原作前日常編
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夢主視点
「……バッカじゃねぇのぉ!?」
隣の建物から見えないようにしゃがんだシルビの、煙を吐く銃口にまだ胸が激しい鼓動を刻んでいる。何故投げられた大斧を避けるという選択肢を選ばないんだと、今の上司である船長に怒鳴りつけたい気分だった。
シルビが銃で斧を横から撃って落下の勢いを殺さなければ、今頃顔が真っ二つで済んだかどうか。思わず大経口サイズの弾を何発も撃ってしまったが、冷静に考えれば一発でも充分だったかもしれない。
こんな状態ではシルビがいなかったらどうするつもりなのか。頭を抱えたくなるのはシルビが『他の船長』を知っているからかもしれない。
シルビの知っている『海賊』は、宇宙という別の海を往く者だったが、その考えはこの世界の海賊だって変わらない筈だ。船員を大事にし、船の事には責任を持つ。
本来なら船長がやるのだろう仕事をシルビがしているからか。そう思ってしまう程には、ローは自由すぎた。
熱が引いて煙も出なくなった銃を降ろしてシルビはもう一度隣の建物の様子を窺う。撃って割れた窓から見える位置にはローの姿は無い。ついでに言えば他にも乱闘していた筈のクルー達が居なくなっているので、見えない部屋へ賞金首を追い詰めたのだろう。
この後の結末を予想し、これ以上ここに居る必要も無いなと立ち上がる。銃をホルスターへ戻して建物から飛び降りて宿の正面へ向かい、少し考えてから宿の中へと侵入した。
乱闘の痕跡が新しい酒場部分を進み、階段一番下の段へ転がっていた大斧を拾い上げる。流石にモップより思いそれを肩へ担ぎ、シルビは船へ戻る道を進む。
港の人気が少ない場所へ大斧を隠し、船へと上がれば甲板でバンダナが煙草を吸っていた。
「おう、おかえ……何て格好だい?」
「あ、やべ……まぁいいやぁ。帽子返してください」
変装していた事を忘れていたが、とりあえず先に帽子を返してもらう。髪ゴムを外して髪をまとめて帽子の中へ押し込んで被る。
「もう少ししたら船長達帰ってくると思うんで、俺はもう一回降りますね」
「門限守れば文句は無いさ。ああでも、ベポが寂しがってるよ」
「アイスをお土産に買ってきます」
もう一度船を降り、変装前に着ていたツナギを取りに行って着替えた。これでもう普段の『ペンギン』に戻ったので、今度は海兵にハートのクルーだと見つからないようにしなければならない。
屋台でホット珈琲を買い、隠しておいた大斧を担いで人気のない浜へ向かう。
珈琲を飲み終わる前に“来る”かも、そもそも“来る”のかも分からなかったが、とりあえずは待つつもりだった。
斧を浜へ突き立てて背もたれにして座っていると、砂を踏む音が一人分近付いてくる。
ゆっくり飲んでいたせいで無くなりはしなかったものの、完全に冷めてしまった珈琲の紙コップを差し出すと、受け取ったローが飲んで顔をしかめていた。
「ちょっと相談に乗ってください」
「なんだ」
「俺は貴方を過信してるし甘やかしてるかも知れねぇ」
長刀を肩へ立てかけるように抱えたローが隣へ腰を降ろす。
「いや別に過信してるのはいいんです。その内その過信へ見合う実力をつけてくれると信じてるとそれもまた過信ですけどしてますから。問題は甘やかしてるほうですよねぇ」
「……甘やかされてる気はしねえな」
「叱り付けたばかりですしね。そうじゃなくて、貴方の実力に見合った行動をちゃんとさせているのかって言う不安が……」
「お前はオレの保護者か」
呆れ交じりの声にシルビも思わず笑ってしまう。流石に年上の保護者にはなりたくない。
でもシルビが一人で出来た事がローは出来ないとか、シルビがいなかったら危なかったであろう局面があったりすると、肝が冷えてしまうのも確かだ。ならばそういう場面がなくなるくらいローを強くするのがいいのか、それともそういう場面に直面させないようにするのがいいのかも分からない。
欲しがる本を結局は与えて面倒な仕事をやらせず、簡単な事と好きなことだけをやらせているシルビは、『副船長』としてどうなのか。
「どうでもいいが、オレはまだこの島の本屋に行ってない」
「……結構真面目な話をしてた気がするんですが」
欠伸を噛み殺しつつ言われてローを見れば、さもシルビがウダウダしているだけだという視線を寄越される。その通りなのだが釈然としない。
シルビが知っている『船長』はもっと――。
「オレ達にとっては当たり前だが、面白い話を教えてやる」
「『オレ達』?」
「船長ってのはな、一人じゃ何も出来やしねえ人種だ」
シルビが知っている『船長』はもっと、何でも出来るようなイメージだった。
「船に乗ってるだけじゃ駄目だ。慕ってくれてる馬鹿が居るだけでも駄目だ。その両方があって、自分が『完璧じゃない』と知らねえと、船長じゃない」
船はある。クルーも居た。完璧かどうかは、初対面の時から分かっている。
何も言えないでいるシルビをどう思ったのか、どうだとばかりにふんぞり返っているローへ砂をぶっ掛けてやろうかと思った。けれども多分言っていることは正しいのだ。
船がないと船乗りじゃない。クルーが居ないと団じゃない。完璧だったらそれらはいらない。
「……斧を避けねぇ貴方を見たとき、肝が冷えました」
「オレはあまり驚かなかったな」
「いやいや能力発動しておいて動けなかった人が何言って」
「怪我してもお前らがいる。というかやっぱりお前か」
「ぐ……」
あの窮地を救った犯人と知られて押し黙るとローが笑う。
発展途上だ成長途中だと思っていたが、いつのまにか随分と『船長』らしくなったものだ。この調子でシルビに怒られるような事がなくなればいいのにと思うものの、船長という人種である限りシルビは彼を叱る羽目になるのだろう。
船長がそんな人種だなんて知らなかった。『ジャック』も『キング』もこうじゃなかったから。
「これからもせいぜい肝を冷やせ」
「……ムカつくぅ」
「“信頼”してんだ」
「白々しい」
「このオレに信頼されてる事を誇りに思えよ。オレはお前たちがいねえと何も出来ねえんだぜ」
「……もう一声」
「お前がオレの船で『副船長』やってるから、安心して好き勝手出来るんだ」
なるほどローの『面白い話』通りなら、それはきっと素晴らしい事だ。
相好を崩して俯けば、被っていた防寒帽を取られた。髪がバサリと落ちるのに顔を上げるとローの帽子が被される。マジマジとそんなシルビを眺めていたローが思わずといった様に口角を上げた。
「相変わらず女顔だな。帽子一つでそのまま女に見える」
「女顔を馬鹿にされるのが嫌いだって分かってて言ってますね?」
「仕返しだ」
「やっぱり甘やかしすぎな気がします」
「わざわざ来てやったのにその言い草かよ」
「来なかったら好感度下がるだけですしぃ」
帽子はそのままに立ち上がって砂浜に突き刺していた大斧を蹴り倒す。続いて立ち上がったローがシルビの防寒帽を長刀の柄へ掛けて回していた。それを取り返して被る。
ローの帽子を差し出せばローはニヤニヤと笑いながら自分の頭へ乗せた。
結構大事にしているらしいその帽子を、ローはそうやって何かを試すように被せてくる時がある。シルビだけなのか他のクルーへもそうしているのかは分からないが、ローなりの何かの『確認』なのだろう。
例えば、そのクルーがまだ付いてきてくれるか、とか。
「ベポが船で寂しがってるんで、アイスを買って帰ろうかと思うんですけど」
「ラムレーズン」
「俺はレモンソルベかなぁ。臨時収入も入りましたし、本屋にも寄って帰りましょうか」
「三千万ベリーだから予算超えた本の代金を抜いても余るだろ」
「いえ、俺も稼いできたんで五千八百万ベリーですねぇ」
「は?」
「船長だけ働かせてられねぇですからねぇ。俺『副船長』だしぃ」
「今更言うのもなんだが、やっぱりお前は甘やかしてるかもな」
「……バッカじゃねぇのぉ!?」
隣の建物から見えないようにしゃがんだシルビの、煙を吐く銃口にまだ胸が激しい鼓動を刻んでいる。何故投げられた大斧を避けるという選択肢を選ばないんだと、今の上司である船長に怒鳴りつけたい気分だった。
シルビが銃で斧を横から撃って落下の勢いを殺さなければ、今頃顔が真っ二つで済んだかどうか。思わず大経口サイズの弾を何発も撃ってしまったが、冷静に考えれば一発でも充分だったかもしれない。
こんな状態ではシルビがいなかったらどうするつもりなのか。頭を抱えたくなるのはシルビが『他の船長』を知っているからかもしれない。
シルビの知っている『海賊』は、宇宙という別の海を往く者だったが、その考えはこの世界の海賊だって変わらない筈だ。船員を大事にし、船の事には責任を持つ。
本来なら船長がやるのだろう仕事をシルビがしているからか。そう思ってしまう程には、ローは自由すぎた。
熱が引いて煙も出なくなった銃を降ろしてシルビはもう一度隣の建物の様子を窺う。撃って割れた窓から見える位置にはローの姿は無い。ついでに言えば他にも乱闘していた筈のクルー達が居なくなっているので、見えない部屋へ賞金首を追い詰めたのだろう。
この後の結末を予想し、これ以上ここに居る必要も無いなと立ち上がる。銃をホルスターへ戻して建物から飛び降りて宿の正面へ向かい、少し考えてから宿の中へと侵入した。
乱闘の痕跡が新しい酒場部分を進み、階段一番下の段へ転がっていた大斧を拾い上げる。流石にモップより思いそれを肩へ担ぎ、シルビは船へ戻る道を進む。
港の人気が少ない場所へ大斧を隠し、船へと上がれば甲板でバンダナが煙草を吸っていた。
「おう、おかえ……何て格好だい?」
「あ、やべ……まぁいいやぁ。帽子返してください」
変装していた事を忘れていたが、とりあえず先に帽子を返してもらう。髪ゴムを外して髪をまとめて帽子の中へ押し込んで被る。
「もう少ししたら船長達帰ってくると思うんで、俺はもう一回降りますね」
「門限守れば文句は無いさ。ああでも、ベポが寂しがってるよ」
「アイスをお土産に買ってきます」
もう一度船を降り、変装前に着ていたツナギを取りに行って着替えた。これでもう普段の『ペンギン』に戻ったので、今度は海兵にハートのクルーだと見つからないようにしなければならない。
屋台でホット珈琲を買い、隠しておいた大斧を担いで人気のない浜へ向かう。
珈琲を飲み終わる前に“来る”かも、そもそも“来る”のかも分からなかったが、とりあえずは待つつもりだった。
斧を浜へ突き立てて背もたれにして座っていると、砂を踏む音が一人分近付いてくる。
ゆっくり飲んでいたせいで無くなりはしなかったものの、完全に冷めてしまった珈琲の紙コップを差し出すと、受け取ったローが飲んで顔をしかめていた。
「ちょっと相談に乗ってください」
「なんだ」
「俺は貴方を過信してるし甘やかしてるかも知れねぇ」
長刀を肩へ立てかけるように抱えたローが隣へ腰を降ろす。
「いや別に過信してるのはいいんです。その内その過信へ見合う実力をつけてくれると信じてるとそれもまた過信ですけどしてますから。問題は甘やかしてるほうですよねぇ」
「……甘やかされてる気はしねえな」
「叱り付けたばかりですしね。そうじゃなくて、貴方の実力に見合った行動をちゃんとさせているのかって言う不安が……」
「お前はオレの保護者か」
呆れ交じりの声にシルビも思わず笑ってしまう。流石に年上の保護者にはなりたくない。
でもシルビが一人で出来た事がローは出来ないとか、シルビがいなかったら危なかったであろう局面があったりすると、肝が冷えてしまうのも確かだ。ならばそういう場面がなくなるくらいローを強くするのがいいのか、それともそういう場面に直面させないようにするのがいいのかも分からない。
欲しがる本を結局は与えて面倒な仕事をやらせず、簡単な事と好きなことだけをやらせているシルビは、『副船長』としてどうなのか。
「どうでもいいが、オレはまだこの島の本屋に行ってない」
「……結構真面目な話をしてた気がするんですが」
欠伸を噛み殺しつつ言われてローを見れば、さもシルビがウダウダしているだけだという視線を寄越される。その通りなのだが釈然としない。
シルビが知っている『船長』はもっと――。
「オレ達にとっては当たり前だが、面白い話を教えてやる」
「『オレ達』?」
「船長ってのはな、一人じゃ何も出来やしねえ人種だ」
シルビが知っている『船長』はもっと、何でも出来るようなイメージだった。
「船に乗ってるだけじゃ駄目だ。慕ってくれてる馬鹿が居るだけでも駄目だ。その両方があって、自分が『完璧じゃない』と知らねえと、船長じゃない」
船はある。クルーも居た。完璧かどうかは、初対面の時から分かっている。
何も言えないでいるシルビをどう思ったのか、どうだとばかりにふんぞり返っているローへ砂をぶっ掛けてやろうかと思った。けれども多分言っていることは正しいのだ。
船がないと船乗りじゃない。クルーが居ないと団じゃない。完璧だったらそれらはいらない。
「……斧を避けねぇ貴方を見たとき、肝が冷えました」
「オレはあまり驚かなかったな」
「いやいや能力発動しておいて動けなかった人が何言って」
「怪我してもお前らがいる。というかやっぱりお前か」
「ぐ……」
あの窮地を救った犯人と知られて押し黙るとローが笑う。
発展途上だ成長途中だと思っていたが、いつのまにか随分と『船長』らしくなったものだ。この調子でシルビに怒られるような事がなくなればいいのにと思うものの、船長という人種である限りシルビは彼を叱る羽目になるのだろう。
船長がそんな人種だなんて知らなかった。『ジャック』も『キング』もこうじゃなかったから。
「これからもせいぜい肝を冷やせ」
「……ムカつくぅ」
「“信頼”してんだ」
「白々しい」
「このオレに信頼されてる事を誇りに思えよ。オレはお前たちがいねえと何も出来ねえんだぜ」
「……もう一声」
「お前がオレの船で『副船長』やってるから、安心して好き勝手出来るんだ」
なるほどローの『面白い話』通りなら、それはきっと素晴らしい事だ。
相好を崩して俯けば、被っていた防寒帽を取られた。髪がバサリと落ちるのに顔を上げるとローの帽子が被される。マジマジとそんなシルビを眺めていたローが思わずといった様に口角を上げた。
「相変わらず女顔だな。帽子一つでそのまま女に見える」
「女顔を馬鹿にされるのが嫌いだって分かってて言ってますね?」
「仕返しだ」
「やっぱり甘やかしすぎな気がします」
「わざわざ来てやったのにその言い草かよ」
「来なかったら好感度下がるだけですしぃ」
帽子はそのままに立ち上がって砂浜に突き刺していた大斧を蹴り倒す。続いて立ち上がったローがシルビの防寒帽を長刀の柄へ掛けて回していた。それを取り返して被る。
ローの帽子を差し出せばローはニヤニヤと笑いながら自分の頭へ乗せた。
結構大事にしているらしいその帽子を、ローはそうやって何かを試すように被せてくる時がある。シルビだけなのか他のクルーへもそうしているのかは分からないが、ローなりの何かの『確認』なのだろう。
例えば、そのクルーがまだ付いてきてくれるか、とか。
「ベポが船で寂しがってるんで、アイスを買って帰ろうかと思うんですけど」
「ラムレーズン」
「俺はレモンソルベかなぁ。臨時収入も入りましたし、本屋にも寄って帰りましょうか」
「三千万ベリーだから予算超えた本の代金を抜いても余るだろ」
「いえ、俺も稼いできたんで五千八百万ベリーですねぇ」
「は?」
「船長だけ働かせてられねぇですからねぇ。俺『副船長』だしぃ」
「今更言うのもなんだが、やっぱりお前は甘やかしてるかもな」