ワノ国編
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夢主視点
空に渦巻く黒煙の中心から姿を見せたのは、青く長大な姿をした“龍”だった。
都の端に屹立している巨大な鳥居の向こう側という距離にも関わらず、遠目に見ても分かるその巨大な姿は雄大だ。シルビとしては『割と小さいな』と思わなくもないが、日頃龍を見たことのない者であればあれは十分に脅威だろう。
シルビの知己である四兄弟はもっと大きかった。
それに爪も四本ではなくちゃんと五本ある。龍の格の高さはその爪の数で測られるものだが、あの龍の爪は四本。つまりもう一段階格が上の龍がいるということだ。
モモの助はどうだったかなと振り返れば、モモの助は空の龍の姿に恐慌をきたしたのかこちらも龍の姿になってしまっていた。菊とシノブはモモの助のそんな変化を今まで知らなかったらしく驚いている。
「よりによって憎き龍の姿に……」
落ち着かせようとしている錦えもんの隣から歩み寄って龍の姿のモモの助を抱き上げた。不安げにシルビを見上げる眼と腕に絡みつく尾は震えている。
「すまん錦えもん。実はオレと麦わら屋、ゾロ屋は正体がバレた」
「何と!?」
「何やってんだてめー、ロー!」
「お前ら“麦わらの一味”に責められる筋合いはない!」
「あ……きっとルフィのせいだ」
「とりあえずゴメン」
どうやらルフィがシルビ達とはぐれてからおでん城で合流するまでの間に既に一悶着やらかしていたらしい。ルフィは本当に逐一問題を起こすなと思うものの、それを止めることも出来ないだろう。あれは既に性分とか宿命とかそんな類だ。
「だが“それだけ”だ」
今のところはまだ『それだけ』で済む話。
というのもカイドウがこの国で作らせている『武器』とドフラミンゴとシーザーが生み出していた『人工悪魔の実SMILE』の闇の取り引きが、それぞれ根源の工場だったパンクハザードとドレスローザのそれを潰したことで壊滅している。首謀者の一人であるドフラミンゴなど今は監獄に送られてもいた。
つまりケンカを売ったのは今のところ“トラファルガー・ロー”とそれに荷担した“麦わらのルフィ”ということになる。ルフィは分からないが船長はパンクハザードとドレスローザにおいては“ハートの海賊団”そしてではなく単独で活動している。
その結果を鑑みればまだ狙われているのはその二人だけの筈で、錦えもん達の『反オロチ』の作戦は存在すら知られていない筈なのだ。
ルフィが森へと駆けていく。おそらくカイドウの現れた辺りへ向かうのだろう。追おうとするナミ達を船長が止めた。
「これ以上誰かの顔が割れれば“麦わらの一味”と“ハート”は全員滞在が確定する! 大捜索が始まるぞ! 冷静に考えろ。見つかったのは『オレ達だけ』お前らの『作戦』は無事だ。いいな」
「――では、おぬしらどうする!」
「放っときてェ所だが……“麦わら屋”はすでにこの国の人間に関わっちまった。感情で動かれちゃ作戦に支障を来す」
この国の人間に関わっているのは船長も同じだ。というよりこの場の全員が錦えもんやモモの助と関わっている。
感情で動かない方がいいと言うそれだって実際は感情論だ。船長自身が既にこの国の人間であるモモの助達に感情移入をしているだろう。冷たい様でいて船長は人情に弱い人だ。
「決戦の日に顔が揃わねェんなら『同盟』の意味がねェ。――オレが何とかしてくる」
「船長」
モモの助を抱いたまま呼びかければ船長が振り返った。
「ペンギン。守れ」
「アイアイ」
船長がルフィを追いかけていく。姿はすぐに見えなくなって、シルビはモモの助を抱いたまま空をふらふらと泳ぐ龍に目を向けた。
龍は雲を掴んで空を駆けるという。シルビの知己はそうではなかったけどあのカイドウはそういう跳び方をしているらしい。
菊に何かを耳打ちされた錦えもんが慌てた様子で城を下っていく。今から行ってもルフィ達に追いつくことは出来ないだろうから何か別の目的か。
シャチとベポが怯えた様子で傍に来る。この二人にとってもあの大きさは恐怖の対象だろう。
当然、ルフィや船長にとってもそうだ。あの大きさの敵をこれから相手にしなければならないとなれば、ビッグマムと対峙するのと面倒さでいえばどっちもどっちである。
無作為に町を襲っている様に見えたカイドウが、不意に鎌首をもたげてこちらを見やった。何を思ったのかおでん城を目指して一直線に迫ってくる。
「気づかれた!?」
「あの距離で気づく訳が……!」
「いや来る!」
チョッパーやブルック達が慌てて逃げようとするものの、当然ながら間に合いそうにない。あの大きさを相手にどこまで逃げればいいのかという見当すら付かなかった。
「ペンギン逃げろ! 逃げよう!」
「モモの助様をこちらに!」
しのぶがモモの助を引き取ろうとしている。モモの助自身はどうすれば良いのか分かっていないかの様に腕の中からシルビを見上げてきていた。
そのモモの助を片手に抱き直す。
こちらに迫っていたカイドウが大きく口を開いた。喉の奥から何かが溢れ出ようとしているのにシルビは腰に提げていたウォレットチェーンを手に巻き付けるように取って前へ突き出す。
黒い匣が揺れる。
「――《エレボス》」
カイドウの喉から吐き出される筈だったものごと、カイドウより更に空高くから降ってきたものがカイドウの顔面を押し潰す。地上から見ていた者からすればそれは、途方もなく太く黒い柱が降ってきたかの様に見えただろう。
正体はシルビの相棒である『エレボス』の小指だ。
少々予想外の大きさになってしまったが、この不当な支配に圧しているワノ国においてはあんなものなのかも知れない。絶望や死への渇望。それでいて“死にたくない”というシルビの願いを抱え込んだ具現化は、倒せる存在が存在しない。
すぐに消えたそれにけれどもカイドウが行おうとしていた攻撃は阻止できた。おでん城は崩壊を免れシルビだけではなくシャチ達も無事だ。流石にシャチ達も急な展開に驚いて腰を抜かしたりしているが。
抱いていたモモの助も唖然として言葉を無くしている。
シルビにとっての問題はそこではなかったが。
「……ヤべぇ」
「な、何が……?」
「いや、船長に『守れ』って言われたけど人なのか城なのか分からなかったもんだから、考え無しな方法使っちゃったぁ」
自分でやっておいて何だが、おそらく別にエレボスを使わずともカイドウの攻撃は防げただろう。盾を作るなり攻撃の進行方向を逸らすなりどうとでもなった筈だ。
それを、エレボスを出してカイドウを直接攻撃したとなれば、そうでなくとも状況的に『おでん城には何かあります』と言っているようなものである。せめて攻撃を受けて被害を最小限に押さえる程度にすればまだ良かったかも知れないが後の祭り。
何故カイドウが途中でおでん城を破壊しようとしたのかはともかく、その攻撃を阻止してしまったのは確実に悪かった。
「い、今のはおぬしがやった、のか?」
モモの助に聞かれるがそれもどう答えたものか。
「とりあえず逃げよう。二回目は流石に防いじゃ駄目だろぉ。今の内に出来るだけ――」
出来るだけおでん城から距離を取ろうとしたところで、起き上がったカイドウが町を振り返っている。意識がこちらから町にいったらしい。おそらくは誰かが話しかけたのだろう。
それが味方か敵かはにわかには分からなかったが、カイドウが町に向かって再び口を開け、今度こそ熱風にも似た息を吐くのにカイドウにとってイヤなものがいると察する。
イヤなもの。この場合は敵だろう。そしてカイドウの“敵”はルフィと船長だ。
「菊さん、若君を頼む。シャチ、ベポ。サンジ君達にも言えることだけど第二撃が来る前に出来るだけここから離れておきなさい。二回目は同じ方法じゃ防げねぇ」
「普通は一撃も防げねェよッ」
「普通じゃなくて悪ぃなぁ」
思わずとばかりに突っ込んだサンジが『しまった』という顔をしている。ブルックやナミ、シャチという事情を知っている者もだ。
他の面々はただ不可思議そうにしていて、シルビはそれを一瞥してモモの助を菊に渡す。
「船長の様子を見に行ってくる」
空に渦巻く黒煙の中心から姿を見せたのは、青く長大な姿をした“龍”だった。
都の端に屹立している巨大な鳥居の向こう側という距離にも関わらず、遠目に見ても分かるその巨大な姿は雄大だ。シルビとしては『割と小さいな』と思わなくもないが、日頃龍を見たことのない者であればあれは十分に脅威だろう。
シルビの知己である四兄弟はもっと大きかった。
それに爪も四本ではなくちゃんと五本ある。龍の格の高さはその爪の数で測られるものだが、あの龍の爪は四本。つまりもう一段階格が上の龍がいるということだ。
モモの助はどうだったかなと振り返れば、モモの助は空の龍の姿に恐慌をきたしたのかこちらも龍の姿になってしまっていた。菊とシノブはモモの助のそんな変化を今まで知らなかったらしく驚いている。
「よりによって憎き龍の姿に……」
落ち着かせようとしている錦えもんの隣から歩み寄って龍の姿のモモの助を抱き上げた。不安げにシルビを見上げる眼と腕に絡みつく尾は震えている。
「すまん錦えもん。実はオレと麦わら屋、ゾロ屋は正体がバレた」
「何と!?」
「何やってんだてめー、ロー!」
「お前ら“麦わらの一味”に責められる筋合いはない!」
「あ……きっとルフィのせいだ」
「とりあえずゴメン」
どうやらルフィがシルビ達とはぐれてからおでん城で合流するまでの間に既に一悶着やらかしていたらしい。ルフィは本当に逐一問題を起こすなと思うものの、それを止めることも出来ないだろう。あれは既に性分とか宿命とかそんな類だ。
「だが“それだけ”だ」
今のところはまだ『それだけ』で済む話。
というのもカイドウがこの国で作らせている『武器』とドフラミンゴとシーザーが生み出していた『人工悪魔の実SMILE』の闇の取り引きが、それぞれ根源の工場だったパンクハザードとドレスローザのそれを潰したことで壊滅している。首謀者の一人であるドフラミンゴなど今は監獄に送られてもいた。
つまりケンカを売ったのは今のところ“トラファルガー・ロー”とそれに荷担した“麦わらのルフィ”ということになる。ルフィは分からないが船長はパンクハザードとドレスローザにおいては“ハートの海賊団”そしてではなく単独で活動している。
その結果を鑑みればまだ狙われているのはその二人だけの筈で、錦えもん達の『反オロチ』の作戦は存在すら知られていない筈なのだ。
ルフィが森へと駆けていく。おそらくカイドウの現れた辺りへ向かうのだろう。追おうとするナミ達を船長が止めた。
「これ以上誰かの顔が割れれば“麦わらの一味”と“ハート”は全員滞在が確定する! 大捜索が始まるぞ! 冷静に考えろ。見つかったのは『オレ達だけ』お前らの『作戦』は無事だ。いいな」
「――では、おぬしらどうする!」
「放っときてェ所だが……“麦わら屋”はすでにこの国の人間に関わっちまった。感情で動かれちゃ作戦に支障を来す」
この国の人間に関わっているのは船長も同じだ。というよりこの場の全員が錦えもんやモモの助と関わっている。
感情で動かない方がいいと言うそれだって実際は感情論だ。船長自身が既にこの国の人間であるモモの助達に感情移入をしているだろう。冷たい様でいて船長は人情に弱い人だ。
「決戦の日に顔が揃わねェんなら『同盟』の意味がねェ。――オレが何とかしてくる」
「船長」
モモの助を抱いたまま呼びかければ船長が振り返った。
「ペンギン。守れ」
「アイアイ」
船長がルフィを追いかけていく。姿はすぐに見えなくなって、シルビはモモの助を抱いたまま空をふらふらと泳ぐ龍に目を向けた。
龍は雲を掴んで空を駆けるという。シルビの知己はそうではなかったけどあのカイドウはそういう跳び方をしているらしい。
菊に何かを耳打ちされた錦えもんが慌てた様子で城を下っていく。今から行ってもルフィ達に追いつくことは出来ないだろうから何か別の目的か。
シャチとベポが怯えた様子で傍に来る。この二人にとってもあの大きさは恐怖の対象だろう。
当然、ルフィや船長にとってもそうだ。あの大きさの敵をこれから相手にしなければならないとなれば、ビッグマムと対峙するのと面倒さでいえばどっちもどっちである。
無作為に町を襲っている様に見えたカイドウが、不意に鎌首をもたげてこちらを見やった。何を思ったのかおでん城を目指して一直線に迫ってくる。
「気づかれた!?」
「あの距離で気づく訳が……!」
「いや来る!」
チョッパーやブルック達が慌てて逃げようとするものの、当然ながら間に合いそうにない。あの大きさを相手にどこまで逃げればいいのかという見当すら付かなかった。
「ペンギン逃げろ! 逃げよう!」
「モモの助様をこちらに!」
しのぶがモモの助を引き取ろうとしている。モモの助自身はどうすれば良いのか分かっていないかの様に腕の中からシルビを見上げてきていた。
そのモモの助を片手に抱き直す。
こちらに迫っていたカイドウが大きく口を開いた。喉の奥から何かが溢れ出ようとしているのにシルビは腰に提げていたウォレットチェーンを手に巻き付けるように取って前へ突き出す。
黒い匣が揺れる。
「――《エレボス》」
カイドウの喉から吐き出される筈だったものごと、カイドウより更に空高くから降ってきたものがカイドウの顔面を押し潰す。地上から見ていた者からすればそれは、途方もなく太く黒い柱が降ってきたかの様に見えただろう。
正体はシルビの相棒である『エレボス』の小指だ。
少々予想外の大きさになってしまったが、この不当な支配に圧しているワノ国においてはあんなものなのかも知れない。絶望や死への渇望。それでいて“死にたくない”というシルビの願いを抱え込んだ具現化は、倒せる存在が存在しない。
すぐに消えたそれにけれどもカイドウが行おうとしていた攻撃は阻止できた。おでん城は崩壊を免れシルビだけではなくシャチ達も無事だ。流石にシャチ達も急な展開に驚いて腰を抜かしたりしているが。
抱いていたモモの助も唖然として言葉を無くしている。
シルビにとっての問題はそこではなかったが。
「……ヤべぇ」
「な、何が……?」
「いや、船長に『守れ』って言われたけど人なのか城なのか分からなかったもんだから、考え無しな方法使っちゃったぁ」
自分でやっておいて何だが、おそらく別にエレボスを使わずともカイドウの攻撃は防げただろう。盾を作るなり攻撃の進行方向を逸らすなりどうとでもなった筈だ。
それを、エレボスを出してカイドウを直接攻撃したとなれば、そうでなくとも状況的に『おでん城には何かあります』と言っているようなものである。せめて攻撃を受けて被害を最小限に押さえる程度にすればまだ良かったかも知れないが後の祭り。
何故カイドウが途中でおでん城を破壊しようとしたのかはともかく、その攻撃を阻止してしまったのは確実に悪かった。
「い、今のはおぬしがやった、のか?」
モモの助に聞かれるがそれもどう答えたものか。
「とりあえず逃げよう。二回目は流石に防いじゃ駄目だろぉ。今の内に出来るだけ――」
出来るだけおでん城から距離を取ろうとしたところで、起き上がったカイドウが町を振り返っている。意識がこちらから町にいったらしい。おそらくは誰かが話しかけたのだろう。
それが味方か敵かはにわかには分からなかったが、カイドウが町に向かって再び口を開け、今度こそ熱風にも似た息を吐くのにカイドウにとってイヤなものがいると察する。
イヤなもの。この場合は敵だろう。そしてカイドウの“敵”はルフィと船長だ。
「菊さん、若君を頼む。シャチ、ベポ。サンジ君達にも言えることだけど第二撃が来る前に出来るだけここから離れておきなさい。二回目は同じ方法じゃ防げねぇ」
「普通は一撃も防げねェよッ」
「普通じゃなくて悪ぃなぁ」
思わずとばかりに突っ込んだサンジが『しまった』という顔をしている。ブルックやナミ、シャチという事情を知っている者もだ。
他の面々はただ不可思議そうにしていて、シルビはそれを一瞥してモモの助を菊に渡す。
「船長の様子を見に行ってくる」