ワノ国編
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夢主視点
ジンベエとの再会に盛り上がり過ぎてこちらに来る気のないルフィの代わりに、ミンク族の指揮を執るシシリアンとワノ国の侍達を仕切るヒョウ五郎がハートの船へと乗り込んできた。
駐屯所ではないとまだブツクサ文句を言っている船長が座れるように樽を用意してやればすんなりと腰を下ろす。
錦えもんが考えていた作戦はこうだ。
鬼ヶ島唯一の出入り口である正面の門から島内に潜入。島の中心部に大きなドクロがあるがそれは山と一体化しており内部に城があるらしい。隠密行動中に手に入れた屋敷図によればその城の裏側には『裏口』が一つ。
そこで兵を二つに分けそれぞれ左右の山道を経由し城内に侵入する、というのが錦えもんが考えていた作戦の様である。戦力を一気に減らされないように分散させて移動するという意味では二つに分けるのは有効だとも思えなくはないが、目的地が一ヶ所であるならもう少し誘導が欲しいところだ。
「成程それがカン十郎にも聞かせた奴を欺く作戦か……」
ここで唐突に傳ジローが予想外の事を言い出した。どうやら今錦えもんが言った作戦は、内通者だったカン十郎経由でオロチ軍に伝わってしまってもいい偽の作戦だったと思ったらしい。
その証拠に錦えもんが『そんなことを言われると思っていなかった』といった顔になっている。どうやら傳ジローは錦えもんをやけに買い被っているらしい。理由は知らないがいきすぎた尊敬か。
樽に座って黙ってそれを聞いていた船長を横目で見れば目が合い、船長が息を吐く。
「――まず、敵が討ち入りに気付いたとして」
ここで口を出してしまうのが船長の優しさである。
「奴らが潰してェのはお前ら“赤鞘”の侍達。それに『オレ』『麦わら屋』『ユースタス屋』この三人の船長だ」
シルビは正体がバレていないので狙われることはない。仮に正体を知られていたなら堂々と囮役に立候補するが。
「お前らがどんな作戦を立てようとも正面から乗り込むであろうバカが、約二名現れる」
「バカ?」
「バカはいい囮になる。――よって予定通り全員左右の山道を進む。……だがその兵達も囮だ」
「では『赤鞘』達はどう進む?」
「海しかない。この潜水艇で回り込めば、上陸を阻む渦潮も回避でき、オレの能力ならお前らを島内へ送れる」
ただ最終的な目的地が全て一緒だという点で不安は残る。オロチ軍側が早々にそれに気付いてしまえば裏口に守りを回されてしまうだろう。
船長の言うバカ二人ことキッドとルフィが表で暴れるとしても、その二人が居ると判明した時点で誰かがトラファルガー・ローがいないと気付けばじゃあ何処にいるのかと疑問に思われる可能性も難くない。
話し合っている間に作戦も何もない麦藁の一味の船が最初の関門とされていた島前の鳥居に到着し、そこにあった要塞を破壊していた。あまりにもあっという間の瞬殺具合に侍達の士気も爆上がりだ。
囮役として正面側から正面の山道を進む侍達の先導を担った錦えもんと傳ジローを降ろし、ポーラータング号も潜水を開始する。
鬼ヶ島の周囲を囲む渦潮は普通の船であれば正面の港以外からの入港を阻む厄介な荒波だが、潜水が可能であればその驚異は半分以上に低下する代物だった。水というのは表面が荒ぶっていようと中は意外と穏やかなモノなのである。
「ハクガン。操舵に問題はぁ?」
「今のところ問題無し。ペンギンの訓練の方が荒々しかったくらい」
操舵を担当するハクガンに声を掛ければ心強い返事が返ってきた。シルビとしてもこの程度の海で弱音を吐かれては鍛えた甲斐が無い。
ポーラータング号に乗り込んでいるのは錦えもんと傳ジローを除いた赤鞘の五人だ。
その五人と一緒に船長とシルビ、シャチとベポとワカメが先遣隊として潜入する。バンダナ達はシルビ達が上陸した後一度船を引き、様子を見ながら上陸して参戦する予定だ。
島の裏側に近付けるまで逸る気持ちを抑え込んでいたイヌアラシの持っていた電伝虫が鳴る。相手は『不死鳥マルコに会いに行く』とゾウからずっと別行動をしていたネコマムシだった。
『おう、滝を登り切ったぜよ! ゴロニャニャ!』
「今何日の何時だと思ってる!?」
『決戦当日の火祭りの夜じゃき。ギリギリセーフじゃろう?』
流石ネコというか何というか、マイペースである。
「結局不死鳥マルコの助太刀は求められたんですかねぇ?」
「さァな。居ようが居まいがもう計画の変更は出来ねェだろ」
ネコマムシは最初から戦力に数えていたとしても、不死鳥マルコに関しては来るかどうかも分からない相手だった。当然彼の存在が打倒カイドウの計画にどう影響するかも不明である。
遊泳する魚も少ない海中を窓から眺めながら、シルビはこっそりとこめかみに手を押し当てた。正面の港で別れたルフィ達や錦えもんの行動を『×××』で探れば、ルフィとゾロが既に暴れ回っている。
あの二人だけではない。キッドとキラーもだ。キラーはキッドについて行ってなし崩しといった感じがするが、あの四人の潜入がバレたことに変わりはない。
しかし、一応彼らの動きが陽動になって裏口に向かう錦えもん達はまだ見つかっていないようだった。
「――あ」
「? どうしたのペンギン?」
「……いや、何でもなぃ」
チョッパー達がビックマムに見つかってしまったことは伝えない方がいいだろう。錦えもんは見つかっていないし。
荒波を越えて上陸した鬼ヶ島は雪が降っていた。
船内の暖かさから一瞬にして放り出された外の寒さに歯が鳴ってしまう。もう少し厚着をしてくれば良かった。
「寒ぅ……」
「動けば暖かくなるって。そういや最近肩掛け見てないけど、アレどうしたの?」
一緒に上陸したワカメに訊かれたのは、ワノ国に来てからずっと羽織っていた肩掛けのことだろう。
「ボロボロになって行方不明」
「ふーん?」
「もしかしたらキラーが持ってるぅ」
「なんでッ!?」
囚人採掘場でキラーに拾われたと思う、と続けようとしたところで頭上からネコマムシの声と共に影が降ってきた。雪に半分埋もれたお陰で頭から落ちてきても大した衝撃ではなさそうだったネコマムシの傍には、もう一人。
その姿を見て菊が感極まったように涙を浮かべる。
「お前! 誰かと思えば!」
「ああ、先に話をしてなかったにゃあ! マルコが居場所がわかるゆうきに連れに行っちょったがぜよ!」
「イゾウ~!」
白ひげ海賊団の隊長格の一人だったか。菊に似た面影を持つイゾウは菊に優しい眼差しを向けていた。
「菊……! 立派な“侍”になったな!」
「お兄様~!」
かつて弟妹のいたワカメとシルビは少なからず複雑な気分でそれを眺める。こんな状況ではあれども、仲が良かったのだろう兄弟の再会は感動ものだ。
イゾウは元々ワノ国出身であり、更に言えば錦えもん達同様おでんの家臣だったらしい。そのおでんが島を飛び出した際に一緒について行き、そのまま白ひげ海賊団の一員として行動していたという話だった。
当然おでんの敵討ちをするというのであれば馳せ参ずる所存として、ネコマムシとマルコと一緒にワノ国へ戻ってきたそうである。そのマルコはネコマムシ達を運んできたものの、海に気になる影があったからとそのまま飛んで行ってしまった。
不死鳥モデルのトリトリの実の能力者だったか。青い炎を翼にして羽ばたいていく姿はなかなか綺麗だ。
青い炎。
入れたままだった横笛に服の上から触れる。
物思いに耽る余裕は無く、後ろにいたワカメがクシャミをするのにシルビは振り向いて指を鳴らした。
「お前も寒ぃんじゃねぇかぁ。使い捨て覚悟でマフラーくらいは巻いてきても良かったかもなぁ。シャチとベポは平気かぁ?」
「オレは平気」
「オレもー」
「船長は……コート着てるから平気かぁ」
裏口は城と地下へ繋がるものがそれぞれある。カイドウへの討ち入りを目的とする赤鞘の侍達は当然城へ向かう裏口を目指し、雪の積もる階段を上り始めた。
当然シルビ達もそれへ続くかと思いきや、船長が向かったのは地下へ繋がる裏口の方だった。
「ちょっと船長」
「馬鹿丁寧に獲物が固まって行動しても仕方ねェだろ。それにオレ等の目的は討ち入りじゃねェ」
カイドウを倒すという目的だけが一緒で理由は確かに異なる。侍達の次に標的になるだろう船長がイヌアラシ達と一緒に動くのも、確かに敵にとってはいい的になってしまうだろう。
せめて錦えもん達が来るまでは一緒に行動していても良いのではと思ったが、船長はこうなってしまうと頑なだ。仕方なくシルビも船長の後に続いて地下に繋がる裏口へと向かった。
城の人員の殆どが宴に参加しているのか警備は思った以上に薄い。その警備も見つけ次第に倒していくので潜入が報告される間もなかった。意識を取り戻される前に侍達が追いかけてきてくれれば二度手間にもならないだろう。
何人目かの警備を気絶させたところで来た道から足音が近付いてくる。錦えもんと一緒に行動してきた侍達だ。
「錦えもんさんは?」
「あの方は傳ジロー殿と一緒に上の裏口から!」
「我々はこちらより城内へと!」
ということは錦えもんは無事にイヌアラシ達と合流出来たのだろう。
「内部潜入組も無事に潜入! ですが見取り図に無かった遊郭で麦わらの一味の方が……ッ」
「えっ! 遊郭あんの!?」
「デカイババアに遭遇し、囮となってッ」
「デカイババア?」
「ビッグマムですかねぇ?」
「ビッグマムがいる遊郭なんてイヤ!」
「お前らうるせェ! ペンギン、見取り図に無いってのはどういうことだ」
「城が完成した後に増築された場所がいくつかあります。貴方にお渡しした見取り図には書き記しておいた筈ですがぁ」
討ち入り前の支度中に船長に言われて書き記した見取り図は、仲違いした後で見取り図入手担当だったロビンから話を聞けなかった為、シルビが『×××』を利用して記した最新の見取り図だった。船長がどの見取り図を記憶しているかは分からないが、少なくとも増築された部分の情報も船長は持っている筈である。
「全部記憶は」
「してあります」
「えっすごい」
ワカメとここまでの情報を交換していた侍が思わずといったようにこぼした。
「ならお前が先導だ。“いつもの通り”に動け」
示された通路の先からは、城の全域にいる部下達へ向けてのものだろうカイドウの声が響いてきている。先ほどまでしていなかったその声は反響してその単語を聞き取りづらいが、改めて“一繋ぎの大秘宝”を目指しワノ国を『海賊の帝国』に変えるらしい。
“ハートの海賊団のペンギン”でなければシルビは今、カイドウの目前へと出てその主張を鼻で笑っただろう。何が『海賊の帝国』だ。
そんなものはこのワノ国を愛する者にとって微塵たりとも認められない。同時に本当にこの国のことを調べたのかと訊いてみたくなる妄言だった。カイドウはきっと、この国に眠る古代兵器やポーネグリフを読み書き出来る者が欲しくてワノ国を求めたのだろう。古代兵器という響きは戦力を求める者には甘美なそれだ。
だがそれだけ。この国の魅力はそこではないというのに。
背後から合流してくる侍達。シルビは指を鳴らして槍を具現化させる。
流石に奥へ入り込めば警備の数は多い。それでも酒を飲んでいい気分であることは変わらないようで、赤ら顔で侵入してきたシルビ達に気付いては慌てて武器を持つ。
その警備達を、一閃。
「――ふふ、船長の露払いはやっぱり俺でなくちゃぁ」
背後で騒いでいた侍達が静まりかえる。城の表側から響く宴の狂乱に足を向ければ、慣れた様子で船長やベポ達が付いてきていた。
「随分やる気だねペンギン。珍しくない?」
「船長から命令されて喜ばねぇクルー居るぅ?」
それに、トットランドからワノ国に来てからも数日前まで殆ど単独行動で碌に戦いもしていなかったのだ。やっと身体を動かせるとなればシルビでなくとも嬉しいというものだろう。
後ろを付いてくる船長を振り返れば目が合った。まだ本格的な戦闘になっていないからか落ち着いた様子で首を傾げる船長に、シルビは尻尾が出ていれば盛大に振っていただろう。
「あのお尽、とんでもねェ強さなんじゃねエのか!?」
「そういや、ヒョウ五郎親分が『海賊側にとんでもないお人がいる』っつってたな……」
侍達が何か言っているが聞こえない。それより城の表側。『ライブフロア』と呼ばれている広場から聞こえてくる声の方へ意識を向ける。船長やベポ達にもこの放送は聞こえているだろう。
カン十朗によって連れて行かれたモモの助はカイドウの傍で拘束されており、二十年前の話をされている。あの時は泣いていて答えなかったなと懐かしむような哀れむような言い方は、けれども何故かどこか期待しているようにも聞こえた。
カイドウの声が響く。
『お前の、名は?』
『“モモ”は、……“天下無双”をあらわすことば』
背筋が“歓喜”に震える。
『……拙者の名は、光月モモの助! ワノ国の“将軍”になる男でござる』
一瞬の静寂。それに続く泣き声がなければ百点満点だっただろう。
カイドウの部下達による笑い声によって無惨にもかき消されてしまったそれにしかし、シルビは喜びによる胸の高鳴りを覚えた。
ジンベエとの再会に盛り上がり過ぎてこちらに来る気のないルフィの代わりに、ミンク族の指揮を執るシシリアンとワノ国の侍達を仕切るヒョウ五郎がハートの船へと乗り込んできた。
駐屯所ではないとまだブツクサ文句を言っている船長が座れるように樽を用意してやればすんなりと腰を下ろす。
錦えもんが考えていた作戦はこうだ。
鬼ヶ島唯一の出入り口である正面の門から島内に潜入。島の中心部に大きなドクロがあるがそれは山と一体化しており内部に城があるらしい。隠密行動中に手に入れた屋敷図によればその城の裏側には『裏口』が一つ。
そこで兵を二つに分けそれぞれ左右の山道を経由し城内に侵入する、というのが錦えもんが考えていた作戦の様である。戦力を一気に減らされないように分散させて移動するという意味では二つに分けるのは有効だとも思えなくはないが、目的地が一ヶ所であるならもう少し誘導が欲しいところだ。
「成程それがカン十郎にも聞かせた奴を欺く作戦か……」
ここで唐突に傳ジローが予想外の事を言い出した。どうやら今錦えもんが言った作戦は、内通者だったカン十郎経由でオロチ軍に伝わってしまってもいい偽の作戦だったと思ったらしい。
その証拠に錦えもんが『そんなことを言われると思っていなかった』といった顔になっている。どうやら傳ジローは錦えもんをやけに買い被っているらしい。理由は知らないがいきすぎた尊敬か。
樽に座って黙ってそれを聞いていた船長を横目で見れば目が合い、船長が息を吐く。
「――まず、敵が討ち入りに気付いたとして」
ここで口を出してしまうのが船長の優しさである。
「奴らが潰してェのはお前ら“赤鞘”の侍達。それに『オレ』『麦わら屋』『ユースタス屋』この三人の船長だ」
シルビは正体がバレていないので狙われることはない。仮に正体を知られていたなら堂々と囮役に立候補するが。
「お前らがどんな作戦を立てようとも正面から乗り込むであろうバカが、約二名現れる」
「バカ?」
「バカはいい囮になる。――よって予定通り全員左右の山道を進む。……だがその兵達も囮だ」
「では『赤鞘』達はどう進む?」
「海しかない。この潜水艇で回り込めば、上陸を阻む渦潮も回避でき、オレの能力ならお前らを島内へ送れる」
ただ最終的な目的地が全て一緒だという点で不安は残る。オロチ軍側が早々にそれに気付いてしまえば裏口に守りを回されてしまうだろう。
船長の言うバカ二人ことキッドとルフィが表で暴れるとしても、その二人が居ると判明した時点で誰かがトラファルガー・ローがいないと気付けばじゃあ何処にいるのかと疑問に思われる可能性も難くない。
話し合っている間に作戦も何もない麦藁の一味の船が最初の関門とされていた島前の鳥居に到着し、そこにあった要塞を破壊していた。あまりにもあっという間の瞬殺具合に侍達の士気も爆上がりだ。
囮役として正面側から正面の山道を進む侍達の先導を担った錦えもんと傳ジローを降ろし、ポーラータング号も潜水を開始する。
鬼ヶ島の周囲を囲む渦潮は普通の船であれば正面の港以外からの入港を阻む厄介な荒波だが、潜水が可能であればその驚異は半分以上に低下する代物だった。水というのは表面が荒ぶっていようと中は意外と穏やかなモノなのである。
「ハクガン。操舵に問題はぁ?」
「今のところ問題無し。ペンギンの訓練の方が荒々しかったくらい」
操舵を担当するハクガンに声を掛ければ心強い返事が返ってきた。シルビとしてもこの程度の海で弱音を吐かれては鍛えた甲斐が無い。
ポーラータング号に乗り込んでいるのは錦えもんと傳ジローを除いた赤鞘の五人だ。
その五人と一緒に船長とシルビ、シャチとベポとワカメが先遣隊として潜入する。バンダナ達はシルビ達が上陸した後一度船を引き、様子を見ながら上陸して参戦する予定だ。
島の裏側に近付けるまで逸る気持ちを抑え込んでいたイヌアラシの持っていた電伝虫が鳴る。相手は『不死鳥マルコに会いに行く』とゾウからずっと別行動をしていたネコマムシだった。
『おう、滝を登り切ったぜよ! ゴロニャニャ!』
「今何日の何時だと思ってる!?」
『決戦当日の火祭りの夜じゃき。ギリギリセーフじゃろう?』
流石ネコというか何というか、マイペースである。
「結局不死鳥マルコの助太刀は求められたんですかねぇ?」
「さァな。居ようが居まいがもう計画の変更は出来ねェだろ」
ネコマムシは最初から戦力に数えていたとしても、不死鳥マルコに関しては来るかどうかも分からない相手だった。当然彼の存在が打倒カイドウの計画にどう影響するかも不明である。
遊泳する魚も少ない海中を窓から眺めながら、シルビはこっそりとこめかみに手を押し当てた。正面の港で別れたルフィ達や錦えもんの行動を『×××』で探れば、ルフィとゾロが既に暴れ回っている。
あの二人だけではない。キッドとキラーもだ。キラーはキッドについて行ってなし崩しといった感じがするが、あの四人の潜入がバレたことに変わりはない。
しかし、一応彼らの動きが陽動になって裏口に向かう錦えもん達はまだ見つかっていないようだった。
「――あ」
「? どうしたのペンギン?」
「……いや、何でもなぃ」
チョッパー達がビックマムに見つかってしまったことは伝えない方がいいだろう。錦えもんは見つかっていないし。
荒波を越えて上陸した鬼ヶ島は雪が降っていた。
船内の暖かさから一瞬にして放り出された外の寒さに歯が鳴ってしまう。もう少し厚着をしてくれば良かった。
「寒ぅ……」
「動けば暖かくなるって。そういや最近肩掛け見てないけど、アレどうしたの?」
一緒に上陸したワカメに訊かれたのは、ワノ国に来てからずっと羽織っていた肩掛けのことだろう。
「ボロボロになって行方不明」
「ふーん?」
「もしかしたらキラーが持ってるぅ」
「なんでッ!?」
囚人採掘場でキラーに拾われたと思う、と続けようとしたところで頭上からネコマムシの声と共に影が降ってきた。雪に半分埋もれたお陰で頭から落ちてきても大した衝撃ではなさそうだったネコマムシの傍には、もう一人。
その姿を見て菊が感極まったように涙を浮かべる。
「お前! 誰かと思えば!」
「ああ、先に話をしてなかったにゃあ! マルコが居場所がわかるゆうきに連れに行っちょったがぜよ!」
「イゾウ~!」
白ひげ海賊団の隊長格の一人だったか。菊に似た面影を持つイゾウは菊に優しい眼差しを向けていた。
「菊……! 立派な“侍”になったな!」
「お兄様~!」
かつて弟妹のいたワカメとシルビは少なからず複雑な気分でそれを眺める。こんな状況ではあれども、仲が良かったのだろう兄弟の再会は感動ものだ。
イゾウは元々ワノ国出身であり、更に言えば錦えもん達同様おでんの家臣だったらしい。そのおでんが島を飛び出した際に一緒について行き、そのまま白ひげ海賊団の一員として行動していたという話だった。
当然おでんの敵討ちをするというのであれば馳せ参ずる所存として、ネコマムシとマルコと一緒にワノ国へ戻ってきたそうである。そのマルコはネコマムシ達を運んできたものの、海に気になる影があったからとそのまま飛んで行ってしまった。
不死鳥モデルのトリトリの実の能力者だったか。青い炎を翼にして羽ばたいていく姿はなかなか綺麗だ。
青い炎。
入れたままだった横笛に服の上から触れる。
物思いに耽る余裕は無く、後ろにいたワカメがクシャミをするのにシルビは振り向いて指を鳴らした。
「お前も寒ぃんじゃねぇかぁ。使い捨て覚悟でマフラーくらいは巻いてきても良かったかもなぁ。シャチとベポは平気かぁ?」
「オレは平気」
「オレもー」
「船長は……コート着てるから平気かぁ」
裏口は城と地下へ繋がるものがそれぞれある。カイドウへの討ち入りを目的とする赤鞘の侍達は当然城へ向かう裏口を目指し、雪の積もる階段を上り始めた。
当然シルビ達もそれへ続くかと思いきや、船長が向かったのは地下へ繋がる裏口の方だった。
「ちょっと船長」
「馬鹿丁寧に獲物が固まって行動しても仕方ねェだろ。それにオレ等の目的は討ち入りじゃねェ」
カイドウを倒すという目的だけが一緒で理由は確かに異なる。侍達の次に標的になるだろう船長がイヌアラシ達と一緒に動くのも、確かに敵にとってはいい的になってしまうだろう。
せめて錦えもん達が来るまでは一緒に行動していても良いのではと思ったが、船長はこうなってしまうと頑なだ。仕方なくシルビも船長の後に続いて地下に繋がる裏口へと向かった。
城の人員の殆どが宴に参加しているのか警備は思った以上に薄い。その警備も見つけ次第に倒していくので潜入が報告される間もなかった。意識を取り戻される前に侍達が追いかけてきてくれれば二度手間にもならないだろう。
何人目かの警備を気絶させたところで来た道から足音が近付いてくる。錦えもんと一緒に行動してきた侍達だ。
「錦えもんさんは?」
「あの方は傳ジロー殿と一緒に上の裏口から!」
「我々はこちらより城内へと!」
ということは錦えもんは無事にイヌアラシ達と合流出来たのだろう。
「内部潜入組も無事に潜入! ですが見取り図に無かった遊郭で麦わらの一味の方が……ッ」
「えっ! 遊郭あんの!?」
「デカイババアに遭遇し、囮となってッ」
「デカイババア?」
「ビッグマムですかねぇ?」
「ビッグマムがいる遊郭なんてイヤ!」
「お前らうるせェ! ペンギン、見取り図に無いってのはどういうことだ」
「城が完成した後に増築された場所がいくつかあります。貴方にお渡しした見取り図には書き記しておいた筈ですがぁ」
討ち入り前の支度中に船長に言われて書き記した見取り図は、仲違いした後で見取り図入手担当だったロビンから話を聞けなかった為、シルビが『×××』を利用して記した最新の見取り図だった。船長がどの見取り図を記憶しているかは分からないが、少なくとも増築された部分の情報も船長は持っている筈である。
「全部記憶は」
「してあります」
「えっすごい」
ワカメとここまでの情報を交換していた侍が思わずといったようにこぼした。
「ならお前が先導だ。“いつもの通り”に動け」
示された通路の先からは、城の全域にいる部下達へ向けてのものだろうカイドウの声が響いてきている。先ほどまでしていなかったその声は反響してその単語を聞き取りづらいが、改めて“一繋ぎの大秘宝”を目指しワノ国を『海賊の帝国』に変えるらしい。
“ハートの海賊団のペンギン”でなければシルビは今、カイドウの目前へと出てその主張を鼻で笑っただろう。何が『海賊の帝国』だ。
そんなものはこのワノ国を愛する者にとって微塵たりとも認められない。同時に本当にこの国のことを調べたのかと訊いてみたくなる妄言だった。カイドウはきっと、この国に眠る古代兵器やポーネグリフを読み書き出来る者が欲しくてワノ国を求めたのだろう。古代兵器という響きは戦力を求める者には甘美なそれだ。
だがそれだけ。この国の魅力はそこではないというのに。
背後から合流してくる侍達。シルビは指を鳴らして槍を具現化させる。
流石に奥へ入り込めば警備の数は多い。それでも酒を飲んでいい気分であることは変わらないようで、赤ら顔で侵入してきたシルビ達に気付いては慌てて武器を持つ。
その警備達を、一閃。
「――ふふ、船長の露払いはやっぱり俺でなくちゃぁ」
背後で騒いでいた侍達が静まりかえる。城の表側から響く宴の狂乱に足を向ければ、慣れた様子で船長やベポ達が付いてきていた。
「随分やる気だねペンギン。珍しくない?」
「船長から命令されて喜ばねぇクルー居るぅ?」
それに、トットランドからワノ国に来てからも数日前まで殆ど単独行動で碌に戦いもしていなかったのだ。やっと身体を動かせるとなればシルビでなくとも嬉しいというものだろう。
後ろを付いてくる船長を振り返れば目が合った。まだ本格的な戦闘になっていないからか落ち着いた様子で首を傾げる船長に、シルビは尻尾が出ていれば盛大に振っていただろう。
「あのお尽、とんでもねェ強さなんじゃねエのか!?」
「そういや、ヒョウ五郎親分が『海賊側にとんでもないお人がいる』っつってたな……」
侍達が何か言っているが聞こえない。それより城の表側。『ライブフロア』と呼ばれている広場から聞こえてくる声の方へ意識を向ける。船長やベポ達にもこの放送は聞こえているだろう。
カン十朗によって連れて行かれたモモの助はカイドウの傍で拘束されており、二十年前の話をされている。あの時は泣いていて答えなかったなと懐かしむような哀れむような言い方は、けれども何故かどこか期待しているようにも聞こえた。
カイドウの声が響く。
『お前の、名は?』
『“モモ”は、……“天下無双”をあらわすことば』
背筋が“歓喜”に震える。
『……拙者の名は、光月モモの助! ワノ国の“将軍”になる男でござる』
一瞬の静寂。それに続く泣き声がなければ百点満点だっただろう。
カイドウの部下達による笑い声によって無惨にもかき消されてしまったそれにしかし、シルビは喜びによる胸の高鳴りを覚えた。