―Hello,World―
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レオナルド視点
ヘルサレムズ・ロット。その混沌と非日常と理解不能が入り交じる地で、レオは息を飲む様な光景を見た。
いつもと変わらない平凡とは言いがたい雑踏の途切れた瞬間。人混みの向こうで立ち止まり、霧に覆われた空を見上げるその人は一見人類の女性に思える。
血界の眷属のような赤色ではなく、けれども輝きではそれにも負けず劣らない朝と夜が混じる空のようなオーラを纏っていて、レオは思わず立ち止まってその人とその人からあふれでる光の輝きへ目を奪われた。まるで一枚の絵画から抜け出してきたような光景に息も止まりかける。
あまりにまじまじと見つめていたせいか、レオの視線へ気付いたようにその人が振り返り、目が合った。
遠目でも分かるほど綺麗な紫色の瞳。その人が立っているだけでその場所がHLでは無くなってしまった様な感覚さえ覚えて。
そうして脈絡もなく追いかけられている。
「なんで、なんでだよぉ!」
「待ちやがれぇええええ!」
最初こそ悪意の無い『待って!』というごく普通の呼び止めだったが、レオが逃げたせいかはたまた本性を現したのか、紫眼の人物は荒々しく叫びながら追いかけて来ていた。顔だけ見ていた時は髪も長いし女性だと思ったのだが、声からして男性だろう。
紫眼の人物に対して見つめていた以外に何かをした覚えはない。なのに彼はレオを追いかけてくる。
怖い。マジ怖い。
怖いといえば上司であるスティーブンも怖かった。今日はライブラへ客だか何だかが来るとかで遅刻厳禁と言われていたのだ。
こんな追いかけられている状態で何をと思うだろうが、知らない男へ追いかけられている現状とスティーブンの怒った顔とで言えば、怒られた経験のあるスティーブンの方が確実に怖さを分かっている分、どんな反省をさせられるか。
考えただけで背筋が凍る。
「遅刻したくねええええええ!」
「待てぇえええええええええええええ!」
後ろから追いかけてくる男は諦める様子が無い。いっその事このままライブラの事務所へまで行ってしまおうかと思ったところで、レオの進行方向を横切る形で市民達が逃げていく。
すり抜けていくことも出来ず思わず立ち止まったところで頭上が暗くなる。それが今までのHLでの生活では危険のフラグだということを思い出して、空を見上げれば頭が破裂した運転手がハンドルを握るトラック。
竦んだ足では逃げられず、叫ぶことも出来ないまま間抜けに大口を開けてそれが落ちてくるのを見つめることしか出来ずにいれば、不意に腰を締め付けられた。
「ぐぇっ」
横方向への重力が一瞬身体へ掛かり、消化し始めていただろう朝食が胃から逆流しかける。思わず手で口を押さえたところで、“背後でトラックが地面へ落下した”。
驚いて振り返ると炎上しだすトラック。市民の悲鳴とまだまだ宙を待っている多数の乗用車に、爆風に前髪を揺らされながらそれを確認しつつ、レオは至近距離で聞こえた声に息を呑んだ。
「初めてHLへ来たけれど、――破天荒な街だなぁ」
レオの腰へ腕を回して抱えているのは、先程まで追いかけてきていた紫眼の人物で。
「トラックが宙を走るってぇ場合は、道路交通法が適用するのか航空法が適用するのか、どう思うぅ?」
どうでもいい事を言いながら、紫眼の人物は軽々しくレオを肩へと担ぎ上げた。いい年した男なので正直その格好は遠慮したい。
「そ……それより放してください! 自分で走れる!」
「放したら君逃げるだろぉ? 俺も用事があるからそうそう追いかけっこなんてしてる暇無ぇんだよ」
「お、オレだって仕事があるんだけど!?」
「クビになるような?」
「いや、クビにはならないかな……」
「俺は提携を組んだ取引先へ出向する初日なもんでなぁ。取引先に初日から遅刻なんて遠慮してぇ」
「だったらオレを置いて行けばいいだろ! 朝から他人と鬼ごっこなんて遅刻の言い訳として最低だ!」
「でも今いい言い訳が出来たぜぇ? 道に迷っていたところでトラックに潰れそうになった若者を救出。うん。Mr.ラインヘルツもそれなら許してくださるだろぉ」
「迷子かよ! ……クラウスさん?」
「うん?」
聞き覚えのある名前に思わず聞き返す。不思議そうにレオを振り返って見返す彼の眼は綺麗な紫色で。
こんな状況だというのにやはり、まるで宝石の様だと思う。
その眼がレオを見返して細められたかと思うと、ニヤリと人の悪い微笑みを浮かべた。
「君はMr.ラインヘルツを知っているのかぁ?」
「え、いや、その……」
「ならちょうど良かったぁ。君のクビになってしまったであろう仕事の今日の給料分の御礼はするから、悪ぃけど彼の元へ案内してくれねぇかなぁ」
頼み方が斬新だ。しかもレオがクビになること前提で話している。
「クビになんねえよ!」
「いやぁ助かったぁ。こっちは能力の四割を奪われてちまっててなぁ。イェーガーの奴は初日で説明する前は炎を使うなとか言うしよぉ。でも探索能力無くなってるから道に迷っちまってなぁ。無くても平気だと思っていてもイザ無くなると不便を感じる……そう、まるで親のようにぃ!」
「知らねー! いい加減放せってば!」
「だから放すと君は逃げんだろぉ? 迷子を助けてやろうという慈悲が君には無ぇのかぁ?」
「いきなり追いかけてきた奴には無いね!」
「そっか。じゃあもういいよ。……頑張って生き延びなさい」
「えっ――ギャァアア!」
彼がレオを肩から降ろした途端、また宙から車が降ってくる。話に集中していて気付かなかったが、逃げてきた方向ではまだ車が空を乱舞していて、どうやら彼はオレを担いだままそれを避けつつ逃げていたらしい。
一台は何とか避けたが、すぐにまた次の車が降ってくるのに叫んだところでまた横から腕を引っ張られた。
「叫び声が煩せぇ。車だって宙を飛びてぇ時があるんだよ。例えそれが最後の瞬間になろうと」
「アンタは初日だって言ってたくせに慣れすぎだろ! しかも車の気持ちを代弁すんな! 助けてくれてありがとう!」
「お、ちゃんとお礼を言える奴は好ましいぜぇ」
ヘルサレムズ・ロット。その混沌と非日常と理解不能が入り交じる地で、レオは息を飲む様な光景を見た。
いつもと変わらない平凡とは言いがたい雑踏の途切れた瞬間。人混みの向こうで立ち止まり、霧に覆われた空を見上げるその人は一見人類の女性に思える。
血界の眷属のような赤色ではなく、けれども輝きではそれにも負けず劣らない朝と夜が混じる空のようなオーラを纏っていて、レオは思わず立ち止まってその人とその人からあふれでる光の輝きへ目を奪われた。まるで一枚の絵画から抜け出してきたような光景に息も止まりかける。
あまりにまじまじと見つめていたせいか、レオの視線へ気付いたようにその人が振り返り、目が合った。
遠目でも分かるほど綺麗な紫色の瞳。その人が立っているだけでその場所がHLでは無くなってしまった様な感覚さえ覚えて。
そうして脈絡もなく追いかけられている。
「なんで、なんでだよぉ!」
「待ちやがれぇええええ!」
最初こそ悪意の無い『待って!』というごく普通の呼び止めだったが、レオが逃げたせいかはたまた本性を現したのか、紫眼の人物は荒々しく叫びながら追いかけて来ていた。顔だけ見ていた時は髪も長いし女性だと思ったのだが、声からして男性だろう。
紫眼の人物に対して見つめていた以外に何かをした覚えはない。なのに彼はレオを追いかけてくる。
怖い。マジ怖い。
怖いといえば上司であるスティーブンも怖かった。今日はライブラへ客だか何だかが来るとかで遅刻厳禁と言われていたのだ。
こんな追いかけられている状態で何をと思うだろうが、知らない男へ追いかけられている現状とスティーブンの怒った顔とで言えば、怒られた経験のあるスティーブンの方が確実に怖さを分かっている分、どんな反省をさせられるか。
考えただけで背筋が凍る。
「遅刻したくねええええええ!」
「待てぇえええええええええええええ!」
後ろから追いかけてくる男は諦める様子が無い。いっその事このままライブラの事務所へまで行ってしまおうかと思ったところで、レオの進行方向を横切る形で市民達が逃げていく。
すり抜けていくことも出来ず思わず立ち止まったところで頭上が暗くなる。それが今までのHLでの生活では危険のフラグだということを思い出して、空を見上げれば頭が破裂した運転手がハンドルを握るトラック。
竦んだ足では逃げられず、叫ぶことも出来ないまま間抜けに大口を開けてそれが落ちてくるのを見つめることしか出来ずにいれば、不意に腰を締め付けられた。
「ぐぇっ」
横方向への重力が一瞬身体へ掛かり、消化し始めていただろう朝食が胃から逆流しかける。思わず手で口を押さえたところで、“背後でトラックが地面へ落下した”。
驚いて振り返ると炎上しだすトラック。市民の悲鳴とまだまだ宙を待っている多数の乗用車に、爆風に前髪を揺らされながらそれを確認しつつ、レオは至近距離で聞こえた声に息を呑んだ。
「初めてHLへ来たけれど、――破天荒な街だなぁ」
レオの腰へ腕を回して抱えているのは、先程まで追いかけてきていた紫眼の人物で。
「トラックが宙を走るってぇ場合は、道路交通法が適用するのか航空法が適用するのか、どう思うぅ?」
どうでもいい事を言いながら、紫眼の人物は軽々しくレオを肩へと担ぎ上げた。いい年した男なので正直その格好は遠慮したい。
「そ……それより放してください! 自分で走れる!」
「放したら君逃げるだろぉ? 俺も用事があるからそうそう追いかけっこなんてしてる暇無ぇんだよ」
「お、オレだって仕事があるんだけど!?」
「クビになるような?」
「いや、クビにはならないかな……」
「俺は提携を組んだ取引先へ出向する初日なもんでなぁ。取引先に初日から遅刻なんて遠慮してぇ」
「だったらオレを置いて行けばいいだろ! 朝から他人と鬼ごっこなんて遅刻の言い訳として最低だ!」
「でも今いい言い訳が出来たぜぇ? 道に迷っていたところでトラックに潰れそうになった若者を救出。うん。Mr.ラインヘルツもそれなら許してくださるだろぉ」
「迷子かよ! ……クラウスさん?」
「うん?」
聞き覚えのある名前に思わず聞き返す。不思議そうにレオを振り返って見返す彼の眼は綺麗な紫色で。
こんな状況だというのにやはり、まるで宝石の様だと思う。
その眼がレオを見返して細められたかと思うと、ニヤリと人の悪い微笑みを浮かべた。
「君はMr.ラインヘルツを知っているのかぁ?」
「え、いや、その……」
「ならちょうど良かったぁ。君のクビになってしまったであろう仕事の今日の給料分の御礼はするから、悪ぃけど彼の元へ案内してくれねぇかなぁ」
頼み方が斬新だ。しかもレオがクビになること前提で話している。
「クビになんねえよ!」
「いやぁ助かったぁ。こっちは能力の四割を奪われてちまっててなぁ。イェーガーの奴は初日で説明する前は炎を使うなとか言うしよぉ。でも探索能力無くなってるから道に迷っちまってなぁ。無くても平気だと思っていてもイザ無くなると不便を感じる……そう、まるで親のようにぃ!」
「知らねー! いい加減放せってば!」
「だから放すと君は逃げんだろぉ? 迷子を助けてやろうという慈悲が君には無ぇのかぁ?」
「いきなり追いかけてきた奴には無いね!」
「そっか。じゃあもういいよ。……頑張って生き延びなさい」
「えっ――ギャァアア!」
彼がレオを肩から降ろした途端、また宙から車が降ってくる。話に集中していて気付かなかったが、逃げてきた方向ではまだ車が空を乱舞していて、どうやら彼はオレを担いだままそれを避けつつ逃げていたらしい。
一台は何とか避けたが、すぐにまた次の車が降ってくるのに叫んだところでまた横から腕を引っ張られた。
「叫び声が煩せぇ。車だって宙を飛びてぇ時があるんだよ。例えそれが最後の瞬間になろうと」
「アンタは初日だって言ってたくせに慣れすぎだろ! しかも車の気持ちを代弁すんな! 助けてくれてありがとう!」
「お、ちゃんとお礼を言える奴は好ましいぜぇ」
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