ワノ国編
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モモの助視点
「限界なんだよ! もう“焔雲”は持たない! 君が作れ!『鬼ヶ島』を支える“焔雲”を! 最初からそれしか無かったんだ!」
ヤマトがヒゲを掴んで叫ぶ。
炎が燃え上がる鬼ヶ島は、岩盤は根っこが絡み合って土の落下を防いでいるが、それでも何度も揺れたり穴が開いたりしたこともあって防ぎきれず、今や城とその下の一部しか残っていなかった。そうしてその島を浮かばせているカイドウの焔雲も薄く消えかかってしまっている部分があり、最初の頃に比べれば高度も低くなっている。
それでも都へ落下させられてしまえば大打撃であることに変わりはない。
だからヤマトはモモの助に焔雲を出せと言う。モモの助だって出せるものなら出したい。出したいのに自分の身を浮かせる最低限の雲しかまだ出せなかった。
焦れば焦る程雲は出ない。このままでは島の中で戦ってくれている皆も都にいる皆も死んでしまうというのに。
やはり図体だけが大きくなっても、自分は泣き虫の子供のままなのだ。
父の仇も討てず臣下の足手まといばかり。母に合わせる顔もなければ妹に会う資格もない。
特徴的なリズムの太鼓の音も優しい笛の音も、今のモモの助を慰めるものではなかった。
『――若様――』
「――えッ?」
頭の中に声が響く。ペンギンのそれだと思ったが、ペンギンはモモの助を『若君』と呼んでいたので違う。
『若様。そっちを手伝えないでごめん。まだ焔雲は出せない?』
ルフィが復活する前にどこかへ行ってしまった白澤の声だ。でもズニーシャが太鼓の音に合わせて笛の音が聞こえてきた時にも話しかけてきたから、今も聞こえる笛はきっと白澤が吹いているのだろうと思っていた。
良き為政者の前に現れるという瑞獣。白澤。
モモの助の前に現れて空の駆け方を教えてくれたし、鬼ヶ島を引っ張る手伝いもしてくれたけれど、モモの助は自分がかの獣に認められるような存在だとは思っていない。モモの助ではない誰かの為に来てくれたのだろうとすら考えていた。
例えばルフィとか。ヤマトかもしれない。彼はカイドウの息子だけれどモモの助の父であるおでんに憧れているから。
助けてもらわなければ何も出来ないモモの助ではない、誰かの。
『若様は一度足を踏み出してしまえば、強い子』
白澤の声。
『背中を押されることの心強さを知っているでしょう。ルフィ君から、錦えもんさんから、ヤマト君から、トキちゃんから。他にももっとたくさんの人が。カイドウですら貴方の背を押した』
躊躇しているモモの助にあと一押しをくれた、錦えもんやルフィ達。ヤマトも母もそうだ。
カイドウは分からなかったけれど、討ち入り直前彼に殺されかけなければモモの助は自分から名乗れただろうか。
考えてみればその一押しが無ければということは多かった。
『今もただそれだけのこと。私が背中を押しましょうか?』
「……いや、拙者は」
「おい! モモー!」
ルフィの呼びかけが聞こえてモモの助は屋上を見上げる。そうして見えた光景にヤマト共々驚きの声を上げた。
鬼ヶ島の屋上、正確には更にその上雷雲の下に、今までに見たこともない巨大な巨大な握り拳が浮いている。まるで雷雲を突き破ってきたかのようなそれはけれども、雲の下にいるルフィが大きくさせたものだと分かった。
鬼ヶ島にあったカイドウの城と同じかそれ以上に大きいその拳を振り上げ、ルフィが叫ぶ。
「全部終わらせるぞ! 『鬼ヶ島』が邪魔だ! どけろォ!」
どかせる訳がない。
「よせルフィ!」
「モモ、お前を信じてる!」
無理だと答える前にそう言われて、脳裏に響いたのは白澤の笑い声だった。こんな時に何を笑っているのかと叫びたくなったが、その前に白澤が話しかけてくる。
『ふふ、ほら若君、背中を押されてしまったぜぇ』
その一言に無理だと言おうとした口を噤む。モモの助は今、ルフィに“背中を押された”のだ。
だったらもう、その勢いを使って動き出すしかあるまい。
ルフィの拳が熱く燃え上がったカイドウとぶつかり合う。空気が弾けた音を立てて地響きにも似た衝撃が拡散していく。
何故か鬼ヶ島の内部から大量の水が漏れ流れてきた。雨どころか滝の様に地上へ降っていくそれが、外にいるモモの助達のところからも見える程燃え上がっていた炎を消した様だ。
途端に笛の音も消える。
「“焔雲”が消えた! ダメだ!“鬼ヶ島”が!」
ヤマトが叫ぶ。鬼ヶ島を支え続けていたカイドウの焔雲が薄れて消え、鬼ヶ島が大きくぐらついた。島の中に残っていた水がその傾きによってまた落ちていく。
もう何も考えられないまま、モモの助は叫んだ。
「出ろ“焔雲”!」
胸元から厚く大きい雲が現れる。モモの助が意識するまでもなく雲は鬼ヶ島を支え、モモの助は焔雲が出せたことを喜ぶ余裕もないまま雲を掴んで島を引っ張った。
ルフィとカイドウの下から外れて、祭り囃子の聞こえる都のある方向にでもなく。
都から昇る火の灯された宙船が見えた。
ルフィに殴られたカイドウが地に落ち、勢いのまま地中へと埋まっていく。それを最後まで見られないまま、モモの助は鬼ヶ島をゆっくりと地面に降ろした。
鬼ヶ島が都に落ちなかった安堵に地面へ寝そべってしまう。それから、モモの助はズニーシャへ話しかける。
父の望みだった『開国』を、まだしないと伝える為に。
「限界なんだよ! もう“焔雲”は持たない! 君が作れ!『鬼ヶ島』を支える“焔雲”を! 最初からそれしか無かったんだ!」
ヤマトがヒゲを掴んで叫ぶ。
炎が燃え上がる鬼ヶ島は、岩盤は根っこが絡み合って土の落下を防いでいるが、それでも何度も揺れたり穴が開いたりしたこともあって防ぎきれず、今や城とその下の一部しか残っていなかった。そうしてその島を浮かばせているカイドウの焔雲も薄く消えかかってしまっている部分があり、最初の頃に比べれば高度も低くなっている。
それでも都へ落下させられてしまえば大打撃であることに変わりはない。
だからヤマトはモモの助に焔雲を出せと言う。モモの助だって出せるものなら出したい。出したいのに自分の身を浮かせる最低限の雲しかまだ出せなかった。
焦れば焦る程雲は出ない。このままでは島の中で戦ってくれている皆も都にいる皆も死んでしまうというのに。
やはり図体だけが大きくなっても、自分は泣き虫の子供のままなのだ。
父の仇も討てず臣下の足手まといばかり。母に合わせる顔もなければ妹に会う資格もない。
特徴的なリズムの太鼓の音も優しい笛の音も、今のモモの助を慰めるものではなかった。
『――若様――』
「――えッ?」
頭の中に声が響く。ペンギンのそれだと思ったが、ペンギンはモモの助を『若君』と呼んでいたので違う。
『若様。そっちを手伝えないでごめん。まだ焔雲は出せない?』
ルフィが復活する前にどこかへ行ってしまった白澤の声だ。でもズニーシャが太鼓の音に合わせて笛の音が聞こえてきた時にも話しかけてきたから、今も聞こえる笛はきっと白澤が吹いているのだろうと思っていた。
良き為政者の前に現れるという瑞獣。白澤。
モモの助の前に現れて空の駆け方を教えてくれたし、鬼ヶ島を引っ張る手伝いもしてくれたけれど、モモの助は自分がかの獣に認められるような存在だとは思っていない。モモの助ではない誰かの為に来てくれたのだろうとすら考えていた。
例えばルフィとか。ヤマトかもしれない。彼はカイドウの息子だけれどモモの助の父であるおでんに憧れているから。
助けてもらわなければ何も出来ないモモの助ではない、誰かの。
『若様は一度足を踏み出してしまえば、強い子』
白澤の声。
『背中を押されることの心強さを知っているでしょう。ルフィ君から、錦えもんさんから、ヤマト君から、トキちゃんから。他にももっとたくさんの人が。カイドウですら貴方の背を押した』
躊躇しているモモの助にあと一押しをくれた、錦えもんやルフィ達。ヤマトも母もそうだ。
カイドウは分からなかったけれど、討ち入り直前彼に殺されかけなければモモの助は自分から名乗れただろうか。
考えてみればその一押しが無ければということは多かった。
『今もただそれだけのこと。私が背中を押しましょうか?』
「……いや、拙者は」
「おい! モモー!」
ルフィの呼びかけが聞こえてモモの助は屋上を見上げる。そうして見えた光景にヤマト共々驚きの声を上げた。
鬼ヶ島の屋上、正確には更にその上雷雲の下に、今までに見たこともない巨大な巨大な握り拳が浮いている。まるで雷雲を突き破ってきたかのようなそれはけれども、雲の下にいるルフィが大きくさせたものだと分かった。
鬼ヶ島にあったカイドウの城と同じかそれ以上に大きいその拳を振り上げ、ルフィが叫ぶ。
「全部終わらせるぞ! 『鬼ヶ島』が邪魔だ! どけろォ!」
どかせる訳がない。
「よせルフィ!」
「モモ、お前を信じてる!」
無理だと答える前にそう言われて、脳裏に響いたのは白澤の笑い声だった。こんな時に何を笑っているのかと叫びたくなったが、その前に白澤が話しかけてくる。
『ふふ、ほら若君、背中を押されてしまったぜぇ』
その一言に無理だと言おうとした口を噤む。モモの助は今、ルフィに“背中を押された”のだ。
だったらもう、その勢いを使って動き出すしかあるまい。
ルフィの拳が熱く燃え上がったカイドウとぶつかり合う。空気が弾けた音を立てて地響きにも似た衝撃が拡散していく。
何故か鬼ヶ島の内部から大量の水が漏れ流れてきた。雨どころか滝の様に地上へ降っていくそれが、外にいるモモの助達のところからも見える程燃え上がっていた炎を消した様だ。
途端に笛の音も消える。
「“焔雲”が消えた! ダメだ!“鬼ヶ島”が!」
ヤマトが叫ぶ。鬼ヶ島を支え続けていたカイドウの焔雲が薄れて消え、鬼ヶ島が大きくぐらついた。島の中に残っていた水がその傾きによってまた落ちていく。
もう何も考えられないまま、モモの助は叫んだ。
「出ろ“焔雲”!」
胸元から厚く大きい雲が現れる。モモの助が意識するまでもなく雲は鬼ヶ島を支え、モモの助は焔雲が出せたことを喜ぶ余裕もないまま雲を掴んで島を引っ張った。
ルフィとカイドウの下から外れて、祭り囃子の聞こえる都のある方向にでもなく。
都から昇る火の灯された宙船が見えた。
ルフィに殴られたカイドウが地に落ち、勢いのまま地中へと埋まっていく。それを最後まで見られないまま、モモの助は鬼ヶ島をゆっくりと地面に降ろした。
鬼ヶ島が都に落ちなかった安堵に地面へ寝そべってしまう。それから、モモの助はズニーシャへ話しかける。
父の望みだった『開国』を、まだしないと伝える為に。