ライブラのリーダーであるクラウスの専属執事。正確にはクラウスの実家であるラインヘルツ家からクラウスへ付いてきた執事であるギルベルト・Ｆ・アルトシュタインは、全身へ包帯を巻いた老人である。
いつも包帯を巻いている理由を失礼とは思いつつも医療従事者として聞いてみたところ、年をとって怪我の治りが遅いのだと言われた。

「細胞の活性化を促して、怪我の回復を早める事も出来ますが」
「いえいえ、シルビさんのお手を煩わせるような怪我ではありませんから」
「……じゃあせめて、今後怪我をしたら心配はさせていただけますか」
「ありがたい事です」

まだライブラへ来てそう経っていない時の会話である。
そうして現在、目の前にはスカイフィッシュと激突して背骨をポッキリと痛めたギルベルトの姿。
レオの目撃証言では、それはもう綺麗にポキッという音がしたらしい。聞いてしまったレオはもう心配の涙が止まっていなかった。
普通は背骨が折れたら、下手すれば半身不随だとかの致命傷になりかねないのだが、ギルベルトはコルセットで固定してはいるもののきちんと立っている。ここは流石ヘルサレムズ・ロットの医療技術と感心すればいいのか。

「とりあえずカルシウム？ ニボシ食べます？ 骨を新しく生成します？」
「最後おかしい」
「落ち着いてくださいシルビさん――ウッ」

腰で直角に折れたギルベルトへレオと一緒に慌てて手を貸す。これでは仕事もまともに行なえないだろうし、シルビでなくたって安静にしていて欲しいと思うものだ。
大体にしてギルベルトはライブラのメンバーの中でも高齢に位置する。その高齢であっても車の運転技術では隣に誰も並ばせないが、寄る年波には人間だろうが異界人だろうが勝てまい。

「作るのだいぶ面倒臭せぇんですけど金丹作りましょうか？ 不死鳥の涙にします？ 本当に大丈夫ですか？」
「シルビさん。そんなに心配なさらずとも」
「だってそんなに何度も腰折ってたら、そのうち本気で背骨真っ二つでしょう！？」

自分でもどうしてそんなにギルベルトを心配してしまうのか不思議で仕方が無かったが、多分包帯を巻いている姿に『復讐者』の皆を重ねてしまっているのだろう。シルビと出会う前からあの姿になってしまっていた『復讐者』の皆は、シルビが決めている自分ルールに乗っ取ってしまうと治せない。
何度出会っても、治してやれないのだ。

「せめて安静にしてはいただけませんか」
「……近々補佐の者が参りますから、大丈夫ですよ」

背骨をポキッといっているのに、ギルベルトは穏やかな笑みを浮かべた。