ワノ国編
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夢主視点
菊の紹介を終えた後、ひとまず中で別行動をしていた間のことを話そうとなりルフィ達が錦えもんの案内で廃墟の中へと入る。かろうじて屋根と壁があるといった様子の部屋はそう広くはなく、なのでシルビは入ることを遠慮し船長に倣って縁側へと腰を下ろした。
縁側に座るのは久しぶりだ。
「まず、モモの助様の件に続き、おぬしらに黙っていた事を一つ話しておかねばならん」
「お前ら秘密が多いな! さっさと全部喋れよ水くせー!」
「いや、ごもっとも……あいすまん! しかしこれは言うても信じ難き話」
錦えもんは言うのを逡巡しているようだった。そんなに隠すような秘密がシルビの『シャイタン』のことよりあるのかと思う。
一応既に知っているらしいシャチが錦えもん達の前に置かれた果物をとってくる。受け取ったブトウを一粒食べれば瑞々しい。
食糧不足だと聞いたばかりなのにこんな瑞々しいブドウがあるのかと思えば、これはどこからか盗んできたものだという。
「おぬしらも知る『カン十郎』と『雷ぞう』 そしてここにおる我ら三名……締めて六名! 何を隠そう『過去』の人間なのだ」
ここにはいない『カン十郎』と『雷ぞう』はゾウで会った二人。そして錦えもんとモモの助。もう一人の菊を含めた六名。
「実は我々、“二十年前”の『ワノ国』より、時を越えてやってきたのでござる!」
時を越えて。
それを聞いて脳裏に浮かぶものがあった。約八百年前のことなのであまり関係は無いだろうと判断し、口には出さない。出しても意味がなさそうだった。
シルビがバンダナに電伝虫で聞いたこの城の名称は『おでん城』だったが、それは異名で実際には『九里城』というらしい。錦えもんにとっての“当時”となる二十年前。そこはモモの助の父親である『光月おでん』の治める地だった。
おでんは当時のワノ国の将軍だった光月スキヤキの息子だったものの破天荒な性格の持ち主で、その自由人振りで果てには暴力事件を起こし『花の都』を追放されたのだという。その後、無法地帯と化していた九里でならず者達をまとめあげ後々『九里大名』の地位を与えられたらしい。
大名となったおでんはしかしたまたまワノ国にやってきた白ひげに出会い、ロジャーに出会ってその船に乗ってこの国へ戻ってきたものの、現在ワノ国の将軍となっている『オロチ』によって罪人として亡くなった。壮絶な人生だ。
そのおでんの死はけれども、過去から来た錦えもん達にとってはたった数ヶ月前の出来事だった。
おでんが処刑場で処刑された後、錦えもん達は光月家転覆を企んでいたオロチからモモの助達を守る為におでん城へ急ぐも、城は既に業火に飲まれていた。城の中にはモモの助とその妹である『日和』に、二人の母親である『光月トキ』が取り残されていたらしい。
「――“トキ”?」
思わず声が出てしまい、話の途中だというのに錦えもん達が一斉にシルビを見る。それに慌てて首を振った。
錦えもんは深く気にすることではないと判断してくれたらしく話を続ける。
「信じ難きことだったが、トキ様は遙か遠い過去に生まれたお方という噂があった」
そのトキと錦えもん達は『必ずオロチとカイドウを討ち果たしワノ国を開国する』という約束をして今の時代へ飛ばされたのだという。
二十年後のワノ国では『光月』の名は蔑みの対象になっており、そこかしこに環境を破壊してやまない工場と立ち上る黒煙。排水汚染で飲めなくなった水や管理されて支配された食糧事情と見る影もない姿になっていた。
それでも亡くなる前のトキの言葉を信じて二十年間待ち続けた同士達の存在を知り、錦えもん達は国外に力を貸してくれる同志を求めて出国したらしい。結果、彼らは船長やルフィ達と出会った。
「思えば危機また危機でござったが出会いに恵まれた」
現在、将軍オロチの軍勢は二十年前の一人の女性の言葉など戯言だとして多くの者が信じていないらしい。お陰で錦えもん達が戻ってきたことも未だ周知はされていないという。
「この戦いはバレぬことが重要でござる。――こちらの戦力はルフィ殿率いる“麦わらの一味”ロー殿の“ハートの海賊団”ミンク族イヌアラシの“銃士隊”ネコマムシの“侠客団”。――そして今かき集めておる反乱の意志を持つ侍達! 理想の戦力は五千人! しかして拙者達は戦争をしたいわけではない」
戦争をしたいというのならきっとシルビは止めていた。
「極秘の内に情報を集め計画的に『大将』の首を取る! 時は二週間後、“火祭りの夜”。 カイドウの住む『鬼ヶ島』へ『討ち入り』を決行致す!」
モモの助やルフィがごくりと固唾を飲む。一緒に聞いている船長はそこまでではないが真剣な表情はしていた。
半分ほど食べ終えたブドウ。下痢の波が引いたのか茂みからふらふらとベポが出てくるも、シルビに気付いた様子もなく縁側の傍で横たわる。このベポの症状もこの国が汚染され、まともな飲み水が無かったからなのだろう。
それにしたって分かっているのに飲むなとは思うが、飲まざるを得ない状況でもある。
錦えもん曰く決戦の地である『鬼ヶ島』は四皇カイドウとカイドウ率いる“百獣海賊団”の本拠地になっているらしい。海岸から見える距離にある島がそれで、つまり討ち入りをするには船が必要不可欠だ。
理想戦力が五千人ならルフィの船にもハートの船にも乗りきれない。現在ワノ国にある船は船旅ではなく漁をする為のものが殆どだろう。であれば船を造るのにも時間が掛かる。
二週間で人員を集めて船を造ってとなると時間は少ない。
「決戦当日の“火祭り”は都の町人達の年に一度の盛大なお祭り。カイドウは国を守る『明王』とされていてその日オロチの『将軍行列』が鬼ヶ島へ参拝に行きます」
祭事としてのそれは形だけのもの。実際には役人達と百獣海賊団の宴が始まるのだという。
そうして酒を飲んで酔っている敵の元に向かい急襲するのが今回の討ち入りの大まかな計画だ。酒を飲ませて酔っているところを襲うというのは昔からある手法である。
「決戦の日と集合場所を図案にした。『火祭り』の日夕刻『酉二つ』場所は『刃武港』! 『火』の『鳥2羽』に『ハブ』! ――そして反乱の意志『逆三日月』!」
「オレこれまだよく分かんないんだよなー。つまり何時?」
絵札を見せながらの錦えもんの説明を聞き、隣に座っていたシャチが呟く。確かにワノ国独特の時間の表し方はシャチには難しいだろう。
「えーと、ワノ国では時間の表し方を十二時辰っていうモンで表してんだけど、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の十二等分してるんだぁ。一つの刻が二十四時間表記にした時に約二時間分になってる。んで、『酉二つ』っていうのは一つの刻を四等分にした時の表し方で、酉は夕方の五時から七時だから……酉二つは五時半から六時までの間だなぁ」
「途中呪文なかった? なに? ネウシトラ?」
「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」
一度覚えてしまえば呪文でも何でもない。それに一日が二十四時間ではなかった世界も経験済みであることを考えれば、二十四時間をいくつに分けようがまだ把握しやすいほうである。
けれどもシルビ以外はそうでもなかったらしく、説明を聞いたシャチだけではなく船長や錦えもんやルフィ達までもが目を丸くしてシルビを見ていた。
「海外の者には覚えにくいと聞くが、流石はペンギン殿でござるな」
錦えもんの中でシルビはどんな人物になってしまっているのか。
「この札を“左足に月の印を持つ者”達に速やかに渡して回るのだ。その印こそ反乱の意志! 味方でござる」
その絵札を反乱同志に人知れず渡す役目として既にウソップやゾロ、それにハートのクルーが数名駆り出されているらしい。ということはそのメンバーにはすぐに会えないだろう。
他にも鬼ヶ島に潜入してから道に迷わない様に、カイドウの屋敷の設計図を手に入れる役目をフランキーが。オロチの軍勢の動向を出来るだけ正確に把握する為にロビンが動いているらしい。
フランキーは大工に弟子入りしていてロビンは芸者なのだそうだ。ある意味では適材適所だろう。
「ブルック殿の能力は都にて食料調達の役に立つ。ナミ殿の天候術はまるで忍術。くの一に! サンジ殿の料理は一気に人を集め人探しにうってつけ! キャロット殿チョッパー殿は菊と共にイヌアラシの所へ向かっていただこう。ペンギン殿は――」
「こいつはオレの部下だ。采配はオレがする」
役割を割り振ろうとした錦えもんの言葉を船長が遮る。シルビとしてもそのほうが良かった。
ワノ国に紛れる為に服を用意してくれるというので錦えもんから葉っぱを受け取る。彼の能力を使わずともシルビは自分で服を用意は出来るのだが、せっかくなら船長達と同じくハートのジョリーロジャーが入っているものが良い。
「ペンギン殿はどんな服がよろしいかな?」
まだ役割も決まっていないから、ナミの様にくの一の格好と決めて出す訳にもいかないのだろう。聞かれてシルビは隣に座っていた船長と錦えもんの隣にいた菊を順に見やる。
出来ることなら動きやすいのが一番なのだが。
「菊さんのより素朴な意匠の振り袖をお願い出来ますか? 注文出来るのなら船長やシャチとお揃いでハートのマーク入れてください」
「印は問題無いが、本当に振り袖で良いのでござるか?」
出来ることならシルビだって着流しが着たい。けれども着流しより振り袖の方がシルビの体格には合うのである。
シルビの骨格は男でありながら女性に近い。男なのに腰にくびれの様なものもあるので男性の着る着物の細目の帯ではすぐに着崩れてしまうのだ。
逆に幅のある帯なら着崩れはしない。振り袖を着た姿が見苦しいと言われたら菊の様に女形の動きをすればいいだけだ。
「ペンギンなら自前の和服持ってそうだけどな」
「……船に取りに行く時間も無ぇだろぉ」
「あ、持ってるんですネ」
持っている、というより用意が出来るといったほうが正しい。しかし和服は殆ど着たことがなかったし、その昔着ていた物自体も地獄や天国での催事の時に着飾るのに使ったものだ。
アレを着てしまえば場違いも甚だしい。
錦えもんの能力で一斉に着替える。『ドロン!』というかけ声と共に見下ろした自分の姿は、予想していたより少し派手ではあったもの大体期待通りの格好だ。
「船長、シャチ、似合いますぅ?」
「まぁ、いいんじゃねェか」
「でもそれでいつもの帽子被んの?」
「……あ」
暫く防寒帽を被っていなかったから、帽子に合わせる思考が抜けていた。
ブルックは完全に幽霊だしナミは肌の露出が多くなってしまっていたが、概ね問題は無さそうだった。シルビは殆ど何も考えずに振り袖にしてもらったせいで防寒帽を被ると不格好になってしまいそうだが、そもそもまだ防寒帽を返してもらえていない。
「というか、俺の帽子はどこにあるんです?」
「ここだ」
そう言って船長が懐からシルビの防寒帽を取り出す。受け取ったそれは船長の体温が移っていて、いったいいつから入れていたのだと聞いてみたくなる。
確かに和服の場合懐や袂に物を入れるものではあるし、シルビだってトットランドでは濡らさない様に何度も懐へ入れていたけれども、流石に体温が移り込むまで入れていなかった筈だ。
筈である。いや、自分で分からなかっただけで実は移り込んでいたかもしれない。
船長がこの防寒帽を被るとは思ってはいなかったが、この持ち歩き方は予想外だった。
「なんだその目は」
「……べっつにぃ」
髪をまとめ上げて妙にぬくい防寒帽を被る。が、すぐに船長に掴まれ脱がされた。
「なんですか」
「似合わねえ」
「いや似合わなくてもアイデンティティですけど俺の。それに被るのは貴方の命令でしょう?」
防寒帽を被って出来るだけ顔を晒さないというのは船長の命令によるものだ。それを律儀に守ってきたのはシルビだけれど。
元は女顔を晒してハートの弱点にならないようにでもあった筈だが、今はもう弱点も何もない。被り続けていれば頭も蒸れてしまうし最近は素顔を殆どの者に知られてしまってもいる。
そう考えると被らなくても問題は無い気はするが。
「その格好の時は被らなくていい。どうせここじゃもうお前の顔を見た奴が殆どだろ」
なし崩しに今後被らなくなるフラグなのではと思いながらも、シルビは返してもらった防寒帽を懐に押し込む。
部屋の中では錦えもんが呼んだ反乱同志のひとりである、くの一のしのぶをナミ達に紹介していた。ツインテールにしてはいるが既に薹が立った熟女になり果てており、女性が好きなサンジが絶望に打ちひしがれている。
反乱同志を集めるのが目下の目的だが、出来ることならどうしても見つけだして欲しい者として『河松』『傳ジロー』『アシュラ童子』の名前を教えられた。かつて錦えもん達と共におでんに仕えていた侍らしい。
その三人は時を越えなかった様である。二十年の間にどうなってしまったのかも分かっていないらしい。
「とりあえずベポを治してから皆に会いたいんですけどぉ」
「トドとか凄い待ちわびてると思うぜ。――ん?」
空に黒雲が渦巻くのが見える。その中心部で何かが蠢いたのに、船長がはっとして屋内のルフィを呼んだ。
菊の紹介を終えた後、ひとまず中で別行動をしていた間のことを話そうとなりルフィ達が錦えもんの案内で廃墟の中へと入る。かろうじて屋根と壁があるといった様子の部屋はそう広くはなく、なのでシルビは入ることを遠慮し船長に倣って縁側へと腰を下ろした。
縁側に座るのは久しぶりだ。
「まず、モモの助様の件に続き、おぬしらに黙っていた事を一つ話しておかねばならん」
「お前ら秘密が多いな! さっさと全部喋れよ水くせー!」
「いや、ごもっとも……あいすまん! しかしこれは言うても信じ難き話」
錦えもんは言うのを逡巡しているようだった。そんなに隠すような秘密がシルビの『シャイタン』のことよりあるのかと思う。
一応既に知っているらしいシャチが錦えもん達の前に置かれた果物をとってくる。受け取ったブトウを一粒食べれば瑞々しい。
食糧不足だと聞いたばかりなのにこんな瑞々しいブドウがあるのかと思えば、これはどこからか盗んできたものだという。
「おぬしらも知る『カン十郎』と『雷ぞう』 そしてここにおる我ら三名……締めて六名! 何を隠そう『過去』の人間なのだ」
ここにはいない『カン十郎』と『雷ぞう』はゾウで会った二人。そして錦えもんとモモの助。もう一人の菊を含めた六名。
「実は我々、“二十年前”の『ワノ国』より、時を越えてやってきたのでござる!」
時を越えて。
それを聞いて脳裏に浮かぶものがあった。約八百年前のことなのであまり関係は無いだろうと判断し、口には出さない。出しても意味がなさそうだった。
シルビがバンダナに電伝虫で聞いたこの城の名称は『おでん城』だったが、それは異名で実際には『九里城』というらしい。錦えもんにとっての“当時”となる二十年前。そこはモモの助の父親である『光月おでん』の治める地だった。
おでんは当時のワノ国の将軍だった光月スキヤキの息子だったものの破天荒な性格の持ち主で、その自由人振りで果てには暴力事件を起こし『花の都』を追放されたのだという。その後、無法地帯と化していた九里でならず者達をまとめあげ後々『九里大名』の地位を与えられたらしい。
大名となったおでんはしかしたまたまワノ国にやってきた白ひげに出会い、ロジャーに出会ってその船に乗ってこの国へ戻ってきたものの、現在ワノ国の将軍となっている『オロチ』によって罪人として亡くなった。壮絶な人生だ。
そのおでんの死はけれども、過去から来た錦えもん達にとってはたった数ヶ月前の出来事だった。
おでんが処刑場で処刑された後、錦えもん達は光月家転覆を企んでいたオロチからモモの助達を守る為におでん城へ急ぐも、城は既に業火に飲まれていた。城の中にはモモの助とその妹である『日和』に、二人の母親である『光月トキ』が取り残されていたらしい。
「――“トキ”?」
思わず声が出てしまい、話の途中だというのに錦えもん達が一斉にシルビを見る。それに慌てて首を振った。
錦えもんは深く気にすることではないと判断してくれたらしく話を続ける。
「信じ難きことだったが、トキ様は遙か遠い過去に生まれたお方という噂があった」
そのトキと錦えもん達は『必ずオロチとカイドウを討ち果たしワノ国を開国する』という約束をして今の時代へ飛ばされたのだという。
二十年後のワノ国では『光月』の名は蔑みの対象になっており、そこかしこに環境を破壊してやまない工場と立ち上る黒煙。排水汚染で飲めなくなった水や管理されて支配された食糧事情と見る影もない姿になっていた。
それでも亡くなる前のトキの言葉を信じて二十年間待ち続けた同士達の存在を知り、錦えもん達は国外に力を貸してくれる同志を求めて出国したらしい。結果、彼らは船長やルフィ達と出会った。
「思えば危機また危機でござったが出会いに恵まれた」
現在、将軍オロチの軍勢は二十年前の一人の女性の言葉など戯言だとして多くの者が信じていないらしい。お陰で錦えもん達が戻ってきたことも未だ周知はされていないという。
「この戦いはバレぬことが重要でござる。――こちらの戦力はルフィ殿率いる“麦わらの一味”ロー殿の“ハートの海賊団”ミンク族イヌアラシの“銃士隊”ネコマムシの“侠客団”。――そして今かき集めておる反乱の意志を持つ侍達! 理想の戦力は五千人! しかして拙者達は戦争をしたいわけではない」
戦争をしたいというのならきっとシルビは止めていた。
「極秘の内に情報を集め計画的に『大将』の首を取る! 時は二週間後、“火祭りの夜”。 カイドウの住む『鬼ヶ島』へ『討ち入り』を決行致す!」
モモの助やルフィがごくりと固唾を飲む。一緒に聞いている船長はそこまでではないが真剣な表情はしていた。
半分ほど食べ終えたブドウ。下痢の波が引いたのか茂みからふらふらとベポが出てくるも、シルビに気付いた様子もなく縁側の傍で横たわる。このベポの症状もこの国が汚染され、まともな飲み水が無かったからなのだろう。
それにしたって分かっているのに飲むなとは思うが、飲まざるを得ない状況でもある。
錦えもん曰く決戦の地である『鬼ヶ島』は四皇カイドウとカイドウ率いる“百獣海賊団”の本拠地になっているらしい。海岸から見える距離にある島がそれで、つまり討ち入りをするには船が必要不可欠だ。
理想戦力が五千人ならルフィの船にもハートの船にも乗りきれない。現在ワノ国にある船は船旅ではなく漁をする為のものが殆どだろう。であれば船を造るのにも時間が掛かる。
二週間で人員を集めて船を造ってとなると時間は少ない。
「決戦当日の“火祭り”は都の町人達の年に一度の盛大なお祭り。カイドウは国を守る『明王』とされていてその日オロチの『将軍行列』が鬼ヶ島へ参拝に行きます」
祭事としてのそれは形だけのもの。実際には役人達と百獣海賊団の宴が始まるのだという。
そうして酒を飲んで酔っている敵の元に向かい急襲するのが今回の討ち入りの大まかな計画だ。酒を飲ませて酔っているところを襲うというのは昔からある手法である。
「決戦の日と集合場所を図案にした。『火祭り』の日夕刻『酉二つ』場所は『刃武港』! 『火』の『鳥2羽』に『ハブ』! ――そして反乱の意志『逆三日月』!」
「オレこれまだよく分かんないんだよなー。つまり何時?」
絵札を見せながらの錦えもんの説明を聞き、隣に座っていたシャチが呟く。確かにワノ国独特の時間の表し方はシャチには難しいだろう。
「えーと、ワノ国では時間の表し方を十二時辰っていうモンで表してんだけど、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の十二等分してるんだぁ。一つの刻が二十四時間表記にした時に約二時間分になってる。んで、『酉二つ』っていうのは一つの刻を四等分にした時の表し方で、酉は夕方の五時から七時だから……酉二つは五時半から六時までの間だなぁ」
「途中呪文なかった? なに? ネウシトラ?」
「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」
一度覚えてしまえば呪文でも何でもない。それに一日が二十四時間ではなかった世界も経験済みであることを考えれば、二十四時間をいくつに分けようがまだ把握しやすいほうである。
けれどもシルビ以外はそうでもなかったらしく、説明を聞いたシャチだけではなく船長や錦えもんやルフィ達までもが目を丸くしてシルビを見ていた。
「海外の者には覚えにくいと聞くが、流石はペンギン殿でござるな」
錦えもんの中でシルビはどんな人物になってしまっているのか。
「この札を“左足に月の印を持つ者”達に速やかに渡して回るのだ。その印こそ反乱の意志! 味方でござる」
その絵札を反乱同志に人知れず渡す役目として既にウソップやゾロ、それにハートのクルーが数名駆り出されているらしい。ということはそのメンバーにはすぐに会えないだろう。
他にも鬼ヶ島に潜入してから道に迷わない様に、カイドウの屋敷の設計図を手に入れる役目をフランキーが。オロチの軍勢の動向を出来るだけ正確に把握する為にロビンが動いているらしい。
フランキーは大工に弟子入りしていてロビンは芸者なのだそうだ。ある意味では適材適所だろう。
「ブルック殿の能力は都にて食料調達の役に立つ。ナミ殿の天候術はまるで忍術。くの一に! サンジ殿の料理は一気に人を集め人探しにうってつけ! キャロット殿チョッパー殿は菊と共にイヌアラシの所へ向かっていただこう。ペンギン殿は――」
「こいつはオレの部下だ。采配はオレがする」
役割を割り振ろうとした錦えもんの言葉を船長が遮る。シルビとしてもそのほうが良かった。
ワノ国に紛れる為に服を用意してくれるというので錦えもんから葉っぱを受け取る。彼の能力を使わずともシルビは自分で服を用意は出来るのだが、せっかくなら船長達と同じくハートのジョリーロジャーが入っているものが良い。
「ペンギン殿はどんな服がよろしいかな?」
まだ役割も決まっていないから、ナミの様にくの一の格好と決めて出す訳にもいかないのだろう。聞かれてシルビは隣に座っていた船長と錦えもんの隣にいた菊を順に見やる。
出来ることなら動きやすいのが一番なのだが。
「菊さんのより素朴な意匠の振り袖をお願い出来ますか? 注文出来るのなら船長やシャチとお揃いでハートのマーク入れてください」
「印は問題無いが、本当に振り袖で良いのでござるか?」
出来ることならシルビだって着流しが着たい。けれども着流しより振り袖の方がシルビの体格には合うのである。
シルビの骨格は男でありながら女性に近い。男なのに腰にくびれの様なものもあるので男性の着る着物の細目の帯ではすぐに着崩れてしまうのだ。
逆に幅のある帯なら着崩れはしない。振り袖を着た姿が見苦しいと言われたら菊の様に女形の動きをすればいいだけだ。
「ペンギンなら自前の和服持ってそうだけどな」
「……船に取りに行く時間も無ぇだろぉ」
「あ、持ってるんですネ」
持っている、というより用意が出来るといったほうが正しい。しかし和服は殆ど着たことがなかったし、その昔着ていた物自体も地獄や天国での催事の時に着飾るのに使ったものだ。
アレを着てしまえば場違いも甚だしい。
錦えもんの能力で一斉に着替える。『ドロン!』というかけ声と共に見下ろした自分の姿は、予想していたより少し派手ではあったもの大体期待通りの格好だ。
「船長、シャチ、似合いますぅ?」
「まぁ、いいんじゃねェか」
「でもそれでいつもの帽子被んの?」
「……あ」
暫く防寒帽を被っていなかったから、帽子に合わせる思考が抜けていた。
ブルックは完全に幽霊だしナミは肌の露出が多くなってしまっていたが、概ね問題は無さそうだった。シルビは殆ど何も考えずに振り袖にしてもらったせいで防寒帽を被ると不格好になってしまいそうだが、そもそもまだ防寒帽を返してもらえていない。
「というか、俺の帽子はどこにあるんです?」
「ここだ」
そう言って船長が懐からシルビの防寒帽を取り出す。受け取ったそれは船長の体温が移っていて、いったいいつから入れていたのだと聞いてみたくなる。
確かに和服の場合懐や袂に物を入れるものではあるし、シルビだってトットランドでは濡らさない様に何度も懐へ入れていたけれども、流石に体温が移り込むまで入れていなかった筈だ。
筈である。いや、自分で分からなかっただけで実は移り込んでいたかもしれない。
船長がこの防寒帽を被るとは思ってはいなかったが、この持ち歩き方は予想外だった。
「なんだその目は」
「……べっつにぃ」
髪をまとめ上げて妙にぬくい防寒帽を被る。が、すぐに船長に掴まれ脱がされた。
「なんですか」
「似合わねえ」
「いや似合わなくてもアイデンティティですけど俺の。それに被るのは貴方の命令でしょう?」
防寒帽を被って出来るだけ顔を晒さないというのは船長の命令によるものだ。それを律儀に守ってきたのはシルビだけれど。
元は女顔を晒してハートの弱点にならないようにでもあった筈だが、今はもう弱点も何もない。被り続けていれば頭も蒸れてしまうし最近は素顔を殆どの者に知られてしまってもいる。
そう考えると被らなくても問題は無い気はするが。
「その格好の時は被らなくていい。どうせここじゃもうお前の顔を見た奴が殆どだろ」
なし崩しに今後被らなくなるフラグなのではと思いながらも、シルビは返してもらった防寒帽を懐に押し込む。
部屋の中では錦えもんが呼んだ反乱同志のひとりである、くの一のしのぶをナミ達に紹介していた。ツインテールにしてはいるが既に薹が立った熟女になり果てており、女性が好きなサンジが絶望に打ちひしがれている。
反乱同志を集めるのが目下の目的だが、出来ることならどうしても見つけだして欲しい者として『河松』『傳ジロー』『アシュラ童子』の名前を教えられた。かつて錦えもん達と共におでんに仕えていた侍らしい。
その三人は時を越えなかった様である。二十年の間にどうなってしまったのかも分かっていないらしい。
「とりあえずベポを治してから皆に会いたいんですけどぉ」
「トドとか凄い待ちわびてると思うぜ。――ん?」
空に黒雲が渦巻くのが見える。その中心部で何かが蠢いたのに、船長がはっとして屋内のルフィを呼んだ。