―妖眼幻視行―
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ライブラからの非常事態発生の報は、『レオナルド・ウォッチが救難要請を最後に消息を絶った』というものだった。
携帯での連絡も取れずGPSの反応もロスト。周到なレオと味方との通信手段の遮断に、今現在レオを害しようとしている何者かはそれなりの知能があると判断できる。
更に言うなら血界の眷属と対峙している際、既にレオはその何者かと接触していた可能性もあった。レオは諱名入力アプリによってその異変をクラウスへ知らせることにだけ成功し、けれどもシルビも含めてすぐには気付いてやれなかったのだ。
【第八の炎】で転移した走行中の車の上から身を乗りだし、助手席の窓を叩く。運転していたギルベルトが横目でシルビを確認して窓を開けるのに、そこから身体を滑り込ませて助手席へ収まり、シルビは後部座席にいたスティーブンとクラウスへ話し掛けた。
「感知難度四以上とのことですが」
「先程の騒動の際、既に敵はレオの傍へ居たはずだ。それ以前であったとしても、我々はホテルからずっと一緒だったのだ。その段階で気付けなかったということは、我々には感知できなかった可能性がある」
「【神々の義眼】故に気付いた、もしくは気付けた?」
「だろうな」
スティーブンが隠しきれない焦りを浮かべながら肯定する。血界の眷属との現場で、シルビもほんの数秒程度とはいえレオの姿を見ていた。
だが何にも気付かなかったのだ。クラウス達だけではなくシルビも。
ギリ、と歯ぎしりの音が走行音にかき消される。怒りなのか激しい悔恨の念からかは分からないが、気分は高ぶっているのに頭の中は酷く冷静だった。
後悔したのなら考えろ。考えて考えて結論が出ても考えて、そうして動け。
こめかみへ当てた左手から黒い炎が噴き出る。感覚を意識する余裕がないので分からないが、【白澤】の角や尾も出てしまっているだろう。
全身の感覚を後の事も考えずに研ぎ澄まし、何だか分からない視線がこちらを窺っていることに気付く。遠く、千里眼で見られているような感覚にあながち間違いではないのだろう。
いきなり反対車線を走っていたトラックがハンドルを切ってつっこんでくる。周囲を走っていた車もわざとそのトラックの進路を塞ぐようにハンドルを切って衝突していった。前を走っていたザップのランブレッタもそれに巻き込まれ、衝突の勢いで飛び上がる車体と一緒に舞い上がっている。
急ブレーキを踏んで事故に巻き込まれないように停車した車から飛び降りながら、シルビは爆発寸前の事故車の山へ向けて腕を伸ばして指を鳴らした。途端コンクリートを割って地面から生えた巨大な蔦が吹き飛んだ事故車両をキャッチし、車内に残されたり放り出された運転手達も救出する。
そうした内の一本の蔦に助けられたザップへクラウス達と一緒に駆け寄れば、ザップが真剣に口を開いた。
「旦那、こりゃきっとビンゴだぜ。オレは以前レオに視線弄られたことあんだが、全く同じ感覚だった。もしこれがアイツじゃないなら、別の『義眼保有者』がいるぜ……!」
蔦から降りてきたザップが言う事にスティーブンとクラウスが息を呑む。シルビは事故の様子をおざなりに確認してからザップへと向き直った。
「怪我はぁ!?」
「平気だ。いや、お前その角……尻尾!?」
驚くザップに言われて自分の頭へ手を伸ばせば、やはり角が出てしまっている。『眼』が足りない現状、本来に近い力を使うにはどうしても【白澤】の獣の姿のほうがいいのだから仕方がない。
見ればバイクを停めたK・Kも驚いたようにシルビを見ていた。だが追及を受ける時間も説明をする余裕も無く、シルビは指を鳴らして【第八の炎】で輪を作り上げる。輪の中の先はホテル『ヴォルドールアスタリスクⅡ』だ。
目の前で起こった事故で道路は封鎖され、車やバイクと言った交通車両でこれ以上向かうのは難しい。だがこの事故を起こしてくれたことで先程感じた“千里眼の様な視線”の発生源は探知出来た。
「シルビ!?」
「探知出来ました。少なくともレオ君じゃねぇ『別の義眼保有者』はここにいる」
たった少ししか本来の力である【×××】を使っていないというのに、もう頭痛が酷い。額へ手を当てると熱を持っていることが分かる。これは後で確実に強制休息コースだとは思うが、今はなりふり構っていられない。
だってレオの危機だ。
ギルベルトへ迂回してホテルへ急ぐように告げたクラウスが、シルビの脇を抜けて炎の輪を潜る。続いてザップ達が少し物言いたげにシルビを見てから後を追いかけ、最後にスティーブンが事故の事を何処かへ電話してから炎の輪を潜り、シルビの腕を掴んで引きずり込んだ。
「ちょっ」
「出来るならレオの居場所もそのまま探れ!」
「うぁ、はいぃ!」
もう小脇へ抱えられるようにスティーブンへ引きずられたまま、シルビはこめかみへ両手を当てる。『眼』が足りない状況での【×××】の強制使用が脳を酷使に繋がろうが知ったことではない。
ホテルのエントランスへシルビとスティーブンがクラウス達へ遅れて駆け込んだところで、宿泊客の悲鳴が上がった。角と尻尾の生えているシルビを見たからとかそういう訳ではなく、エントランスへ現れた異界人の死体を発見したからだ。
鋭利な刃物で頭部を両断されたらしいそれは、まるで“幻覚が解けていく”ように現れた。
ホテルの従業員が慌てた様子で騒ぎ出す。エントランスにいた客が動揺してホテルから逃げ出していったり叫んだりする騒音が頭に響いた。
頭痛が酷い。吐き気もする。眼から涙どころか血が出てきた。
「っ……クラウスさん!」
叫んで指を鳴らす。繋げた先は十四階の客室前。
携帯での連絡も取れずGPSの反応もロスト。周到なレオと味方との通信手段の遮断に、今現在レオを害しようとしている何者かはそれなりの知能があると判断できる。
更に言うなら血界の眷属と対峙している際、既にレオはその何者かと接触していた可能性もあった。レオは諱名入力アプリによってその異変をクラウスへ知らせることにだけ成功し、けれどもシルビも含めてすぐには気付いてやれなかったのだ。
【第八の炎】で転移した走行中の車の上から身を乗りだし、助手席の窓を叩く。運転していたギルベルトが横目でシルビを確認して窓を開けるのに、そこから身体を滑り込ませて助手席へ収まり、シルビは後部座席にいたスティーブンとクラウスへ話し掛けた。
「感知難度四以上とのことですが」
「先程の騒動の際、既に敵はレオの傍へ居たはずだ。それ以前であったとしても、我々はホテルからずっと一緒だったのだ。その段階で気付けなかったということは、我々には感知できなかった可能性がある」
「【神々の義眼】故に気付いた、もしくは気付けた?」
「だろうな」
スティーブンが隠しきれない焦りを浮かべながら肯定する。血界の眷属との現場で、シルビもほんの数秒程度とはいえレオの姿を見ていた。
だが何にも気付かなかったのだ。クラウス達だけではなくシルビも。
ギリ、と歯ぎしりの音が走行音にかき消される。怒りなのか激しい悔恨の念からかは分からないが、気分は高ぶっているのに頭の中は酷く冷静だった。
後悔したのなら考えろ。考えて考えて結論が出ても考えて、そうして動け。
こめかみへ当てた左手から黒い炎が噴き出る。感覚を意識する余裕がないので分からないが、【白澤】の角や尾も出てしまっているだろう。
全身の感覚を後の事も考えずに研ぎ澄まし、何だか分からない視線がこちらを窺っていることに気付く。遠く、千里眼で見られているような感覚にあながち間違いではないのだろう。
いきなり反対車線を走っていたトラックがハンドルを切ってつっこんでくる。周囲を走っていた車もわざとそのトラックの進路を塞ぐようにハンドルを切って衝突していった。前を走っていたザップのランブレッタもそれに巻き込まれ、衝突の勢いで飛び上がる車体と一緒に舞い上がっている。
急ブレーキを踏んで事故に巻き込まれないように停車した車から飛び降りながら、シルビは爆発寸前の事故車の山へ向けて腕を伸ばして指を鳴らした。途端コンクリートを割って地面から生えた巨大な蔦が吹き飛んだ事故車両をキャッチし、車内に残されたり放り出された運転手達も救出する。
そうした内の一本の蔦に助けられたザップへクラウス達と一緒に駆け寄れば、ザップが真剣に口を開いた。
「旦那、こりゃきっとビンゴだぜ。オレは以前レオに視線弄られたことあんだが、全く同じ感覚だった。もしこれがアイツじゃないなら、別の『義眼保有者』がいるぜ……!」
蔦から降りてきたザップが言う事にスティーブンとクラウスが息を呑む。シルビは事故の様子をおざなりに確認してからザップへと向き直った。
「怪我はぁ!?」
「平気だ。いや、お前その角……尻尾!?」
驚くザップに言われて自分の頭へ手を伸ばせば、やはり角が出てしまっている。『眼』が足りない現状、本来に近い力を使うにはどうしても【白澤】の獣の姿のほうがいいのだから仕方がない。
見ればバイクを停めたK・Kも驚いたようにシルビを見ていた。だが追及を受ける時間も説明をする余裕も無く、シルビは指を鳴らして【第八の炎】で輪を作り上げる。輪の中の先はホテル『ヴォルドールアスタリスクⅡ』だ。
目の前で起こった事故で道路は封鎖され、車やバイクと言った交通車両でこれ以上向かうのは難しい。だがこの事故を起こしてくれたことで先程感じた“千里眼の様な視線”の発生源は探知出来た。
「シルビ!?」
「探知出来ました。少なくともレオ君じゃねぇ『別の義眼保有者』はここにいる」
たった少ししか本来の力である【×××】を使っていないというのに、もう頭痛が酷い。額へ手を当てると熱を持っていることが分かる。これは後で確実に強制休息コースだとは思うが、今はなりふり構っていられない。
だってレオの危機だ。
ギルベルトへ迂回してホテルへ急ぐように告げたクラウスが、シルビの脇を抜けて炎の輪を潜る。続いてザップ達が少し物言いたげにシルビを見てから後を追いかけ、最後にスティーブンが事故の事を何処かへ電話してから炎の輪を潜り、シルビの腕を掴んで引きずり込んだ。
「ちょっ」
「出来るならレオの居場所もそのまま探れ!」
「うぁ、はいぃ!」
もう小脇へ抱えられるようにスティーブンへ引きずられたまま、シルビはこめかみへ両手を当てる。『眼』が足りない状況での【×××】の強制使用が脳を酷使に繋がろうが知ったことではない。
ホテルのエントランスへシルビとスティーブンがクラウス達へ遅れて駆け込んだところで、宿泊客の悲鳴が上がった。角と尻尾の生えているシルビを見たからとかそういう訳ではなく、エントランスへ現れた異界人の死体を発見したからだ。
鋭利な刃物で頭部を両断されたらしいそれは、まるで“幻覚が解けていく”ように現れた。
ホテルの従業員が慌てた様子で騒ぎ出す。エントランスにいた客が動揺してホテルから逃げ出していったり叫んだりする騒音が頭に響いた。
頭痛が酷い。吐き気もする。眼から涙どころか血が出てきた。
「っ……クラウスさん!」
叫んで指を鳴らす。繋げた先は十四階の客室前。