原作前日常編
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夢主視点
「『死の外科医』も大した事無いな! おれの価値も見出せないただの愚図の集まりだ!」
クルーにはしないと聞いた男の捨て台詞はそんな、最後まで自分以外を下に見るものだった。それに憤るクルーが追いかけて懲らしめようとするのを制して、船長は予想外の乗客の分として消耗した備蓄の補充を命じる。
不満そうなクルーも船長の命令ならと不満そうながらも船へと戻っていき、最後に残ったシルビが船長を見れば、男が去っていった方向を見つめていた。
「……んな怖ぇ顔してるとベポが怯えますよ」
「馬鹿言うな。ベポの前でこんな顔してられる訳ねえだろ」
「貴方のそういうところは、非常に高く評価したくなりますねぇ」
腕を組んでニヤニヤと言えば、船長がムッとした顔でシルビを振り返る。褒めているのに機嫌を悪くされるのは心外だ。恐らく先の会話でベポ馬鹿と評したとでも思っているのだろうが。
そうではなく、『クルーを貶されて怒っている』船長を評価したつもりである。四日前にもシルビはともかくベポとシャチを貶し、たった今クルー全員を愚図の集まりだと吐き捨てていった男へ対し、静かに怒っているのだから。
やはり船長は、自分の船と船員へ対してこうではなくては。
「大丈夫です。ああいう見聞が狭くて自分の知ってることだけが全てで、見栄っ張りでプライドが高けぇ奴ってのは、もし自分が『船に乗せてもらえなかった』という屈辱を他人に知られたらって、噂を広める事も出来ねぇんですから」
恨みがましくハートに対する根拠の無い悪い噂を流そうとしたくても、その噂を聞いた誰かから『何でそんなに詳しいのか』と尋ねられた時、男はきっと言葉に窮するだろう。昨日の通路で話した時に感じた事だが、彼はあまり誰かに言い返されることに慣れていない。
ひたすら下に見ている相手を見下しつつ貶すことは出来るが、下に見ている相手が言い返してくることを想像すら出来ないのだ。そして彼にとって『下に見ている相手』というのは正しく格下の相手ではない。自分が嫌いだったり都合が悪かったりする相手を見下して否定しているだけなのだ。
「そうだな。あんなゴミに気を割く必要もねえな」
「そうですか」
踵を返して船へ戻る船長を見送り、シルビは船長が、シルビが付いて来ていない事に気付く前に『男が去った方向』へ歩き出した。
揚げ足を取らせてもらうと、船長は『船へ戻れ』と命令していない。更に言うならシルビは自身の懐へ入れたり好感を持っていたりする相手には、どうも全力を尽くすタイプだと言われる。
シルビは自身が貶されるのも暴言吐かれるのも別に構わない。あえて周囲からそう認識して侮蔑されていた事だってある位には、そういう悪意に対して憤るほど軽い性格をしていなかった。
けれども昔から、大切な人や知り合いが悲しんだり憤ったりする事が苦手だ。それをどうにかする為になら、反則的な『×××』の力を使って猫を生き返らせたり、自身の足を引き千切ったりも出来た。今は流石に色々『してはいけない』約束があるのでしないが。
しかし心持ちは殆ど変わっておらず、友人や知人の為にならシルビはいつだってこの身を差し出せる。
おそらくこの先も直らないのだろうこの『悪癖』は、シルビが『何だって出来る』理由の一つだ。
「だからさぁ、いい感じに教育出来てきてる上に情が移ってきてるローとか、ハートの皆を貶されんのは俺としては許せねぇんだよなぁ」
たまたま見つけて拾った、野良犬の頭蓋骨を弄びながら一人ごちる。
「元々テメェの狭ぇ了見に世界を当て嵌めようとすんのも正直気に入らなかったし、その了見を盲信して何も見ようとしねぇ奴も嫌いなんだよ。まぁ、君は俺に嫌われても特に思うことは無ぇんだろうけどなぁ」
下顎と上顎を開閉させて遊んでいると、古い骨だったせいか下顎が外れて落ちた。地面の手にぶつかって衝撃が殺されたらしく砕けたりはしない。
「だから分かりやすく一つだけ。――ウチの船長とクルーを貶すなら死を覚悟してもらおうかぁ」
返事は無かった。それも当然なのでシルビは立ち上がり持っていた野良犬の骨を投げ捨てて踵を返す。
全く、『野犬に襲われて野垂れ死ぬ』なんてこの大航海時代には滑稽すぎて哀れな死因だ。遺体に残る損傷痕は犬の噛み跡しかない。例え襲うのに使ったそれが死んだ野良犬の骨だろうと、遺体に噛み跡しか残っていなければ他の外傷死因を疑いようが無いだろう。
死んだ犬は噛みつかないから当然生きている野良犬に襲われたことになる。誰も人の手で殺されたとは思わない。
船へ戻る前に店へ寄って、お菓子の材料と香料を買って帰る。船ではいなくなったシルビを探していたらしく、何処へ行ってたんだと怒られてしまった。
「降って湧いた休暇の最後に、もう一回お菓子作ろうと思ってなぁ。材料買いに行ってたんだぁ」
「え、お菓子!? オレも食べたい! この前イルカがスゲー自慢してきたんだぜ」
シャチがシルビの不在を不安がっていたのも忘れて元気を出す。思わず頭を撫でて一緒に食堂へ行けば、船長がベポを膝へ乗せて遊んでいた。
「船長何が食べてぇですか? 今なら何でも作りますよ」
「……甘やかさないんじゃなかったのか?」
「嫌ですねぇ。『貴方の為にならなんでもする』とも言ったでしょう?」
「……芋羊羹」
「了解、船長」
「『死の外科医』も大した事無いな! おれの価値も見出せないただの愚図の集まりだ!」
クルーにはしないと聞いた男の捨て台詞はそんな、最後まで自分以外を下に見るものだった。それに憤るクルーが追いかけて懲らしめようとするのを制して、船長は予想外の乗客の分として消耗した備蓄の補充を命じる。
不満そうなクルーも船長の命令ならと不満そうながらも船へと戻っていき、最後に残ったシルビが船長を見れば、男が去っていった方向を見つめていた。
「……んな怖ぇ顔してるとベポが怯えますよ」
「馬鹿言うな。ベポの前でこんな顔してられる訳ねえだろ」
「貴方のそういうところは、非常に高く評価したくなりますねぇ」
腕を組んでニヤニヤと言えば、船長がムッとした顔でシルビを振り返る。褒めているのに機嫌を悪くされるのは心外だ。恐らく先の会話でベポ馬鹿と評したとでも思っているのだろうが。
そうではなく、『クルーを貶されて怒っている』船長を評価したつもりである。四日前にもシルビはともかくベポとシャチを貶し、たった今クルー全員を愚図の集まりだと吐き捨てていった男へ対し、静かに怒っているのだから。
やはり船長は、自分の船と船員へ対してこうではなくては。
「大丈夫です。ああいう見聞が狭くて自分の知ってることだけが全てで、見栄っ張りでプライドが高けぇ奴ってのは、もし自分が『船に乗せてもらえなかった』という屈辱を他人に知られたらって、噂を広める事も出来ねぇんですから」
恨みがましくハートに対する根拠の無い悪い噂を流そうとしたくても、その噂を聞いた誰かから『何でそんなに詳しいのか』と尋ねられた時、男はきっと言葉に窮するだろう。昨日の通路で話した時に感じた事だが、彼はあまり誰かに言い返されることに慣れていない。
ひたすら下に見ている相手を見下しつつ貶すことは出来るが、下に見ている相手が言い返してくることを想像すら出来ないのだ。そして彼にとって『下に見ている相手』というのは正しく格下の相手ではない。自分が嫌いだったり都合が悪かったりする相手を見下して否定しているだけなのだ。
「そうだな。あんなゴミに気を割く必要もねえな」
「そうですか」
踵を返して船へ戻る船長を見送り、シルビは船長が、シルビが付いて来ていない事に気付く前に『男が去った方向』へ歩き出した。
揚げ足を取らせてもらうと、船長は『船へ戻れ』と命令していない。更に言うならシルビは自身の懐へ入れたり好感を持っていたりする相手には、どうも全力を尽くすタイプだと言われる。
シルビは自身が貶されるのも暴言吐かれるのも別に構わない。あえて周囲からそう認識して侮蔑されていた事だってある位には、そういう悪意に対して憤るほど軽い性格をしていなかった。
けれども昔から、大切な人や知り合いが悲しんだり憤ったりする事が苦手だ。それをどうにかする為になら、反則的な『×××』の力を使って猫を生き返らせたり、自身の足を引き千切ったりも出来た。今は流石に色々『してはいけない』約束があるのでしないが。
しかし心持ちは殆ど変わっておらず、友人や知人の為にならシルビはいつだってこの身を差し出せる。
おそらくこの先も直らないのだろうこの『悪癖』は、シルビが『何だって出来る』理由の一つだ。
「だからさぁ、いい感じに教育出来てきてる上に情が移ってきてるローとか、ハートの皆を貶されんのは俺としては許せねぇんだよなぁ」
たまたま見つけて拾った、野良犬の頭蓋骨を弄びながら一人ごちる。
「元々テメェの狭ぇ了見に世界を当て嵌めようとすんのも正直気に入らなかったし、その了見を盲信して何も見ようとしねぇ奴も嫌いなんだよ。まぁ、君は俺に嫌われても特に思うことは無ぇんだろうけどなぁ」
下顎と上顎を開閉させて遊んでいると、古い骨だったせいか下顎が外れて落ちた。地面の手にぶつかって衝撃が殺されたらしく砕けたりはしない。
「だから分かりやすく一つだけ。――ウチの船長とクルーを貶すなら死を覚悟してもらおうかぁ」
返事は無かった。それも当然なのでシルビは立ち上がり持っていた野良犬の骨を投げ捨てて踵を返す。
全く、『野犬に襲われて野垂れ死ぬ』なんてこの大航海時代には滑稽すぎて哀れな死因だ。遺体に残る損傷痕は犬の噛み跡しかない。例え襲うのに使ったそれが死んだ野良犬の骨だろうと、遺体に噛み跡しか残っていなければ他の外傷死因を疑いようが無いだろう。
死んだ犬は噛みつかないから当然生きている野良犬に襲われたことになる。誰も人の手で殺されたとは思わない。
船へ戻る前に店へ寄って、お菓子の材料と香料を買って帰る。船ではいなくなったシルビを探していたらしく、何処へ行ってたんだと怒られてしまった。
「降って湧いた休暇の最後に、もう一回お菓子作ろうと思ってなぁ。材料買いに行ってたんだぁ」
「え、お菓子!? オレも食べたい! この前イルカがスゲー自慢してきたんだぜ」
シャチがシルビの不在を不安がっていたのも忘れて元気を出す。思わず頭を撫でて一緒に食堂へ行けば、船長がベポを膝へ乗せて遊んでいた。
「船長何が食べてぇですか? 今なら何でも作りますよ」
「……甘やかさないんじゃなかったのか?」
「嫌ですねぇ。『貴方の為にならなんでもする』とも言ったでしょう?」
「……芋羊羹」
「了解、船長」