原作前日常編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
「賞金を手に入れるまでこの島で本を買ったら怒りますから」
「はっ、怒ってどうするんだ?」
「とりあえず貴方の食事は三食梅干尽くしになるでしょうねぇ」
帳簿と胃袋を押さえた相手には逆らわないのが賢明である。停泊した船から降りていく船長と、その手伝いをするというクルー達を見送って、シルビも船を降りる支度をしに自室へと戻った。
現在この島には賞金首が二人いる。それは『×××』を使って確定しているので間違いは無い。実をいうと潜伏場所なども分かっているので、シルビなら片方なんて言わず二人とも夕方までに捕まえて賞金と引き換えてもらってくる事も可能だ。
そしてこれから、それをやろうと思っている。
薬品庫も兼ねている自室でハートの制服と化しているツナギを脱ぎ、私服になって部屋を出るとバンダナとかち合った。バンダナは夕方まで船番として居残り組だったが、確か料理番に煙草の買い足しを頼んでいたのを聞いている。
「ペンちゃんも行くのかい? じゃあペンちゃんに煙草頼めば良かったね」
「ああいえ、ちょっと用事があるので頼まれても断ってたかも知れねぇです」
「用事?」
眉を潜めるバンダナに苦笑を漏らした。
「大丈夫ですよ。別に海軍へ情報のリークとかじゃねぇですから」
「ペンちゃんに関してそんな心配はしちゃいないけど、……危ない事はするんじゃないよ」
「分かってます」
「船長を叱ったばかりで今度はペンちゃんが叱られても、オレは助けないからね」
そう言ってすれ違い様に、シルビの防寒帽を奪って去っていく。帽子に入れていた髪がバサリと落ちるのにポケットから髪ゴムを取り出して縛った。
シルビの素顔は船長から『晒すな』と言われているから、船長が帰ってくる前に戻ってきてバンダナから帽子を回収しろという、バンダナなりの心配だと思うことにする。
ただバンダナ以外にも船にはクルーが残っていて、それらに顔を見られない様こっそりと船を降りるのに骨が折れた。やっと港へと降り立ち急いで船から遠ざかってから、そういえば『第八の炎』で移動してしまえば一瞬だったと気付いて落ち込んだことは内緒である。
船長が狙う予定ではないほうの手配書を取り出して眺めた。二千八百万ベリーの、小規模海賊団の船長だが、シルビの敵でもなければ手慰みにもならない。
「とりあえず、変装かなぁ」
賞金首を狙って出掛けた船長達以外にも、町中を徘徊しているだろうハートのクルーはいる。買出しの料理番や自由時間のクルー達だ。
それ等に気付かれないよう、まずは変装しなければならない。
「ありがとうございましたっ」
服屋の店員の興奮気味な声を背中に頂き、シルビは試着してそのまま買った服を軽く摘む。
普段のシルビのイメージからは離れたというか、離れ過ぎたというか、安定の女物である。きっと先の店員の興奮は『コイツ女物買ってるよ』という変態扱いのそれだろう。
だが変装となると性別の印象を変えてしまうのが一番手っ取り早い。完璧に女と見られるのは、今回は流石に嫌なので出来るだけ中性的な格好をしてはいる。
一見女性だが、男でもこんな格好の奴はいるだろうと言える程度だ。
船長やクルー達に見つかって笑い者にされなければいいが、船長とバンダナ以外はシルビの素顔を知らないので姿だけなら見られても平気かも知れなかった。
それはそれで嫌だなと今度は鍛冶屋へ向かい、廃品同様のカトラスを購入し腰に提げる。これである程度は『駆け出しの賞金稼ぎ』っぽくなっただろう。こういう時だけ若く見える女顔で本当に良かったと思えた。
町を目的の賞金首がいるほうへ向かってのんびりと歩く。途中でアイス屋を見つけたので、帰りにベポへの土産にしようと考えていると、横道から走ってきた人影にぶつかった。
「あっ、ゴメン! 大丈夫?」
慌てた様子でぶつかってきたワカメが謝ってくるので、大丈夫だという意味を込めて微笑み首を振れば、高い位置で結わえていた髪が揺れる。
「そう……? あ! ゴメンね急いでるんだ!」
そう言って走り去っていくワカメは確か、船長と一緒に賞金首の捕縛に行った筈だから、今は情報収集でもしているのか。一応走ってきた方向に船長のターゲットがいたと思うのだが、移動しているのかまでは定かではない。
いつもであればペンギンが情報収集を命じられて集めている。今回だって聞いてくれば教えるつもりだったが、聞いてこなかったので黙っていただけだ。
情報収集の面倒臭さもついでに思い知ればいい。
「……と、方向性が変わってんなぁ」
無駄遣いした罰に他の恨みまで篭ってしまっている。それを反省しつつ歩き出す。
暫く進んだ先で狭い路地に入り、薄暗さの増した表通りとは一線を画する店が並ぶ一角に出た。この島はどうしてそうなったのか町の両端に後ろ暗い者達御用達の店がある。
おそらく権力者が二人いて派閥が出来ているとかそういう事なのだろうが、何も知らない島の外から来た者には不便極まりない気もした。とはいえこういう場所は一見様お断りである可能性が高い。それを考えればむしろ最初からどちらの派閥へ組みするか分かるのでいいのか。
派閥争いや組織に組み込まれる事を好まないシルビでは、その辺は分かりかねた。身近な代表例が強大なマフィアだったというのもあるだろうが。
ともあれ裏路地に佇む酒場の扉を押し開けて入っていけば、掃除をしていた酒場のマスターが胡乱な顔をして手を止める。
『場違いな若造が来た』と思っていそうなその表情を無視し、上の階へ至る階段を見上げた。そのまま階段を上がろうとすれば流石に見過ごす訳にも行かないのかモップを持ったまま近付いてくる。
「おい小むすめっ!?」
残念だが小娘ではない。
掴んで外へ放り出す為か伸ばされた手を逆にシルビから先に掴み、軽く捻りながら手前へへと引いた。いきなりの事でバランスを崩したマスターの顔が驚きに変わり、何か音を立てられる前にその鳩尾へ膝を叩き込む。悶絶したマスターの身体をそっと床へ転がし、シルビはマスターが持っていたモップを肩に担いで階段へ足を掛ける。
賞金首を捕まえる前に、いい武器を手に入れたものだ。
階段を上がっている途中で二階の一室から誰かが出てくる。まだシルビへ気付いてはいないが放置していれば当然気付く筈だ。本来は倒す前に前に敵かどうかを調べるべきなのだろうが、どうせこんな裏でこっそり商売している店にいる者など、シルビも含めて碌なものではないと判断し、階段を駆け上がってモップを突き出す。上手く鳩尾へ入ったモップの先端に男が変な声を上げたが、その男が床へ倒れる前にモップを引いて、シルビという襲撃者に対応しようと動き出す者達を一瞥した。
開けられた部屋の中で、何かの取引を行なっていたらしい。シルビが狙う賞金首もその部屋へいた。
「こんにちはぁ。賞金稼ぎでぇすぅ」
せいぜい気持ち悪げに宣言してモップを構える。狭い室内では長物なんて不利でしかないが、せっかく手に入れたのだし使いたい。
モップのブラシ部分を突き出して二人ほど進行方向からどかし、遠慮なく部屋へ入っていく。
「ふん! オレを二千八百万ベリーと知っての蛮勇か!」
「いやいや、アンタ俺より全然低ぃからなぁ?」
どうせ知る訳の無い『昔』の手配書の額を思い出して言えば、賞金首は更に激昂する。だがしかし本当に低い。現段階でまだ新参者に分類できるローよりも低いのだから、大したことの無い相手である。
だが二千万もあれば医学書は買えるのだ。ついでに言えば新しい医療機器も買えなくはない。
「まぁ、大人しく海軍へ連れて行かれてくれるなら、死ぬより辛れぇ目には合わせねぇことにしてやるぜぇ?」
「それでハイそうですかと従う奴がいるか!」
「それもそうだなぁ。……じゃあ、死ぬ寸前の激痛を味わうって事でぇ」
「賞金を手に入れるまでこの島で本を買ったら怒りますから」
「はっ、怒ってどうするんだ?」
「とりあえず貴方の食事は三食梅干尽くしになるでしょうねぇ」
帳簿と胃袋を押さえた相手には逆らわないのが賢明である。停泊した船から降りていく船長と、その手伝いをするというクルー達を見送って、シルビも船を降りる支度をしに自室へと戻った。
現在この島には賞金首が二人いる。それは『×××』を使って確定しているので間違いは無い。実をいうと潜伏場所なども分かっているので、シルビなら片方なんて言わず二人とも夕方までに捕まえて賞金と引き換えてもらってくる事も可能だ。
そしてこれから、それをやろうと思っている。
薬品庫も兼ねている自室でハートの制服と化しているツナギを脱ぎ、私服になって部屋を出るとバンダナとかち合った。バンダナは夕方まで船番として居残り組だったが、確か料理番に煙草の買い足しを頼んでいたのを聞いている。
「ペンちゃんも行くのかい? じゃあペンちゃんに煙草頼めば良かったね」
「ああいえ、ちょっと用事があるので頼まれても断ってたかも知れねぇです」
「用事?」
眉を潜めるバンダナに苦笑を漏らした。
「大丈夫ですよ。別に海軍へ情報のリークとかじゃねぇですから」
「ペンちゃんに関してそんな心配はしちゃいないけど、……危ない事はするんじゃないよ」
「分かってます」
「船長を叱ったばかりで今度はペンちゃんが叱られても、オレは助けないからね」
そう言ってすれ違い様に、シルビの防寒帽を奪って去っていく。帽子に入れていた髪がバサリと落ちるのにポケットから髪ゴムを取り出して縛った。
シルビの素顔は船長から『晒すな』と言われているから、船長が帰ってくる前に戻ってきてバンダナから帽子を回収しろという、バンダナなりの心配だと思うことにする。
ただバンダナ以外にも船にはクルーが残っていて、それらに顔を見られない様こっそりと船を降りるのに骨が折れた。やっと港へと降り立ち急いで船から遠ざかってから、そういえば『第八の炎』で移動してしまえば一瞬だったと気付いて落ち込んだことは内緒である。
船長が狙う予定ではないほうの手配書を取り出して眺めた。二千八百万ベリーの、小規模海賊団の船長だが、シルビの敵でもなければ手慰みにもならない。
「とりあえず、変装かなぁ」
賞金首を狙って出掛けた船長達以外にも、町中を徘徊しているだろうハートのクルーはいる。買出しの料理番や自由時間のクルー達だ。
それ等に気付かれないよう、まずは変装しなければならない。
「ありがとうございましたっ」
服屋の店員の興奮気味な声を背中に頂き、シルビは試着してそのまま買った服を軽く摘む。
普段のシルビのイメージからは離れたというか、離れ過ぎたというか、安定の女物である。きっと先の店員の興奮は『コイツ女物買ってるよ』という変態扱いのそれだろう。
だが変装となると性別の印象を変えてしまうのが一番手っ取り早い。完璧に女と見られるのは、今回は流石に嫌なので出来るだけ中性的な格好をしてはいる。
一見女性だが、男でもこんな格好の奴はいるだろうと言える程度だ。
船長やクルー達に見つかって笑い者にされなければいいが、船長とバンダナ以外はシルビの素顔を知らないので姿だけなら見られても平気かも知れなかった。
それはそれで嫌だなと今度は鍛冶屋へ向かい、廃品同様のカトラスを購入し腰に提げる。これである程度は『駆け出しの賞金稼ぎ』っぽくなっただろう。こういう時だけ若く見える女顔で本当に良かったと思えた。
町を目的の賞金首がいるほうへ向かってのんびりと歩く。途中でアイス屋を見つけたので、帰りにベポへの土産にしようと考えていると、横道から走ってきた人影にぶつかった。
「あっ、ゴメン! 大丈夫?」
慌てた様子でぶつかってきたワカメが謝ってくるので、大丈夫だという意味を込めて微笑み首を振れば、高い位置で結わえていた髪が揺れる。
「そう……? あ! ゴメンね急いでるんだ!」
そう言って走り去っていくワカメは確か、船長と一緒に賞金首の捕縛に行った筈だから、今は情報収集でもしているのか。一応走ってきた方向に船長のターゲットがいたと思うのだが、移動しているのかまでは定かではない。
いつもであればペンギンが情報収集を命じられて集めている。今回だって聞いてくれば教えるつもりだったが、聞いてこなかったので黙っていただけだ。
情報収集の面倒臭さもついでに思い知ればいい。
「……と、方向性が変わってんなぁ」
無駄遣いした罰に他の恨みまで篭ってしまっている。それを反省しつつ歩き出す。
暫く進んだ先で狭い路地に入り、薄暗さの増した表通りとは一線を画する店が並ぶ一角に出た。この島はどうしてそうなったのか町の両端に後ろ暗い者達御用達の店がある。
おそらく権力者が二人いて派閥が出来ているとかそういう事なのだろうが、何も知らない島の外から来た者には不便極まりない気もした。とはいえこういう場所は一見様お断りである可能性が高い。それを考えればむしろ最初からどちらの派閥へ組みするか分かるのでいいのか。
派閥争いや組織に組み込まれる事を好まないシルビでは、その辺は分かりかねた。身近な代表例が強大なマフィアだったというのもあるだろうが。
ともあれ裏路地に佇む酒場の扉を押し開けて入っていけば、掃除をしていた酒場のマスターが胡乱な顔をして手を止める。
『場違いな若造が来た』と思っていそうなその表情を無視し、上の階へ至る階段を見上げた。そのまま階段を上がろうとすれば流石に見過ごす訳にも行かないのかモップを持ったまま近付いてくる。
「おい小むすめっ!?」
残念だが小娘ではない。
掴んで外へ放り出す為か伸ばされた手を逆にシルビから先に掴み、軽く捻りながら手前へへと引いた。いきなりの事でバランスを崩したマスターの顔が驚きに変わり、何か音を立てられる前にその鳩尾へ膝を叩き込む。悶絶したマスターの身体をそっと床へ転がし、シルビはマスターが持っていたモップを肩に担いで階段へ足を掛ける。
賞金首を捕まえる前に、いい武器を手に入れたものだ。
階段を上がっている途中で二階の一室から誰かが出てくる。まだシルビへ気付いてはいないが放置していれば当然気付く筈だ。本来は倒す前に前に敵かどうかを調べるべきなのだろうが、どうせこんな裏でこっそり商売している店にいる者など、シルビも含めて碌なものではないと判断し、階段を駆け上がってモップを突き出す。上手く鳩尾へ入ったモップの先端に男が変な声を上げたが、その男が床へ倒れる前にモップを引いて、シルビという襲撃者に対応しようと動き出す者達を一瞥した。
開けられた部屋の中で、何かの取引を行なっていたらしい。シルビが狙う賞金首もその部屋へいた。
「こんにちはぁ。賞金稼ぎでぇすぅ」
せいぜい気持ち悪げに宣言してモップを構える。狭い室内では長物なんて不利でしかないが、せっかく手に入れたのだし使いたい。
モップのブラシ部分を突き出して二人ほど進行方向からどかし、遠慮なく部屋へ入っていく。
「ふん! オレを二千八百万ベリーと知っての蛮勇か!」
「いやいや、アンタ俺より全然低ぃからなぁ?」
どうせ知る訳の無い『昔』の手配書の額を思い出して言えば、賞金首は更に激昂する。だがしかし本当に低い。現段階でまだ新参者に分類できるローよりも低いのだから、大したことの無い相手である。
だが二千万もあれば医学書は買えるのだ。ついでに言えば新しい医療機器も買えなくはない。
「まぁ、大人しく海軍へ連れて行かれてくれるなら、死ぬより辛れぇ目には合わせねぇことにしてやるぜぇ?」
「それでハイそうですかと従う奴がいるか!」
「それもそうだなぁ。……じゃあ、死ぬ寸前の激痛を味わうって事でぇ」