―パンドラム・アサイラム ラプソディ―
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ライブラで会合があるので早めに事務所へ向かおうと家を出て、異変に気付いたのは往来を数十歩も進まないうちだった。指を鳴らして適当なビルの屋上へ移動して、周囲を見回す。
携帯を取り出してライブラのリーダーであるクラウスではなく、その執事であるギルベルトへ連絡を取りながら、『異変』の方向へ向かって走り出した。
『おはようございます』
「おはようございます。クラウスさんは傍に居られますか?」
『はい。シルビさんは何の用でしょうか?』
「街が静か過ぎるのですが、今何か異変の情報って入ってます?」
立ち並ぶビルの屋上を足場に、視線を向けた先は大通りの道路だ。普段であれば車が隙間も無いくらいに流れている道路だが、今は道の脇へ車の元だと思われる残骸が転々と転がっているだけである。
シルビの住んでいるマンションは大通り沿いではないが、車の走行音はいつも聞こえていた。それが今日は聞こえなかったのだ。目覚めのいい朝だと思ったのは騒音が無かったからの勘違いらしい。
電話の向こうで相手がギルベルトからクラウスへ替わる。異変の情報が入っていればクラウスは忙しかろうとギルベルトへ繋げたのだが、電話をする余裕はあったようだ。
『シルビ君。直ぐにこちらへ来られるか』
「何処です?」
『パンドラム・超異常犯罪者保護拘束施設だ』
クラウスが告げたのはこのヘルサレムズ・ロッドにある、いわゆる刑務所である。収容囚人数約四千万。その多くが懲役百年を軽く超える、重犯罪者の巣窟。
刑務所という意味を大きく見れば『復讐者』とやっている事は同じである。故に『パンドラム・アサイラム』に関する資料は見たことがあった。創設の際『復讐者』も関わったとか何とか書いてあった気もするが、流石にシルビだって“自分が死んでいた”間のことまで詳しくは知らない。
だが『復讐者』としてHLに来ている以上、シルビは行くべきだろう。
直ぐに行く旨を伝えて電話を切る。道路の静寂さは喉元過ぎれば何とやらで既に騒々しさを取り戻し始めていた。逆に考えればこの辺りで何かが起こったのは随分と前という事になる。電話を切る前に詳細を聞けば良かったなと少し後悔したが、合流してからでも遅くはないかと判断して指を鳴らす。
炎の輪の先は高速道路脇へ建立されている、オベリスク型をした建物だ。その正面玄関に当たる場所へと降り立てば、クラウスとライブラのメンバーの一人であるエイブラムスがいた。クラウスとは違い実際にシルビが空間転移を行なう様を始めて見たからか、エイブラムスが驚いている。
シルビとしてはその後方で、何の変哲も無いゴミ箱がいきなり爆発した事に驚いて欲しかった。
『豪運のエイブラムス』の異名を持つ彼は、牙狩りとして多くの敵から呪われている。しかしその運の良さゆえにその呪いによる不幸が全て彼の身へ降りかかる事がない。だがその代わり、彼に降りかかる筈だった呪いは彼の周囲で発動して他人を巻き込んでしまう。なんとも厄介な体質の持ち主だった。
「空間転移能力者だとは聞いていたが、予想以上だな」
「おはようございます。後ろでゴミ箱が爆発してますけど」
「ん? 物騒だな」
「……クラウスさん。詳細をお聞かせください」
「うむ」
エイブラムスの事はあえて無視をしてクラウスへ話しかける。だが彼が口を開きかけた矢先に、継ぎ目の無いオベリスクへ入り口が開き看守だと思われる者へ招き入れられた。
中は明かりの殆ど無い通路が延びている。だが『復讐者』の本部である拠点へ比べれば規則的で、まだ普通の刑務所へ近い感覚があった。
というか復讐者の牢獄が変なのだろう。シルビ以外の『復讐者』の面々が殆ど人間らしい生活を捨てているとはいえ、頻繁に外との出入りをする場合は非常に困る。
看守に案内された先に居たのは厳格そうな雰囲気をかもし出す女性で、シルビ達を一瞥すると貶す意図ではなく最低限の挨拶だけをした。正直、好みのタイプであるが今はそんな事を言っている場合ではない。
彼女こそこの『パンドラム・アサイラム』の獄長、アリス・ネバーヘイワーズだという。そして説明して貰えていないここへ来た理由は、このアサイラムへ収容されているとある囚人の保釈。
「馬鹿も休み休み言え。貴様らは『奴』を何だと思っているのだ」
誰の話かシルビには分からないが、その先に続いた犯歴はこの世の悪をやりつくしたように酷い。獄長を説得するエイブラムスの後ろで、クラウスがシルビへ耳打ちしてきた。
「シルビ君は『彼』の事を知らなかったな」
「保釈させようとしている人物ですか?」
「正確には『彼ら』なのだが、名前をデルドロ・ブローディとドグ・ハマーと言う」
「……二重人格?」
「いや、『彼ら』は――」
地面が揺れる。思わずよろけてしまう程の振動に、近くにあった映像電信機から看守の獄長を呼ぶ声がした。そこに映し出されたのは何処かの道路の様子で、およそコンクリートの上を走っていいとは思えないほど巨大なトラックが、怪物のような口を開けて走り続けている。
走りながらも逃げる他の車を飲み込み、その部品で自身の身体を更に巨大化させているのが映像でも分かった。モンスタートラックが走り抜けた後には一台の車も残っておらず、食い散らかされた破片が道路脇へと退けられている。おそらくここへ来る前にシルビが見た道路の惨状もコレが原因だろう。
携帯を取り出してライブラのリーダーであるクラウスではなく、その執事であるギルベルトへ連絡を取りながら、『異変』の方向へ向かって走り出した。
『おはようございます』
「おはようございます。クラウスさんは傍に居られますか?」
『はい。シルビさんは何の用でしょうか?』
「街が静か過ぎるのですが、今何か異変の情報って入ってます?」
立ち並ぶビルの屋上を足場に、視線を向けた先は大通りの道路だ。普段であれば車が隙間も無いくらいに流れている道路だが、今は道の脇へ車の元だと思われる残骸が転々と転がっているだけである。
シルビの住んでいるマンションは大通り沿いではないが、車の走行音はいつも聞こえていた。それが今日は聞こえなかったのだ。目覚めのいい朝だと思ったのは騒音が無かったからの勘違いらしい。
電話の向こうで相手がギルベルトからクラウスへ替わる。異変の情報が入っていればクラウスは忙しかろうとギルベルトへ繋げたのだが、電話をする余裕はあったようだ。
『シルビ君。直ぐにこちらへ来られるか』
「何処です?」
『パンドラム・超異常犯罪者保護拘束施設だ』
クラウスが告げたのはこのヘルサレムズ・ロッドにある、いわゆる刑務所である。収容囚人数約四千万。その多くが懲役百年を軽く超える、重犯罪者の巣窟。
刑務所という意味を大きく見れば『復讐者』とやっている事は同じである。故に『パンドラム・アサイラム』に関する資料は見たことがあった。創設の際『復讐者』も関わったとか何とか書いてあった気もするが、流石にシルビだって“自分が死んでいた”間のことまで詳しくは知らない。
だが『復讐者』としてHLに来ている以上、シルビは行くべきだろう。
直ぐに行く旨を伝えて電話を切る。道路の静寂さは喉元過ぎれば何とやらで既に騒々しさを取り戻し始めていた。逆に考えればこの辺りで何かが起こったのは随分と前という事になる。電話を切る前に詳細を聞けば良かったなと少し後悔したが、合流してからでも遅くはないかと判断して指を鳴らす。
炎の輪の先は高速道路脇へ建立されている、オベリスク型をした建物だ。その正面玄関に当たる場所へと降り立てば、クラウスとライブラのメンバーの一人であるエイブラムスがいた。クラウスとは違い実際にシルビが空間転移を行なう様を始めて見たからか、エイブラムスが驚いている。
シルビとしてはその後方で、何の変哲も無いゴミ箱がいきなり爆発した事に驚いて欲しかった。
『豪運のエイブラムス』の異名を持つ彼は、牙狩りとして多くの敵から呪われている。しかしその運の良さゆえにその呪いによる不幸が全て彼の身へ降りかかる事がない。だがその代わり、彼に降りかかる筈だった呪いは彼の周囲で発動して他人を巻き込んでしまう。なんとも厄介な体質の持ち主だった。
「空間転移能力者だとは聞いていたが、予想以上だな」
「おはようございます。後ろでゴミ箱が爆発してますけど」
「ん? 物騒だな」
「……クラウスさん。詳細をお聞かせください」
「うむ」
エイブラムスの事はあえて無視をしてクラウスへ話しかける。だが彼が口を開きかけた矢先に、継ぎ目の無いオベリスクへ入り口が開き看守だと思われる者へ招き入れられた。
中は明かりの殆ど無い通路が延びている。だが『復讐者』の本部である拠点へ比べれば規則的で、まだ普通の刑務所へ近い感覚があった。
というか復讐者の牢獄が変なのだろう。シルビ以外の『復讐者』の面々が殆ど人間らしい生活を捨てているとはいえ、頻繁に外との出入りをする場合は非常に困る。
看守に案内された先に居たのは厳格そうな雰囲気をかもし出す女性で、シルビ達を一瞥すると貶す意図ではなく最低限の挨拶だけをした。正直、好みのタイプであるが今はそんな事を言っている場合ではない。
彼女こそこの『パンドラム・アサイラム』の獄長、アリス・ネバーヘイワーズだという。そして説明して貰えていないここへ来た理由は、このアサイラムへ収容されているとある囚人の保釈。
「馬鹿も休み休み言え。貴様らは『奴』を何だと思っているのだ」
誰の話かシルビには分からないが、その先に続いた犯歴はこの世の悪をやりつくしたように酷い。獄長を説得するエイブラムスの後ろで、クラウスがシルビへ耳打ちしてきた。
「シルビ君は『彼』の事を知らなかったな」
「保釈させようとしている人物ですか?」
「正確には『彼ら』なのだが、名前をデルドロ・ブローディとドグ・ハマーと言う」
「……二重人格?」
「いや、『彼ら』は――」
地面が揺れる。思わずよろけてしまう程の振動に、近くにあった映像電信機から看守の獄長を呼ぶ声がした。そこに映し出されたのは何処かの道路の様子で、およそコンクリートの上を走っていいとは思えないほど巨大なトラックが、怪物のような口を開けて走り続けている。
走りながらも逃げる他の車を飲み込み、その部品で自身の身体を更に巨大化させているのが映像でも分かった。モンスタートラックが走り抜けた後には一台の車も残っておらず、食い散らかされた破片が道路脇へと退けられている。おそらくここへ来る前にシルビが見た道路の惨状もコレが原因だろう。