閑話23
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レオナルド視点
「来て貰って悪ぃけど、特に見舞って貰うことも無ぇんだよ」
そう言って、帰りに鍵だけ閉めれば何をしても構わないと告げてから寝室へ戻っていったシルビに、レオは買ってきた袋の中から市販のプリンとスポーツドリンクを取り出して冷蔵庫へ放り込んだ。
レオの安アパートにある冷蔵庫と違って、悪くなってしまっていない食材や作り置きの料理が詰められた冷蔵庫には、当然シルビ自身が買ったのだろうスポーツドリンクも入っていた。他にも病気の際に身体が求めそうなモノはちゃんと入っていて、レオが来た意味は本当に無い。
冷蔵庫を締めて買い物袋をゴミ箱へ放り込んで、レオはシルビが戻っていった寝室のドアを見つめる。
昨日の夜、シルビとツェッドの話を盗み聞きしていたことに、シルビは気付いていないようだった。
ツェッドはレオが聞いていたことに気付いていたらしくて、今日事務所へ行ってツェッドに会った際、周りで聞いてる者が居なくなったタイミングでどう思いましたかと尋ねられたのである。
「どう、って」
「シルビさんが神性存在だということに、です」
「……聞いてたの、気付いてたんすか」
「ええ。レオ君は、あの人が神性存在だったら恨むんですか?」
率直に訊いてくるな、と思いながらその質問に首を横へ振った。
恨みはしない。けれどどうにかしてくれたら、なんて淡い期待は抱いていたと思う。
ミシェーラから視力を奪った存在に近い存在。シルビが『神性存在』だと知って、【義眼】だけじゃ飽き足らずレオのことを監視に来たのかとさえ思考が迷走したりもした。だが当然そんなことはある訳がないと思い直して、次にはやっぱり助けてくれないかななんて思いもしたのである。
シルビの事情なんて考えてなかった。
「……なにも知らない頃に言われてたら、恨んでたかも知れねーっす。でもシルビのことを知ってからじゃ、恨めるモンも恨めないっしょ」
「まるで面接ですね。……初めて師匠へお会いした時に言われたんですが、同胞のいないボクが経験する孤独は想像を絶する地獄だと」
「えげつねーっすね……」
「でもその直後に屋敷を出て、初めて見た外の世界は決して地獄と表現するには値しないものでした」
ツェッドはそう言って、その光景を思い出しているように少し黙り込む。
「絶対の孤独という地獄で、最初に見たボクにとっての『花』はそれでした。それから多分、レオ君や師匠達も『花』なんだと思います。シルビさんが地獄に咲く花を知っていると言ってたのも、そういう事なんだと思うんです」
永遠の孤独という地獄に咲いた花。それは心を慰めるものとして完全な孤独は癒せずとも、寄る辺になるもの。
つまりは孤独を感じさせなくなるものとして、シルビやツェッドは『花』を知っているという。
「ですからレオ君。シルビさんと仲直りしてあげてください」
そう言って送り出されたライブラの事務所からシルビの家へ来て、嬉しがるどころか少し迷惑そうですらあったシルビに、仲直りなんて出来るかと思った。成人男性一人暮らしにしては随分と整理された部屋は、家主が寝室に引っ込んでいるからか静か過ぎる。
レオはシルビと違うので見舞いに来たからと病人食を作ってやるなんて事も出来ないし、それ以外に何かしらの世話を焼くという口実で寝室に押し入ることも出来なかった。寝ているのを起こすのだって悪いが、顔を合わせられなければ仲直りだって難しい。
「治ってからでもいいじゃん……いいよな?」
タイミングが悪いのだ、と思うことにして仲直りの足がかりになりそうな会話すら諦めて帰ろうとして、レオは一緒に来たソニックが居ないことに気付いた。周囲を見回すと寝室とは違う部屋のドアが完全に閉まりきっておらず、その隙間から飛び跳ねるソニックの姿が見える。
「おいおいソニック。人の家でそんなに飛び跳ねるなって……」
ソニックを呼び戻そうとそのドアへ手を掛けて部屋を覗き込めば、書斎的な部屋だったのかパソコンと山積みの書類が溢れかえっていた。ソニックがその一つを崩してしまったのか、床には滑り落ちたのだろうそれと封筒に入っていた書類までも広がってしまっていて、ソニックが慌てた様子でそれを戻そうとしている。
慌ててレオもその書類を拾おうとしゃがんで手を伸ばした。まとめられていたとしたら順番がバラバラになってしまったなと思いながら、付箋の貼られていた封筒から飛び出していた紙へ何の気となしに眼を滑らせる。
「【神々の義眼】……」
気にせざるを得ない単語に落ちた紙を拾い集める手が止まった。
『高性能監視機能』『【魔レンズ】との類似、相違点』『人為的創作の可能性』『現状把握済み展開魔術式の詳細』『動作発動時の情報処理能力欠落について』『【×××】との相違点』『契約反故の方法』
レオの理解を超えた、レオとは違う観点からの【神々の義眼】についての調査書だと気付いて、レオは息を呑んでその文面を凝視する。
自分で調べたものとは段違いな結果と考察の羅列。
カサ、と指先に触れた、封筒へ貼られていた付箋には『レオへ(未定)』と書かれていた。
「来て貰って悪ぃけど、特に見舞って貰うことも無ぇんだよ」
そう言って、帰りに鍵だけ閉めれば何をしても構わないと告げてから寝室へ戻っていったシルビに、レオは買ってきた袋の中から市販のプリンとスポーツドリンクを取り出して冷蔵庫へ放り込んだ。
レオの安アパートにある冷蔵庫と違って、悪くなってしまっていない食材や作り置きの料理が詰められた冷蔵庫には、当然シルビ自身が買ったのだろうスポーツドリンクも入っていた。他にも病気の際に身体が求めそうなモノはちゃんと入っていて、レオが来た意味は本当に無い。
冷蔵庫を締めて買い物袋をゴミ箱へ放り込んで、レオはシルビが戻っていった寝室のドアを見つめる。
昨日の夜、シルビとツェッドの話を盗み聞きしていたことに、シルビは気付いていないようだった。
ツェッドはレオが聞いていたことに気付いていたらしくて、今日事務所へ行ってツェッドに会った際、周りで聞いてる者が居なくなったタイミングでどう思いましたかと尋ねられたのである。
「どう、って」
「シルビさんが神性存在だということに、です」
「……聞いてたの、気付いてたんすか」
「ええ。レオ君は、あの人が神性存在だったら恨むんですか?」
率直に訊いてくるな、と思いながらその質問に首を横へ振った。
恨みはしない。けれどどうにかしてくれたら、なんて淡い期待は抱いていたと思う。
ミシェーラから視力を奪った存在に近い存在。シルビが『神性存在』だと知って、【義眼】だけじゃ飽き足らずレオのことを監視に来たのかとさえ思考が迷走したりもした。だが当然そんなことはある訳がないと思い直して、次にはやっぱり助けてくれないかななんて思いもしたのである。
シルビの事情なんて考えてなかった。
「……なにも知らない頃に言われてたら、恨んでたかも知れねーっす。でもシルビのことを知ってからじゃ、恨めるモンも恨めないっしょ」
「まるで面接ですね。……初めて師匠へお会いした時に言われたんですが、同胞のいないボクが経験する孤独は想像を絶する地獄だと」
「えげつねーっすね……」
「でもその直後に屋敷を出て、初めて見た外の世界は決して地獄と表現するには値しないものでした」
ツェッドはそう言って、その光景を思い出しているように少し黙り込む。
「絶対の孤独という地獄で、最初に見たボクにとっての『花』はそれでした。それから多分、レオ君や師匠達も『花』なんだと思います。シルビさんが地獄に咲く花を知っていると言ってたのも、そういう事なんだと思うんです」
永遠の孤独という地獄に咲いた花。それは心を慰めるものとして完全な孤独は癒せずとも、寄る辺になるもの。
つまりは孤独を感じさせなくなるものとして、シルビやツェッドは『花』を知っているという。
「ですからレオ君。シルビさんと仲直りしてあげてください」
そう言って送り出されたライブラの事務所からシルビの家へ来て、嬉しがるどころか少し迷惑そうですらあったシルビに、仲直りなんて出来るかと思った。成人男性一人暮らしにしては随分と整理された部屋は、家主が寝室に引っ込んでいるからか静か過ぎる。
レオはシルビと違うので見舞いに来たからと病人食を作ってやるなんて事も出来ないし、それ以外に何かしらの世話を焼くという口実で寝室に押し入ることも出来なかった。寝ているのを起こすのだって悪いが、顔を合わせられなければ仲直りだって難しい。
「治ってからでもいいじゃん……いいよな?」
タイミングが悪いのだ、と思うことにして仲直りの足がかりになりそうな会話すら諦めて帰ろうとして、レオは一緒に来たソニックが居ないことに気付いた。周囲を見回すと寝室とは違う部屋のドアが完全に閉まりきっておらず、その隙間から飛び跳ねるソニックの姿が見える。
「おいおいソニック。人の家でそんなに飛び跳ねるなって……」
ソニックを呼び戻そうとそのドアへ手を掛けて部屋を覗き込めば、書斎的な部屋だったのかパソコンと山積みの書類が溢れかえっていた。ソニックがその一つを崩してしまったのか、床には滑り落ちたのだろうそれと封筒に入っていた書類までも広がってしまっていて、ソニックが慌てた様子でそれを戻そうとしている。
慌ててレオもその書類を拾おうとしゃがんで手を伸ばした。まとめられていたとしたら順番がバラバラになってしまったなと思いながら、付箋の貼られていた封筒から飛び出していた紙へ何の気となしに眼を滑らせる。
「【神々の義眼】……」
気にせざるを得ない単語に落ちた紙を拾い集める手が止まった。
『高性能監視機能』『【魔レンズ】との類似、相違点』『人為的創作の可能性』『現状把握済み展開魔術式の詳細』『動作発動時の情報処理能力欠落について』『【×××】との相違点』『契約反故の方法』
レオの理解を超えた、レオとは違う観点からの【神々の義眼】についての調査書だと気付いて、レオは息を呑んでその文面を凝視する。
自分で調べたものとは段違いな結果と考察の羅列。
カサ、と指先に触れた、封筒へ貼られていた付箋には『レオへ(未定)』と書かれていた。