夢主視点

引っ張られて抱き留められて頭を撫でられる。頭を撫でてくれるだけではなかったのかと思ったがせっかくの役得なので黙っておいた。
久しぶりの船長の体温やら手つきやらに嬉しくなる。このご褒美があるならもう一度ビッグマムに喧嘩を売りに行っても構わなかった。

「ふふっ」
「笑うな」

苦虫を噛み潰したような声。ルフィがカイドウに捕まってしまってこんな事をしている場合では無いという考えはあるが、もう少しだけ動きたくなかった。
多分船長はシルビが落ち込んでいるとでも思ったのだろう。たった一言『そうだ』と言ってくれれば満足するつもりだったのだが、甘やかさなければシルビがイチジの元に行ってしまうとでも考えたのかも知れない。
そんなことはあり得ないのだが。
空に飛び立つ鳥の動きで揺れた茂みの音に船長がシルビを引き離す。既に海楼石による脱力感や疲労は抜けたらしい。
シルビの手を借りず自力で立ち上がった船長が長刀を肩に担いで帽子の角度を直す。

「オレはとりあえず一度ベポ達のとこに戻る。麦わら屋がどうなったかの確認もしてェからな」
「俺はどうしましょう？」
「お前には悪いがすぐに色んなトコに行ってもらう。この国はドレスローザより広い。現状でもう情報収集が後手に回り過ぎてる」

膝についた汚れを払って船長を見た。

「『シャイタン』の力を使ってぇ？」
「それに関してオレはお前を縛らねぇ。さっきみたいに好きにしろ」

つまり状況に合わせて使おうと使うまいとそこは自分で責任を取れということだろう。
二週間後の討ち入りに対して時間も情報も戦力も足りない現状、シルビはオールラウンダー故にどちらの役割も担って動いた方が効率はいい。船長も錦えもん達は戦力の一つとして数えられているのだろうが、シルビとしては船長を戦力にするには物足りなかった。
ドレスローザでの戦い方を見ているからこそ余計にそう思う。

「さっき貴方を攻撃してきたのはホーキンスでしたが、ホーキンスって確かユースタス・キッドやスクラッチメン・アプーと海賊同盟を組んでいましたよねぇ？」

大分古い情報だが、同盟を組んだという話は聞いた覚えは確かにある。けれどもその後、同盟が解散されたとは聞いていない。
となれば自然と、麦わらの一味とハートの海賊団がそうであるのと同じようにホーキンスがいるイコールどこかにキッド達もいると考えられた。

「確認出来たのはホーキンスだけだ。他は分からん。……とりあえず、お前の最初の役目は、迷子になったゾロ屋を見つけてくることだ」
「アイアイ――はぁ？」