―拳客のエデン―
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ライブラの事務所へ顔を出しに行くと、クラウスの姿が無かった。別に彼がいない事は珍しい事ではないが、リーダーとしてか事務所にいる事が多い。
「今日はクラウスさん居ねぇんですね」
「あーいや、出掛けたんだ。何か用事でもあったかい?」
コーヒーを飲みながら尋ねてきたスティーブンに、提げていた袋を掲げてみせる。
「いいレモンを手に入れたんで、レモンパイを作ってきたんですよ」
「レモンパイ?」
興味を持ったのか近付いてくるチェインへ、袋の中へ一緒に放り込んでいた書類封筒を取り出して中身を見せた。完成してからそう時間は経っていないので、まだ充分に暖かいはずである。
昨日の夜にイタリアへある『復讐者』の根城へ行った際、ついでだからとイタリアのマーケットで買ってきたのだ。実のところ第八の炎で行った為密出国の密入国だが、バレなければいいのである。
封筒の中身はその昨日根城へ行った際に渡された『復讐者』に関するもので、今日中に片付けてしまいたくて持ってきたものだった。薬局にもレストランのバイトへも行く日ではないので、今日はライブラの事務所で書類を片付ける予定でもある。
直ぐに戻ってこないのなら今居るメンバーだけで先に食べてしまおうという話になり、袋を持ったまま奥に居るギルベルトの元へレモンパイを持っていけば、支度をしてくれると言うので任せることにした。当然ながらギルベルトの分もある。
「レオ君はバイトですか? ソニックって柑橘系大丈夫なのか分かんねぇんですよねぇ」
「少年もクラウスと一緒に出掛けたんだ。ザップの奴が何かしでかしたらしくてな」
そういうスティーブンの口調は呆れていた。空いていたテーブルへ書類を広げさせてもらい、内容を確認していく。
「いいですねぇ。何かしでかしたら助けてくれる人が居て」
「君にはいない?」
「家事と一緒です。自分の事は自分で全部出来る様に叩き込んだもんだから、あまりしでかしても誰かの手を借りるのは苦手というか、慣れねぇというか」
「シルビは一人暮らしだっけ?」
チェインへ聞かれて頷きを返した。ヘルサレムズ・ロットへ来てからは久しぶりの一人暮らしである。だから朝方でも気にせずパイを焼いたり出来るのだが、そもそもシルビは前から時間に関わらず料理を作り出すところがあった気がした。
というか、そうしないと家族の空腹の訴えに間に合わなかったのか。
ギルベルトが持ってきてくれたレモンパイを食べる。やはりいいレモンだったようでパイの出来栄えにチェインもスティーブンも感心していた。
レオ達が帰ってきたのはレモンパイを綺麗に食べ終えてから随分と後で、何をしてきたのか何故かクラウスは疲労困憊な様子だった。それに担がれたザップはもっと酷い有様である。
「何があったんですか?」
「聞いてよシルビ! ザップさん最低なんだぜ!」
戦闘後の様な二人と一緒に帰ってきたというのに怪我一つ無く、疲れた様子さえ見えないレオは、何処へ向けるでもない苛立ちを抱えているようだった。話も聞いてやりたいがザップの治療が先だろうと、シルビはソファから立ち上がって場所を空ける。
放り投げるよりは丁寧にソファへ寝かされたザップの傍らにしゃがみ、怪我の様子を調べていくシルビを眺めながら、同じく近付いて見物に来たチェインがレオへ話を促した。
「どうなったの?」
「それがザップさんたら、クラウスさんを地下闘技場におびき出して、疲れたところを『仕掛け』ようとしてたんすよ!」
思わず無言で、シルビは掴み上げたところだったザップの手を離す。ボトリと力なく落ちた手がソファではなく床に落ちて、ザップが『あでっ』と小さく呻いた。呻く体力は残っているらしい。
詳しくは知らないがザップは時々、『打倒クラウス』を掲げてクラウスへ襲い掛かる事があったのはシルビも知っている。その度に流れ作業の如く返り討ちにされていたのを目撃したのだって一度や二度ではない。むしろシルビが目撃した時は全て返り討ちにあっていた気がする。
毎回律儀に相手をするクラウスのことは、まるでじゃれてくる猫をスルーする飼い主のようだと思っていたが、そうやって構うからザップも調子に乗るのだろうと考えていたのも確かで。
しかしだからといって、流石にザップも姑息な真似を使うとは思っていなかった。
「……クラウスさんから診ましょう。痛いところなどはありませんか? やせ我慢はせずに」
「む、すまない。右腕が少し」
シャツの袖を捲くってシルビへ向けて伸ばされたクラウスの右腕を診る。少し腫れているが骨や筋へ影響が出ている様子は無い。指を鳴らして灯した青い炎をその腫れた部分へ押し当てる。
「夜は一応湿布を貼っておけば平気でしょう。でもこれ、随分と手加減された感じですねぇ」
「実は血界の眷属が現れて、その」
「血界の眷属!? 大丈夫だったのか!?」
「それが、どうも逃げられたみたいなんです。クラウスさんを吹き飛ばしたら一瞬で居なくなっちゃって」
「追跡は!? いや、君たちだけで追跡させる訳にも行かなかったな。でもよく無事だったもんだ」
「今日はクラウスさん居ねぇんですね」
「あーいや、出掛けたんだ。何か用事でもあったかい?」
コーヒーを飲みながら尋ねてきたスティーブンに、提げていた袋を掲げてみせる。
「いいレモンを手に入れたんで、レモンパイを作ってきたんですよ」
「レモンパイ?」
興味を持ったのか近付いてくるチェインへ、袋の中へ一緒に放り込んでいた書類封筒を取り出して中身を見せた。完成してからそう時間は経っていないので、まだ充分に暖かいはずである。
昨日の夜にイタリアへある『復讐者』の根城へ行った際、ついでだからとイタリアのマーケットで買ってきたのだ。実のところ第八の炎で行った為密出国の密入国だが、バレなければいいのである。
封筒の中身はその昨日根城へ行った際に渡された『復讐者』に関するもので、今日中に片付けてしまいたくて持ってきたものだった。薬局にもレストランのバイトへも行く日ではないので、今日はライブラの事務所で書類を片付ける予定でもある。
直ぐに戻ってこないのなら今居るメンバーだけで先に食べてしまおうという話になり、袋を持ったまま奥に居るギルベルトの元へレモンパイを持っていけば、支度をしてくれると言うので任せることにした。当然ながらギルベルトの分もある。
「レオ君はバイトですか? ソニックって柑橘系大丈夫なのか分かんねぇんですよねぇ」
「少年もクラウスと一緒に出掛けたんだ。ザップの奴が何かしでかしたらしくてな」
そういうスティーブンの口調は呆れていた。空いていたテーブルへ書類を広げさせてもらい、内容を確認していく。
「いいですねぇ。何かしでかしたら助けてくれる人が居て」
「君にはいない?」
「家事と一緒です。自分の事は自分で全部出来る様に叩き込んだもんだから、あまりしでかしても誰かの手を借りるのは苦手というか、慣れねぇというか」
「シルビは一人暮らしだっけ?」
チェインへ聞かれて頷きを返した。ヘルサレムズ・ロットへ来てからは久しぶりの一人暮らしである。だから朝方でも気にせずパイを焼いたり出来るのだが、そもそもシルビは前から時間に関わらず料理を作り出すところがあった気がした。
というか、そうしないと家族の空腹の訴えに間に合わなかったのか。
ギルベルトが持ってきてくれたレモンパイを食べる。やはりいいレモンだったようでパイの出来栄えにチェインもスティーブンも感心していた。
レオ達が帰ってきたのはレモンパイを綺麗に食べ終えてから随分と後で、何をしてきたのか何故かクラウスは疲労困憊な様子だった。それに担がれたザップはもっと酷い有様である。
「何があったんですか?」
「聞いてよシルビ! ザップさん最低なんだぜ!」
戦闘後の様な二人と一緒に帰ってきたというのに怪我一つ無く、疲れた様子さえ見えないレオは、何処へ向けるでもない苛立ちを抱えているようだった。話も聞いてやりたいがザップの治療が先だろうと、シルビはソファから立ち上がって場所を空ける。
放り投げるよりは丁寧にソファへ寝かされたザップの傍らにしゃがみ、怪我の様子を調べていくシルビを眺めながら、同じく近付いて見物に来たチェインがレオへ話を促した。
「どうなったの?」
「それがザップさんたら、クラウスさんを地下闘技場におびき出して、疲れたところを『仕掛け』ようとしてたんすよ!」
思わず無言で、シルビは掴み上げたところだったザップの手を離す。ボトリと力なく落ちた手がソファではなく床に落ちて、ザップが『あでっ』と小さく呻いた。呻く体力は残っているらしい。
詳しくは知らないがザップは時々、『打倒クラウス』を掲げてクラウスへ襲い掛かる事があったのはシルビも知っている。その度に流れ作業の如く返り討ちにされていたのを目撃したのだって一度や二度ではない。むしろシルビが目撃した時は全て返り討ちにあっていた気がする。
毎回律儀に相手をするクラウスのことは、まるでじゃれてくる猫をスルーする飼い主のようだと思っていたが、そうやって構うからザップも調子に乗るのだろうと考えていたのも確かで。
しかしだからといって、流石にザップも姑息な真似を使うとは思っていなかった。
「……クラウスさんから診ましょう。痛いところなどはありませんか? やせ我慢はせずに」
「む、すまない。右腕が少し」
シャツの袖を捲くってシルビへ向けて伸ばされたクラウスの右腕を診る。少し腫れているが骨や筋へ影響が出ている様子は無い。指を鳴らして灯した青い炎をその腫れた部分へ押し当てる。
「夜は一応湿布を貼っておけば平気でしょう。でもこれ、随分と手加減された感じですねぇ」
「実は血界の眷属が現れて、その」
「血界の眷属!? 大丈夫だったのか!?」
「それが、どうも逃げられたみたいなんです。クラウスさんを吹き飛ばしたら一瞬で居なくなっちゃって」
「追跡は!? いや、君たちだけで追跡させる訳にも行かなかったな。でもよく無事だったもんだ」