原作前日常編
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ロー視点
ドアを三回ノックする特徴的な音に入っていいと返すと、案の定ペンギンが入ってくる。その手にはローが食べたいと言ったからか、二人分のシフォンケーキと珈琲の乗ったお盆。ローとしては昼食を作れという意味で言ったのだが、言ったタイミングが悪かったようだ。
「一応言っておくとバンダナさんとイルカに食われたのでお代わりはありません」
「イルカは初めてだろ。お前の料理を食うの」
「イルカが食べるって知ってたら違う味にしたんですけどねぇ」
「……梅干し入れてねえだろうな」
「シフォンに梅は合わねぇでしょう。あ、梅昆布茶?」
ペンギンはすぐに嫌いな食べ物を食わせようと色々してくるので油断ならない。今回は証言通りごく普通のシフォンケーキだった。それでも嫌いなパンに近い料理なので作った相手がペンギンでなかったらローは食べなかっただろうが。
机が無いからか勝手に寝台脇の床へ腰を降ろし、自分の分のシフォンケーキへ手を付けるペンギンに、昨日ケンカを売ってきたクルー希望の事を思い出す。
今は何をしているか知らないが、定期的に報告を寄越すようには言ってある。しかし来る報告はその男の手際の悪さと仕事が滞るという愚痴ばかりだ。誰もが悪意の篭る報告内容なのは、やはり昨日クルーを貶したからだろう。
あれにはローだって怒っている。公正さを感じさせるように何も言わないが、出来る事なら今すぐ解して海へ捨てたっていい。だが手際が悪いだけで目立つ失敗はしていないものだから、手を出せずにいた。
「どう思う」
「もう少しふんわりと――」
「シフォンケーキの出来じゃねえ。あの男のことだ」
「『井の中の蛙大海を知らず』」
振り返ればペンギンは別段何かを思っている様子も無く、珈琲を飲みながら手近にあった本を引き寄せタイトルを読んでいる。
「正直嫌いなタイプですが、あれは若さからくる思い上がりなのでまだ教育可能と言えるでしょう。ただその教育を受ける機会が無けりゃそう遠くなく身を滅ぼすんでしょうねぇ」
「他人事だな。教育してやるとでも言うかと思った」
「それが貴方の『命令』なら」
何があっても『船長命令』には絶対に従う副船長は、そう言ってローを見上げおかしそうに笑った。本当に、クルーにしようがしまいがどうでもいい相手なのだろう。ただクルーにするのなら教育するぞと冗談を言っているだけ。
溜息を吐いてシフォンケーキの最後の一口を口に入れる。最近は料理なんてしていなかった筈なのに、相変わらず美味い。
「オレがどうするつもりか、もう分かってんだろ」
「これでも貴方から『副船長』を頼まれた訳ですからねぇ。そうであるうちは貴方の為に何だってしてあげますよ」
断言したペンギンが立ち上がってローの空になった皿とカップを回収する。
「ああでも、それは決して『甘やかすだけ』ではねぇことをお忘れなくぅ?」
「いい性格してるよ。副船長」
ドアを三回ノックする特徴的な音に入っていいと返すと、案の定ペンギンが入ってくる。その手にはローが食べたいと言ったからか、二人分のシフォンケーキと珈琲の乗ったお盆。ローとしては昼食を作れという意味で言ったのだが、言ったタイミングが悪かったようだ。
「一応言っておくとバンダナさんとイルカに食われたのでお代わりはありません」
「イルカは初めてだろ。お前の料理を食うの」
「イルカが食べるって知ってたら違う味にしたんですけどねぇ」
「……梅干し入れてねえだろうな」
「シフォンに梅は合わねぇでしょう。あ、梅昆布茶?」
ペンギンはすぐに嫌いな食べ物を食わせようと色々してくるので油断ならない。今回は証言通りごく普通のシフォンケーキだった。それでも嫌いなパンに近い料理なので作った相手がペンギンでなかったらローは食べなかっただろうが。
机が無いからか勝手に寝台脇の床へ腰を降ろし、自分の分のシフォンケーキへ手を付けるペンギンに、昨日ケンカを売ってきたクルー希望の事を思い出す。
今は何をしているか知らないが、定期的に報告を寄越すようには言ってある。しかし来る報告はその男の手際の悪さと仕事が滞るという愚痴ばかりだ。誰もが悪意の篭る報告内容なのは、やはり昨日クルーを貶したからだろう。
あれにはローだって怒っている。公正さを感じさせるように何も言わないが、出来る事なら今すぐ解して海へ捨てたっていい。だが手際が悪いだけで目立つ失敗はしていないものだから、手を出せずにいた。
「どう思う」
「もう少しふんわりと――」
「シフォンケーキの出来じゃねえ。あの男のことだ」
「『井の中の蛙大海を知らず』」
振り返ればペンギンは別段何かを思っている様子も無く、珈琲を飲みながら手近にあった本を引き寄せタイトルを読んでいる。
「正直嫌いなタイプですが、あれは若さからくる思い上がりなのでまだ教育可能と言えるでしょう。ただその教育を受ける機会が無けりゃそう遠くなく身を滅ぼすんでしょうねぇ」
「他人事だな。教育してやるとでも言うかと思った」
「それが貴方の『命令』なら」
何があっても『船長命令』には絶対に従う副船長は、そう言ってローを見上げおかしそうに笑った。本当に、クルーにしようがしまいがどうでもいい相手なのだろう。ただクルーにするのなら教育するぞと冗談を言っているだけ。
溜息を吐いてシフォンケーキの最後の一口を口に入れる。最近は料理なんてしていなかった筈なのに、相変わらず美味い。
「オレがどうするつもりか、もう分かってんだろ」
「これでも貴方から『副船長』を頼まれた訳ですからねぇ。そうであるうちは貴方の為に何だってしてあげますよ」
断言したペンギンが立ち上がってローの空になった皿とカップを回収する。
「ああでも、それは決して『甘やかすだけ』ではねぇことをお忘れなくぅ?」
「いい性格してるよ。副船長」