ワノ国編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
おでん城跡の城下町ではカイドウとルフィが争っていた。ルフィが放つエレファント・ガンを、周囲の者が先ほどのエレボスの指先と混同してくれればいいなと淡い期待だけ抱いておく。そうすればカイドウの攻撃を防いだのはおでん城に誰かがいたからではなく、ルフィがそのタイミングで攻撃しただけと誤認識を与えられるからだ。
とはいえルフィのエレファント・ガンとエレボスの指先は大きさがだいぶ違う。エレボスの方が大きかった。
説明しなければ誰にも分からないだろうと高を括りながら斜面を下る。山の上にあったおでん城跡からカイドウとルフィのいる位置は少しばかり遠い。
ルフィの攻撃を受けていた龍の姿が見えなくなる。人の姿に戻ったのだと分かったのは地上で目視出来る距離にまで近づいたからだ。
カイドウは龍の姿と同じ角を頭に飾り、ルフィの何倍もの巨躯をしていた。左腕にはびっしりと鱗の入れ墨が彫り込まれ、その巨躯に対しては少し小振りな金砕棒、いわゆる金棒を携えている。
「“雷鳴八卦”」
そう一振りされた金棒がたったの一撃でルフィを気絶させていた。
「何の王になるだと……? 小僧ォ」
意識のないルフィにカイドウの部下が駆け寄る。そうでなくともカイドウの意識が向けられているルフィに今近付くのは危険だと判断し、シルビは周囲を見回して船長を捜した。
ルフィを止めに行ったのだから彼は近くにいる筈で、ルフィが駄目ならシルビはせめて船長は回収しなければならない。そう考えて見回した先で、何かの攻撃を受けたのか地面に膝を突く船長と麒麟の様な生き物の上から藁の様な刀を船長に向けて伸ばすバジル・ホーキンスの姿を見つけた。
咄嗟に船長を庇う様に割り込んでホーキンスの手から延びた刀を掴む。
「!? ペンッ――」
「撤退しますよ。掴まれますか」
ホーキンスの刀は“伸びる”というところからの推察通り、斬ることに向いたものではなかった。掴んで動きを止めたそれを払い避ける。
割り込んだ者がシルビだと気付いたホーキンスが目を見開いていた。
「逆さまの悪魔――ッ!」
そういえばホーキンスはそう呼んでくるのだったなと思いながら船長を抱え地面を蹴る。何故か船長は動きが鈍い。
見れば船長の左胸の辺りに一本の釘が刺さっている。たったそれだけで動きが悪くなるのかと不可解に思ってから、それが悪魔の実の能力者の弱点となる“海楼石”で作られたものだと気付いた。
それなら当然能力者である船長は動けなくなる。
船長を抱えて地面を蹴り飛び乗った屋根の上。肩越しに振り返って見たホーキンスはまだシルビに驚いているようだった。
おでん城とは違う方向に町を抜けて森に入り身を隠す。追っ手は町を抜けた辺りでいなくなったようだが、それでも念の為周囲に幻覚を掛けてから船長を座らせた。
海楼石の釘がまだ刺さっているせいか船長はダルそうで、ここへ来るまでという距離だけでも息を荒げている。
「診せてください」
「ベポ達はどうした」
「カイドウの攻撃を阻止後、出来るだけ遠くに逃げる様に言ってきました。カイドウが撤収後にはまた城へ戻るでしょう」
ただ、その後は改めて拠点を移すだろうが。
船長の前にしゃがんで診た船長の傷は、釘を一本打ち込まれただけで大したものではなかった。ただ海楼石で出来ているせいで船長自身では抜けない。
頭の部分を摘んで一息に引き抜く。途端に少し溢れ出る血が胸元を汚すのに、手を添えて傷を晴の炎で塞いだ。
荒かった呼吸が最後に深く吐くことで船長が落ち着きを取り戻す。滲んだままの脂汗に手拭いが欲しいなと思いながら指を伸ばしたところで手を掴まれた。
琥珀色の眼はシルビを睨んでいる。
「――カイドウを潰したアレ」
窮地を脱した直後に言及か、と思いつつも当然と言えば当然の問いかけに、シルビは手首を掴まれたまま座り直した。
「……咄嗟に、あれでいいかなと思っちゃってぇ」
「麦わら屋がケンカ売ったから誤魔化せてるかも知れねェが、下手すりゃ全部台無しになってたぞ」
「ごめんなさい……」
台無しにしないように船長が走ったのに、その部下であるシルビが台無しにしてしまっていたら元の木阿弥だ。ともすればもっと悪い状況になってもいただろう。自分でもそれは分かっていた。
分かってはいたが。
「久しぶりに船長の命令を受けたのでぇ」
帽子の陰で船長の目が丸くなる。
「ゾウでちゃんと合流した後すぐに俺だけサンジ君奪還に行かされましたし、船長の命令を聞くのも久しぶりだなぁって思ったんです」
「それでアレか……ハァ」
大きく吐かれたため息に顔を上げる。
治る前に溢れた船長の血の匂い。そういえばトットランドでは何度かイチジの腕の中に入ったが特に彼の匂いは覚えていなかった。あれは周囲に甘ったるい匂いが充満しすぎていたのだろう。
シルビの手首を掴んでいた船長の手が離れ、するりと結わえずにいたままだった髪先に触れる。手慰みの様に指先で遊ばれるそれを見て、シルビは話題を変えた。
「船長。俺をサンジ君の奪還に行かせたのは、どうしてだったんですか?」
船長は答えない。ただ人の髪をいじる姿を珍しいと思う。
奪還作戦の最中、ブルックはサンジとシルビが似ていると言った。
サンジは自分の居場所をくれた麦藁の一味を守る為自分に嘘を吐いてまでルフィ達を拒絶し、シルビはロー達全員に嘘を吐いてハートの海賊団を守っている。
辛いのは自分だけでいい。自身の知る苦労を誰かが知ることなど無くていい。
そう思っての行動はけれども、きっとどこかで大切にしたい誰かを傷つけたとイチジとの別れ際に気付きはしたものの、それがシルビを別行動させた理由として正しいのかどうかは分からなかった。
「ペンギン」
「はい」
「――よく、無事に戻ってきた」
「――、はい」
カイドウの襲来が嘘の様に静まりかえった森。
船長の労いの言葉は単調で、けれども重みだけはしっかりとあった。ナミ達の前で言われたそれより深く込められたものがあるそれに、シルビはそっと髪をいじっていた指に触れる。
「サンジ君達には、『シャイタン』であることがバレました」
「だろうな。他には何があった」
「故郷の知り合いと会って、ギャングベッジと一時的に手を組んでビッグマムを倒そうとしたり、昔の知り合いの死因が判明したり?」
「他には」
「ペドロを助けられませんでした」
イチジに告白されたことは極々個人的な話なので黙っておく。言った所で船長も聞かされて困る話だろう。
ミンク族の勇士の死を聞いても船長はさほど動じなかった。船長はシルビ達より後からゾウに来たこともあってペドロに馴染みがないのだろう。
ただペドロのことは絶対に報告しておかなければならない。このワノ国での計画で彼の戦力も期待していたら問題だからだ。
どんなにすくおうとしても手からこぼれ落ちる砂があることは分かっている。
「他には」
「後は……特にはぁ」
「ナミ屋が言ってた『イチジ』ってのは何だ」
髪をいじっていた手が止まった。
「あれは、その……」
黙っていようと思ったのに船長の方から話題に出された。繰り返すが極々個人的な話であるしそう広めていいような話題でもあるまい。
一国の長子の懸想した相手が男だということもだが、結果的にイチジが振られた形になっているのでイジチの名誉の為にも簡単に言えることではなかった。サンジとナミには言ってしまったが、彼らはまだそこまでシルビと親しくもないので楽観視している。
「ペンギン。報告しろ」
「あ、ぅ……」
「……報告したら、一回だけ頭撫でてやる」
「サンジ君のお兄さんのイチジ君に告白されましたけど断りました」
おでん城跡の城下町ではカイドウとルフィが争っていた。ルフィが放つエレファント・ガンを、周囲の者が先ほどのエレボスの指先と混同してくれればいいなと淡い期待だけ抱いておく。そうすればカイドウの攻撃を防いだのはおでん城に誰かがいたからではなく、ルフィがそのタイミングで攻撃しただけと誤認識を与えられるからだ。
とはいえルフィのエレファント・ガンとエレボスの指先は大きさがだいぶ違う。エレボスの方が大きかった。
説明しなければ誰にも分からないだろうと高を括りながら斜面を下る。山の上にあったおでん城跡からカイドウとルフィのいる位置は少しばかり遠い。
ルフィの攻撃を受けていた龍の姿が見えなくなる。人の姿に戻ったのだと分かったのは地上で目視出来る距離にまで近づいたからだ。
カイドウは龍の姿と同じ角を頭に飾り、ルフィの何倍もの巨躯をしていた。左腕にはびっしりと鱗の入れ墨が彫り込まれ、その巨躯に対しては少し小振りな金砕棒、いわゆる金棒を携えている。
「“雷鳴八卦”」
そう一振りされた金棒がたったの一撃でルフィを気絶させていた。
「何の王になるだと……? 小僧ォ」
意識のないルフィにカイドウの部下が駆け寄る。そうでなくともカイドウの意識が向けられているルフィに今近付くのは危険だと判断し、シルビは周囲を見回して船長を捜した。
ルフィを止めに行ったのだから彼は近くにいる筈で、ルフィが駄目ならシルビはせめて船長は回収しなければならない。そう考えて見回した先で、何かの攻撃を受けたのか地面に膝を突く船長と麒麟の様な生き物の上から藁の様な刀を船長に向けて伸ばすバジル・ホーキンスの姿を見つけた。
咄嗟に船長を庇う様に割り込んでホーキンスの手から延びた刀を掴む。
「!? ペンッ――」
「撤退しますよ。掴まれますか」
ホーキンスの刀は“伸びる”というところからの推察通り、斬ることに向いたものではなかった。掴んで動きを止めたそれを払い避ける。
割り込んだ者がシルビだと気付いたホーキンスが目を見開いていた。
「逆さまの悪魔――ッ!」
そういえばホーキンスはそう呼んでくるのだったなと思いながら船長を抱え地面を蹴る。何故か船長は動きが鈍い。
見れば船長の左胸の辺りに一本の釘が刺さっている。たったそれだけで動きが悪くなるのかと不可解に思ってから、それが悪魔の実の能力者の弱点となる“海楼石”で作られたものだと気付いた。
それなら当然能力者である船長は動けなくなる。
船長を抱えて地面を蹴り飛び乗った屋根の上。肩越しに振り返って見たホーキンスはまだシルビに驚いているようだった。
おでん城とは違う方向に町を抜けて森に入り身を隠す。追っ手は町を抜けた辺りでいなくなったようだが、それでも念の為周囲に幻覚を掛けてから船長を座らせた。
海楼石の釘がまだ刺さっているせいか船長はダルそうで、ここへ来るまでという距離だけでも息を荒げている。
「診せてください」
「ベポ達はどうした」
「カイドウの攻撃を阻止後、出来るだけ遠くに逃げる様に言ってきました。カイドウが撤収後にはまた城へ戻るでしょう」
ただ、その後は改めて拠点を移すだろうが。
船長の前にしゃがんで診た船長の傷は、釘を一本打ち込まれただけで大したものではなかった。ただ海楼石で出来ているせいで船長自身では抜けない。
頭の部分を摘んで一息に引き抜く。途端に少し溢れ出る血が胸元を汚すのに、手を添えて傷を晴の炎で塞いだ。
荒かった呼吸が最後に深く吐くことで船長が落ち着きを取り戻す。滲んだままの脂汗に手拭いが欲しいなと思いながら指を伸ばしたところで手を掴まれた。
琥珀色の眼はシルビを睨んでいる。
「――カイドウを潰したアレ」
窮地を脱した直後に言及か、と思いつつも当然と言えば当然の問いかけに、シルビは手首を掴まれたまま座り直した。
「……咄嗟に、あれでいいかなと思っちゃってぇ」
「麦わら屋がケンカ売ったから誤魔化せてるかも知れねェが、下手すりゃ全部台無しになってたぞ」
「ごめんなさい……」
台無しにしないように船長が走ったのに、その部下であるシルビが台無しにしてしまっていたら元の木阿弥だ。ともすればもっと悪い状況になってもいただろう。自分でもそれは分かっていた。
分かってはいたが。
「久しぶりに船長の命令を受けたのでぇ」
帽子の陰で船長の目が丸くなる。
「ゾウでちゃんと合流した後すぐに俺だけサンジ君奪還に行かされましたし、船長の命令を聞くのも久しぶりだなぁって思ったんです」
「それでアレか……ハァ」
大きく吐かれたため息に顔を上げる。
治る前に溢れた船長の血の匂い。そういえばトットランドでは何度かイチジの腕の中に入ったが特に彼の匂いは覚えていなかった。あれは周囲に甘ったるい匂いが充満しすぎていたのだろう。
シルビの手首を掴んでいた船長の手が離れ、するりと結わえずにいたままだった髪先に触れる。手慰みの様に指先で遊ばれるそれを見て、シルビは話題を変えた。
「船長。俺をサンジ君の奪還に行かせたのは、どうしてだったんですか?」
船長は答えない。ただ人の髪をいじる姿を珍しいと思う。
奪還作戦の最中、ブルックはサンジとシルビが似ていると言った。
サンジは自分の居場所をくれた麦藁の一味を守る為自分に嘘を吐いてまでルフィ達を拒絶し、シルビはロー達全員に嘘を吐いてハートの海賊団を守っている。
辛いのは自分だけでいい。自身の知る苦労を誰かが知ることなど無くていい。
そう思っての行動はけれども、きっとどこかで大切にしたい誰かを傷つけたとイチジとの別れ際に気付きはしたものの、それがシルビを別行動させた理由として正しいのかどうかは分からなかった。
「ペンギン」
「はい」
「――よく、無事に戻ってきた」
「――、はい」
カイドウの襲来が嘘の様に静まりかえった森。
船長の労いの言葉は単調で、けれども重みだけはしっかりとあった。ナミ達の前で言われたそれより深く込められたものがあるそれに、シルビはそっと髪をいじっていた指に触れる。
「サンジ君達には、『シャイタン』であることがバレました」
「だろうな。他には何があった」
「故郷の知り合いと会って、ギャングベッジと一時的に手を組んでビッグマムを倒そうとしたり、昔の知り合いの死因が判明したり?」
「他には」
「ペドロを助けられませんでした」
イチジに告白されたことは極々個人的な話なので黙っておく。言った所で船長も聞かされて困る話だろう。
ミンク族の勇士の死を聞いても船長はさほど動じなかった。船長はシルビ達より後からゾウに来たこともあってペドロに馴染みがないのだろう。
ただペドロのことは絶対に報告しておかなければならない。このワノ国での計画で彼の戦力も期待していたら問題だからだ。
どんなにすくおうとしても手からこぼれ落ちる砂があることは分かっている。
「他には」
「後は……特にはぁ」
「ナミ屋が言ってた『イチジ』ってのは何だ」
髪をいじっていた手が止まった。
「あれは、その……」
黙っていようと思ったのに船長の方から話題に出された。繰り返すが極々個人的な話であるしそう広めていいような話題でもあるまい。
一国の長子の懸想した相手が男だということもだが、結果的にイチジが振られた形になっているのでイジチの名誉の為にも簡単に言えることではなかった。サンジとナミには言ってしまったが、彼らはまだそこまでシルビと親しくもないので楽観視している。
「ペンギン。報告しろ」
「あ、ぅ……」
「……報告したら、一回だけ頭撫でてやる」
「サンジ君のお兄さんのイチジ君に告白されましたけど断りました」