ワノ国編
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夢主視点
朝になって、囚人採掘場を治めているクイーンが起きてくると同時に看守達が騒がしくなった。どうやら一晩の間に花の都の方では様々な騒動があったらしい。
まさか船長が捕まったなんて話では無いだろうなと看守達の合間を縫って情報収集に勤しめば、ワノ国一の花魁だった小紫という女性の葬儀が今日だという話だった。クイーンはその小紫が大好きだったそうで、亡くなったと報せを聞いてからずっと泣き騒いでいるらしい。
小紫が亡くなったのはナミやロビンが潜入した筈の将軍オロチによる宴会の最中。どうすれば宴会の最中に死ぬのかと思ったものの、この採掘場までに詳細は伝わっていなかった。
他に『丑三つ小僧』が捕まったという話である。
「丑三つ小僧って誰なのか知ってます?」
「いや、拙者は知らぬ」
土俵の中の囚人として捕まっているルフィ達の傍から離れて一度隠れた場所からは、何故か用意されている光画タニシの映像がはっきりと見えた。映像を転送するタニシだ。
どうやら亡くなったワノ国一の花魁小紫の葬儀はその人気の高さ故、大混乱を防ぐ為にどこからでも葬儀が見られる様に映像を各地域で一斉放送する予定だったらしい。そんなに人気があるとしても遊女ではどうなのだろうかと思ってしまうのはシルビが娼婦の有様を知っているからか。
ピンからキリまでいるとはいえ、彼女達は悲惨な犠牲者だとも言えるだろう。
「おい風船! 今日の相撲はまだか!?」
「なんか夜の内に太ってねェか!? 貴様ら!?」
「だから食い過ぎはバレるというのに、ルフィ殿……」
土俵の上のルフィ達は、夜の内にシルビや雷ぞうがこっそり盗んで差し入れたお汁粉をたらふく食べたせいで随分とふくよかになってしまっていた。クイーンも丸い体格をしているのだが、そのクイーンに勝るとも劣らない太りようだ。ついでにヒョウ五郎も。
一応シルビも雷ぞうも途中で止めたのだが聞く耳を持たなかったのである。
「まぁ、何かあってヤバそうだったら俺が出ましょう」
「良いのか? もう協力は出来ぬと」
「反オロチの謀反には協力出来ませんがルフィ君個人に加勢するなとは言われてませんから」
隣に隠れていた雷ぞうがそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。
雷ぞうは情報伝達が出来ておらずに都での出来事の殆どを知らない。だから謀反の計画がバレたこともベポ達が捕まったことも知らなかった訳だが、知らなかった故にシルビを含めたハートの海賊団相手に踏ん切りが付かないのかも知れなかった。
というより、しのぶが感情的すぎただけだったのか。そこは分からない。
タニシによる映像が壁面に映し出される。
壁面に映し出された映像で、一階部分が大きな牢屋になっている屋敷とその前の広場で磔にされている人の姿が映し出される。あれが牢屋敷なのだろうと背景について考えながら視線を磔にされている人物に移し、シルビは小さく息を呑んだ。
民衆が近づけないように竹を編んだ柵の向こう。高い十字架にボロい反物を着せられて磔にされている男を知っていた。
「……トの康さん」
隣で雷ぞうも言葉を無くしている。唯一カリブーだけがシルビ達より呑気そうに映像を眺めていた。
トの康は暴力を受けたのか身体の至るとこに青あざや塞がっているようには見えない切傷がつけられている。犯罪人に対する暴行が認められているにしてもそれは見る側にとってはあまりいいものだとは思えない。ましてやそれが一度でも顔を合わせたことのある知り合いならば。
きっと痛むだろう。それでもトの康は笑顔以外を浮かべずに口を開いた。
『まずは皆に詫びたい事が一つ! オロチのバカに言いたき事が一つ! それを言うたら笑ってあの世へ参ろうぞ!』
およそ処刑直前の罪人らしからぬ口振り。だがそれも貧乏長屋の味方となれば当然かと思っていれば、どうやらそれだけではなかったらしい。
映像の向こうでトの康の罪状が語られる。
『昨夜都にて盗みを働いたこの男。落ちも落ちたり現在『えびす町』にて太鼓持ちを生業をする『白舞』の元“大名”! 『霜月康イエ』であった! 過去に軍を率いて『将軍オロチ様』に楯突いた大罪により、花魁小紫の“殉死者”として屈辱的な『死刑』を言い渡す!』
「……霜月?」
「康、イエ、様だと……!?」
霜月、といえばワノ国で古くから光月に従ってきた家系だった筈だ。とはいえシルビのワノ国に関する知識は古いが。
雷ぞうは雷ぞうで『康イエ』を知っていたらしい。今知らされた罪状を考えれば二十年前、オロチが光月おでんを殺した際に関わってもいたのだろう。それなら雷ぞうが知っているのも頷ける。
トの康改め康イエは、磔にされたまま笑う。笑って堂々とオロチに対して暴言を吐いた。
取り返しはきっともう出来ない。
オロチを怒らせて民衆の視線を集めて、反オロチ軍の報せであった判じ絵を自分が作ったものだと嘯いた。
「なんと」
「あの人は、判じ絵や反乱同志のことがバレてしまったって知ってたぁ」
しのぶと言い合いになって長屋を出た直後、康イエがその場に居たのを思い出す。彼はそもそも反オロチの計画が為されている事などもあの時まで知らなかっただろう。
いや、知っていたのか。彼は“シルビ”を見てしまったから。
『……オロチを殺せばハイ終わり、とはいかねぇんですよ』
まだ数日とすら経っていない夜。枯れた井戸の傍でシルビは“話して”しまった。
あの時既にシルビは彼がただの太鼓持ちではないことだけは分かっていたのだ。その雰囲気やさりげなくシルビやゾロを探っていた様子も、決してオロチの重責に苛まれるだけの民衆の一人ではないと分かっていた。
分かっていたのに。シルビは“また”やってしまったのかもしれない。
「――ぁ、……嗚呼……、そんな」
いつだって吐いた言葉はもう戻せないのだ。そんな意味で言ったのではなくとも。
滔々と判じ絵が自分のイタズラだと告白する康イエはどこを見ているのか。彼の言葉はそれが嘘であっても真実だと思わせる強さがあった。
きっと彼は自分の影響力をちゃんと分かっていたのだ。だからここで嘘を吐くことで全てを白紙に戻してみせた。
判じ絵はただのイタズラ。月の印はただの流行の模様。それらが組み合わさって捕らえられた者達はただの民衆。
オロチはそんな根拠のない妄言に踊らされた愚か者。
反オロチ軍の危機は康イエの存在で全てがひっくり返された。
『仮にそうであるのならこの二十年の間に誰かがやってる。それが成されなかったのは誰にも出来なかったからじゃねぇ。誰もが“出来ねぇ”と思い込む程思考が固まってたからだぁ』
そんなつもりで言った訳では決してなかったのに。
身が震える。康イエが映像越しに何かを見た。
『――白澤さま。この絶景、美しきものでございましょう』
悲鳴が出ないように口を押さえる。涙は一筋堪えられなかった。
彼の背を最後に押してしまった手の一つがシルビの言葉だと、彼の気持ちではそんなつもりはなくとも呪われた気分になる。恨むとか怒るとかそんなものではない。
『どうかご覧あれ。光月とその家臣が築きし我が国よ』
そう言って康イエが笑う。SMILEによる強制的な笑みではなく、心からのそれであったと願いたいのはシルビだけか。
映像では見えないが、将軍オロチが直々に康イエを殺しにでも来たのか騒がしくなる。その頃には映像をシルビは見ていられなくなってその場に膝を突いた。
無性に誰かにすがりたい。けれども傍には誰もいなかった。すがる権利もきっとない。
彼を殺すのはシルビだ。
『子供らの目を塞げ! 『光月』に仕えた最後の大名が、いやさえびす町のお調子者があの世へ参るぞ! 歌ってゆこうか!』
いくつもの銃声。悲鳴。
笑い声。
朝になって、囚人採掘場を治めているクイーンが起きてくると同時に看守達が騒がしくなった。どうやら一晩の間に花の都の方では様々な騒動があったらしい。
まさか船長が捕まったなんて話では無いだろうなと看守達の合間を縫って情報収集に勤しめば、ワノ国一の花魁だった小紫という女性の葬儀が今日だという話だった。クイーンはその小紫が大好きだったそうで、亡くなったと報せを聞いてからずっと泣き騒いでいるらしい。
小紫が亡くなったのはナミやロビンが潜入した筈の将軍オロチによる宴会の最中。どうすれば宴会の最中に死ぬのかと思ったものの、この採掘場までに詳細は伝わっていなかった。
他に『丑三つ小僧』が捕まったという話である。
「丑三つ小僧って誰なのか知ってます?」
「いや、拙者は知らぬ」
土俵の中の囚人として捕まっているルフィ達の傍から離れて一度隠れた場所からは、何故か用意されている光画タニシの映像がはっきりと見えた。映像を転送するタニシだ。
どうやら亡くなったワノ国一の花魁小紫の葬儀はその人気の高さ故、大混乱を防ぐ為にどこからでも葬儀が見られる様に映像を各地域で一斉放送する予定だったらしい。そんなに人気があるとしても遊女ではどうなのだろうかと思ってしまうのはシルビが娼婦の有様を知っているからか。
ピンからキリまでいるとはいえ、彼女達は悲惨な犠牲者だとも言えるだろう。
「おい風船! 今日の相撲はまだか!?」
「なんか夜の内に太ってねェか!? 貴様ら!?」
「だから食い過ぎはバレるというのに、ルフィ殿……」
土俵の上のルフィ達は、夜の内にシルビや雷ぞうがこっそり盗んで差し入れたお汁粉をたらふく食べたせいで随分とふくよかになってしまっていた。クイーンも丸い体格をしているのだが、そのクイーンに勝るとも劣らない太りようだ。ついでにヒョウ五郎も。
一応シルビも雷ぞうも途中で止めたのだが聞く耳を持たなかったのである。
「まぁ、何かあってヤバそうだったら俺が出ましょう」
「良いのか? もう協力は出来ぬと」
「反オロチの謀反には協力出来ませんがルフィ君個人に加勢するなとは言われてませんから」
隣に隠れていた雷ぞうがそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。
雷ぞうは情報伝達が出来ておらずに都での出来事の殆どを知らない。だから謀反の計画がバレたこともベポ達が捕まったことも知らなかった訳だが、知らなかった故にシルビを含めたハートの海賊団相手に踏ん切りが付かないのかも知れなかった。
というより、しのぶが感情的すぎただけだったのか。そこは分からない。
タニシによる映像が壁面に映し出される。
壁面に映し出された映像で、一階部分が大きな牢屋になっている屋敷とその前の広場で磔にされている人の姿が映し出される。あれが牢屋敷なのだろうと背景について考えながら視線を磔にされている人物に移し、シルビは小さく息を呑んだ。
民衆が近づけないように竹を編んだ柵の向こう。高い十字架にボロい反物を着せられて磔にされている男を知っていた。
「……トの康さん」
隣で雷ぞうも言葉を無くしている。唯一カリブーだけがシルビ達より呑気そうに映像を眺めていた。
トの康は暴力を受けたのか身体の至るとこに青あざや塞がっているようには見えない切傷がつけられている。犯罪人に対する暴行が認められているにしてもそれは見る側にとってはあまりいいものだとは思えない。ましてやそれが一度でも顔を合わせたことのある知り合いならば。
きっと痛むだろう。それでもトの康は笑顔以外を浮かべずに口を開いた。
『まずは皆に詫びたい事が一つ! オロチのバカに言いたき事が一つ! それを言うたら笑ってあの世へ参ろうぞ!』
およそ処刑直前の罪人らしからぬ口振り。だがそれも貧乏長屋の味方となれば当然かと思っていれば、どうやらそれだけではなかったらしい。
映像の向こうでトの康の罪状が語られる。
『昨夜都にて盗みを働いたこの男。落ちも落ちたり現在『えびす町』にて太鼓持ちを生業をする『白舞』の元“大名”! 『霜月康イエ』であった! 過去に軍を率いて『将軍オロチ様』に楯突いた大罪により、花魁小紫の“殉死者”として屈辱的な『死刑』を言い渡す!』
「……霜月?」
「康、イエ、様だと……!?」
霜月、といえばワノ国で古くから光月に従ってきた家系だった筈だ。とはいえシルビのワノ国に関する知識は古いが。
雷ぞうは雷ぞうで『康イエ』を知っていたらしい。今知らされた罪状を考えれば二十年前、オロチが光月おでんを殺した際に関わってもいたのだろう。それなら雷ぞうが知っているのも頷ける。
トの康改め康イエは、磔にされたまま笑う。笑って堂々とオロチに対して暴言を吐いた。
取り返しはきっともう出来ない。
オロチを怒らせて民衆の視線を集めて、反オロチ軍の報せであった判じ絵を自分が作ったものだと嘯いた。
「なんと」
「あの人は、判じ絵や反乱同志のことがバレてしまったって知ってたぁ」
しのぶと言い合いになって長屋を出た直後、康イエがその場に居たのを思い出す。彼はそもそも反オロチの計画が為されている事などもあの時まで知らなかっただろう。
いや、知っていたのか。彼は“シルビ”を見てしまったから。
『……オロチを殺せばハイ終わり、とはいかねぇんですよ』
まだ数日とすら経っていない夜。枯れた井戸の傍でシルビは“話して”しまった。
あの時既にシルビは彼がただの太鼓持ちではないことだけは分かっていたのだ。その雰囲気やさりげなくシルビやゾロを探っていた様子も、決してオロチの重責に苛まれるだけの民衆の一人ではないと分かっていた。
分かっていたのに。シルビは“また”やってしまったのかもしれない。
「――ぁ、……嗚呼……、そんな」
いつだって吐いた言葉はもう戻せないのだ。そんな意味で言ったのではなくとも。
滔々と判じ絵が自分のイタズラだと告白する康イエはどこを見ているのか。彼の言葉はそれが嘘であっても真実だと思わせる強さがあった。
きっと彼は自分の影響力をちゃんと分かっていたのだ。だからここで嘘を吐くことで全てを白紙に戻してみせた。
判じ絵はただのイタズラ。月の印はただの流行の模様。それらが組み合わさって捕らえられた者達はただの民衆。
オロチはそんな根拠のない妄言に踊らされた愚か者。
反オロチ軍の危機は康イエの存在で全てがひっくり返された。
『仮にそうであるのならこの二十年の間に誰かがやってる。それが成されなかったのは誰にも出来なかったからじゃねぇ。誰もが“出来ねぇ”と思い込む程思考が固まってたからだぁ』
そんなつもりで言った訳では決してなかったのに。
身が震える。康イエが映像越しに何かを見た。
『――白澤さま。この絶景、美しきものでございましょう』
悲鳴が出ないように口を押さえる。涙は一筋堪えられなかった。
彼の背を最後に押してしまった手の一つがシルビの言葉だと、彼の気持ちではそんなつもりはなくとも呪われた気分になる。恨むとか怒るとかそんなものではない。
『どうかご覧あれ。光月とその家臣が築きし我が国よ』
そう言って康イエが笑う。SMILEによる強制的な笑みではなく、心からのそれであったと願いたいのはシルビだけか。
映像では見えないが、将軍オロチが直々に康イエを殺しにでも来たのか騒がしくなる。その頃には映像をシルビは見ていられなくなってその場に膝を突いた。
無性に誰かにすがりたい。けれども傍には誰もいなかった。すがる権利もきっとない。
彼を殺すのはシルビだ。
『子供らの目を塞げ! 『光月』に仕えた最後の大名が、いやさえびす町のお調子者があの世へ参るぞ! 歌ってゆこうか!』
いくつもの銃声。悲鳴。
笑い声。