ワノ国編
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夢主視点
どうにかウイルスに感染した全員にワクチンを接種した。あの象頭の看守にももちろんワクチンは接種させたものの、看守達は全員拘束させてもらっている。
「ワクチンの残りはぁ?」
「まだ問題ないぞ。ペンギンは大丈夫か?」
「大丈夫」
肉体的には。
ウイルスに感染して危ない状態のルフィへワクチンを打ちに向かう。その途中でふと見れば、いつの間にかキラーとユースタスの姿は無くなっていた。足を止めたシルビに気付かずチョッパーが走っていく。
まだ濡れたままの地面には足跡。だがそれも少し歩いた先にはもうなくなっていて、二人がどこへ行ったのかは分からない。
挨拶も無しかと少し寂しく思ったものの、挨拶をし合う関係でもないのでそんなものだろうと納得する。ましてや騙し騙された者という関係でもあった。
地面に落ちていた筈の肩掛けが無くなっている。落ちていた場所の傍には一人分の足跡。
「……あんな汚れたの、持ってくなよぉ」
「ペンギン!」
消えた海賊の居た辺りを見つめていたシルビを呼ぶ声に振り返れば、少し離れた瓦礫の影からモモの助がこちらへ向かって走ってくる。
何だってこんな場所に反乱軍の総大将であるお前が来ているんだとか、後ろの女の子は誰だとか言いたいことは色々とあったが、それらを一つとして言えないままシルビはモモの助に向かって駆けだした。駆けだして、年相応の小さな少年を抱き留める。
モモの助は抱きしめられるつもりは無く、ただ純粋に近付いて話をしよう程度のそれだったのだろう。いきなり抱きしめてきたシルビに驚いて武士がどうのこうのと騒いでいたが、途中で何かに気付いた様に暴れていた手足を止めた。
小さい肩だ。シルビの息子よりもずっと小さい。
「ペンギン? 何かあったのか?」
答えずに抱きしめる腕に力を込める。それからきっかり十秒後、シルビは息を吸ってモモの助から身を放した。
「――なんでここにいるんですかぁ!」
「ぅえっ、そ、それは」
「貴方の存在自体がこの反乱の要であることはもう理解しているでしょう!? 自覚を持たなけりゃ迷惑を掛けるんです!」
そう怒ったところで来てしまったものは仕方がない。おそらく菊とチョッパーが居たのもモモの助が理由だったのだろう。
好奇心なのか何かあってなのかは分からないが、来てしまった以上菊という護衛を連れていたことだけでも褒めるべきか。
「ペンギーン! 手伝ってくれ! あっ、モモの助! お前何やってんだ! 隠れてろよ!」
「隠れてたでござる!」
チョッパーに呼ばれて立ち上がる。
感染したルフィの容体は、完全に罹患して這々の体だった。全身の水分が枯渇したかの様に肌に潤いがなく、ぜいぜいと息をする様は高熱も出ている故に苦しいからだろう。
それでも生きているのは、否、死ねずにいるのは致死率の高いそれではないからだ。このウイルスは生かしたまま苦しめることに特化している。
だがそれもワクチンを打つまでの話。
「俺が肩代わりしようかぁ?」
「……いい。でも苦しい……助けて……」
「何で後先考えねェんだ! おれに謝れ!」
「ごめん……」
ワクチンを打つシルビの横でチョッパーが怒っている。接触感染でしか広がらないウイルスで本当に良かった。これが空気感染であったならシルビ以外は全滅だ。
「ルフィはバカなのにやっぱりすごいでござる。せっしゃにはあんなマネできぬ……」
「お前ホントにバカだし臆病だし弱えしビビリだしどうしようもねェな!」
「そこまで言われる筋合いはない!」
散々に言われてモモの助が怒り、ルフィに殴りかかろうとして一緒に来た玉という女の子に止められている。この玉という少女はルフィの知り合いでもあったらしい。
今はまだ殴ったら感染するのでシルビも止める側に回ろうかとしたところで、ルフィが怒鳴る。
「行けよモモ!」
「!?」
「あいつらが待ってんのは、お前だろうが!」
モモの助に向かってルフィが岩を投げた。それから逃げるようにモモの助が瓦礫の影から出ていく。
そこでは雷ぞう達が囚人達を相手に反乱の話をしていたが、どうやらルフィがカイドウと同じく『外から来た海賊』だということで難航しているようだった。一度騙された故の猜疑心は分からなくもないが、ほんの少し前にその海賊に助けられたという事実は何とも思っていないのかと疑問に思う。
ここで一貫して海賊を信じないと明言するのであればそれはそれで勝手にすればいいとも思うので、シルビから説得なりなんなりで動く気はなかった。それに今はシルビも海賊だ。
あの康イエの演説を見た後では、民衆の前で『白澤』に成ることもはばかられる。
モモの助を追いかけようとしたシルビの足は止まった。飛び出していったモモの助に喧々囂々と雷ぞうや菊達に詰め寄っていた囚人達が気付く。
二十年前に消えたと思われていた光月おでんの嫡子。その姿を見て一斉に希望を望む民衆達が頭を下げる。
「よくぞご無事で!」
涙ぐむ民衆が待ち望んでいたもの。それがまだ子供の姿でここにある。
シルビの足は止まったままだった。
モモの助が緊張しながらも二十年前の『あの日』に何があったのかを民衆達に話し始める。その姿を暫く見つめてから、シルビはチョッパーとルフィを振り返った。
ルフィはワクチンが効いてきたのか既に干からびている様な様子はなく、しかし腹が減っているらしくだらしなく舌を出しては腹をさすっている。改めて燃費が悪いなと思いつつ片付けをしていたチョッパーへと話しかけた。
「チョッパー君。ルフィ君。俺は船長達の様子が心配だから先に行く」
「えっ。トラ男どうかしたのか!?」
どうやらチョッパーはベポ達が捕まって反乱軍の情報が漏れた事を知らなかったらしい。でなければシルビが『船長達』と言ってすぐに船長を名指しはしないだろう。
情報の伝達がしっかり出来ていないなと考えて、ふと何かが引っかかった。だがそれが何かまでは分からない。
とにかく現状、単独行動を余儀なくされているシルビは他の皆よりも情報の共有が上手く出来ていなかった。花の都であった処刑の映像からしても、シルビが共有出来ていない事は多いと分かっている。
ルフィの奪還とユースタスの情報集めは暫定成功したと考えることにした。実際ルフィは海楼石の手錠もなく、ユースタスもキラーと合流して囚人採掘場を出て行っている。
あの二人を追うのは、これ以上は無意味だ。となればシルビの次の目的は船長と合流してベポ達の奪還だろう。
船長と別れて一晩経って、当然状況は変わっている筈である。
「ルフィ君。言った通り俺は行くからもう鍛錬はつけてあげられねぇ。後はヒョウ五郎さんに教えてもらいなさい」
「おう。トラ男によろしくな!」
よろしく出来ればいいのだが。
採掘場を出て、まずは花の都へ戻ろうとすれば背後から声を掛けられた。振り返ればモモの助が駆け寄ってくるところで。
「どうしました? 民衆とのお話は終わったのですか?」
しゃがんで目線を合わせながら訊ねれば、モモの助は頷いた後何かを言いかけ、しかし言いにくい事だったのかすぐには言わなかった。
「若君?」
「……行ってしまうのか?」
「? ええ。トラファルガーが俺を待っていると思いますので」
「そう、か」
「寂しいのですか?」
「! そそそそそそそういう訳ではござらぬ!」
「大丈夫ですよ。こちらにはルフィ君もいますし。そう簡単にルフィ君が負けるということも無ぇでしょう」
初戦でカイドウに負けていたが。
モモの助の手を握る。
「若君。お父上の御威光に怖じ気つくのは当然のことです。決して臆病だという事ではございません。ですがだからといって俺に甘えるのは間違っております」
どうにかウイルスに感染した全員にワクチンを接種した。あの象頭の看守にももちろんワクチンは接種させたものの、看守達は全員拘束させてもらっている。
「ワクチンの残りはぁ?」
「まだ問題ないぞ。ペンギンは大丈夫か?」
「大丈夫」
肉体的には。
ウイルスに感染して危ない状態のルフィへワクチンを打ちに向かう。その途中でふと見れば、いつの間にかキラーとユースタスの姿は無くなっていた。足を止めたシルビに気付かずチョッパーが走っていく。
まだ濡れたままの地面には足跡。だがそれも少し歩いた先にはもうなくなっていて、二人がどこへ行ったのかは分からない。
挨拶も無しかと少し寂しく思ったものの、挨拶をし合う関係でもないのでそんなものだろうと納得する。ましてや騙し騙された者という関係でもあった。
地面に落ちていた筈の肩掛けが無くなっている。落ちていた場所の傍には一人分の足跡。
「……あんな汚れたの、持ってくなよぉ」
「ペンギン!」
消えた海賊の居た辺りを見つめていたシルビを呼ぶ声に振り返れば、少し離れた瓦礫の影からモモの助がこちらへ向かって走ってくる。
何だってこんな場所に反乱軍の総大将であるお前が来ているんだとか、後ろの女の子は誰だとか言いたいことは色々とあったが、それらを一つとして言えないままシルビはモモの助に向かって駆けだした。駆けだして、年相応の小さな少年を抱き留める。
モモの助は抱きしめられるつもりは無く、ただ純粋に近付いて話をしよう程度のそれだったのだろう。いきなり抱きしめてきたシルビに驚いて武士がどうのこうのと騒いでいたが、途中で何かに気付いた様に暴れていた手足を止めた。
小さい肩だ。シルビの息子よりもずっと小さい。
「ペンギン? 何かあったのか?」
答えずに抱きしめる腕に力を込める。それからきっかり十秒後、シルビは息を吸ってモモの助から身を放した。
「――なんでここにいるんですかぁ!」
「ぅえっ、そ、それは」
「貴方の存在自体がこの反乱の要であることはもう理解しているでしょう!? 自覚を持たなけりゃ迷惑を掛けるんです!」
そう怒ったところで来てしまったものは仕方がない。おそらく菊とチョッパーが居たのもモモの助が理由だったのだろう。
好奇心なのか何かあってなのかは分からないが、来てしまった以上菊という護衛を連れていたことだけでも褒めるべきか。
「ペンギーン! 手伝ってくれ! あっ、モモの助! お前何やってんだ! 隠れてろよ!」
「隠れてたでござる!」
チョッパーに呼ばれて立ち上がる。
感染したルフィの容体は、完全に罹患して這々の体だった。全身の水分が枯渇したかの様に肌に潤いがなく、ぜいぜいと息をする様は高熱も出ている故に苦しいからだろう。
それでも生きているのは、否、死ねずにいるのは致死率の高いそれではないからだ。このウイルスは生かしたまま苦しめることに特化している。
だがそれもワクチンを打つまでの話。
「俺が肩代わりしようかぁ?」
「……いい。でも苦しい……助けて……」
「何で後先考えねェんだ! おれに謝れ!」
「ごめん……」
ワクチンを打つシルビの横でチョッパーが怒っている。接触感染でしか広がらないウイルスで本当に良かった。これが空気感染であったならシルビ以外は全滅だ。
「ルフィはバカなのにやっぱりすごいでござる。せっしゃにはあんなマネできぬ……」
「お前ホントにバカだし臆病だし弱えしビビリだしどうしようもねェな!」
「そこまで言われる筋合いはない!」
散々に言われてモモの助が怒り、ルフィに殴りかかろうとして一緒に来た玉という女の子に止められている。この玉という少女はルフィの知り合いでもあったらしい。
今はまだ殴ったら感染するのでシルビも止める側に回ろうかとしたところで、ルフィが怒鳴る。
「行けよモモ!」
「!?」
「あいつらが待ってんのは、お前だろうが!」
モモの助に向かってルフィが岩を投げた。それから逃げるようにモモの助が瓦礫の影から出ていく。
そこでは雷ぞう達が囚人達を相手に反乱の話をしていたが、どうやらルフィがカイドウと同じく『外から来た海賊』だということで難航しているようだった。一度騙された故の猜疑心は分からなくもないが、ほんの少し前にその海賊に助けられたという事実は何とも思っていないのかと疑問に思う。
ここで一貫して海賊を信じないと明言するのであればそれはそれで勝手にすればいいとも思うので、シルビから説得なりなんなりで動く気はなかった。それに今はシルビも海賊だ。
あの康イエの演説を見た後では、民衆の前で『白澤』に成ることもはばかられる。
モモの助を追いかけようとしたシルビの足は止まった。飛び出していったモモの助に喧々囂々と雷ぞうや菊達に詰め寄っていた囚人達が気付く。
二十年前に消えたと思われていた光月おでんの嫡子。その姿を見て一斉に希望を望む民衆達が頭を下げる。
「よくぞご無事で!」
涙ぐむ民衆が待ち望んでいたもの。それがまだ子供の姿でここにある。
シルビの足は止まったままだった。
モモの助が緊張しながらも二十年前の『あの日』に何があったのかを民衆達に話し始める。その姿を暫く見つめてから、シルビはチョッパーとルフィを振り返った。
ルフィはワクチンが効いてきたのか既に干からびている様な様子はなく、しかし腹が減っているらしくだらしなく舌を出しては腹をさすっている。改めて燃費が悪いなと思いつつ片付けをしていたチョッパーへと話しかけた。
「チョッパー君。ルフィ君。俺は船長達の様子が心配だから先に行く」
「えっ。トラ男どうかしたのか!?」
どうやらチョッパーはベポ達が捕まって反乱軍の情報が漏れた事を知らなかったらしい。でなければシルビが『船長達』と言ってすぐに船長を名指しはしないだろう。
情報の伝達がしっかり出来ていないなと考えて、ふと何かが引っかかった。だがそれが何かまでは分からない。
とにかく現状、単独行動を余儀なくされているシルビは他の皆よりも情報の共有が上手く出来ていなかった。花の都であった処刑の映像からしても、シルビが共有出来ていない事は多いと分かっている。
ルフィの奪還とユースタスの情報集めは暫定成功したと考えることにした。実際ルフィは海楼石の手錠もなく、ユースタスもキラーと合流して囚人採掘場を出て行っている。
あの二人を追うのは、これ以上は無意味だ。となればシルビの次の目的は船長と合流してベポ達の奪還だろう。
船長と別れて一晩経って、当然状況は変わっている筈である。
「ルフィ君。言った通り俺は行くからもう鍛錬はつけてあげられねぇ。後はヒョウ五郎さんに教えてもらいなさい」
「おう。トラ男によろしくな!」
よろしく出来ればいいのだが。
採掘場を出て、まずは花の都へ戻ろうとすれば背後から声を掛けられた。振り返ればモモの助が駆け寄ってくるところで。
「どうしました? 民衆とのお話は終わったのですか?」
しゃがんで目線を合わせながら訊ねれば、モモの助は頷いた後何かを言いかけ、しかし言いにくい事だったのかすぐには言わなかった。
「若君?」
「……行ってしまうのか?」
「? ええ。トラファルガーが俺を待っていると思いますので」
「そう、か」
「寂しいのですか?」
「! そそそそそそそういう訳ではござらぬ!」
「大丈夫ですよ。こちらにはルフィ君もいますし。そう簡単にルフィ君が負けるということも無ぇでしょう」
初戦でカイドウに負けていたが。
モモの助の手を握る。
「若君。お父上の御威光に怖じ気つくのは当然のことです。決して臆病だという事ではございません。ですがだからといって俺に甘えるのは間違っております」