原作前日常編
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夢主視点
ドアがノックされて殆ど直後に開かれる。一体ノックの意味はあるのだろうかと振り返れば、散策から帰ってきたらしい船長が部屋の中を見回してからシルビを見た。説明を求めているのだろうが、シルビだって話を聞いている途中だったので肩だけ竦めておく。
「えっと……」
「この人は無視していい。それでぇ?」
「母さんが、『密航してお前だけでも逃げなさい』って」
「お母さん無謀だろ!?」
「おいペンギン、このガキはなんだ」
「この島の子供ですよ。名前はコニーです」
船へ忍び込もうとして失敗した子供は、ベポの隣でシルビが出したココアを飲んでいる。味方でもなんでもない相手の出した物をそんな簡単に口にするなと言いたかったが、シルビは別にコニーをどうこうしようと思ったわけではないので自白剤さえ仕込んではいない。
時々仕込んでいるのかと聞かれたら黙秘するが。
話を聞けばコニーは盗みに入ったのではなく、病弱な母の願いで密航しようとしたらしい。島を出られるのなら商船でも海賊でも何でも良かったというのだから、この親子に目をつけられたハートが不運なのか。
島から逃げようとした理由も聞いたが、それより先に船長の話を聞くかと振り向けば、船長が後ろ手にドアを閉めたところだった。
「何かあったんですか」
「この島の領主に食事の誘いを受けた」
「あの魔女に話しかけられたのか!?」
「魔女?」
「姉ちゃん達を連れ去った魔女だ! アンタ行かない方がいいよ!」
「どうでもいいけどそこ俺のベッドだから。ココア零すなよぉ」
騒ぐコニーを無視して船長の話を促せば、船長もコニーを無視する。今コニーが座っているのはシルビのベッドなので本気でココアを零さないで欲しかった。一応礼儀は分かっている様なので、注意すれば自分の持っているカップを並んで座っていたワカメへ渡して机の上に置いてもらっている。
行動が突拍子無いのは子供特有の行動だとして、それ以外は至って普通の子だ。
「領主なのに海賊を食事へ誘ったんですか?」
「ああ。海軍は好きじゃないとは言ってたな」
「行くつもりでぇ?」
「お前も連れて行こうと思ってたんだが、行くか?」
怪しい場所へ同行させようとしている、というのは分かった。船長がその誘いを充分に怪しいものだと分かっている事も。
シルビとしてもついて行ったほうが何かあった時船長を守りやすいと思うのだが、コニーの話を聞いた後の今では、一緒には行かない方がいい気がしていた。
領主の屋敷へは行きたいのだが、領主の招待という形では行きたくない。
「……まぁ、何かあったら直ぐに駆けつけようと思います」
数時間後、船長がクルー数名を連れて領主の館へ行くのを見送ってから暫く。ハートの制服と化しているツナギを脱いで私服に着替えたシルビは、コニーを連れて船を降りた。
私服に着替えたのは領主の館へ侵入するからで、コニーはその途中で家へと送り届けるつもりである。ついでにコニーの母親へ話が聞けたら幸運だが、そう上手くいける気はしなかった。
夜になっても港町は血の匂いがしている。むしろ昼間より濃くなっているようなその匂いはしかし、この島の住民であるせいかコニーはもうあまり意識していないようだった。
静まり返った大通りは人の気配どころか開いている店が一軒しかない。それもハートのクルーが停泊しているからわざわざ開けているといった様子で、それ以外の店は閉店どころか家の明かりを漏らさまいとするかのように締め切っている。少しばかり異様な雰囲気に違和感を覚えるものの、その原因は一つしか予想できなかった。
何せ海賊を好んで招待するような領主だ。海賊へ対し理解があるという程度ではなく、いくら海軍が嫌いでも食事に招くというのはおかしい。他の目的があると判断すべきだ。
その目的に関しては様々な可能性が上げられるが、一つは食事に毒を盛り込んでの賞金首捕獲。町の静か過ぎる様子は、万が一海賊が暴れだした時の為の対策だと考えればおかしくはない。
他にも夜にだけ町を何か危険な動物が徘徊するとか、そういう事だって考えられる。だがそれでは納得の出来ない事が一つ。
コニーがいった『魔女』という言葉だ。
町全体での海賊捕獲作戦だとすれば、その言葉は計画に乗ってくれるような住民の子供がいうにはおかしい。どちらかというと『魔女』という言い方は、侮蔑や嫌悪からのものだ。
コニーが子供だから、というだけではない何かが、この島にはある。そしてシルビはそれを知っておきたい。
夜道をコニーの案内で向かった家は、やはり他の家と同じ様に窓を雨戸で塞いで外へ明かりを漏らさないようにした、路地の奥にひっそりと建っている家だった。
「母さん、母さん開けて!」
「……コニー?」
家の中で音がしたと思うとドアが開かれ、痩せた女性が姿を見せる。顔の半分に包帯を巻いて隠しており、見えている部分も青白く栄養が足りていない。
そんな彼女の視線がコニーからシルビへ向けられたかと思うと、ドアを全開にして何かを振り下ろされた。
思わず避ければシルビの立っていた地面へ、火掻き棒の先端がめり込んでいる。
「……ごほっ、ごほっ!」
火掻き棒にすがるようにしゃがみこんでしまった母親に、病弱なのか勇敢なのかよく分からなくなってしまった。
ドアがノックされて殆ど直後に開かれる。一体ノックの意味はあるのだろうかと振り返れば、散策から帰ってきたらしい船長が部屋の中を見回してからシルビを見た。説明を求めているのだろうが、シルビだって話を聞いている途中だったので肩だけ竦めておく。
「えっと……」
「この人は無視していい。それでぇ?」
「母さんが、『密航してお前だけでも逃げなさい』って」
「お母さん無謀だろ!?」
「おいペンギン、このガキはなんだ」
「この島の子供ですよ。名前はコニーです」
船へ忍び込もうとして失敗した子供は、ベポの隣でシルビが出したココアを飲んでいる。味方でもなんでもない相手の出した物をそんな簡単に口にするなと言いたかったが、シルビは別にコニーをどうこうしようと思ったわけではないので自白剤さえ仕込んではいない。
時々仕込んでいるのかと聞かれたら黙秘するが。
話を聞けばコニーは盗みに入ったのではなく、病弱な母の願いで密航しようとしたらしい。島を出られるのなら商船でも海賊でも何でも良かったというのだから、この親子に目をつけられたハートが不運なのか。
島から逃げようとした理由も聞いたが、それより先に船長の話を聞くかと振り向けば、船長が後ろ手にドアを閉めたところだった。
「何かあったんですか」
「この島の領主に食事の誘いを受けた」
「あの魔女に話しかけられたのか!?」
「魔女?」
「姉ちゃん達を連れ去った魔女だ! アンタ行かない方がいいよ!」
「どうでもいいけどそこ俺のベッドだから。ココア零すなよぉ」
騒ぐコニーを無視して船長の話を促せば、船長もコニーを無視する。今コニーが座っているのはシルビのベッドなので本気でココアを零さないで欲しかった。一応礼儀は分かっている様なので、注意すれば自分の持っているカップを並んで座っていたワカメへ渡して机の上に置いてもらっている。
行動が突拍子無いのは子供特有の行動だとして、それ以外は至って普通の子だ。
「領主なのに海賊を食事へ誘ったんですか?」
「ああ。海軍は好きじゃないとは言ってたな」
「行くつもりでぇ?」
「お前も連れて行こうと思ってたんだが、行くか?」
怪しい場所へ同行させようとしている、というのは分かった。船長がその誘いを充分に怪しいものだと分かっている事も。
シルビとしてもついて行ったほうが何かあった時船長を守りやすいと思うのだが、コニーの話を聞いた後の今では、一緒には行かない方がいい気がしていた。
領主の屋敷へは行きたいのだが、領主の招待という形では行きたくない。
「……まぁ、何かあったら直ぐに駆けつけようと思います」
数時間後、船長がクルー数名を連れて領主の館へ行くのを見送ってから暫く。ハートの制服と化しているツナギを脱いで私服に着替えたシルビは、コニーを連れて船を降りた。
私服に着替えたのは領主の館へ侵入するからで、コニーはその途中で家へと送り届けるつもりである。ついでにコニーの母親へ話が聞けたら幸運だが、そう上手くいける気はしなかった。
夜になっても港町は血の匂いがしている。むしろ昼間より濃くなっているようなその匂いはしかし、この島の住民であるせいかコニーはもうあまり意識していないようだった。
静まり返った大通りは人の気配どころか開いている店が一軒しかない。それもハートのクルーが停泊しているからわざわざ開けているといった様子で、それ以外の店は閉店どころか家の明かりを漏らさまいとするかのように締め切っている。少しばかり異様な雰囲気に違和感を覚えるものの、その原因は一つしか予想できなかった。
何せ海賊を好んで招待するような領主だ。海賊へ対し理解があるという程度ではなく、いくら海軍が嫌いでも食事に招くというのはおかしい。他の目的があると判断すべきだ。
その目的に関しては様々な可能性が上げられるが、一つは食事に毒を盛り込んでの賞金首捕獲。町の静か過ぎる様子は、万が一海賊が暴れだした時の為の対策だと考えればおかしくはない。
他にも夜にだけ町を何か危険な動物が徘徊するとか、そういう事だって考えられる。だがそれでは納得の出来ない事が一つ。
コニーがいった『魔女』という言葉だ。
町全体での海賊捕獲作戦だとすれば、その言葉は計画に乗ってくれるような住民の子供がいうにはおかしい。どちらかというと『魔女』という言い方は、侮蔑や嫌悪からのものだ。
コニーが子供だから、というだけではない何かが、この島にはある。そしてシルビはそれを知っておきたい。
夜道をコニーの案内で向かった家は、やはり他の家と同じ様に窓を雨戸で塞いで外へ明かりを漏らさないようにした、路地の奥にひっそりと建っている家だった。
「母さん、母さん開けて!」
「……コニー?」
家の中で音がしたと思うとドアが開かれ、痩せた女性が姿を見せる。顔の半分に包帯を巻いて隠しており、見えている部分も青白く栄養が足りていない。
そんな彼女の視線がコニーからシルビへ向けられたかと思うと、ドアを全開にして何かを振り下ろされた。
思わず避ければシルビの立っていた地面へ、火掻き棒の先端がめり込んでいる。
「……ごほっ、ごほっ!」
火掻き棒にすがるようにしゃがみこんでしまった母親に、病弱なのか勇敢なのかよく分からなくなってしまった。