ワノ国編
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夢主視点
花の都はおでん城跡の城下町とは違って栄華を誇っていた。花の都に至るまでの道筋は雑草の一本も枯れ果てた荒涼の大地だったというのに、一歩港へと立ち入ればそこは草木も青青と茂り人々の声も活気がある賑やかな町並みだ。
町民は繕った跡や直した跡もない着物を着込み、行き交う者達の表情に陰りや憂いも無い。将軍オロチの庇護というには少しばかり窮屈だろうが支配を受け入れ、それでも今のところ問題など無いとばかりに生活をしている。
そんな都の中心部。巨大な松の木のコブの上に建てられているのがオロチの城の様だった。どこから見てもその姿を望むことが出来るというのは、その逆にどこでも見下ろす事が出来るということである。
書物屋でこの国の地図を買う。大体の地形はシルビが覚えているものと変わりなかったが、やはり長い年月で場所の名前は少し変わっている。
何よりもシルビを“祀っていた”神社が地図に載っていなかった。
「まぁ、数百年は来てなかったし無くなっても気にしねぇけどさぁ」
元々のシルビはこの国の“神”ではない。祀られようがそれを無かったことにされようが構いはしないが、信仰が無いのは少しばかり残念だった。
地図を折り畳んで懐にしまう。
瓦版屋が号外だと叫びながら瓦版を配り散らしていた。そのうちの一枚を受け取って目を通せば、北の墓場であったというオバケ騒動の続報や人斬り騒動、それに“丑三つ小僧”という泥棒の記事がある。
人斬り、と聞いてまさかゾロだろうかと思ったものの、記事を読み進めていくとそれは『人斬り鎌ぞう』という既に犯人が分かっているものの様だった。犯人は分かっているが捕まえられず、それ故に騒いでいるらしい。ふと視線を上げたところで奇遇にもその人斬り鎌ぞうの人相書きが立てられていた。
「白黒じゃよく分かんねぇなぁ」
墨で描かれた人相書きでは髪の色などは分からない。とりあえず笑っていることと髪が長そうだという事だけ覚えておく。どこかでかち合ったら捕まえて奉行所に連行してもいいだろう。
丑三つ小僧は義賊らしい。こちらは人相なども判明しておらず、ただ丑三つ時に盗みを働くという情報だけが分かっている。それ以外は性別も年齢も体格も不明。手口も分かっているのかどうか。
いずれにせよ自分達に関わる内容では無さそうだなと考え、通りを進もうとしたところで人にぶつかりそうになってしまった。慌てて足を止めて激突を阻止する。
「――すまないが、その瓦版を見せてもらえるか」
ぶつかりそうになった人物に言われて咄嗟に顔を見上げた。驚きは寸でのところで隠しきれたと思いたい。
「……どう、ぞ」
最悪の世代の一人である『X・ドレーク』が目の前にいた。
かつて『超新星』と言われていた海賊団の一つをまとめていた男。恐竜の力を得る悪魔の実を食べた能力者であった『X・ドレーク』はしかし、シルビの推測ではこんなところに居る筈が無かった。
そもそも今回の“討ち入り”ともそれに関わる四皇カイドウとも彼は接点を持っていたという情報を聞いた覚えはない。トットランドにギャングベッジが居たのも一つの予想外ではあったが、彼に関してはそれ以上の想定外だった。
周囲に合わせる気など全くないとばかりに和装を身にまとう様子もなく、意味があるのか無いのか分からない左目の眼帯。周囲を威圧できそうな体格は当然だがシルビより大きい。
ドレークはシルビが渡した瓦版を読んでいる。その背後や傍に彼の仲間であろう海賊の姿は確認出来なかった。ただ通りの群衆がシルビ達を少し遠巻きにしているのと連れらしい者は何人かいる。
それらに気付なかったとは、人相書きに意識を向け過ぎていたらしい。
瓦版に目を通し終えたドレークがその紙を差し出してくる。
「助かった。もう売り切れだと言われてしまってな」
「いえ、お力になれたのなら幸いです」
ここで顔を隠す動作は逆効果だと考え、あえて隠すそぶりはせずに微笑んだ。ドレークがこのワノ国でどういう立場にいるのかはまだ不明だが、和装をせずともカイドウやオロチの部下が出てくる様子がないことから鑑みるにそちら側に関わりがあると考えてもいいだろう。
だとすればシルビや船長達の敵だ。全員がバレないように動いているのだから当然シルビもここでバレる訳にはいかない。
出来るだけ自然に離れるにはどうすればいいかと考えていると、ドレークが不思議そうにシルビを見下ろしてきた。
「どこかで、会ったかな?」
「ずっと花の都におりますれば。すれ違うこともありましたでしょう」
シャボンディ諸島でウチの船長に喧嘩売られてましたね、とは言えない。
「声が……風邪でも?」
「先日より喉を痛めておりまして。ですが先程飴を買ったのですぐに良くなるでしょう」
シルビの見た目は女性らしいとよく言われるが声はそこまで女性っぽくはなかった。ドレークはそれを、風邪を引いて喉が枯れていると思ったらしい。その勘違いは是非続けて欲しい。
「今日はどうしても外せない用事がありましたもので、こうして体を冷やさぬ様にしておりました。――失礼ですがもうよろしいでしょうか?」
肩に掛けていたストールを引きながら尋ねればドレークはようやく納得したようだった。
「ああ、足止めして申し訳ない。お大事に」
歩き出したシルビを見送るドレーク達が通りの雑踏に見えなくなってから、シルビは歩調を緩めて息を吐いた。流石にいきなりあからさまな敵対関係の相手と遭遇は心臓に悪い。
シャボンディ諸島で彼を見た時、シルビは彼の目つきに“見慣れたもの”を見て息を呑んだ覚えがある。当時はまだ憶測の域を出ていなかったので言及はしなかったが、あの時と同じ感覚は今のドレークからもしていた。
元は海軍将校“だった”という話は、本当なのかどうか。
「なんでホーキンスだけじゃなくてドレークまでいるかなぁ。最悪の世代が四人も揃ってるじゃん」
ルフィと船長。それにホーキンスとドレーク。かつてシャボンディ諸島で集まった面々が再び集まっているというのは、なかなかどうして妙な緊迫感がある。
ましてや正体を隠しているとはいえ『死告シャイタン』ことシルビもいるのだ。今ワノ国にいる賞金首を全員海軍へ突き出せば、それだけで海軍は破産するかもしれない。
それはそれで見てみたい気もするが、シルビに捕まるつもりはないので無理な話だった。
ドレークがカイドウ側の人間として都にいるのなら、ゾロは早急に確保したほうが良いだろうと判断し足を早める。ドレークも最悪の世代の一人である以上、好戦的なゾロが出会ってしまえば騒動を起こすだろうことは目に見えていた。
ゾロに繋がる手がかりは都には無さそうだったので、他の地域を探す為に他の地区に繋がる川の舟場に向かう。川の両岸には桜が咲き誇っており、停泊している屋形船では船頭が瓦版を眺めていた。
「すみません、人を探しているんですがここ暫くで緑頭のお侍は見ませんでしたでしょうか? 刀を三本提げてる侍なのですが」
「ああ、あの食い逃げ未満の侍か。見たぜ。金も持ってねえクセにワサビ寿司をたらふく食いやがってよォ」
「それって代金は」
「知らねェオッサンが代わりに出してくれたよ。んで、嬢ちゃんは乗るのかい? 乗んねェのかい?」
「この船はどこまで行きます?」
「都の北側をぐるりと巡るのさ。アンタが探してる奴は『希美』の方に行ったが、向こうにはなぁんも無ェよ?」
『希美』というのは花の都の北西にある荒れ地だ。おでん城跡のある九里から花の都へ来る途中で通ることになる地でもあるのだが、草木も殆ど枯れ果てて土も乾ききっていた。
一応シルビ達はそこを経由してきたのだが、どうやら行き違いになってしまったらしい。
「船はまたの機会に乗せてください」
次の運行に出発した船を見送る。完全に行き詰まった。
花の都はおでん城跡の城下町とは違って栄華を誇っていた。花の都に至るまでの道筋は雑草の一本も枯れ果てた荒涼の大地だったというのに、一歩港へと立ち入ればそこは草木も青青と茂り人々の声も活気がある賑やかな町並みだ。
町民は繕った跡や直した跡もない着物を着込み、行き交う者達の表情に陰りや憂いも無い。将軍オロチの庇護というには少しばかり窮屈だろうが支配を受け入れ、それでも今のところ問題など無いとばかりに生活をしている。
そんな都の中心部。巨大な松の木のコブの上に建てられているのがオロチの城の様だった。どこから見てもその姿を望むことが出来るというのは、その逆にどこでも見下ろす事が出来るということである。
書物屋でこの国の地図を買う。大体の地形はシルビが覚えているものと変わりなかったが、やはり長い年月で場所の名前は少し変わっている。
何よりもシルビを“祀っていた”神社が地図に載っていなかった。
「まぁ、数百年は来てなかったし無くなっても気にしねぇけどさぁ」
元々のシルビはこの国の“神”ではない。祀られようがそれを無かったことにされようが構いはしないが、信仰が無いのは少しばかり残念だった。
地図を折り畳んで懐にしまう。
瓦版屋が号外だと叫びながら瓦版を配り散らしていた。そのうちの一枚を受け取って目を通せば、北の墓場であったというオバケ騒動の続報や人斬り騒動、それに“丑三つ小僧”という泥棒の記事がある。
人斬り、と聞いてまさかゾロだろうかと思ったものの、記事を読み進めていくとそれは『人斬り鎌ぞう』という既に犯人が分かっているものの様だった。犯人は分かっているが捕まえられず、それ故に騒いでいるらしい。ふと視線を上げたところで奇遇にもその人斬り鎌ぞうの人相書きが立てられていた。
「白黒じゃよく分かんねぇなぁ」
墨で描かれた人相書きでは髪の色などは分からない。とりあえず笑っていることと髪が長そうだという事だけ覚えておく。どこかでかち合ったら捕まえて奉行所に連行してもいいだろう。
丑三つ小僧は義賊らしい。こちらは人相なども判明しておらず、ただ丑三つ時に盗みを働くという情報だけが分かっている。それ以外は性別も年齢も体格も不明。手口も分かっているのかどうか。
いずれにせよ自分達に関わる内容では無さそうだなと考え、通りを進もうとしたところで人にぶつかりそうになってしまった。慌てて足を止めて激突を阻止する。
「――すまないが、その瓦版を見せてもらえるか」
ぶつかりそうになった人物に言われて咄嗟に顔を見上げた。驚きは寸でのところで隠しきれたと思いたい。
「……どう、ぞ」
最悪の世代の一人である『X・ドレーク』が目の前にいた。
かつて『超新星』と言われていた海賊団の一つをまとめていた男。恐竜の力を得る悪魔の実を食べた能力者であった『X・ドレーク』はしかし、シルビの推測ではこんなところに居る筈が無かった。
そもそも今回の“討ち入り”ともそれに関わる四皇カイドウとも彼は接点を持っていたという情報を聞いた覚えはない。トットランドにギャングベッジが居たのも一つの予想外ではあったが、彼に関してはそれ以上の想定外だった。
周囲に合わせる気など全くないとばかりに和装を身にまとう様子もなく、意味があるのか無いのか分からない左目の眼帯。周囲を威圧できそうな体格は当然だがシルビより大きい。
ドレークはシルビが渡した瓦版を読んでいる。その背後や傍に彼の仲間であろう海賊の姿は確認出来なかった。ただ通りの群衆がシルビ達を少し遠巻きにしているのと連れらしい者は何人かいる。
それらに気付なかったとは、人相書きに意識を向け過ぎていたらしい。
瓦版に目を通し終えたドレークがその紙を差し出してくる。
「助かった。もう売り切れだと言われてしまってな」
「いえ、お力になれたのなら幸いです」
ここで顔を隠す動作は逆効果だと考え、あえて隠すそぶりはせずに微笑んだ。ドレークがこのワノ国でどういう立場にいるのかはまだ不明だが、和装をせずともカイドウやオロチの部下が出てくる様子がないことから鑑みるにそちら側に関わりがあると考えてもいいだろう。
だとすればシルビや船長達の敵だ。全員がバレないように動いているのだから当然シルビもここでバレる訳にはいかない。
出来るだけ自然に離れるにはどうすればいいかと考えていると、ドレークが不思議そうにシルビを見下ろしてきた。
「どこかで、会ったかな?」
「ずっと花の都におりますれば。すれ違うこともありましたでしょう」
シャボンディ諸島でウチの船長に喧嘩売られてましたね、とは言えない。
「声が……風邪でも?」
「先日より喉を痛めておりまして。ですが先程飴を買ったのですぐに良くなるでしょう」
シルビの見た目は女性らしいとよく言われるが声はそこまで女性っぽくはなかった。ドレークはそれを、風邪を引いて喉が枯れていると思ったらしい。その勘違いは是非続けて欲しい。
「今日はどうしても外せない用事がありましたもので、こうして体を冷やさぬ様にしておりました。――失礼ですがもうよろしいでしょうか?」
肩に掛けていたストールを引きながら尋ねればドレークはようやく納得したようだった。
「ああ、足止めして申し訳ない。お大事に」
歩き出したシルビを見送るドレーク達が通りの雑踏に見えなくなってから、シルビは歩調を緩めて息を吐いた。流石にいきなりあからさまな敵対関係の相手と遭遇は心臓に悪い。
シャボンディ諸島で彼を見た時、シルビは彼の目つきに“見慣れたもの”を見て息を呑んだ覚えがある。当時はまだ憶測の域を出ていなかったので言及はしなかったが、あの時と同じ感覚は今のドレークからもしていた。
元は海軍将校“だった”という話は、本当なのかどうか。
「なんでホーキンスだけじゃなくてドレークまでいるかなぁ。最悪の世代が四人も揃ってるじゃん」
ルフィと船長。それにホーキンスとドレーク。かつてシャボンディ諸島で集まった面々が再び集まっているというのは、なかなかどうして妙な緊迫感がある。
ましてや正体を隠しているとはいえ『死告シャイタン』ことシルビもいるのだ。今ワノ国にいる賞金首を全員海軍へ突き出せば、それだけで海軍は破産するかもしれない。
それはそれで見てみたい気もするが、シルビに捕まるつもりはないので無理な話だった。
ドレークがカイドウ側の人間として都にいるのなら、ゾロは早急に確保したほうが良いだろうと判断し足を早める。ドレークも最悪の世代の一人である以上、好戦的なゾロが出会ってしまえば騒動を起こすだろうことは目に見えていた。
ゾロに繋がる手がかりは都には無さそうだったので、他の地域を探す為に他の地区に繋がる川の舟場に向かう。川の両岸には桜が咲き誇っており、停泊している屋形船では船頭が瓦版を眺めていた。
「すみません、人を探しているんですがここ暫くで緑頭のお侍は見ませんでしたでしょうか? 刀を三本提げてる侍なのですが」
「ああ、あの食い逃げ未満の侍か。見たぜ。金も持ってねえクセにワサビ寿司をたらふく食いやがってよォ」
「それって代金は」
「知らねェオッサンが代わりに出してくれたよ。んで、嬢ちゃんは乗るのかい? 乗んねェのかい?」
「この船はどこまで行きます?」
「都の北側をぐるりと巡るのさ。アンタが探してる奴は『希美』の方に行ったが、向こうにはなぁんも無ェよ?」
『希美』というのは花の都の北西にある荒れ地だ。おでん城跡のある九里から花の都へ来る途中で通ることになる地でもあるのだが、草木も殆ど枯れ果てて土も乾ききっていた。
一応シルビ達はそこを経由してきたのだが、どうやら行き違いになってしまったらしい。
「船はまたの機会に乗せてください」
次の運行に出発した船を見送る。完全に行き詰まった。