原作前日常編
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夢主視点
林檎のリゾットは気に入られた様で、詰め込むように頬張るトラファルガーにシルビはちょっと和んだ。そういえば誰かと食事をするのも久しぶりである。
空になった食器を下げてお茶を淹れて戻れば、トラファルガーは更にシルビを勧誘する決意を強めたのか、テーブルへ身を乗り出してシルビの顔を覗き込んだ。
「もう一度言う。オレの仲間にならないか?」
「遠慮するぅ」
「なんでだ」
一度目には聞かれなかった質問に、シルビは音を立ててお茶を啜ってから答える。
「『何』の仲間か聞いてねぇからぁ?」
「……オレを知らないのか?」
「知らねぇなぁ。麻薬密売人?」
「海賊だ!」
「じゃあ船長呼んできなさい。オタクの船員さんちょっと迷惑だからっ」
刀の鯉口が切られる音に椅子から立ち上がって距離をとれば、持っていた長刀を抜きかけているトラファルガーが不機嫌そうにシルビを睨んでいた。
「オレが船長だ」
「そりゃ失礼」
子供扱いしたのも悪かったのだろうが、船長だと気付かなかったのも悪かったのだろう。
しかし言い訳をさせてもらうなら、船長を名乗るのにトラファルガーは若い。
海賊になるのに年齢は関係ないといえどおそらく彼は駆け出しか結成したばかり。それで船員を集めているといった状況か。ならばこんな閑静な島ではなく違う場所の酒場へでも顔を出して、屈強そうな人材を探せばいいものを。
刀を鞘へ納め直したトラファルガーにシルビも座り直す。屋内だというのに外さない帽子の下からの視線がきついのは甘んじて受ける。失礼な発言をしたのはシルビが先だ。
「済まなかったよ。世間話にゃ疎ぇしここ暫くこの島の外にも出てねぇ。島の外で海軍が爆発してたって俺は気付かねぇだろうなぁ」
「……ハートの海賊団船長。トラファルガー・ローだ」
ズボンのポケットへ手を突っ込んだかと思うと、トラファルガーが出してきたのは彼の顔写真が載った手配書である。受け取って目を通せば、まだ若いのにシルビの今の感覚では随分な金額の賞金が賭けられていた。
それにしても『死の外科医』とは大層な二つ名である。しかしシルビが今までの人生で付けられてきた二つ名の方が変かも知れないと思うし、また機嫌を悪くさせてしまうだろうと思うと妙な事は言えない。
ただ、『外科医』というのは気になった。
「『元』医者なのかぁ?」
「違う。現在進行形で医者もやってる」
「海賊で、医者」
「だからクルーも医学知識がある奴がいい」
トラファルガーの言葉に、そういうことかと納得する。
自分の船へ載せるに当たりこだわりがあり、その辺の適当な者ではトラファルガーは良しとしないのだ。
しかしそれだけではシルビが彼の眼鏡に適った理由が分からない。シルビは自分で言うのもどうかと思うが、『今生』ではまだ有名になるようなことはしでかした覚えが無かった。
人前で暴れた経験も無いので、誰かがシルビが『戦える』事を知っているはずも無い。ましてやこんな閑静で平穏な島にまで勧誘へ来られるような、目立つ行為にはとんと覚えが無いのである。
それでは彼はどうしてシルビを見つけ出したのだろうか、という疑問は、トラファルガーの次の言葉にアッサリと解明した。
「でも強くて医学知識のある奴探すのが面倒になったから、医学知識のある奴を誘って強くする事にした」
「うぉおおおおおい!」
ある意味究極な方法であると言えよう。身体を鍛えるのと頭脳を鍛えるのとでは身体の方が比較的楽に違いない。それならば船員に医学知識を学ばせればという考えもあるが、医学知識は特殊な上にある程度下地の才能が必要だ。
そうでなくとも一般人だったものが、内臓やスプラッタにすぐ耐えられるようになるとも思えない。海賊として人を殺す事があったとしても、医療行為での解剖や傷口の直視はまた違うものだ。
「それで手当たり次第医者に声を掛けている」
「トラファルガー」
「ローでいい。『船長』でもいいぜ?」
「……ロー。全ての人が君のように犯罪行為と福祉行為を両立させられるとは限らねぇよ」
「だがお前は出来るだろ」
頭を抱えているところに掛けられた声へ、顔を上げる。トラファルガーは刀を肩へ担ぐように抱えたままニヤリと笑った。
「今までに声を掛けた奴等は、海賊と聞いただけで顔を青褪めさせて命乞いしながら断ってきた。だがアンタは冷静だ」
「突拍子過ぎて反応出来ねぇだけだとは思わねぇのかぁ」
「思わねェな。ついでに言うならお前はオレのこだわりを別に反論も否定もしなかった。そういう考え方もアリだと受け入れられる奴の態度だ。今の発言だってオレの考えを頭ごなしに否定した訳じゃない。ならお前はそういう考えに準ずることだって出来るはずだ」
「……そこまで分析出来て、君は今までの勧誘には失敗しているんだろぉ?」
「まぁ、結果的にはそうだな」
頭はいいのに馬鹿な子だ、と口にすればトラファルガーは怒るだろう。シルビは溜め息を吐いて椅子から立ち上がった。
「この島へはいつまで居るつもりだぁ?」
「あと三日を予定してる」
「じゃあ、明日入院してる医者んとこ行ってくるから、そしたら君の船を教えてくれぇ」
目を見開いてシルビを見上げたトラファルガーの表情にじわじわと喜びが滲んでいくのを眺めて、シルビはこの島を出る前にしなければいけないことが幾つあるのかを考える。
こんな馬鹿な子を放置するのは心配だ。もう少し経験を積めば立回りも上手くなって、腕っ節以外の理由でも懸賞金が上がるだろうし、シルビが心配するような者ではなくなるだろうが、そこまで生き延びられるかが不安である。
それはシルビを仲間に出来て喜んでいるトラファルガーを、現段階ではいつでも『捨てられる』ということに他ならないが、シルビとしてはその辺りはどうでもよかった。
林檎のリゾットは気に入られた様で、詰め込むように頬張るトラファルガーにシルビはちょっと和んだ。そういえば誰かと食事をするのも久しぶりである。
空になった食器を下げてお茶を淹れて戻れば、トラファルガーは更にシルビを勧誘する決意を強めたのか、テーブルへ身を乗り出してシルビの顔を覗き込んだ。
「もう一度言う。オレの仲間にならないか?」
「遠慮するぅ」
「なんでだ」
一度目には聞かれなかった質問に、シルビは音を立ててお茶を啜ってから答える。
「『何』の仲間か聞いてねぇからぁ?」
「……オレを知らないのか?」
「知らねぇなぁ。麻薬密売人?」
「海賊だ!」
「じゃあ船長呼んできなさい。オタクの船員さんちょっと迷惑だからっ」
刀の鯉口が切られる音に椅子から立ち上がって距離をとれば、持っていた長刀を抜きかけているトラファルガーが不機嫌そうにシルビを睨んでいた。
「オレが船長だ」
「そりゃ失礼」
子供扱いしたのも悪かったのだろうが、船長だと気付かなかったのも悪かったのだろう。
しかし言い訳をさせてもらうなら、船長を名乗るのにトラファルガーは若い。
海賊になるのに年齢は関係ないといえどおそらく彼は駆け出しか結成したばかり。それで船員を集めているといった状況か。ならばこんな閑静な島ではなく違う場所の酒場へでも顔を出して、屈強そうな人材を探せばいいものを。
刀を鞘へ納め直したトラファルガーにシルビも座り直す。屋内だというのに外さない帽子の下からの視線がきついのは甘んじて受ける。失礼な発言をしたのはシルビが先だ。
「済まなかったよ。世間話にゃ疎ぇしここ暫くこの島の外にも出てねぇ。島の外で海軍が爆発してたって俺は気付かねぇだろうなぁ」
「……ハートの海賊団船長。トラファルガー・ローだ」
ズボンのポケットへ手を突っ込んだかと思うと、トラファルガーが出してきたのは彼の顔写真が載った手配書である。受け取って目を通せば、まだ若いのにシルビの今の感覚では随分な金額の賞金が賭けられていた。
それにしても『死の外科医』とは大層な二つ名である。しかしシルビが今までの人生で付けられてきた二つ名の方が変かも知れないと思うし、また機嫌を悪くさせてしまうだろうと思うと妙な事は言えない。
ただ、『外科医』というのは気になった。
「『元』医者なのかぁ?」
「違う。現在進行形で医者もやってる」
「海賊で、医者」
「だからクルーも医学知識がある奴がいい」
トラファルガーの言葉に、そういうことかと納得する。
自分の船へ載せるに当たりこだわりがあり、その辺の適当な者ではトラファルガーは良しとしないのだ。
しかしそれだけではシルビが彼の眼鏡に適った理由が分からない。シルビは自分で言うのもどうかと思うが、『今生』ではまだ有名になるようなことはしでかした覚えが無かった。
人前で暴れた経験も無いので、誰かがシルビが『戦える』事を知っているはずも無い。ましてやこんな閑静で平穏な島にまで勧誘へ来られるような、目立つ行為にはとんと覚えが無いのである。
それでは彼はどうしてシルビを見つけ出したのだろうか、という疑問は、トラファルガーの次の言葉にアッサリと解明した。
「でも強くて医学知識のある奴探すのが面倒になったから、医学知識のある奴を誘って強くする事にした」
「うぉおおおおおい!」
ある意味究極な方法であると言えよう。身体を鍛えるのと頭脳を鍛えるのとでは身体の方が比較的楽に違いない。それならば船員に医学知識を学ばせればという考えもあるが、医学知識は特殊な上にある程度下地の才能が必要だ。
そうでなくとも一般人だったものが、内臓やスプラッタにすぐ耐えられるようになるとも思えない。海賊として人を殺す事があったとしても、医療行為での解剖や傷口の直視はまた違うものだ。
「それで手当たり次第医者に声を掛けている」
「トラファルガー」
「ローでいい。『船長』でもいいぜ?」
「……ロー。全ての人が君のように犯罪行為と福祉行為を両立させられるとは限らねぇよ」
「だがお前は出来るだろ」
頭を抱えているところに掛けられた声へ、顔を上げる。トラファルガーは刀を肩へ担ぐように抱えたままニヤリと笑った。
「今までに声を掛けた奴等は、海賊と聞いただけで顔を青褪めさせて命乞いしながら断ってきた。だがアンタは冷静だ」
「突拍子過ぎて反応出来ねぇだけだとは思わねぇのかぁ」
「思わねェな。ついでに言うならお前はオレのこだわりを別に反論も否定もしなかった。そういう考え方もアリだと受け入れられる奴の態度だ。今の発言だってオレの考えを頭ごなしに否定した訳じゃない。ならお前はそういう考えに準ずることだって出来るはずだ」
「……そこまで分析出来て、君は今までの勧誘には失敗しているんだろぉ?」
「まぁ、結果的にはそうだな」
頭はいいのに馬鹿な子だ、と口にすればトラファルガーは怒るだろう。シルビは溜め息を吐いて椅子から立ち上がった。
「この島へはいつまで居るつもりだぁ?」
「あと三日を予定してる」
「じゃあ、明日入院してる医者んとこ行ってくるから、そしたら君の船を教えてくれぇ」
目を見開いてシルビを見上げたトラファルガーの表情にじわじわと喜びが滲んでいくのを眺めて、シルビはこの島を出る前にしなければいけないことが幾つあるのかを考える。
こんな馬鹿な子を放置するのは心配だ。もう少し経験を積めば立回りも上手くなって、腕っ節以外の理由でも懸賞金が上がるだろうし、シルビが心配するような者ではなくなるだろうが、そこまで生き延びられるかが不安である。
それはシルビを仲間に出来て喜んでいるトラファルガーを、現段階ではいつでも『捨てられる』ということに他ならないが、シルビとしてはその辺りはどうでもよかった。