ワノ国編
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夢主視点
浜辺で捕まえたカニをキャロットとチョッパーが鷹に与えている。それを眺めつつシルビはすがりたい気持ちで電伝虫が電波を飛ばすのを見守った。
パンクハザードへ行く前に渡した何処へ居ようと繋がるちょっと特別製の電伝虫。正直に言うならシルビは電伝虫よりスマートフォンとかの様な完全に機械的なもののほうが有り難いのだが、この世界には無いので妥協している。
そんな電伝虫が目を開けた。
「船長?」
『残念だけど船長じゃないよ』
電話に出たのはシルビが電伝虫を渡した筈の船長ではなくバンダナだ。知っている馴染みのある声に安堵しつつ、少しだけ『どうして船長は出てくれなかったのか』と落胆する。
バンダナの声が聞けて嬉しくない訳ではないが、船長に出てもらいたかった。
「船長はどこです?」
『あの人はシャチやベポを連れて同盟軍の拠点にいるよ。オレはたまたま船番だったのさ』
どうやら電伝虫を船長は持ち歩いていないらしい。日頃からそうなのでシルビが渡した電伝虫だけ持ち歩くなんてことも無いだろうが。
「じゃあ、連絡をお願いしていいですか? 俺達もワノ国に到着しました」
連絡さえ繋がればシルビ達が向かっても行き違うなんてことはなくなる。
バンダナから同盟軍の拠点の所在を訊けば、やはりシルビが推測した通り光月家と縁のある場所だった。縁があるというよりはおそらく錦えもん達がそこ以外を拠点にすることはないだろう。
九里と呼ばれる地域の一角、少なくともシルビが最後に訪れた時はそういう名称だった場所に城跡があるらしい。
シルビには城があった覚えなど無いが過去に建てられたのだろう。シルビが以前ワノ国を訪れたのは数十年単位での昔の話だ。シルビがいた記録なんてもう神社の倉の中だけにしか無いだろう。
『ペンちゃんなら大丈夫だろうが、一応誰にも見つからない様に行くんだよ。詳しい話は合流してからがいいだろうけど、この国もまた大層面倒そうだしねぇ』
「それって俺の故郷とどっちが面倒ですぅ?」
『怖いのはペンちゃんの故郷だね。でも面倒さで言ったらこっちだ』
バンダナはそう言って通話を終わらせる。とりあえず行き先は分かったなと思いながら電伝虫を片づけた。
自分で聞いておいてなんだが、故郷を怖いと言われるのが少し釈然としない。確かにあの国の真髄を知らない者は怖いだろうが。
「おでん城跡に行きてぇんだけど、案内頼めるかぁ?」
チョッパー達と遊んでいた鷹に話しかければ、カニを食べてご満悦な鷹が鳴いた。
鷹の案内を受けて小一時間。向かったのはシルビ達が漂着した海岸からはそう遠くない場所にあった城跡だった。
いつ崩れたのかは分からないが恐らくは燃え崩れたのだろう。そこかしこに僅かに残る炭や燃え残りはけれども、数年以上の年月を受けて風化すらしている。他にも雨に打たれて腐りかけている場所もあった。
モモの助の年齢から考えるとこの城が墜ちたのはまだ新しい筈なのだが劣化具合がおかしい。
「どうした?」
「城の周辺は燃え墜ちたみてぇだけど、それにしては木々の回復が早ぇと思ってぇ」
「そういう木なんじゃねェか?」
「植物煎じる薬剤師に言う言葉じゃねぇよそれぇ」
サンジやナミは仲間と合流出来ることが意識にあってシルビの様な違和感は持っていないようだった。シルビも船長達に再会出来るのは嬉しいが、だからといって現を抜かす訳にはいかないだろう。
トットランドのビッグマムから逃げられたとはいえ、次の相手はまた四皇の一人なのだ。その四皇『カイドウ』からワノ国の支配を取り返すというのがモモの助達の悲願で、ルフィや船長率いるシルビ達はそれを手伝わなければならない。
その為の情報収集や現状把握はむしろ遅いくらいだろう。
果たして船長やルフィ達、モモの助達はどこまで計画の準備を進めているのかと考えたところで、錦えもんとモモの助、それに和服を着たルフィとゾロと船長の姿が見えたところで、シルビは思考を全て停止させた。
「ルフィ!」
「おーい!」
チョッパーやナミ達がルフィの姿に呼びかける。ルフィ達が気付いてこちらを振り向き、手を振り返してくる傍で船長がこちらを向いた。
シルビはそれに向かって駆け寄る。
「船長!」
黒地の着流しに羽織を肩に掛けただけの姿。帽子はシルビに貸し渡していたからか被っておらず、そのせいでいつもなら影になりがちの眼がしっかりと見えている。
体格が良い上に割りと姿勢も良いので着流しも似合うだろうとは思っていたが、なるほど予想以上に似合っていた。胸元にしっかりハートのジョリーロジャーがあるのはわざわざ注文したのか。誰が用意して渡したのか知らないがいい仕事をしたと評価したい。
けれども評価する前にシルビはその中身が欲しかった。
ゾウで別れる前に帽子を洗いながら会話をしたり一緒にポーネグリフを見に行ったり、別れ際に帽子を貸して貰ったりしたがその程度のスキンシップでシルビが満たされると思わないで欲しい。
とりあえずハグ。とりあえずハグでいいと飛びつこうとした刹那。
船長に避けられた。
「……。船長?」
「野郎に飛びつかれる趣味は無ェ」
船長に避けられたままの位置で止まる。しれっとのたまう船長は確かに普段からスキンシップは好まない人であるが、流石に今回はしてくれたっていいだろう。
「……俺、色々頑張ってきたんですけど」
「無事に戻ってきたことは褒めてやる。よく黒足屋を連れ戻したな」
当初の目的はそれなので、生きて戻ってきてもそれが達成出来ていなければ船長は褒めてくれなかった。それは分かる。これでもハートの副船長だ。
分かっている。船長が人でなしに見えて人情に厚くクルー一人一人を大切にしていることも、これがシルビではなくベポであったなら避けずに受け止めていただろう事も。
シルビが駆け寄って避けたのも勢いが正直怖かったからだとか、言った通り人前で男に抱きつかれる趣味がないからだとか、分かっているのだ。
それでも流石に避けるのは心が傷つく。
ビッグ・マムと対峙してその攻撃を防いだり、時間稼ぎをしたり海を割ったり名乗りたくもない『死告シャイタン』を名乗ったりという苦労をしてきたというのに、この仕打ち。
「……へこむぅ」
俯いたままその場に座り込む。自分でもルフィ達の前でこの醜態はどうかと思うが、少し期待していた自分へのご褒美が奪われた気分だった。
「トラ男ー。シルビがかわいそうだろ」
「ルフィ君やさしいぃ。でもペンギンって呼んでぇ」
「そうですよトラ男さん。ペンギンさんはとっても頑張ってましたヨ」
「おいヤメろ。甘やかすな」
「甘やかしてないわよ。というか、アンタが甘やかさないと愛想尽かされちゃうんじゃない? イチジ君のとこに行っちゃうわよ」
「イチジ?」
船長はイチジを知らない。そしてシルビもいくら船長が冷たかろうがイチジの元へ行くつもりは今のところなかった。
ふざけていても仕方がないので気を取り直して立ち上がり、被っていた帽子を船長に差し出す。
「ただいま戻りました」
「――後で報告を聞く」
船長の頭に戻った帽子はやはり、そこが定位置だとばかりにきちんと収まっていた。返したはいいが近いうちに一度洗わせて欲しいとは思う。
廃墟の影から足音がして見れば、シャチがこちらに向かってきていた。
「船長、ベポが茂みから出てきません。ゲリで。――って、ペンギン!? ペンギン戻ってきたの!?」
「――これぇ! 俺はこういう反応が欲しかったんだぁ!」
諸手を上げてシルビの帰還を喜んでくれるシャチに飛びつく。
シャチもこの国に合わせて着流しを着ていた。
シャチも船長と同じく黒地の着流しを着ている。船長とは違う位置にやはりハートのジョリーロジャーがあり、ということはおそらく他のクルー達も刺繍されているのだろう。
全員揃ってお揃いか羨ましいと思うものの、きっとシルビの分もあるはずだ。あると願いたい。
シルビの帰還に驚いているということはバンダナから伝達はされていなかったのだろう。船番をしているというバンダナとハートの船がどこにあるのかは現状シルビは把握していないが、情報が共有されていない点については不満があるものの、今はそんなことよりもハートの海賊団に帰ってきたという満足感だ。
「俺が居なくて寂しくなかったかぁ? 俺は寂しかったぁ。もう大変だったんだぜぇ! 昔の知り合いが養い子に喰われたっていう事実は発覚するし故郷の知人には再会するしケーキや水飴まみれにはなるしビッグマムの剣を受け止めたり使いたくもねぇ昔の知人の武器を使ったりさぁ!」
「……あーと、うん、オツカレサマ」
「労いが少ねぇ! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはありません! 育てた覚えもねぇけどぉ!」
キャスケット帽子の上からシャチの頭を撫でる。この感覚も久しぶりだ。
「ペンギン君ってあんな感じなの?」
「久しぶりでテンションが上がってるだけだろ」
後ろでナミと船長のそんな会話が聞こえる。そのテンションを下げさせてくれなかった張本人が何を言うか。
とりあえず船長からの労いは二人きりになれた時とかを狙って強請ろうと考える。
「バンダナさんは船にいるって知ってるけど、ワカメやベポ達はぁ?」
「ワカメは任務中。ベポはあっちの茂みで腹壊してる」
どうやらベポはタイミング悪く腹を壊しているらしい。下痢というのは体内に入り込んだ毒素を排出する働きでもあるから別に驚く事でもないが、茂みではなくトイレに行けとは思った。
「薬は飲ませたかぁ? 下痢の時は著しい水分不足になるから水も飲ませねぇと」
「あー、すまぬがペンギン殿。この国は現状水不足に襲われておる」
「水不足?」
「更に言うなら安全な食料も殆どありません」
錦えもんとその傍にいた振り袖姿の人物が言うのに顔を向ける。
振り袖姿の人物は女性が着る振り袖を着ているしシルビ同様長い黒髪も地毛の様だが、骨格が男性のそれをしていた。身長も船長より高く刀も差している。けれども所作は女性のそれだ。
シルビとは逆の様相。けれどもおそらくは自発的にそうしているのだろう。彼は。
「女形ですか?」
「心は乙女です。菊と申します」
浜辺で捕まえたカニをキャロットとチョッパーが鷹に与えている。それを眺めつつシルビはすがりたい気持ちで電伝虫が電波を飛ばすのを見守った。
パンクハザードへ行く前に渡した何処へ居ようと繋がるちょっと特別製の電伝虫。正直に言うならシルビは電伝虫よりスマートフォンとかの様な完全に機械的なもののほうが有り難いのだが、この世界には無いので妥協している。
そんな電伝虫が目を開けた。
「船長?」
『残念だけど船長じゃないよ』
電話に出たのはシルビが電伝虫を渡した筈の船長ではなくバンダナだ。知っている馴染みのある声に安堵しつつ、少しだけ『どうして船長は出てくれなかったのか』と落胆する。
バンダナの声が聞けて嬉しくない訳ではないが、船長に出てもらいたかった。
「船長はどこです?」
『あの人はシャチやベポを連れて同盟軍の拠点にいるよ。オレはたまたま船番だったのさ』
どうやら電伝虫を船長は持ち歩いていないらしい。日頃からそうなのでシルビが渡した電伝虫だけ持ち歩くなんてことも無いだろうが。
「じゃあ、連絡をお願いしていいですか? 俺達もワノ国に到着しました」
連絡さえ繋がればシルビ達が向かっても行き違うなんてことはなくなる。
バンダナから同盟軍の拠点の所在を訊けば、やはりシルビが推測した通り光月家と縁のある場所だった。縁があるというよりはおそらく錦えもん達がそこ以外を拠点にすることはないだろう。
九里と呼ばれる地域の一角、少なくともシルビが最後に訪れた時はそういう名称だった場所に城跡があるらしい。
シルビには城があった覚えなど無いが過去に建てられたのだろう。シルビが以前ワノ国を訪れたのは数十年単位での昔の話だ。シルビがいた記録なんてもう神社の倉の中だけにしか無いだろう。
『ペンちゃんなら大丈夫だろうが、一応誰にも見つからない様に行くんだよ。詳しい話は合流してからがいいだろうけど、この国もまた大層面倒そうだしねぇ』
「それって俺の故郷とどっちが面倒ですぅ?」
『怖いのはペンちゃんの故郷だね。でも面倒さで言ったらこっちだ』
バンダナはそう言って通話を終わらせる。とりあえず行き先は分かったなと思いながら電伝虫を片づけた。
自分で聞いておいてなんだが、故郷を怖いと言われるのが少し釈然としない。確かにあの国の真髄を知らない者は怖いだろうが。
「おでん城跡に行きてぇんだけど、案内頼めるかぁ?」
チョッパー達と遊んでいた鷹に話しかければ、カニを食べてご満悦な鷹が鳴いた。
鷹の案内を受けて小一時間。向かったのはシルビ達が漂着した海岸からはそう遠くない場所にあった城跡だった。
いつ崩れたのかは分からないが恐らくは燃え崩れたのだろう。そこかしこに僅かに残る炭や燃え残りはけれども、数年以上の年月を受けて風化すらしている。他にも雨に打たれて腐りかけている場所もあった。
モモの助の年齢から考えるとこの城が墜ちたのはまだ新しい筈なのだが劣化具合がおかしい。
「どうした?」
「城の周辺は燃え墜ちたみてぇだけど、それにしては木々の回復が早ぇと思ってぇ」
「そういう木なんじゃねェか?」
「植物煎じる薬剤師に言う言葉じゃねぇよそれぇ」
サンジやナミは仲間と合流出来ることが意識にあってシルビの様な違和感は持っていないようだった。シルビも船長達に再会出来るのは嬉しいが、だからといって現を抜かす訳にはいかないだろう。
トットランドのビッグマムから逃げられたとはいえ、次の相手はまた四皇の一人なのだ。その四皇『カイドウ』からワノ国の支配を取り返すというのがモモの助達の悲願で、ルフィや船長率いるシルビ達はそれを手伝わなければならない。
その為の情報収集や現状把握はむしろ遅いくらいだろう。
果たして船長やルフィ達、モモの助達はどこまで計画の準備を進めているのかと考えたところで、錦えもんとモモの助、それに和服を着たルフィとゾロと船長の姿が見えたところで、シルビは思考を全て停止させた。
「ルフィ!」
「おーい!」
チョッパーやナミ達がルフィの姿に呼びかける。ルフィ達が気付いてこちらを振り向き、手を振り返してくる傍で船長がこちらを向いた。
シルビはそれに向かって駆け寄る。
「船長!」
黒地の着流しに羽織を肩に掛けただけの姿。帽子はシルビに貸し渡していたからか被っておらず、そのせいでいつもなら影になりがちの眼がしっかりと見えている。
体格が良い上に割りと姿勢も良いので着流しも似合うだろうとは思っていたが、なるほど予想以上に似合っていた。胸元にしっかりハートのジョリーロジャーがあるのはわざわざ注文したのか。誰が用意して渡したのか知らないがいい仕事をしたと評価したい。
けれども評価する前にシルビはその中身が欲しかった。
ゾウで別れる前に帽子を洗いながら会話をしたり一緒にポーネグリフを見に行ったり、別れ際に帽子を貸して貰ったりしたがその程度のスキンシップでシルビが満たされると思わないで欲しい。
とりあえずハグ。とりあえずハグでいいと飛びつこうとした刹那。
船長に避けられた。
「……。船長?」
「野郎に飛びつかれる趣味は無ェ」
船長に避けられたままの位置で止まる。しれっとのたまう船長は確かに普段からスキンシップは好まない人であるが、流石に今回はしてくれたっていいだろう。
「……俺、色々頑張ってきたんですけど」
「無事に戻ってきたことは褒めてやる。よく黒足屋を連れ戻したな」
当初の目的はそれなので、生きて戻ってきてもそれが達成出来ていなければ船長は褒めてくれなかった。それは分かる。これでもハートの副船長だ。
分かっている。船長が人でなしに見えて人情に厚くクルー一人一人を大切にしていることも、これがシルビではなくベポであったなら避けずに受け止めていただろう事も。
シルビが駆け寄って避けたのも勢いが正直怖かったからだとか、言った通り人前で男に抱きつかれる趣味がないからだとか、分かっているのだ。
それでも流石に避けるのは心が傷つく。
ビッグ・マムと対峙してその攻撃を防いだり、時間稼ぎをしたり海を割ったり名乗りたくもない『死告シャイタン』を名乗ったりという苦労をしてきたというのに、この仕打ち。
「……へこむぅ」
俯いたままその場に座り込む。自分でもルフィ達の前でこの醜態はどうかと思うが、少し期待していた自分へのご褒美が奪われた気分だった。
「トラ男ー。シルビがかわいそうだろ」
「ルフィ君やさしいぃ。でもペンギンって呼んでぇ」
「そうですよトラ男さん。ペンギンさんはとっても頑張ってましたヨ」
「おいヤメろ。甘やかすな」
「甘やかしてないわよ。というか、アンタが甘やかさないと愛想尽かされちゃうんじゃない? イチジ君のとこに行っちゃうわよ」
「イチジ?」
船長はイチジを知らない。そしてシルビもいくら船長が冷たかろうがイチジの元へ行くつもりは今のところなかった。
ふざけていても仕方がないので気を取り直して立ち上がり、被っていた帽子を船長に差し出す。
「ただいま戻りました」
「――後で報告を聞く」
船長の頭に戻った帽子はやはり、そこが定位置だとばかりにきちんと収まっていた。返したはいいが近いうちに一度洗わせて欲しいとは思う。
廃墟の影から足音がして見れば、シャチがこちらに向かってきていた。
「船長、ベポが茂みから出てきません。ゲリで。――って、ペンギン!? ペンギン戻ってきたの!?」
「――これぇ! 俺はこういう反応が欲しかったんだぁ!」
諸手を上げてシルビの帰還を喜んでくれるシャチに飛びつく。
シャチもこの国に合わせて着流しを着ていた。
シャチも船長と同じく黒地の着流しを着ている。船長とは違う位置にやはりハートのジョリーロジャーがあり、ということはおそらく他のクルー達も刺繍されているのだろう。
全員揃ってお揃いか羨ましいと思うものの、きっとシルビの分もあるはずだ。あると願いたい。
シルビの帰還に驚いているということはバンダナから伝達はされていなかったのだろう。船番をしているというバンダナとハートの船がどこにあるのかは現状シルビは把握していないが、情報が共有されていない点については不満があるものの、今はそんなことよりもハートの海賊団に帰ってきたという満足感だ。
「俺が居なくて寂しくなかったかぁ? 俺は寂しかったぁ。もう大変だったんだぜぇ! 昔の知り合いが養い子に喰われたっていう事実は発覚するし故郷の知人には再会するしケーキや水飴まみれにはなるしビッグマムの剣を受け止めたり使いたくもねぇ昔の知人の武器を使ったりさぁ!」
「……あーと、うん、オツカレサマ」
「労いが少ねぇ! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはありません! 育てた覚えもねぇけどぉ!」
キャスケット帽子の上からシャチの頭を撫でる。この感覚も久しぶりだ。
「ペンギン君ってあんな感じなの?」
「久しぶりでテンションが上がってるだけだろ」
後ろでナミと船長のそんな会話が聞こえる。そのテンションを下げさせてくれなかった張本人が何を言うか。
とりあえず船長からの労いは二人きりになれた時とかを狙って強請ろうと考える。
「バンダナさんは船にいるって知ってるけど、ワカメやベポ達はぁ?」
「ワカメは任務中。ベポはあっちの茂みで腹壊してる」
どうやらベポはタイミング悪く腹を壊しているらしい。下痢というのは体内に入り込んだ毒素を排出する働きでもあるから別に驚く事でもないが、茂みではなくトイレに行けとは思った。
「薬は飲ませたかぁ? 下痢の時は著しい水分不足になるから水も飲ませねぇと」
「あー、すまぬがペンギン殿。この国は現状水不足に襲われておる」
「水不足?」
「更に言うなら安全な食料も殆どありません」
錦えもんとその傍にいた振り袖姿の人物が言うのに顔を向ける。
振り袖姿の人物は女性が着る振り袖を着ているしシルビ同様長い黒髪も地毛の様だが、骨格が男性のそれをしていた。身長も船長より高く刀も差している。けれども所作は女性のそれだ。
シルビとは逆の様相。けれどもおそらくは自発的にそうしているのだろう。彼は。
「女形ですか?」
「心は乙女です。菊と申します」