ワノ国編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
船長に不満をぶつけるにはまだ早い。そうは分かっていてもゾロの消息に関する手がかりの無さに少しばかりシルビは絶望した。流石にここまで筋金入りの迷子だとは予想していなかったというのもある。
思えばドレスローザでも、あの騒動の最中にはゾロのことはあまり目撃していなかったかもしれない。あの時はゾロの事を意識していなかったので迷子になりやすいという事を深く考えていなかったが、さらに言えばドレスローザを脱出する時にゾロ一人だけ見当違いの方向へ向かっていたのを捕まえた覚えがある。
もしあの時捕まえなければ、ゾロはどこへ行っていたのだろうか。
白舞という地区と花の都の間にある川の水を汲む。水筒に入れる前に自身の掌を“通過”させて害のある成分や物質を全て“拒絶”した。
手の上に集まった有害物質の塊は中和して無害化し捨てる。シルビだからこそ出来る浄化方法だった。
もちろんこの方法でこの国全ての土や水から有害物質を排除するには膨大な時間が掛かる。そうでなくとも手順を間違えれば最悪シルビの身体が汚染されてしまうだろう。
だからこの方法での浄化は誰にも言わない。
花の都の中はある程度歩き回ってみたが、特にゾロに繋がる情報はなかった。これはもう花の都にゾロはいないと考えた方がいいだろうと都を出てきたのだが、だからといって行き先に宛ては全く無い。
水の入った水筒を提げて歩き出す。向かうのはかつて神社があった場所だ。
花の都からそう遠くない、城下町にしては寂れた町を少し離れた場所にあったそれはけれども、今は見る影もない廃屋に変わり果てていた。数十年は全く手入れなどされていないのであろうそれの屋根は崩れ、柱は白アリにでもやられたのか穴だらけ。
賽銭箱は既に蓋が開けられ中身は空。そもそも御神体すら盗まれていて中には何も無い。とはいえ何を置いていたのかすら覚えていなかった。
「バチ当たりだなぁ。俺が言うのもなんだけどぉ」
今にも崩れそうな社の中に入り、かつて御神体が置かれていたはずの場所へ持ってきた水筒を置く。そうして息を吐いたところで外から声がした。
「おうコラ! 神社に入っちゃダメだろうが! もう盗めるモンなぞないだろうけどよ」
振り向けば、見覚えのない大柄な男。どこかモモの助や錦えもん達と似た雰囲気を持ったその男は、闊達とした笑みを浮かべてシルビを見ていた。
「……ここは、俺の家だからいいんです」
「随分尊大な嘘を吐く」
男が空っぽな賽銭箱の前で手を合わせる。社から出ながらそれを見ていれば、参拝を終えた男が顔を上げてシルビを見た。
「お参りぃ?」
「こんな廃神社でも神様が居んなら手を合わせてもバチは当たるまい」
「毎日?」
「たまたまだ」
神頼みという段階はこの国の者にとってもう過ぎ去ってしまっているだろう。それでも神社を見かけては参拝するというのであれば、この男は随分と奇特な者である。
実際、この神社に神はいなかった。聞き届ける耳もなく見守る目もない。
「アンタは見たところこの辺のモンじゃねェな。外から来たのか」
男に訊かれてシルビはどう答えたものかと悩む。ここで素直にそうだと言ってもカイドウ軍の関係者だと思われるだけなのだろうが、実際にはそうではない。かといって外から来た訳ではないと言っても嘘になる。大昔には一時期ここに滞在していた、と言ったとしても信じてはもらえないだろう。
言い淀むシルビに男はどう思ったのか、シルビが答える前に顔を逸らして歩き出してしまった。自分から質問しておいて答えを聞かずに去るのかと思い、何となく男の後を付いていく。
どうせゾロの手掛かりもなく行く宛ても無いのだ。多少寄り道をしても構わないだろう。
「どこに行くんです?」
「ここの近くにあるえびす町だ。知り合いがいてな」
知り合いの元へ向かう途中で神社を見かけ、それで参拝しようとしたらシルビと遭遇した、という具合だろうか。
男の目的地は『えびす町』という、花の都の近くにあるおこぼれ町だった。おこぼれ町とはワカメに聞いた通り、花の都で廃棄された食べかけの食料などをおこぼれとして貰って生活している町で、そのおこぼれの中には『SMILE』が混ざっていたらしい。
『SMILE』というのは、シルビの記憶が正しければパンクハザードでシーザーによって研究製造されていた人造悪魔の実の名前だ。船長がカイドウを倒すと決めた際、計画の手始めにとパンクハザードへ潜入しその製造を停止させたものの筈である。なのでパンクハザードが壊滅した現在は既に製造されていない。
けれども当然、製造停止に至る前に流通してしまった分があったのだろう。それはドフラミンゴ達の手によってカイドウのいるこのワノ国へと運ばれ、能力を有した舞台を作る為に利用された。
『SMILE』の副作用として、能力を得られなかった場合笑顔以外を失うというものがある。その副作用は誰かが食べて能力は移った後の『SMILE』にも残っていた。
そこに目を付けたオロチが、おこぼれ町に支給する食料に残り滓を混ぜて与えたらしい。恐らくは悪意を持って。結果、おこぼれ町の住民は笑う事しか出来なくなってしまった。
途中からは笑うことしか出来なくなったのはそれが原因だと分かっていたらしいものの、空腹には耐えられず食べることを選んだのだという。
おこぼれで生きているからと人で遊んでいるような所行だ。実際シルビが男と一緒に赴いたその町は、人が住むには退廃し過ぎた場所だった。
かつてのシルビですらこんな凄惨な場所で生きていたことは無いだろう。笑う以外の表情を奪われ感情を表す術が無く、それでも悲しいまま苦しんで生きている。
廃墟も同然の長屋。着ている着物はどれも必ずツギハギがあって、若い男の姿は無く老人と女子供だけ。
井戸は朽ち果てて土埃が積もっている。中を覗き込めば小動物の骨と切れた縄だけが底に落ちていた。
そんな生きていくことが難しいだろう町だというのに、笑い声だけが痛い程に響いている。
「いつもこんな風?」
「今日はちょっといい事があったみてェだな」
「いい事ぉ?」
「丑三つ小僧が来たんだろう」
丑三つ小僧とは瓦版に載っていた義賊だ。悪徳金持ちのところから金を盗んでは貧乏長屋にばらまく盗賊だったか。
シルビが見た瓦版に載っていた内容の金がそのままここへ届けられたのだろう。だとすれば丑三つ小僧の行動は早いが悪手だ。
えびす町に盗んだ金をばらまいたとして、その金をすぐに使ってしまうのは疑いの目が向けられるだけであまりいいとは思えなかった。下手人の丑三つ小僧の過去の行動までは分からないが、少なくとも貧乏長屋に配るのだと分かっている以上貧乏長屋を見張られる危険だってある筈だ。最悪、貧乏長屋の誰かが丑三つ小僧だとして捕まってしまう可能性もある。
とはいえ今回はもう使ってしまったようだからどうしようもないなと考えていれば、町の中心部で見覚えのある緑頭が見えた。
「――ゾロくぅうううううんこの野郎!」
「うごっ」
座っていたゾロめがけてタックルよろしく飛びつく。持っていた湯飲みには水が入っていたらしくこぼさない様に慌てていた。
「――あ? おまえ、確かペンギンだったか?」
「やっと見つけたぁああああああもぉおおおおおおおお!」
船長に不満をぶつけるにはまだ早い。そうは分かっていてもゾロの消息に関する手がかりの無さに少しばかりシルビは絶望した。流石にここまで筋金入りの迷子だとは予想していなかったというのもある。
思えばドレスローザでも、あの騒動の最中にはゾロのことはあまり目撃していなかったかもしれない。あの時はゾロの事を意識していなかったので迷子になりやすいという事を深く考えていなかったが、さらに言えばドレスローザを脱出する時にゾロ一人だけ見当違いの方向へ向かっていたのを捕まえた覚えがある。
もしあの時捕まえなければ、ゾロはどこへ行っていたのだろうか。
白舞という地区と花の都の間にある川の水を汲む。水筒に入れる前に自身の掌を“通過”させて害のある成分や物質を全て“拒絶”した。
手の上に集まった有害物質の塊は中和して無害化し捨てる。シルビだからこそ出来る浄化方法だった。
もちろんこの方法でこの国全ての土や水から有害物質を排除するには膨大な時間が掛かる。そうでなくとも手順を間違えれば最悪シルビの身体が汚染されてしまうだろう。
だからこの方法での浄化は誰にも言わない。
花の都の中はある程度歩き回ってみたが、特にゾロに繋がる情報はなかった。これはもう花の都にゾロはいないと考えた方がいいだろうと都を出てきたのだが、だからといって行き先に宛ては全く無い。
水の入った水筒を提げて歩き出す。向かうのはかつて神社があった場所だ。
花の都からそう遠くない、城下町にしては寂れた町を少し離れた場所にあったそれはけれども、今は見る影もない廃屋に変わり果てていた。数十年は全く手入れなどされていないのであろうそれの屋根は崩れ、柱は白アリにでもやられたのか穴だらけ。
賽銭箱は既に蓋が開けられ中身は空。そもそも御神体すら盗まれていて中には何も無い。とはいえ何を置いていたのかすら覚えていなかった。
「バチ当たりだなぁ。俺が言うのもなんだけどぉ」
今にも崩れそうな社の中に入り、かつて御神体が置かれていたはずの場所へ持ってきた水筒を置く。そうして息を吐いたところで外から声がした。
「おうコラ! 神社に入っちゃダメだろうが! もう盗めるモンなぞないだろうけどよ」
振り向けば、見覚えのない大柄な男。どこかモモの助や錦えもん達と似た雰囲気を持ったその男は、闊達とした笑みを浮かべてシルビを見ていた。
「……ここは、俺の家だからいいんです」
「随分尊大な嘘を吐く」
男が空っぽな賽銭箱の前で手を合わせる。社から出ながらそれを見ていれば、参拝を終えた男が顔を上げてシルビを見た。
「お参りぃ?」
「こんな廃神社でも神様が居んなら手を合わせてもバチは当たるまい」
「毎日?」
「たまたまだ」
神頼みという段階はこの国の者にとってもう過ぎ去ってしまっているだろう。それでも神社を見かけては参拝するというのであれば、この男は随分と奇特な者である。
実際、この神社に神はいなかった。聞き届ける耳もなく見守る目もない。
「アンタは見たところこの辺のモンじゃねェな。外から来たのか」
男に訊かれてシルビはどう答えたものかと悩む。ここで素直にそうだと言ってもカイドウ軍の関係者だと思われるだけなのだろうが、実際にはそうではない。かといって外から来た訳ではないと言っても嘘になる。大昔には一時期ここに滞在していた、と言ったとしても信じてはもらえないだろう。
言い淀むシルビに男はどう思ったのか、シルビが答える前に顔を逸らして歩き出してしまった。自分から質問しておいて答えを聞かずに去るのかと思い、何となく男の後を付いていく。
どうせゾロの手掛かりもなく行く宛ても無いのだ。多少寄り道をしても構わないだろう。
「どこに行くんです?」
「ここの近くにあるえびす町だ。知り合いがいてな」
知り合いの元へ向かう途中で神社を見かけ、それで参拝しようとしたらシルビと遭遇した、という具合だろうか。
男の目的地は『えびす町』という、花の都の近くにあるおこぼれ町だった。おこぼれ町とはワカメに聞いた通り、花の都で廃棄された食べかけの食料などをおこぼれとして貰って生活している町で、そのおこぼれの中には『SMILE』が混ざっていたらしい。
『SMILE』というのは、シルビの記憶が正しければパンクハザードでシーザーによって研究製造されていた人造悪魔の実の名前だ。船長がカイドウを倒すと決めた際、計画の手始めにとパンクハザードへ潜入しその製造を停止させたものの筈である。なのでパンクハザードが壊滅した現在は既に製造されていない。
けれども当然、製造停止に至る前に流通してしまった分があったのだろう。それはドフラミンゴ達の手によってカイドウのいるこのワノ国へと運ばれ、能力を有した舞台を作る為に利用された。
『SMILE』の副作用として、能力を得られなかった場合笑顔以外を失うというものがある。その副作用は誰かが食べて能力は移った後の『SMILE』にも残っていた。
そこに目を付けたオロチが、おこぼれ町に支給する食料に残り滓を混ぜて与えたらしい。恐らくは悪意を持って。結果、おこぼれ町の住民は笑う事しか出来なくなってしまった。
途中からは笑うことしか出来なくなったのはそれが原因だと分かっていたらしいものの、空腹には耐えられず食べることを選んだのだという。
おこぼれで生きているからと人で遊んでいるような所行だ。実際シルビが男と一緒に赴いたその町は、人が住むには退廃し過ぎた場所だった。
かつてのシルビですらこんな凄惨な場所で生きていたことは無いだろう。笑う以外の表情を奪われ感情を表す術が無く、それでも悲しいまま苦しんで生きている。
廃墟も同然の長屋。着ている着物はどれも必ずツギハギがあって、若い男の姿は無く老人と女子供だけ。
井戸は朽ち果てて土埃が積もっている。中を覗き込めば小動物の骨と切れた縄だけが底に落ちていた。
そんな生きていくことが難しいだろう町だというのに、笑い声だけが痛い程に響いている。
「いつもこんな風?」
「今日はちょっといい事があったみてェだな」
「いい事ぉ?」
「丑三つ小僧が来たんだろう」
丑三つ小僧とは瓦版に載っていた義賊だ。悪徳金持ちのところから金を盗んでは貧乏長屋にばらまく盗賊だったか。
シルビが見た瓦版に載っていた内容の金がそのままここへ届けられたのだろう。だとすれば丑三つ小僧の行動は早いが悪手だ。
えびす町に盗んだ金をばらまいたとして、その金をすぐに使ってしまうのは疑いの目が向けられるだけであまりいいとは思えなかった。下手人の丑三つ小僧の過去の行動までは分からないが、少なくとも貧乏長屋に配るのだと分かっている以上貧乏長屋を見張られる危険だってある筈だ。最悪、貧乏長屋の誰かが丑三つ小僧だとして捕まってしまう可能性もある。
とはいえ今回はもう使ってしまったようだからどうしようもないなと考えていれば、町の中心部で見覚えのある緑頭が見えた。
「――ゾロくぅうううううんこの野郎!」
「うごっ」
座っていたゾロめがけてタックルよろしく飛びつく。持っていた湯飲みには水が入っていたらしくこぼさない様に慌てていた。
「――あ? おまえ、確かペンギンだったか?」
「やっと見つけたぁああああああもぉおおおおおおおお!」