閑話27
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能力の一部を失ったことは以前にもあった。正確にはそれは『もう一人の自分』が抱えていて使えなくなっていただけのことだったが、その時とは微妙に違う喪失感は、こうしたふとした瞬間に思い出されるのだ。
レオの持ち込んだピザを食べて、盛大な遅刻をしてきたザップと入れ替わりにライブラの事務所を出てレオと歩いていると、ゴロツキに絡まれたのである。前にも何度かレオに対してカツアゲを行なったらしい異界人達は、シルビを見て『女を連れて歩いてるなんていいご身分だな』とほざいたので返り討ちにした。
ナイフも銃も使わず、【死ぬ気の炎】も使わずに地面へ倒した異界人を眺め、それから自分の手を見下ろす。
十全ではないにしても異常といえる身体能力は失われていない。けれども感覚的に“ズレている”と思う。
『とある事件』の後に目覚めてからずっと覚えているそれはけれども、も
こんなゴロツキを倒す程度でも感じられた。
「シルビ?」
名前を呼ばれて振り返れば、暴れている間は離れていたレオが不思議そうに近づいてくる。見ていた手を降ろしてゴロツキを道の端へと蹴り飛ばしして退かした。
「怪我はぁ?」
「無い。ありがとうな」
「? ああ、レオ君は戦えねぇし俺も女扱いされて苛っときたし」
「イヤなら髪切ればまだ違うんじゃね?」
「髪は切りたくねぇの」
弟とお揃いの長髪を切るのは言語道断である。
今度こそパトリックの元へ向かおうと歩き出すとレオが山になって倒れているゴロツキを眺めてからシルビの隣へと並んだ。その肩へソニックがどこからとも無くやってきて座る。
「いつもサポート役だから忘れそうになるけどさ、やっぱりシルビも強いんだよな」
おもむろに口を開いたレオを見た。
「いきなりだなぁ」
「思い出したっていうか思いついたっていうか、ふと思っただけだよ。でも考えてみれば当たり前だよな。シルビは『神的存在』だし『復讐者』って組織の一員だし」
後者はともかく前者の『神的存在』だからという理由と、強さはあまり関係ないように思える。あまり詳しくはないが『神的存在』であれば強いなんて法則はきっと無い。
「まぁ、俺だって昔は弱かったし今も弱ぇよ」
「嘘だろ」
「本当本当。『眼』が足りねぇんだよ」
「『眼』?」
「ブラッドベリ総合病院で食った……レオ君には言ってなかったなぁ」
シルビがレオへ『神的存在』だとバレた切っ掛けでもあった病院と、そこにあった『眼』のことは、そう言えばレオには話していなかった。
シルビが言う『眼』とは、物理的に言えば【白澤】の姿である時の九つの眼のことであるが、正確には『力の塊』である。
おそらく全ての『眼』が揃って初めてシルビは『神性存在』と呼ばれるに値する能力を取り戻すのだろうし、現在は何度も言うが様々な能力に制限や負荷が掛かっているのだ。【選択】を使った後の疲労が尋常ではないなどのそれらはしかし、レオどころかライブラの誰にも言っていない。
「まぁ万全じゃねぇってだけで経験値はあるから、弱くは見えねぇかもなぁ」
「ふーん」
「何か不満?」
「オレは【義眼】しか無くて、喧嘩とかも出来ないじゃん? でもどうしても逃げちゃいけない時とかがあったら、どうすればいいと思う?」
意外と真面目な質問にシルビは首を傾けた。
レオは【神々の義眼】をその眼に宿しているとはいえ、元々は手を出す喧嘩の一つも遠い世界の出来事だっただろう社会の人間だ。ライブラのメンバーの様に血法という戦う手段を望んで手に入れた訳でもなく、かといって人狼であるチェインのように生まれつきその能力を有していた訳でもない。
言うなればシルビの“最初”の様に切っ掛けがあって今の状況へ進んだというのが正しく、しかしながら平和な社会のことを忘れずにいる。
レオの戦闘力はライブラの中で最弱だ。きっとこれから向かう先にいるニーカよりも低いだろう。刃物を持たせても手が震え、銃を持たせても引き金を引けず、鈍器を持たせたところで振り上げられない。
「その『逃げちゃいけない』ってのは、逃げられねぇってこと?」
「うーん、とりあえず逃げるのは駄目ってとき」
「『眼を閉じちゃ駄目』、ってくらいかなぁ」
「え?」
シルビより背の低いレオがシルビを見上げる。
「レオ君は喧嘩っていうか、ザップさんに暴力振られても反撃ってあまりしねぇよなぁ。それはなんでぇ?」
「なんでって、痛いじゃん」
「自分が? 相手が?」
「……両方」
「そうだなぁ。自分が痛い思いをするのはまだ覚悟しやすいけど、相手を傷つけるのは怖ぇよなぁ」
あえてレオが言わなかった言葉を使えばレオが俯いた。結局は『怖い』という話なのだ。
自分が傷つくのが怖い。相手が傷つくのが怖い。自分のせいで相手が倒れるのが、自分のせいでで何か良くない結果が生まれるのが、怖い。
人が人を殺せない理由の一つであるそれは、当然だがレオの中にはまだ残っている。
だが、そうであるのなら尚更眼は閉じてはいけないとシルビは思う。
「眼を閉じるのは諦めるのと同義だろうよ。自分を守る為にも相手を出来るだけ傷つけねぇ為にも、その眼だけは見開いてるべきだろぉ」
でなければ光も見えない。
レオの持ち込んだピザを食べて、盛大な遅刻をしてきたザップと入れ替わりにライブラの事務所を出てレオと歩いていると、ゴロツキに絡まれたのである。前にも何度かレオに対してカツアゲを行なったらしい異界人達は、シルビを見て『女を連れて歩いてるなんていいご身分だな』とほざいたので返り討ちにした。
ナイフも銃も使わず、【死ぬ気の炎】も使わずに地面へ倒した異界人を眺め、それから自分の手を見下ろす。
十全ではないにしても異常といえる身体能力は失われていない。けれども感覚的に“ズレている”と思う。
『とある事件』の後に目覚めてからずっと覚えているそれはけれども、も
こんなゴロツキを倒す程度でも感じられた。
「シルビ?」
名前を呼ばれて振り返れば、暴れている間は離れていたレオが不思議そうに近づいてくる。見ていた手を降ろしてゴロツキを道の端へと蹴り飛ばしして退かした。
「怪我はぁ?」
「無い。ありがとうな」
「? ああ、レオ君は戦えねぇし俺も女扱いされて苛っときたし」
「イヤなら髪切ればまだ違うんじゃね?」
「髪は切りたくねぇの」
弟とお揃いの長髪を切るのは言語道断である。
今度こそパトリックの元へ向かおうと歩き出すとレオが山になって倒れているゴロツキを眺めてからシルビの隣へと並んだ。その肩へソニックがどこからとも無くやってきて座る。
「いつもサポート役だから忘れそうになるけどさ、やっぱりシルビも強いんだよな」
おもむろに口を開いたレオを見た。
「いきなりだなぁ」
「思い出したっていうか思いついたっていうか、ふと思っただけだよ。でも考えてみれば当たり前だよな。シルビは『神的存在』だし『復讐者』って組織の一員だし」
後者はともかく前者の『神的存在』だからという理由と、強さはあまり関係ないように思える。あまり詳しくはないが『神的存在』であれば強いなんて法則はきっと無い。
「まぁ、俺だって昔は弱かったし今も弱ぇよ」
「嘘だろ」
「本当本当。『眼』が足りねぇんだよ」
「『眼』?」
「ブラッドベリ総合病院で食った……レオ君には言ってなかったなぁ」
シルビがレオへ『神的存在』だとバレた切っ掛けでもあった病院と、そこにあった『眼』のことは、そう言えばレオには話していなかった。
シルビが言う『眼』とは、物理的に言えば【白澤】の姿である時の九つの眼のことであるが、正確には『力の塊』である。
おそらく全ての『眼』が揃って初めてシルビは『神性存在』と呼ばれるに値する能力を取り戻すのだろうし、現在は何度も言うが様々な能力に制限や負荷が掛かっているのだ。【選択】を使った後の疲労が尋常ではないなどのそれらはしかし、レオどころかライブラの誰にも言っていない。
「まぁ万全じゃねぇってだけで経験値はあるから、弱くは見えねぇかもなぁ」
「ふーん」
「何か不満?」
「オレは【義眼】しか無くて、喧嘩とかも出来ないじゃん? でもどうしても逃げちゃいけない時とかがあったら、どうすればいいと思う?」
意外と真面目な質問にシルビは首を傾けた。
レオは【神々の義眼】をその眼に宿しているとはいえ、元々は手を出す喧嘩の一つも遠い世界の出来事だっただろう社会の人間だ。ライブラのメンバーの様に血法という戦う手段を望んで手に入れた訳でもなく、かといって人狼であるチェインのように生まれつきその能力を有していた訳でもない。
言うなればシルビの“最初”の様に切っ掛けがあって今の状況へ進んだというのが正しく、しかしながら平和な社会のことを忘れずにいる。
レオの戦闘力はライブラの中で最弱だ。きっとこれから向かう先にいるニーカよりも低いだろう。刃物を持たせても手が震え、銃を持たせても引き金を引けず、鈍器を持たせたところで振り上げられない。
「その『逃げちゃいけない』ってのは、逃げられねぇってこと?」
「うーん、とりあえず逃げるのは駄目ってとき」
「『眼を閉じちゃ駄目』、ってくらいかなぁ」
「え?」
シルビより背の低いレオがシルビを見上げる。
「レオ君は喧嘩っていうか、ザップさんに暴力振られても反撃ってあまりしねぇよなぁ。それはなんでぇ?」
「なんでって、痛いじゃん」
「自分が? 相手が?」
「……両方」
「そうだなぁ。自分が痛い思いをするのはまだ覚悟しやすいけど、相手を傷つけるのは怖ぇよなぁ」
あえてレオが言わなかった言葉を使えばレオが俯いた。結局は『怖い』という話なのだ。
自分が傷つくのが怖い。相手が傷つくのが怖い。自分のせいで相手が倒れるのが、自分のせいでで何か良くない結果が生まれるのが、怖い。
人が人を殺せない理由の一つであるそれは、当然だがレオの中にはまだ残っている。
だが、そうであるのなら尚更眼は閉じてはいけないとシルビは思う。
「眼を閉じるのは諦めるのと同義だろうよ。自分を守る為にも相手を出来るだけ傷つけねぇ為にも、その眼だけは見開いてるべきだろぉ」
でなければ光も見えない。