原作前日常編
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夢主視点
「典型的な栄養不足ですね。一応薬一週間分です。とはいえただの栄養剤ですが」
「ウチにはお金ないから」
「本来なら栄養剤ではなく野菜や肉をちゃんと食べた方が良いでしょう。見たところ食糧事情が悪ぃという訳じゃねぇ様なので、今後は『病弱な振り』は化粧で誤魔化せばいいと思います」
「アンタそこまで分かるの?」
コニーを膝へ甘えさせてコニーの母親はマジマジとシルビを見る。咳き込んだのは驚いたのと、いきなり動いたので唾を飲み込んで噎せたせいだというのは流石に読めなかったが、彼女が『病弱』というのが嘘である事は一目見て分かった。
ある意味では確かに病弱だろうが、動けない訳でもなければ今現在において何かの病気を患っている訳でも無い。どちらかというとシルビの見解では『病弱なフリをしている』だけだ。
問題はそんな真似をしている理由で、シルビが隠し持っていたフリをして第八の炎で取ってきた薬茶を淹れて聞けば、コニーの母親はあっけらかんと教えてくれた。
「こうでもしなけりゃあの女領主を誤魔化せなかったのさ」
「誤魔化す?」
「あの女は前の領主様に嫁いで来てから、自分の美容に金や労力を掛ける様になってね。町にいた若い娘や少しでも美人だったと言われていた女は全員領主のお屋敷へ連れて行かれたんだよ」
「その辺はコニーから聞きました。コニーの姉も連れて行かれたとか」
「うん。娘達も連れて行かれて一度も帰ってこない。一体屋敷で何をやらされてるのかも分かったモンじゃないんだ。アタシは昔ヤケドをしたもんだから連れて行かれなかったけどね、いっそ娘と一緒に連れて行ってもらいたかったよ」
顔の半分に巻かれた包帯の下はヤケドらしい。女性の顔に火傷の痕だとはと思うがそれはさておき。
島の女性を屋敷へ連れて行ってしまう女領主という図に疑問符が浮かぶ。これが男であったなら愛人か慰みものかと女性を集める理由も簡単に分からなくも無いが、ここの領主は女性だ。
しかも元は美容に力を入れる者だったらしい。嫉妬心からの監禁だとしても、それだけで掛かる資金や労力を考えれば愚かな事だと考えざるを得なかった。
監禁する意図も読めない。それだったら集めた女性達で娼館でも作って商売をした方が、集めた女性達の尊厳も奪えるし金だって儲けられる。
コニーの母親が知らないだけでそうしているのだろうかと、やはり忍び込んでの調査をしたほうがいいと考えたところで、コニーの母親が溜息と一緒に言った。
「最近じゃ若い男まで集めて連れて行くからね。ほんと何がしたいのか分からないよ。働き手が居なくなって町も困るってのに」
「……ちょっと待ったぁ」
コニーの母親が不思議そうにシルビを見たが、それを無視してシルビは今持っている情報と古い知識で仮説を組み立てる。
血の匂い。連れて行かれた若い女性達。若くなくても美人は連れて行かれたらしい。淫奔であるのなら若い女性を集める必要は無いだろう。男共だけ集めれば事は済む。仮に同性愛者であったなら異性をも集めるのはおかしい。
では『どちらも』何かに使うつもりで集めたのであったなら。
女領主は美容に執着しているらしい。そんな存在の話を、シルビは心当たりがあった。
「……“血の伯爵夫人”?」
「何だって?」
「エリザベートかぁ!」
思わず立ち上がると母親の隣で眠そうにしていたコニーが飛び起きる。子供には遅い時間で申し訳ないと思いつつ、こうしてはいられないと気付いた。
ここではない世界の話だが、かつて『血の伯爵夫人』と呼ばれた女性がいる。彼女は偶々手に付いた侍女の血を拭い去った下の肌が、綺麗になっているように見えたことから若い女性を犠牲にして、その血を貯めた風呂へ入るなどして永遠の美貌を手に入れようとした。
その他にも残虐行為を行なっているが、それは割愛する。街全体にまで匂ってしまう血の匂いはその残虐行為を行なっている屋敷が近いのと、この世界の建築技術による密封が不完全ゆえだろう。
若い男を集めるようになったのは、下世話な話だが性交による女性ホルモンの分泌を求めてか。そこまで本当の『伯爵夫人』へ似ずとも良いのにと思った。
もしこの仮説が正しいとなったら、連れて行かれたという女性達は今頃どうなっているか。
それだけではなく、今現在屋敷へ招待されている船長達の事を思い出して血の気が引いた。彼等も『若い男』だ。
「……失礼。急ぐ用事が出来たので失礼します」
「ちょっと待った」
女領主のいる屋敷へ向かおうとするとコニーの母親へ呼び止められた。正直そうしている暇も無くなったのだが、彼女は気にした様子も無い。
「領主のトコに行くんだね? コニーも連れていくといいよ」
「子供の夜更かしも危険も推奨出来ねぇです」
「アンタ海賊の癖にマジメだね。コニーはあの屋敷に忍び込むのに良いルートを知ってんのさ。危険は承知だし、この子だってあの女をどうにかしなけりゃいつかは連れて行かれる身なんだ」
剛毅な女性だと思うべきか、コニーは母親の言葉に既に行く気でいる。
「姉ちゃんたちを助けに行くの?」
期待を込めた視線を向けられても、彼女達の家族が無事だという確証はないというのに。
溜息を吐いてコニーを手招き、其の身体を腕に抱える。
「一つ約束しろぉ。俺が目を瞑れって言ったら、絶対に良いって言うまで目を開けねぇこと。誰の声……俺以外の知ってる声がしてもだぁ」
約束出来るかとコニーを見れば、コニーは一度母親を見てから頷いた。
「典型的な栄養不足ですね。一応薬一週間分です。とはいえただの栄養剤ですが」
「ウチにはお金ないから」
「本来なら栄養剤ではなく野菜や肉をちゃんと食べた方が良いでしょう。見たところ食糧事情が悪ぃという訳じゃねぇ様なので、今後は『病弱な振り』は化粧で誤魔化せばいいと思います」
「アンタそこまで分かるの?」
コニーを膝へ甘えさせてコニーの母親はマジマジとシルビを見る。咳き込んだのは驚いたのと、いきなり動いたので唾を飲み込んで噎せたせいだというのは流石に読めなかったが、彼女が『病弱』というのが嘘である事は一目見て分かった。
ある意味では確かに病弱だろうが、動けない訳でもなければ今現在において何かの病気を患っている訳でも無い。どちらかというとシルビの見解では『病弱なフリをしている』だけだ。
問題はそんな真似をしている理由で、シルビが隠し持っていたフリをして第八の炎で取ってきた薬茶を淹れて聞けば、コニーの母親はあっけらかんと教えてくれた。
「こうでもしなけりゃあの女領主を誤魔化せなかったのさ」
「誤魔化す?」
「あの女は前の領主様に嫁いで来てから、自分の美容に金や労力を掛ける様になってね。町にいた若い娘や少しでも美人だったと言われていた女は全員領主のお屋敷へ連れて行かれたんだよ」
「その辺はコニーから聞きました。コニーの姉も連れて行かれたとか」
「うん。娘達も連れて行かれて一度も帰ってこない。一体屋敷で何をやらされてるのかも分かったモンじゃないんだ。アタシは昔ヤケドをしたもんだから連れて行かれなかったけどね、いっそ娘と一緒に連れて行ってもらいたかったよ」
顔の半分に巻かれた包帯の下はヤケドらしい。女性の顔に火傷の痕だとはと思うがそれはさておき。
島の女性を屋敷へ連れて行ってしまう女領主という図に疑問符が浮かぶ。これが男であったなら愛人か慰みものかと女性を集める理由も簡単に分からなくも無いが、ここの領主は女性だ。
しかも元は美容に力を入れる者だったらしい。嫉妬心からの監禁だとしても、それだけで掛かる資金や労力を考えれば愚かな事だと考えざるを得なかった。
監禁する意図も読めない。それだったら集めた女性達で娼館でも作って商売をした方が、集めた女性達の尊厳も奪えるし金だって儲けられる。
コニーの母親が知らないだけでそうしているのだろうかと、やはり忍び込んでの調査をしたほうがいいと考えたところで、コニーの母親が溜息と一緒に言った。
「最近じゃ若い男まで集めて連れて行くからね。ほんと何がしたいのか分からないよ。働き手が居なくなって町も困るってのに」
「……ちょっと待ったぁ」
コニーの母親が不思議そうにシルビを見たが、それを無視してシルビは今持っている情報と古い知識で仮説を組み立てる。
血の匂い。連れて行かれた若い女性達。若くなくても美人は連れて行かれたらしい。淫奔であるのなら若い女性を集める必要は無いだろう。男共だけ集めれば事は済む。仮に同性愛者であったなら異性をも集めるのはおかしい。
では『どちらも』何かに使うつもりで集めたのであったなら。
女領主は美容に執着しているらしい。そんな存在の話を、シルビは心当たりがあった。
「……“血の伯爵夫人”?」
「何だって?」
「エリザベートかぁ!」
思わず立ち上がると母親の隣で眠そうにしていたコニーが飛び起きる。子供には遅い時間で申し訳ないと思いつつ、こうしてはいられないと気付いた。
ここではない世界の話だが、かつて『血の伯爵夫人』と呼ばれた女性がいる。彼女は偶々手に付いた侍女の血を拭い去った下の肌が、綺麗になっているように見えたことから若い女性を犠牲にして、その血を貯めた風呂へ入るなどして永遠の美貌を手に入れようとした。
その他にも残虐行為を行なっているが、それは割愛する。街全体にまで匂ってしまう血の匂いはその残虐行為を行なっている屋敷が近いのと、この世界の建築技術による密封が不完全ゆえだろう。
若い男を集めるようになったのは、下世話な話だが性交による女性ホルモンの分泌を求めてか。そこまで本当の『伯爵夫人』へ似ずとも良いのにと思った。
もしこの仮説が正しいとなったら、連れて行かれたという女性達は今頃どうなっているか。
それだけではなく、今現在屋敷へ招待されている船長達の事を思い出して血の気が引いた。彼等も『若い男』だ。
「……失礼。急ぐ用事が出来たので失礼します」
「ちょっと待った」
女領主のいる屋敷へ向かおうとするとコニーの母親へ呼び止められた。正直そうしている暇も無くなったのだが、彼女は気にした様子も無い。
「領主のトコに行くんだね? コニーも連れていくといいよ」
「子供の夜更かしも危険も推奨出来ねぇです」
「アンタ海賊の癖にマジメだね。コニーはあの屋敷に忍び込むのに良いルートを知ってんのさ。危険は承知だし、この子だってあの女をどうにかしなけりゃいつかは連れて行かれる身なんだ」
剛毅な女性だと思うべきか、コニーは母親の言葉に既に行く気でいる。
「姉ちゃんたちを助けに行くの?」
期待を込めた視線を向けられても、彼女達の家族が無事だという確証はないというのに。
溜息を吐いてコニーを手招き、其の身体を腕に抱える。
「一つ約束しろぉ。俺が目を瞑れって言ったら、絶対に良いって言うまで目を開けねぇこと。誰の声……俺以外の知ってる声がしてもだぁ」
約束出来るかとコニーを見れば、コニーは一度母親を見てから頷いた。