―BRATATAT MOM―
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レオの行きつけらしく一緒に外食へ出ると結構頻繁に来るダイナーへ顔を出すと、店長の娘でもある店員のビビアンに『親戚の子?』と言われた。流石に親子だとは言われなかったので安心しつつ、テーブル席へ着いて注文をする。
そうして注文した料理が全員の前に揃ってから、兄弟がどうやら腹に溜めていた愚痴を吐き出すのに、そこまで溜まっているのかと思わず苦笑してしまった。
「なんで笑うんだよ」
「いやぁ? 君達はお母さんが大好きなんだなぁと思ってぇ」
「あんなんでも、母さんだし……」
「ほら」
「?」
ミートスパをフォークへ絡ませながら不思議がる兄弟を見やる。
「これは俺の考えだけれど、『産んでくれた女性』と『お母さん』は違ぇんだよ」
「? 同じでしょ?」
「産んだら絶対その子のお母さんにならなくちゃいけねぇのなら、世界に死別以外の孤児は存在しねぇ。『お母さん』っていうのは義務じゃなくて権利なんだよ」
シルビは何度も転生しており、その分だけ父親と母親がいた。けれどもその殆どが幼少期に死別していたりシルビを忌み嫌って捨てたりという理由で別れを告げている。成人するまで一緒にいたことなど今生でも成されたことは無かった。
死別を除いてもシルビは忌み嫌われた経験のほうが多い。そうしてちゃんと育てられた経験と比較した結果が、『義務ではなく権利』という考えに繋がるのだ。
「君達のお母さんは義務で君達を愛してるんじゃない。愛する権利を行使して君達の傍にいるんだよ」
「権利?」
「そう。だから君達がその人を『お母さん』だと思うのなら、そのお母さんは確実に君達を愛してる」
「……でも、忙しいって、あまり一緒にいないし」
「来週の授業参観に来てくれねぇのが、寂しい?」
「……うん」
仕事が忙しいらしい彼らの母親は数日後にあるケインの授業参観日にも仕事が入ってしまい、行くと約束していたのに行けなくなってしまったらしい。どんな仕事をしているのか分からないが、仕事に関しては何も知らない他人であるシルビが言えることは何も無かった。
「でも君達のお母さんは行きたいって言ってたんだろぉ? それは本当だと思うぜぇ」
「お兄さんは子供の授業参観行った?」
「授業参観自体が無かったなぁ。息子は全寮制の学校に通っていたから。でも寂しい思いはさせてたと思う」
孤独を二度と味あわせないように。寂しい思いをさせないように、愛情を与える為に家族にしたというのに、きっとシルビは不十分過ぎる父親だっただろう。
「カッコつけて言ってるけど、俺も君達のお母さんと似たような奴だったなぁ」
「そんなこと無いよ。お兄さんは難しいこと言うけど、その通りだと思ったトコあるもん。な?」
お兄ちゃんが同意を求めるように声を掛けても、コーラを飲んでいたケインは黙って俯いていた。
まだ子供だから分からないし不満に思って当然だ。むしろお兄ちゃんの物分かりが良いところの方が少し不安である。
「まぁ、大人はね、子供をいろんな形で守るのが仕事で、その為には少し何かを犠牲にしなけりゃなんねぇ時もある。……いつかそれが理解出来るようになるまでは、子供はわがままを言って泣いていいんです」
テーブル越しに手を伸ばしてケインの頭を撫でた。ついでにお兄ちゃんの頭も撫でて、メニュー表のデザートの欄を二人へ差し出す。
遠慮がちにそれを覗き込んだ二人を眺めて、シルビは今は会えない息子の姿を思い出した。
追加注文したパフェも見事に完食し、機嫌が少し良くなった兄弟を二人の家の近くまで送る。メールアドレスを書いて渡し、家に着いたら報告として連絡を寄越すことを約束して別れた。
片付け途中だった薬局へ戻り、片付けを再開するとすぐに携帯へ無事に家へ帰ったこととお礼の書かれたメールが届く。誘拐だなんだと疑われない為にそこまでしたのだが、彼らの保護者である両親へは、彼らが話してからどう動くかでこちらも反応をすればいいだろう。親切な人に会ったね、で終われば一番楽でいいのだが。
とうとうその日、午後を全部潰しても薬局の片付けは終わらなかった。
「だから夕食は手抜きですぅ」
「オレの知ってる手抜きと違う」
夕食を食べに来たレオの前にはシルビが作ったサイコロステーキが鎮座している。レオは手抜きではないと主張するが、付け合わせを作る時間が無かったのでシルビとしては納得がいかない。
普段ジャンクフードばっかり食べているレオやザップと食事をする時は、ここぞとばかりに野菜を食べさせようとするのが最近のシルビのマイブームである。保護者でもないのにそんな真似をしてしまうのはシルビの悪い癖だが、レオ達も肉ばかり食べるのが悪い。
切り分けて冷まされたステーキをソニックが美味しそうに頬張る。日頃レオと一緒に何でも食べている雑食らしい音速猿だが、当然彼の分の味付けは薄味だ。
「わがままなぁ……オレはミシェーラが居たからあんまり言えなかったかも」
自分へ子供がいたことは隠しつつ昼間の出来事を話題として出せば、レオはそう言って肉を噛み切りながら次の肉へフォークを突き刺した。
「我慢を強いられた訳じゃねーけどさ、なんとなくミシェーラ優先ってとこはあったかもな。でもオレもミシェーラを気にしてばっかだったし、別にフツー」
「俺は俺が保護者っぽかったしなぁ」
「あのさ」
「うん?」
「シルビにも両親っていんの?」
「ちゃんと人間の両親がいましたがぁ? 弟もいるし、だから身体はちゃんと人類なんだよ」
「そ、そッスか」
『神性存在』と知ってから、レオはどこまでシルビに踏み込んでいいのか分からないらしい。シルビとしては今まで通りにしてくれるのが一番いいのだが、当然そうもいかないのだろう。
魂というものが存在するとして、転生などを行なっている以上、シルビの場合その魂が『神性存在』だという考えが分かり易いのかも知れない。その割には肉体も人類の枠を越えているが。
ともあれシルビには血の繋がった兄弟や親戚が存在する。
「でもやっぱり両親に不満を持ったことは少なかったかなぁ」
「シルビの親って想像つかねー」
「そうかぁ?」
「うん」
「普通だったよ。俺には勿体ねぇくらい普通」
シルビとしては、息子を一人で現在世界でもっとも危険と言われている街へ行かせるレオの両親の方が想像付かない。
いくら足が不自由な上に視力まで失ってしまった娘が居ても、息子に対してもうちょっと心配なりしていい筈だ。だがレオが無理矢理、家出当然で出てきたのならまた話は別だろう。更に言うならレオならやりかねない。
シルビでさえヘルサレムズ・ロットへ来るのに苦労はしている。何せ『五年前の事件』から数年、この街がヘルサレムズ・ロットへ作り変えられていたその最中でさえ、シルビは昏睡状態で寝込んでいたのだ。それが目を覚まして殆ど直ぐと言っていいタイミングでヘルサレムズ・ロットへ渡ってきている。無論シルビが渡航することに反対していた者だって居た。
いくら両親が既に亡くなっていたとしても、ヘルサレムズ・ロットへ居るというだけである意味では親不孝だ。
「俺達親不孝かもなぁ……」
「ああ……ちょっと分かる」
ちょっと落ち込んでしまった気分になって、揃って溜息を吐く。話を聞き流していたらしいソニックが雰囲気の悪くなった食卓に気付いてかシルビとレオを交互に見やり、慌てた様子で自分の分の肉を差し出してきた。『食って元気出せ!』ということなのだろうが、作ったのはシルビである。
とにかく気持ちだけ受け取っておいて、シルビもレオも目の前のステーキを食べることへ集中する事にした。
そうして注文した料理が全員の前に揃ってから、兄弟がどうやら腹に溜めていた愚痴を吐き出すのに、そこまで溜まっているのかと思わず苦笑してしまった。
「なんで笑うんだよ」
「いやぁ? 君達はお母さんが大好きなんだなぁと思ってぇ」
「あんなんでも、母さんだし……」
「ほら」
「?」
ミートスパをフォークへ絡ませながら不思議がる兄弟を見やる。
「これは俺の考えだけれど、『産んでくれた女性』と『お母さん』は違ぇんだよ」
「? 同じでしょ?」
「産んだら絶対その子のお母さんにならなくちゃいけねぇのなら、世界に死別以外の孤児は存在しねぇ。『お母さん』っていうのは義務じゃなくて権利なんだよ」
シルビは何度も転生しており、その分だけ父親と母親がいた。けれどもその殆どが幼少期に死別していたりシルビを忌み嫌って捨てたりという理由で別れを告げている。成人するまで一緒にいたことなど今生でも成されたことは無かった。
死別を除いてもシルビは忌み嫌われた経験のほうが多い。そうしてちゃんと育てられた経験と比較した結果が、『義務ではなく権利』という考えに繋がるのだ。
「君達のお母さんは義務で君達を愛してるんじゃない。愛する権利を行使して君達の傍にいるんだよ」
「権利?」
「そう。だから君達がその人を『お母さん』だと思うのなら、そのお母さんは確実に君達を愛してる」
「……でも、忙しいって、あまり一緒にいないし」
「来週の授業参観に来てくれねぇのが、寂しい?」
「……うん」
仕事が忙しいらしい彼らの母親は数日後にあるケインの授業参観日にも仕事が入ってしまい、行くと約束していたのに行けなくなってしまったらしい。どんな仕事をしているのか分からないが、仕事に関しては何も知らない他人であるシルビが言えることは何も無かった。
「でも君達のお母さんは行きたいって言ってたんだろぉ? それは本当だと思うぜぇ」
「お兄さんは子供の授業参観行った?」
「授業参観自体が無かったなぁ。息子は全寮制の学校に通っていたから。でも寂しい思いはさせてたと思う」
孤独を二度と味あわせないように。寂しい思いをさせないように、愛情を与える為に家族にしたというのに、きっとシルビは不十分過ぎる父親だっただろう。
「カッコつけて言ってるけど、俺も君達のお母さんと似たような奴だったなぁ」
「そんなこと無いよ。お兄さんは難しいこと言うけど、その通りだと思ったトコあるもん。な?」
お兄ちゃんが同意を求めるように声を掛けても、コーラを飲んでいたケインは黙って俯いていた。
まだ子供だから分からないし不満に思って当然だ。むしろお兄ちゃんの物分かりが良いところの方が少し不安である。
「まぁ、大人はね、子供をいろんな形で守るのが仕事で、その為には少し何かを犠牲にしなけりゃなんねぇ時もある。……いつかそれが理解出来るようになるまでは、子供はわがままを言って泣いていいんです」
テーブル越しに手を伸ばしてケインの頭を撫でた。ついでにお兄ちゃんの頭も撫でて、メニュー表のデザートの欄を二人へ差し出す。
遠慮がちにそれを覗き込んだ二人を眺めて、シルビは今は会えない息子の姿を思い出した。
追加注文したパフェも見事に完食し、機嫌が少し良くなった兄弟を二人の家の近くまで送る。メールアドレスを書いて渡し、家に着いたら報告として連絡を寄越すことを約束して別れた。
片付け途中だった薬局へ戻り、片付けを再開するとすぐに携帯へ無事に家へ帰ったこととお礼の書かれたメールが届く。誘拐だなんだと疑われない為にそこまでしたのだが、彼らの保護者である両親へは、彼らが話してからどう動くかでこちらも反応をすればいいだろう。親切な人に会ったね、で終われば一番楽でいいのだが。
とうとうその日、午後を全部潰しても薬局の片付けは終わらなかった。
「だから夕食は手抜きですぅ」
「オレの知ってる手抜きと違う」
夕食を食べに来たレオの前にはシルビが作ったサイコロステーキが鎮座している。レオは手抜きではないと主張するが、付け合わせを作る時間が無かったのでシルビとしては納得がいかない。
普段ジャンクフードばっかり食べているレオやザップと食事をする時は、ここぞとばかりに野菜を食べさせようとするのが最近のシルビのマイブームである。保護者でもないのにそんな真似をしてしまうのはシルビの悪い癖だが、レオ達も肉ばかり食べるのが悪い。
切り分けて冷まされたステーキをソニックが美味しそうに頬張る。日頃レオと一緒に何でも食べている雑食らしい音速猿だが、当然彼の分の味付けは薄味だ。
「わがままなぁ……オレはミシェーラが居たからあんまり言えなかったかも」
自分へ子供がいたことは隠しつつ昼間の出来事を話題として出せば、レオはそう言って肉を噛み切りながら次の肉へフォークを突き刺した。
「我慢を強いられた訳じゃねーけどさ、なんとなくミシェーラ優先ってとこはあったかもな。でもオレもミシェーラを気にしてばっかだったし、別にフツー」
「俺は俺が保護者っぽかったしなぁ」
「あのさ」
「うん?」
「シルビにも両親っていんの?」
「ちゃんと人間の両親がいましたがぁ? 弟もいるし、だから身体はちゃんと人類なんだよ」
「そ、そッスか」
『神性存在』と知ってから、レオはどこまでシルビに踏み込んでいいのか分からないらしい。シルビとしては今まで通りにしてくれるのが一番いいのだが、当然そうもいかないのだろう。
魂というものが存在するとして、転生などを行なっている以上、シルビの場合その魂が『神性存在』だという考えが分かり易いのかも知れない。その割には肉体も人類の枠を越えているが。
ともあれシルビには血の繋がった兄弟や親戚が存在する。
「でもやっぱり両親に不満を持ったことは少なかったかなぁ」
「シルビの親って想像つかねー」
「そうかぁ?」
「うん」
「普通だったよ。俺には勿体ねぇくらい普通」
シルビとしては、息子を一人で現在世界でもっとも危険と言われている街へ行かせるレオの両親の方が想像付かない。
いくら足が不自由な上に視力まで失ってしまった娘が居ても、息子に対してもうちょっと心配なりしていい筈だ。だがレオが無理矢理、家出当然で出てきたのならまた話は別だろう。更に言うならレオならやりかねない。
シルビでさえヘルサレムズ・ロットへ来るのに苦労はしている。何せ『五年前の事件』から数年、この街がヘルサレムズ・ロットへ作り変えられていたその最中でさえ、シルビは昏睡状態で寝込んでいたのだ。それが目を覚まして殆ど直ぐと言っていいタイミングでヘルサレムズ・ロットへ渡ってきている。無論シルビが渡航することに反対していた者だって居た。
いくら両親が既に亡くなっていたとしても、ヘルサレムズ・ロットへ居るというだけである意味では親不孝だ。
「俺達親不孝かもなぁ……」
「ああ……ちょっと分かる」
ちょっと落ち込んでしまった気分になって、揃って溜息を吐く。話を聞き流していたらしいソニックが雰囲気の悪くなった食卓に気付いてかシルビとレオを交互に見やり、慌てた様子で自分の分の肉を差し出してきた。『食って元気出せ!』ということなのだろうが、作ったのはシルビである。
とにかく気持ちだけ受け取っておいて、シルビもレオも目の前のステーキを食べることへ集中する事にした。