ライブラの事務所のソファへ座って、掲げた両手を眺める。
ブラッドベリ総合病院で失っていた『眼』を一つ取り戻し、シルビは『とある事件』より前の調子に少しだけ戻った。
けれども具体的に何かが元通りになった感覚は少なく、せいぜいが疲れ難くなったことや、幻覚の精度が上がったくらいしか分かっていない。残りの『眼』が二つであることから考えれば、その感覚は少しどころではなく割に合わないように感じられた。
疲れ『難くなった』だけで疲れるのは相変わらずだし、【選択】で宙や水面に立つのはまだまだ出来そうにない。
取り戻した『眼』は右脇腹の一つだったらしく飲み込んだ次の日には脇腹の傷跡が無くなっており、それだけが目に見えて分かる確かな復調の証だった。
両手を降ろして服越しに左脇腹の傷へ触れる。服越しでも分かる歪な手触り。
これが治ることは、まだ無い。

「こんちはー。あれ、シルビだけ？」
「ただいま戻りました」
「お帰りぃ」

扉が開かれて頭にソニックを乗せたレオと、アンダンタル広場へ行っていたツェッドが入ってくる。
脇腹から手を離して顔を上げればレオは手にピザ屋の箱を持っていた。宅配ピザのバイトへ行っていた筈なので、差し入れか昼食として買ってきたのだろう。

「クラウスさんは植物の世話で温室に行って、スティーブンさんは出掛けてからまだ戻ってきてねぇよ。ザップさんは知らねぇ」
「ふーん。じゃあオレら待機？」
「いや、レオ君はパトリックさんのところ行って書類の回収」

午前中にはライブラと関係のないバイトが入っていたのと、パトリックの都合で午後に取りに来てくれという話である。書類の回収程度であればレオでも出きる仕事なので、レオがそういう役目を負うことは多い。
ちなみにシルビは午前中書類を片付けていた。それが終わってからぼんやりしていただけだ。

「やること無ぇから俺も一緒に行くよ。ニーカさんと話してぇこともあるしなぁ」
「珍しい組み合わせだな。シルビとニーカさんだなんて」
「普通に武器の話をしに行くだけだぜぇ？」

新年会の時も武器の話で盛り上がった仲だし、そう珍しいと言われる関係でもない。普段は主にサポート役としてしか働いていないが、シルビだって武器を持って戦闘が出来る者だ。
武器の話は普通に出来るし滅多にないが買うことだってある。しかし普段シルビの扱う武器は全て『特別製』なので、一般の武器商人には手出しも出来ないのだが。

「食ったら行こうかぁ」