―妖眼幻視行―
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通報では暴漢が道路の中心で暴れている、という話だったらしい。しかし現場に来てその暴漢を見やって、すぐにその説明は正しくも間違っていることを悟った。
パワードスーツを装着しに行った部下と入れ替わるように、シルビを傍へ控えさせたダニエル警部とシルビの視線の先では明らかに人間とは異なる見た目の生命体が暴れている。その被害から逃げる市民を誘導し、動きを牽制させようとひたすら鉛玉を打ち込む警察も意に介さない姿に、警部が舌打ちする。
「ただの暴漢じゃねぇですねぇ」
「ただの暴漢ならこんなに苦労しねえよ。『血界の眷属』かもな」
「確認をお願いしていいでしょうか。あとライブラへの連絡も」
「なんだ。ライブラにもう話が行ってんじゃねえのか」
「貴方の部下とたまたま一緒に居ただけなんです。それに俺じゃ、あれが『血界の眷属』だったとしても時間稼ぎしか出来ませんから」
顔を向けて警部を見れば、警部は意外そうにシルビを見返していた。
「なんです」
「いや、素直に協力すると思ってなかった」
「警察への協力は市民の義務では?」
「久しぶりに聞いたな。――死ぬなよ」
何の慰めにもならない応援を最後に聞いて駆けだし、前方にあったパトカーのボンネットを踏み台にして飛び上がる。片手を凶器へと変貌させていた暴漢が自身へ向かってくる存在に気付いてシルビを見上げた。
腕を伸ばして指を鳴らし、その暴漢の死角から幻覚製の鎖を伸ばす。鎖の先が暴漢の体へ巻き付く直前、暴漢がそれを振り払う。暴漢の頭上を通り越して破壊されたトラックの上へと着地しながら、予想以上に動ける暴漢だと認識を改めた。
意識の中へシルビの存在を加えた暴漢が笑い声とも付かない叫び声を上げる。そうして腕を振って近くにあった瓦礫をシルビへ向けて投げつけてきた。幻覚の鎖では間に合わず、【第八の炎】で誰も居ない場所へと転移させる。
トラックの影に潜む振りをして暴漢の頭上へと転移し、全体重と勢いをつけて頭を踏みつけた。シルビが軽いことと頑丈そうな体格であることもあって大してダメージも通らなかったらしい。試してみたが接近戦は無謀だったと理解したところで、踏みつけられた事でわずかに首を傾けていた暴漢の手がシルビの脚を掴んだ。
「っ! やべっ……」
思わず呟くのと身体が自分の意志ではなく動いたのは同時だった。地面へ叩きつけられそうになり、頭を守るか【選択】の能力を一瞬だけ発動させて暴漢の手から逃げるかを考えたところで、至近距離で暴漢の頭部とシルビの脚を掴んでいた手が吹き飛んだ。
肉片をまき散らして爆散した暴漢の頭部と手はしかし、ある程度肉片としての姿を晒したところで蠢きだし、盛り上がるように再生を始めた。顔に飛んできた血と肉片だけをとりあえず拭い落として、シルビは暴漢から距離をとる。
足下に落ちていた車のサイドミラーを拾い上げて暴漢を確認すれば、鏡にその姿は映らない。
「血界の眷属かぁ。クラウスさん達来てくれねぇと困るなぁ」
頭部を破壊されたせいか、暴漢がその場から動かずにいる間に周囲を見回せば、横倒しになった車の影から銃を持った機動隊が申し訳なさげにシルビを窺っていた。おそらく警部の指示でシルビが暴漢の傍にいるにも関わらず撃ったのだろう。とりあえず『いい仕事をした』という意味で親指を立てておいた。
そうしている間にも暴漢改め血界の眷属は、自分へされた行ないを失った頭部で理解したのか策もへったくれもなく暴れ出す。吹き飛ばされた腕を先程より巨大な凶器にへと変えた。
変貌させすぎたせいで本来頭部の再生に使うのだろう部分も、腕へと回ってしまっている。本人はそれを認識出来ているのかいないのかそのまま縦横無尽に腕を振って、周囲の車や街灯を切り刻んだり吹き飛ばしたりしていた。
逃げ遅れた市民のほうへ飛んでいった車の前半分に、指を鳴らして幻覚製の鎖を蜘蛛の巣状に張り巡らせて受け止める。転移させてぶつけることも出来たがその場合跳ね返されたら悲惨だ。
もう一度拘束に挑戦するかと壊れたバスの上へ飛び乗っていた血界の眷属へ目を向けたところで、再生しかけていた血界の眷属の眼がグルリとシルビへ向けられる。“覚えのある眼”だなと思ったところで、シルビが指を鳴らしたことで生み出された幻覚の鎖が血界の眷属へと絡み付いた。
暴れることでジャラジャラと音を立てる鎖の先を両手で掴んで、笑う。
「『眼』が無くても俺は“亜種”なんだなぁ……」
【白澤】よりも古くからシルビと因縁のある『それ』に、血界の眷属が反応して暴れる。むしろ頭部を失って理性が無くなったからこそ、それを悟ったか。
叫んだ血界の眷属の肩からせり出ていた骨の様な物が伸びて、鎖の間を抜けて上空を飛んでいた警察のヘリに襲いかかる。切り裂かれてコントロールを失ったヘリが地上へと墜落し、爆風がシルビのところにまで来た。
その爆風が収まりきる前に、クラウスとスティーブンが血界の眷属へとシルビの脇を抜けて駆けていく。
「引き続きサポートを頼む」
来るのが遅いとかそういった文句は闘気溢れるクラウスに免じて。
「了解」
パワードスーツを装着しに行った部下と入れ替わるように、シルビを傍へ控えさせたダニエル警部とシルビの視線の先では明らかに人間とは異なる見た目の生命体が暴れている。その被害から逃げる市民を誘導し、動きを牽制させようとひたすら鉛玉を打ち込む警察も意に介さない姿に、警部が舌打ちする。
「ただの暴漢じゃねぇですねぇ」
「ただの暴漢ならこんなに苦労しねえよ。『血界の眷属』かもな」
「確認をお願いしていいでしょうか。あとライブラへの連絡も」
「なんだ。ライブラにもう話が行ってんじゃねえのか」
「貴方の部下とたまたま一緒に居ただけなんです。それに俺じゃ、あれが『血界の眷属』だったとしても時間稼ぎしか出来ませんから」
顔を向けて警部を見れば、警部は意外そうにシルビを見返していた。
「なんです」
「いや、素直に協力すると思ってなかった」
「警察への協力は市民の義務では?」
「久しぶりに聞いたな。――死ぬなよ」
何の慰めにもならない応援を最後に聞いて駆けだし、前方にあったパトカーのボンネットを踏み台にして飛び上がる。片手を凶器へと変貌させていた暴漢が自身へ向かってくる存在に気付いてシルビを見上げた。
腕を伸ばして指を鳴らし、その暴漢の死角から幻覚製の鎖を伸ばす。鎖の先が暴漢の体へ巻き付く直前、暴漢がそれを振り払う。暴漢の頭上を通り越して破壊されたトラックの上へと着地しながら、予想以上に動ける暴漢だと認識を改めた。
意識の中へシルビの存在を加えた暴漢が笑い声とも付かない叫び声を上げる。そうして腕を振って近くにあった瓦礫をシルビへ向けて投げつけてきた。幻覚の鎖では間に合わず、【第八の炎】で誰も居ない場所へと転移させる。
トラックの影に潜む振りをして暴漢の頭上へと転移し、全体重と勢いをつけて頭を踏みつけた。シルビが軽いことと頑丈そうな体格であることもあって大してダメージも通らなかったらしい。試してみたが接近戦は無謀だったと理解したところで、踏みつけられた事でわずかに首を傾けていた暴漢の手がシルビの脚を掴んだ。
「っ! やべっ……」
思わず呟くのと身体が自分の意志ではなく動いたのは同時だった。地面へ叩きつけられそうになり、頭を守るか【選択】の能力を一瞬だけ発動させて暴漢の手から逃げるかを考えたところで、至近距離で暴漢の頭部とシルビの脚を掴んでいた手が吹き飛んだ。
肉片をまき散らして爆散した暴漢の頭部と手はしかし、ある程度肉片としての姿を晒したところで蠢きだし、盛り上がるように再生を始めた。顔に飛んできた血と肉片だけをとりあえず拭い落として、シルビは暴漢から距離をとる。
足下に落ちていた車のサイドミラーを拾い上げて暴漢を確認すれば、鏡にその姿は映らない。
「血界の眷属かぁ。クラウスさん達来てくれねぇと困るなぁ」
頭部を破壊されたせいか、暴漢がその場から動かずにいる間に周囲を見回せば、横倒しになった車の影から銃を持った機動隊が申し訳なさげにシルビを窺っていた。おそらく警部の指示でシルビが暴漢の傍にいるにも関わらず撃ったのだろう。とりあえず『いい仕事をした』という意味で親指を立てておいた。
そうしている間にも暴漢改め血界の眷属は、自分へされた行ないを失った頭部で理解したのか策もへったくれもなく暴れ出す。吹き飛ばされた腕を先程より巨大な凶器にへと変えた。
変貌させすぎたせいで本来頭部の再生に使うのだろう部分も、腕へと回ってしまっている。本人はそれを認識出来ているのかいないのかそのまま縦横無尽に腕を振って、周囲の車や街灯を切り刻んだり吹き飛ばしたりしていた。
逃げ遅れた市民のほうへ飛んでいった車の前半分に、指を鳴らして幻覚製の鎖を蜘蛛の巣状に張り巡らせて受け止める。転移させてぶつけることも出来たがその場合跳ね返されたら悲惨だ。
もう一度拘束に挑戦するかと壊れたバスの上へ飛び乗っていた血界の眷属へ目を向けたところで、再生しかけていた血界の眷属の眼がグルリとシルビへ向けられる。“覚えのある眼”だなと思ったところで、シルビが指を鳴らしたことで生み出された幻覚の鎖が血界の眷属へと絡み付いた。
暴れることでジャラジャラと音を立てる鎖の先を両手で掴んで、笑う。
「『眼』が無くても俺は“亜種”なんだなぁ……」
【白澤】よりも古くからシルビと因縁のある『それ』に、血界の眷属が反応して暴れる。むしろ頭部を失って理性が無くなったからこそ、それを悟ったか。
叫んだ血界の眷属の肩からせり出ていた骨の様な物が伸びて、鎖の間を抜けて上空を飛んでいた警察のヘリに襲いかかる。切り裂かれてコントロールを失ったヘリが地上へと墜落し、爆風がシルビのところにまで来た。
その爆風が収まりきる前に、クラウスとスティーブンが血界の眷属へとシルビの脇を抜けて駆けていく。
「引き続きサポートを頼む」
来るのが遅いとかそういった文句は闘気溢れるクラウスに免じて。
「了解」