原作前日常編
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夢主視点
使用人の男を尋問して船長と一緒に来たはずのシャチ達の場所を聞き出せば、屋敷の奥にある倉庫を改築した場所に居るらしい。
元々はワイン倉として使われていたらしいが、今は別のモノを『保存』しておく為の牢屋に変わっていると言う。その『別のモノ』にも当たりを付けて、シルビはその牢屋への行き方を聞き出してから使用人の男を気絶させた。
服を脱がせて破き、手足と猿轡をしてから使用人用の通路の脇へ押し隠しておく。堂々と放置しておくよりは発見が遅くなるだろう。
「“赤”ってことしか共通点無ぇっていうか、本気で女吸血鬼かよぉ」
聞き出した道のりを他の使用人に見つからないように進み、向き出しの石壁に囲まれた扉を開けると今まで以上の血の匂いが身体に纏わり付いた。扉の向こうの光景は見るも無残なもので、一歩踏み出すだけで靴底に酸化しても乾ききっていない血が絡みつく。
使われたばかりらしい猫足の湯船。その直ぐ上でぶら下がっているモノ。生暖かい空気が気持ち悪さを誘う。
滑って転んでは眼も当てられないので慎重に進み、湯船へ溜まっている液体とその液体の“出所”を確認した。まだ死後硬直も始まっていないそれに素手で触れるのは遠慮したかったが、ここには手袋も無いし例え死んでいるにしても降ろしてやった方がいい。
「身体を覆うものも無ぇのかよ……何か持ってくりゃ良かったなぁ」
ここへ来るまでの道のりを思い出しつつ呟き、立ち上がって奥の部屋へ続く質素な扉を開ければ、目の前に捕らえられていただろうクルー達がいた。
「――シャチ! 皆ぁ!」
牢屋からは脱出していたらしい皆がその声にシルビを見る。更には同じ様に捕まっていたのだろうこの島の住民達も牢屋から出て話し合っているようだった。
とりあえずシャチに近付いて怪我が無いかを確認する。
「お前ら怪我はぁ!? 全員身体に変なところがあるとかねぇかぁ!?」
「それよりペンギン! 血、血ぃ!」
「はぁ? ああ、これかぁ。大丈夫俺の血じゃねぇ」
「逆に怖えーよ!」
死体を降ろした時に付いたのだろう血が服を汚していた。洗っても落としきれないだろうから、きっとこの服はこの騒動が終結したらゴミ箱行きだ。
シャチ以外はシルビがどうしてそんな格好になっているのか察しているらしい。むしろ何故シャチは気付いていないのかと不思議に思ってクルーへ尋ねれば、シャチにはシルビが通ってきた部屋の有様を見せていないらしかった。
「……そっか。じゃあ最後までシャチには見せねぇ事にしよう」
「何を……?」
聞かれてもシルビは答えず、シャチから視線を捕まっていた少女達へ向ける。
「当然だけど俺達はここを脱出する。今なら外へまで一緒に連れて行けるけど、どうするぅ?」
「私たちも、外へ連れて行ってください」
代表のように答えたのはシャチとそう変わらない年頃の少女で、けれどもよく見れば彼女が最年長なのだと知れる。若い男もいるが彼らは気力がないというべきか。
彼女が最年長という事は、他にもいたはずの女性達は全員、既に『使われてしまった』のだろう。
「この先の部屋の出来事は……知ってます。でもだから尚更、私たちはここを出たいんです。家族の元へ帰りたいんです。お願いします」
知っているのか、とシルビは思ったものの、それも当然かと考え直す。ここへ来るには一本道で必ず先ほどの部屋を通らねばならない。それに使用済みの死体が一つしか無かった事を考えると、何処かを運んで始末している筈だ。
そしてそれはおそらく反対側へ通じる扉の先なのだろう事も床に残る何かを引き摺った跡から推測できる。
凄惨な光景を見せられて牢屋へ入れられ、知り合いが次々とその部屋へ連れて行かれ、目の前を変わり果てた姿で引き摺られていくのを、彼女達は何度見たのだろうか。その心中は察するに余りある。
「……ペンギン」
「分かってる。皆、屋敷の出口までのルートを説明するから一回で覚えろぉ。寄り道せずに外に出たら、船にいるバンダナさん達に知らせに行けぇ。俺は船長と合流しに行くから」
「船長も捕まってんの!?」
「さっき会ってきた。多分まだ無事だと思うけど、早く戻りてぇんだよ」
上手く手錠を外せていればいいのだが、と考えて鍵の在り処について何も話していなかった事を思い出す。思わず舌打ちするとシャチが肩をビクつかせた。
どうも自分もテンパっていたらしい。それもそうかと思うだけで今は済ませて、何も言わずとも周りに集まったクルー達に正面玄関までのルートを説明する。それぞれ武器はちゃんと持っているようなので、使用人達に見つかっても大丈夫なはずだ。
「シャチ、お前は絶対に外に出るまで目を開けんなよぉ。薄暗くて見えねぇかもだけど、無理に見るモンじゃねぇ」
「何の話だよ。そんなにオレが見ちゃいけないモンがあんの?」
「見て吐いても知らねぇって話だよ。お前はまだ見なくていい」
子ども扱いされていると不満そうなシャチに言い聞かせ、シルビは少女達へと向き直る。
「コニーの姉はいるかぁ?」
「……私です」
確かコニーは姉ちゃん『達』と言っていたはずだがと思いつつ尋ねれば、名乗り出てきたのは代表格の少女『だけ』だった。それだけでシルビは察する。
「コニーと会ったのですか? もしかしてあの子も」
「無事だよ。ここへも一緒に来て今は俺達の船長と一緒に居る。もう少しあの子を借りるぜぇ。絶対に無事な姿で帰すから、君も無事に外へ逃げてくれるかぁ?」
「……怪我させたら、許さないですから。お姉ちゃんも居なくなってたった一人の――」
少女の目の縁に溢れた涙を指で拭ってやった。涙と一緒に顔へ付いていた血も僅かに取れる。
「『約束』する。コニーはちゃんと君達の元へ無傷で返す」
「……ペンギン、こんな時に言うのもなんだけどタラシっぽい」
「えっ」
「うん、タラシタラシ」
使用人の男を尋問して船長と一緒に来たはずのシャチ達の場所を聞き出せば、屋敷の奥にある倉庫を改築した場所に居るらしい。
元々はワイン倉として使われていたらしいが、今は別のモノを『保存』しておく為の牢屋に変わっていると言う。その『別のモノ』にも当たりを付けて、シルビはその牢屋への行き方を聞き出してから使用人の男を気絶させた。
服を脱がせて破き、手足と猿轡をしてから使用人用の通路の脇へ押し隠しておく。堂々と放置しておくよりは発見が遅くなるだろう。
「“赤”ってことしか共通点無ぇっていうか、本気で女吸血鬼かよぉ」
聞き出した道のりを他の使用人に見つからないように進み、向き出しの石壁に囲まれた扉を開けると今まで以上の血の匂いが身体に纏わり付いた。扉の向こうの光景は見るも無残なもので、一歩踏み出すだけで靴底に酸化しても乾ききっていない血が絡みつく。
使われたばかりらしい猫足の湯船。その直ぐ上でぶら下がっているモノ。生暖かい空気が気持ち悪さを誘う。
滑って転んでは眼も当てられないので慎重に進み、湯船へ溜まっている液体とその液体の“出所”を確認した。まだ死後硬直も始まっていないそれに素手で触れるのは遠慮したかったが、ここには手袋も無いし例え死んでいるにしても降ろしてやった方がいい。
「身体を覆うものも無ぇのかよ……何か持ってくりゃ良かったなぁ」
ここへ来るまでの道のりを思い出しつつ呟き、立ち上がって奥の部屋へ続く質素な扉を開ければ、目の前に捕らえられていただろうクルー達がいた。
「――シャチ! 皆ぁ!」
牢屋からは脱出していたらしい皆がその声にシルビを見る。更には同じ様に捕まっていたのだろうこの島の住民達も牢屋から出て話し合っているようだった。
とりあえずシャチに近付いて怪我が無いかを確認する。
「お前ら怪我はぁ!? 全員身体に変なところがあるとかねぇかぁ!?」
「それよりペンギン! 血、血ぃ!」
「はぁ? ああ、これかぁ。大丈夫俺の血じゃねぇ」
「逆に怖えーよ!」
死体を降ろした時に付いたのだろう血が服を汚していた。洗っても落としきれないだろうから、きっとこの服はこの騒動が終結したらゴミ箱行きだ。
シャチ以外はシルビがどうしてそんな格好になっているのか察しているらしい。むしろ何故シャチは気付いていないのかと不思議に思ってクルーへ尋ねれば、シャチにはシルビが通ってきた部屋の有様を見せていないらしかった。
「……そっか。じゃあ最後までシャチには見せねぇ事にしよう」
「何を……?」
聞かれてもシルビは答えず、シャチから視線を捕まっていた少女達へ向ける。
「当然だけど俺達はここを脱出する。今なら外へまで一緒に連れて行けるけど、どうするぅ?」
「私たちも、外へ連れて行ってください」
代表のように答えたのはシャチとそう変わらない年頃の少女で、けれどもよく見れば彼女が最年長なのだと知れる。若い男もいるが彼らは気力がないというべきか。
彼女が最年長という事は、他にもいたはずの女性達は全員、既に『使われてしまった』のだろう。
「この先の部屋の出来事は……知ってます。でもだから尚更、私たちはここを出たいんです。家族の元へ帰りたいんです。お願いします」
知っているのか、とシルビは思ったものの、それも当然かと考え直す。ここへ来るには一本道で必ず先ほどの部屋を通らねばならない。それに使用済みの死体が一つしか無かった事を考えると、何処かを運んで始末している筈だ。
そしてそれはおそらく反対側へ通じる扉の先なのだろう事も床に残る何かを引き摺った跡から推測できる。
凄惨な光景を見せられて牢屋へ入れられ、知り合いが次々とその部屋へ連れて行かれ、目の前を変わり果てた姿で引き摺られていくのを、彼女達は何度見たのだろうか。その心中は察するに余りある。
「……ペンギン」
「分かってる。皆、屋敷の出口までのルートを説明するから一回で覚えろぉ。寄り道せずに外に出たら、船にいるバンダナさん達に知らせに行けぇ。俺は船長と合流しに行くから」
「船長も捕まってんの!?」
「さっき会ってきた。多分まだ無事だと思うけど、早く戻りてぇんだよ」
上手く手錠を外せていればいいのだが、と考えて鍵の在り処について何も話していなかった事を思い出す。思わず舌打ちするとシャチが肩をビクつかせた。
どうも自分もテンパっていたらしい。それもそうかと思うだけで今は済ませて、何も言わずとも周りに集まったクルー達に正面玄関までのルートを説明する。それぞれ武器はちゃんと持っているようなので、使用人達に見つかっても大丈夫なはずだ。
「シャチ、お前は絶対に外に出るまで目を開けんなよぉ。薄暗くて見えねぇかもだけど、無理に見るモンじゃねぇ」
「何の話だよ。そんなにオレが見ちゃいけないモンがあんの?」
「見て吐いても知らねぇって話だよ。お前はまだ見なくていい」
子ども扱いされていると不満そうなシャチに言い聞かせ、シルビは少女達へと向き直る。
「コニーの姉はいるかぁ?」
「……私です」
確かコニーは姉ちゃん『達』と言っていたはずだがと思いつつ尋ねれば、名乗り出てきたのは代表格の少女『だけ』だった。それだけでシルビは察する。
「コニーと会ったのですか? もしかしてあの子も」
「無事だよ。ここへも一緒に来て今は俺達の船長と一緒に居る。もう少しあの子を借りるぜぇ。絶対に無事な姿で帰すから、君も無事に外へ逃げてくれるかぁ?」
「……怪我させたら、許さないですから。お姉ちゃんも居なくなってたった一人の――」
少女の目の縁に溢れた涙を指で拭ってやった。涙と一緒に顔へ付いていた血も僅かに取れる。
「『約束』する。コニーはちゃんと君達の元へ無傷で返す」
「……ペンギン、こんな時に言うのもなんだけどタラシっぽい」
「えっ」
「うん、タラシタラシ」