟のことを話すの、なんていうか、嫉妬してるだけです」
そうだ嫉妬だ。シルビでさえヘルサレムズ・ロットへ来る少し前から弟へ会っていないというのに、シルビが苦手かもしれないと思った相手がその弟の話題を出してきたのが腹立たしい。
弟にも交友関係があるとは分かっているが、何処の馬の骨とも知れないヤツが気安く弟と親しくするなと。更にはシルビと弟を見間違える程度の付き合いの癖にと思う。
結局のところブラコンであった。
「弟さんいるの?」
「今はイタリアにいます」
端的に答えて曲がり角を曲がる。シルビの頭の上から街灯の上へと移動したチェインに足を止めて振り返った。
「……あの子の事をラインヘルツ家が知ってるってのは、十中八九ライブラとは関係ねぇ繋がりだと思います。少なくとも俺はクラウスさんのご実家と関わりを持った覚えが無ぇ。だから外交目的の脅迫とかはしないってクラウスさん達へ伝えてもらえますか?」
「脅迫したじゃない」
「言ったでしょう。『嫉妬』です。あと大声でキャラが被る」
最後に冗談を混ぜたところでチェインが肩を竦めて姿を消す。伝えに行ったのだろうと判断してシルビも再び薬局へ向けて歩き出した。
フィリップがいる間は、気まずい思いのままだろう。