―妖眼幻視行―
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一人寂しくライブラの事務所へ帰ろうとしたところでシルビを呼び止めたのは、ダニエル警部の部下の男だった。
「帰るのか?」
「お兄さんは?」
「これから署に戻って残業だよ」
嫌そうに言われて苦笑を返す。誰だって残業は好きではないだろう。
周囲では事後処理と交通整理の警官が残っているだけで、パワードスーツを着た実働部隊は帰ったらしい。ダニエル警部の姿もなくて、そういえば昇任祝いの言葉をかけ忘れたなと思う。
野次馬の視線が気になるので、中心部から離れるように移動する。パトカーのボンネットへ腰掛ければ嫌そうな顔をされた。
「怪我は」
「平気です。ああでも、狙撃班の方にお礼お願いしていいですか。あの時はちょっとヤバかったので」
「全然ヤバそうには見えなかったがな」
「無茶すりゃヤべぇことは何も無ぇですよ。適材適所というのならあの時はあれで良かったんじゃねぇですか?」
「コッチがお前を撃たないって自信があったか?」
「? ありませんよそんなもの」
後部座席のドアを開けた部下の男が、車内から缶珈琲を出してシルビへ差し出してくる。それを受け取ると予想外に缶が冷たかった。
「ただあの時、俺が撃たれようと血界の眷属にも当たればよかったのだから、俺に弾が当たろうと問題は無かったでしょう? 当たらなかったから俺も助かった」
「……お前気持ち悪いな」
プルタブを立てる音が小さく響く。
「当たらなかったらいいとか結果論だろ。つか周囲の事考えてないだろ」
「酷でぇ言い草」
「だってそうだろ。もしあのタイミングで狙撃班が撃たなかったらお前死んでたぞ。いいのか」
「それで足止めが出来たならいいんじゃねぇですか」
「それを喜ぶ奴はいない」
瓦礫の撤去の為か工事用車両が現場へとやってきた。ヘルサレムズ・ロットは異界の技術も使って工事をするから、明日の午前中にはこの通りも元通りになるのだろう。
「お前の命一つで世界救ってる気か」
パトカーの中の通信機が何処かで起きた事件の一報を知らせた。野次馬はまだ集まってきている。
五年前の『事件』のことを少し思い出したのは、正論を言われたからと言った相手が何の能力も持たない警官だったからだろうか。あの時シルビは最善を選んだつもりだった。
だがもう一度あの時と同じ状況へ至ったとなったら、その選択はしないだろう。『復讐者』に依頼があったと言えど、あの日の後悔がシルビを一人でヘルサレムズ・ロットへと向かわせた。
自分の命一つで世界を救っている気である訳がない。シルビの世界は多くの命で出来ている。
携帯が鳴った。
「帰るのか?」
「お兄さんは?」
「これから署に戻って残業だよ」
嫌そうに言われて苦笑を返す。誰だって残業は好きではないだろう。
周囲では事後処理と交通整理の警官が残っているだけで、パワードスーツを着た実働部隊は帰ったらしい。ダニエル警部の姿もなくて、そういえば昇任祝いの言葉をかけ忘れたなと思う。
野次馬の視線が気になるので、中心部から離れるように移動する。パトカーのボンネットへ腰掛ければ嫌そうな顔をされた。
「怪我は」
「平気です。ああでも、狙撃班の方にお礼お願いしていいですか。あの時はちょっとヤバかったので」
「全然ヤバそうには見えなかったがな」
「無茶すりゃヤべぇことは何も無ぇですよ。適材適所というのならあの時はあれで良かったんじゃねぇですか?」
「コッチがお前を撃たないって自信があったか?」
「? ありませんよそんなもの」
後部座席のドアを開けた部下の男が、車内から缶珈琲を出してシルビへ差し出してくる。それを受け取ると予想外に缶が冷たかった。
「ただあの時、俺が撃たれようと血界の眷属にも当たればよかったのだから、俺に弾が当たろうと問題は無かったでしょう? 当たらなかったから俺も助かった」
「……お前気持ち悪いな」
プルタブを立てる音が小さく響く。
「当たらなかったらいいとか結果論だろ。つか周囲の事考えてないだろ」
「酷でぇ言い草」
「だってそうだろ。もしあのタイミングで狙撃班が撃たなかったらお前死んでたぞ。いいのか」
「それで足止めが出来たならいいんじゃねぇですか」
「それを喜ぶ奴はいない」
瓦礫の撤去の為か工事用車両が現場へとやってきた。ヘルサレムズ・ロットは異界の技術も使って工事をするから、明日の午前中にはこの通りも元通りになるのだろう。
「お前の命一つで世界救ってる気か」
パトカーの中の通信機が何処かで起きた事件の一報を知らせた。野次馬はまだ集まってきている。
五年前の『事件』のことを少し思い出したのは、正論を言われたからと言った相手が何の能力も持たない警官だったからだろうか。あの時シルビは最善を選んだつもりだった。
だがもう一度あの時と同じ状況へ至ったとなったら、その選択はしないだろう。『復讐者』に依頼があったと言えど、あの日の後悔がシルビを一人でヘルサレムズ・ロットへと向かわせた。
自分の命一つで世界を救っている気である訳がない。シルビの世界は多くの命で出来ている。
携帯が鳴った。