―妖眼幻視行―
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レオの持つ【神々の義眼】に関して、別にレオが人界で最初の保有者という訳ではない。
人間が文化を持ってから現在へ至るまでに、過去数十件の【義眼】の存在が確認されている。そしてその保有者の周囲には必ず失明者がいることもだ。
聞けばレオの妹であるミシェーラ・ウォッチという少女も、レオが【神々の義眼】を手に入れてしまうに至った経緯の際、現場にいたことで視力を失ってしまったらしい。レオはそれを非常に悔いている。
この様にレオの件に関しても過去の事例と同様に、保有者の近くで失明者が現れていた。そこから考えられる可能性としては、元からある視力の上に別の視力を与えるという足し算と、与えた視力の代わりに他の視力を奪うという引き算の結果。
だが神性存在のルールを知るものからすればそれは『担保』なのではと考えられる。実のところシルビからすればそれしか考えられないのだが。
神性存在と呼ばれるものにあってもルールというものは存在する。むしろ圧倒的超越能力を有する存在であるからこそ、強くそのルールを遵守し縛られると言うべきだろう。ルールが存在しなければ神性存在はただ自由を闊歩するだけで、そこに世界はいらない。
そのルールを分かりやすく説明するのならば、それこそが『契約』だ。
西洋の言い伝えで悪魔が人の家へ入るには中から招かれなければならないように。言霊で名前を呼ばれて返事をすることで縛られてしまうように、何かをした、された場合のみ施行できるという“縛り”があるのである。
例えばシルビの場合、壁に囲まれた世界で出会った人類最強と『化け物と呼ばない間は主従関係にある』という約束をしていたし、今現在においても因果関係が歪んでしまった少女と『危機的状況に陥ったら助けにいく』という契約を結んでいた。前者は後から契約だったと気付いた話だが後者は完全に契約だ。
そしてその契約に関して、当事者以外の存在。つまり第三者の介入というのは神性存在でなくともあまり好ましいものではない。
何故ならそれは一歩間違えば契約反故と認識される行為であるし、そもそも結ばれた契約へ手を出すこと自体が難しい話だからである。
「だからレオ君の【義眼】について、俺に全部の『眼』が揃っていたとしても手は出せねぇと思うよ」
「……そっか」
ブラッドベリ総合病院から退院し、戻ってきたレオがシルビへ『契約』について聞いてきたのはまだ数十分前の話だ。訊いてきた理由は普通に、シルビが今は不完全とはいえ神性存在だったからだろう。
だが不完全でなかったとしても、おそらくシルビにはレオが何処ぞの神性存在と交わした契約に手は出せない。第三者の立場の者が契約を結んだ当事者達よりよほど強力であれば、また少し違ってくるのだろうが。
シルビが『無理』と言うことを予想はしていたのだろう。だからこそ力なくうなだれるレオに、シルビは掛ける言葉が見つからなかった。
「まあでも、『契約』には下手に手出し出来ないって分かっただけいいのかな」
「相手が神性存在の場合は尚更かもなぁ。奴らは理不尽かつ人には理解出来ねぇ論理で動いてるから」
「シルビは人の論理で動いてんの?」
「少なくとも一方的な契約はしてねぇだろぉ?」
「まずお前まで契約とかしてるほうがビックリだよ。やっぱり神性存在なんだな」
「結果的に契約になってただけだぁ。俺が押しつけた訳じゃねぇ」
資料室で持っていた過去の調査資料を棚へ戻す。似た事例の事件が最近になって勃発していたので調べていたのだが、調べるとどうもただの模倣犯のようだったので、後でチェインへ証拠集めを手伝ってもらいたい。
広げていた資料を片付けながら、泣いた跡のあるレオの顔を見ないように話を続ける。
「第三者の介入もあまりお勧め出来ねぇけど、じゃあ仮に他の神性存在との二重契約はどうなのかって言われるとこれもまた難しい問題だぁ」
「二重契約?」
「例えばレオ君。君は既にその【義眼】を寄越した何かと契約をしている訳だけれど、じゃあそこで俺と違う契約を結ぶとしよう」
「シルビと?」
「そうだなぁ。内容は『妹さんの眼を見えるようにする代わりに、レオ君の声を奪う』だとして、その場合その【義眼】とはさほど関係の無ぇ契約になるなぁ?」
「……うん」
「だから【義眼】のほうの契約に多分問題は無ぇ。でもその契約施行中、【義眼】のほうの契約が終了してレオ君の目も妹さんの視力も元通りになったとしよう。そしたら俺と交わした契約によって妹さんの視力は見えていたのだからその契約を破る事になる。契約反故だぁ」
契約に契約を重ねるのはその代償を払うのも、契約を守り続けるのも難しいという話だ。借金を返すのに他の金融企業から借金をして、それが返せずに首が回らなくなるのと一緒である。
無理な契約の重複は必ず身を滅ぼす。
つまり強引な行動はそれだけで自分の首を絞めるということに他ならない。それで後悔するのは今のシルビと同じだ。
片付け終えた資料室でレオへと向き直る。
「焦って行動するのが一番悪ぃ手だよレオ君。俺も出来る限り協力するから」
あまり慰めにもならない言葉に、レオは力なく頷くだけだった。
資料室を出るとクラウスがいつものごとくパソコンへ向かって集中しており、戻ってきたシルビとレオに気付いてかソファで暇そうに寝そべっていたザップが振り向く。あくびをかみ殺しているので寝ていたのかもしれない。
「そういや今晩、ザップさんに飲みに行こうって誘われてんだけどぉ」
「あー……今日は、ミシェーラに電話、しようと思うから」
「そっか」
人間が文化を持ってから現在へ至るまでに、過去数十件の【義眼】の存在が確認されている。そしてその保有者の周囲には必ず失明者がいることもだ。
聞けばレオの妹であるミシェーラ・ウォッチという少女も、レオが【神々の義眼】を手に入れてしまうに至った経緯の際、現場にいたことで視力を失ってしまったらしい。レオはそれを非常に悔いている。
この様にレオの件に関しても過去の事例と同様に、保有者の近くで失明者が現れていた。そこから考えられる可能性としては、元からある視力の上に別の視力を与えるという足し算と、与えた視力の代わりに他の視力を奪うという引き算の結果。
だが神性存在のルールを知るものからすればそれは『担保』なのではと考えられる。実のところシルビからすればそれしか考えられないのだが。
神性存在と呼ばれるものにあってもルールというものは存在する。むしろ圧倒的超越能力を有する存在であるからこそ、強くそのルールを遵守し縛られると言うべきだろう。ルールが存在しなければ神性存在はただ自由を闊歩するだけで、そこに世界はいらない。
そのルールを分かりやすく説明するのならば、それこそが『契約』だ。
西洋の言い伝えで悪魔が人の家へ入るには中から招かれなければならないように。言霊で名前を呼ばれて返事をすることで縛られてしまうように、何かをした、された場合のみ施行できるという“縛り”があるのである。
例えばシルビの場合、壁に囲まれた世界で出会った人類最強と『化け物と呼ばない間は主従関係にある』という約束をしていたし、今現在においても因果関係が歪んでしまった少女と『危機的状況に陥ったら助けにいく』という契約を結んでいた。前者は後から契約だったと気付いた話だが後者は完全に契約だ。
そしてその契約に関して、当事者以外の存在。つまり第三者の介入というのは神性存在でなくともあまり好ましいものではない。
何故ならそれは一歩間違えば契約反故と認識される行為であるし、そもそも結ばれた契約へ手を出すこと自体が難しい話だからである。
「だからレオ君の【義眼】について、俺に全部の『眼』が揃っていたとしても手は出せねぇと思うよ」
「……そっか」
ブラッドベリ総合病院から退院し、戻ってきたレオがシルビへ『契約』について聞いてきたのはまだ数十分前の話だ。訊いてきた理由は普通に、シルビが今は不完全とはいえ神性存在だったからだろう。
だが不完全でなかったとしても、おそらくシルビにはレオが何処ぞの神性存在と交わした契約に手は出せない。第三者の立場の者が契約を結んだ当事者達よりよほど強力であれば、また少し違ってくるのだろうが。
シルビが『無理』と言うことを予想はしていたのだろう。だからこそ力なくうなだれるレオに、シルビは掛ける言葉が見つからなかった。
「まあでも、『契約』には下手に手出し出来ないって分かっただけいいのかな」
「相手が神性存在の場合は尚更かもなぁ。奴らは理不尽かつ人には理解出来ねぇ論理で動いてるから」
「シルビは人の論理で動いてんの?」
「少なくとも一方的な契約はしてねぇだろぉ?」
「まずお前まで契約とかしてるほうがビックリだよ。やっぱり神性存在なんだな」
「結果的に契約になってただけだぁ。俺が押しつけた訳じゃねぇ」
資料室で持っていた過去の調査資料を棚へ戻す。似た事例の事件が最近になって勃発していたので調べていたのだが、調べるとどうもただの模倣犯のようだったので、後でチェインへ証拠集めを手伝ってもらいたい。
広げていた資料を片付けながら、泣いた跡のあるレオの顔を見ないように話を続ける。
「第三者の介入もあまりお勧め出来ねぇけど、じゃあ仮に他の神性存在との二重契約はどうなのかって言われるとこれもまた難しい問題だぁ」
「二重契約?」
「例えばレオ君。君は既にその【義眼】を寄越した何かと契約をしている訳だけれど、じゃあそこで俺と違う契約を結ぶとしよう」
「シルビと?」
「そうだなぁ。内容は『妹さんの眼を見えるようにする代わりに、レオ君の声を奪う』だとして、その場合その【義眼】とはさほど関係の無ぇ契約になるなぁ?」
「……うん」
「だから【義眼】のほうの契約に多分問題は無ぇ。でもその契約施行中、【義眼】のほうの契約が終了してレオ君の目も妹さんの視力も元通りになったとしよう。そしたら俺と交わした契約によって妹さんの視力は見えていたのだからその契約を破る事になる。契約反故だぁ」
契約に契約を重ねるのはその代償を払うのも、契約を守り続けるのも難しいという話だ。借金を返すのに他の金融企業から借金をして、それが返せずに首が回らなくなるのと一緒である。
無理な契約の重複は必ず身を滅ぼす。
つまり強引な行動はそれだけで自分の首を絞めるということに他ならない。それで後悔するのは今のシルビと同じだ。
片付け終えた資料室でレオへと向き直る。
「焦って行動するのが一番悪ぃ手だよレオ君。俺も出来る限り協力するから」
あまり慰めにもならない言葉に、レオは力なく頷くだけだった。
資料室を出るとクラウスがいつものごとくパソコンへ向かって集中しており、戻ってきたシルビとレオに気付いてかソファで暇そうに寝そべっていたザップが振り向く。あくびをかみ殺しているので寝ていたのかもしれない。
「そういや今晩、ザップさんに飲みに行こうって誘われてんだけどぉ」
「あー……今日は、ミシェーラに電話、しようと思うから」
「そっか」