ワノ国編
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夢主視点
ふざけているつもりはないがふざけている様に聞こえてしまうだろう真面目な話、シルビはワノ国に正しい入国方法で立ち入ったことがなかった。
というよりも、大抵の国や島で正式な入国をした覚えがない。
この大航海世界ではパスポートという概念が無く殆どが自由に出入りできる代わりに、少数の島や国では外部からの立ち入りを拒絶していることがあった。かく言うシルビの故郷も世間的には鎖国状態の島である。正しくは入国制限程度なのだが知らぬ者が多すぎて入国者は殆どいない。
話を戻すが、だからシルビはワノ国の正しい入港の仕方など知らなかった。
腰を下ろしたサニー号の船縁。背後の甲板ではナミ達が届いた新聞に書かれている『世界会議』の記事を読んで騒いでいる。
シルビは死告シャイタンとしてであっても世界会議には基本ノータッチだ。一応『世界政府の宿敵』という扱いなのだから、敵ということになる政府の会議に顔を出す必要はないだろう。それに会議の会場が気に食わなかった。
ただ今回はドレスローザやトットランドで姿を現してしまったこともあり、議題の一つとして取り上げられているかも知れない。後者はともかくドレスローザでの件に関しては世界的に報じられた。
船長を死なせないこととコラソンの願いを叶えるという結果は果たせたので文句は無かったが、必要以上に警戒されて五老星や“更にその上”が出てこられても面白くない。
新聞に掲載されている写真にはルフィ達の知り合いも何人か写っているらしい。それぞれ縁の深い知り合いを見つけては懐かしがっているのを横目に、シルビは進路の先にある海域を見た。
「まぁ、見えずに入れねぇ島よりマシかなぁ」
荒れ狂う潮と波。嫌な気配を覚える悪天候。けれども物理的に見えている以上腕のいい航海士が乗っていれば進めないこともないだろう。
「えーッ!? いつでも悪天候!? じゃ行くしかないんですか!? “侍”が強い上に入国も困難とはそりゃ鎖国国家」
「いやいや俺の故郷よりマシでしょう。俺の故郷は――タコ?」
騒ぐブルックを振り返った先、ブルックと入国方法について話していたらしいナミの隣に、いつの間にかタコが立っていた。
軟体動物かつ水の外だというのに、見事に自身の体を支えて自立している。珍しいと思うと同時に何故船へ乗り込んできているのかと警戒すれば、そのタコが唐突に自分の額を叩いた。
見事な音がする。同時に船が激しく進み出した。
「わー魚群!」
「鯉の群!?」
船と同じくらいの大きさの魚を、それでも鯉だと判断できる柔軟さは素晴らしい。
ルフィが鯉を食べる為に捕まえようと水面に飛び出した鯉へと飛びかかっていく。ナミが怒っているがシルビも少し鯉こくは食べたかった。
水はわき出たばかりの水の様に澄みきっており鯉の群がその色彩も豊かに眺めることが出来る。タコが頭を叩く度に荒々しくなる水流にけれどもシルビは特に身を守ることなく帽子を押さえて進路の先を見た。
滝がある。
「鯉が滝を登ってる!」
「なんで!?」
「河流の先に滝って! どういう水の流れだ!?」
「……竜門かぁ」
同じく前方の滝に気付いたサンジ達が驚いているが、シルビとしては思い至るものがあっただけにそこまで驚きはしなかった。
鯉の滝登り。あるいは竜門の滝登り。この世界は時としてそういうことがある。熟語などになぞらえた光景だ。
見ているだけなら楽しいが自然法則はどうなっているのかと疑問に思うことも昔はあった。しかしいつの頃からか『この世界はそんなものだ』と思うことで深く考えないようにしたもの確かである。
法則や原理を追求しようとすればドツボにハマるのが分かっている行為は推奨出来ない。
ともあれ船は滝を登ろうとする鯉の群に巻き込まれ滝へ突っ込んでいく。このままでは滝壺に飲まれてしまうかと危惧してシルビが船首へ向かおうとすると、鯉を諦めたらしいルフィが戻ってきた。
「ルフィ! 船が沈んじゃうって!」
「おう!任せとけ! しっかり捕まってろ!」
「あ、待っ――」
シルビが制止するよりも早く、ルフィが腕を伸ばして滝を登っていた鯉を掴む。ルフィの腕を手綱代わりに船が鯉に引かれていく。
これはこれで船がひっくり返りそうで怖い。何せ滝に対してほぼ垂直だ。
「ルフィ君ルフィ君! あんまり無茶しねぇでぇ! この船応急処置しか出来てねぇんだからぁ!」
「サニー号は壊れねェ!」
その信頼はいいが自信はどこか来ているのか。
サニー号はそんなシルビの心配を余所にぐんぐんと滝を登っていく。ポーラータンク号では絶対に出来ないなと思ったところで滝を登りきった。
だが一難去ってはまた一難というところか、滝を登ってくる河流と滝に向かおうとする河流とのぶつかりあいによって生じた渦潮が発生している。
渦潮の向こうには陸が見えていた。
「人命優先でぇ! 船は後で探すの手伝うからぁ!」
「ナミさん、キャロットちゃん! オレに捕まれ! 陸に飛ぶ!」
「待ってくれサンジ! オレ達も!」
「ムリだ。重すぎる!」
「見捨てるなよー!」
「ああほらチョッパー船医とブルックさんは俺に捕まりなさい」
チョッパーとブルックをそれぞれ抱き抱える。二人とも悪魔の実の能力者なので渦潮に飲まれるのは危険すぎた。一応ブルックは海の上を走れるが流石に渦潮の上は無理だろう。
膨らんだルフィの腹を飛び台にサンジが陸へ向かって飛び上がる。
「ルフィ君!」
「先に行け!」
そう言われてしまってはシルビとしては遠慮も出来ない。チョッパーとブルックを置いたら船に戻ってくるかと考えながら船縁を蹴った。ルフィの腹による飛び上がりの補助は特にいらない。
陸に足を着けてブルックとチョッパーを降ろす。一足先に到着していたサンジが船を振り返っているが、ルフィが飛んでくる様子は無かった。
「ルフィ君は?」
「見えねェ。船もだ」
振り返って確認すれば確かにサニー号の姿は見えない。更に言えばルフィの姿もどこにも見えず、状況的に悪い予感しかしなかった。
渦潮に巻き込まれて転覆したサニー号に巻き込まれ、ルフィも海に沈んでしまった可能性だ。
同じ可能性に思い至ったのだろうサンジが着ていた上着を脱ぎ始める。そのまま飛び込もうとするサンジを止めて、シルビはナミを振り返った。
「ナミさん。あの渦潮の海流は読めますかぁ?」
「え、えっと……ここからなら向こうにいく流れがあるかも」
「じゃあそっちに行って見ましょう。そうでなくともこんな崖より浜を探してそこから海に入った方がいいです」
自分達の船と船長が見当たらないことで不安になっているだろうが、ここは出来るだけ冷静でいたほうがいい。ましてや現在のこのワノ国はどこに味方がいるのかも分からない状況である。
早めに先に入国しているだろう船長達と合流して情報を得たい。だがその為にルフィの安否の確認が先だ。
近くで見つけた浜から海をのぞき込む。滝の時とは違ってここは波が荒い程度の海だった。本当に法則も理論も無視した世界だなと考えつつ、シルビはやはり海に飛び込もうとしているサンジを押さえて海に手を浸す。
「何してんだ。さっさとルフィを――」
「誰が答えてくれぇ。太陽のついた船と麦わら帽子の少年を見なかったかぁ?」
シルビの行動にサンジだけではなくブルック達も不思議がっていたが、いたずらに荒れた海に入って探すよりこちらの方が安全だし楽だろう。しばらくするとやはりあの滝を登ってきたのだろう鯉の一匹がすいと近付いてきた。
水面の下で口をパクパクと動かす。巨体のせいで結構恐怖心をあおるそれはしかし、水中と空気中という違いの為か何を言いたいのか全く分からない。
「ちょっと潜ってくるのでここに居てもらっていいですか?」
「お前が潜んのか」
「だってサンジさん。貴方魚の言葉分かります?」
そう訊ねるサンジだけではなくナミとブルックも物言いたげに黙り込む。まだ何も知らないキャロットとチョッパーは暢気に『ペンギン魚と喋れんのか!?』と感心していた。無邪気は羨ましい。
服の下にしまっていた船長の帽子をナミに渡す。これを持ったまま海に潜るのは流石に遠慮したかった。
海に潜ると浜で何かを伝えようとしてきてくれた鯉が近付いてくる。身をすり寄せてくるそれに手を伸ばして鱗を撫でてやれば、鯉は優雅に尾を振ってシルビの周りを一周した。
「船も麦藁の少年も見た? それ、どこに行ったか分かるかぁ?」
やはり水中であったほうが水棲生物の言葉は分かり易い。
ルフィはやはりサニー号と渦潮に巻き込まれたようだった。というのもあの船の上に乗ってきたタコがルフィにしがみついたせいで船を離れるタイミングを逃していたらしい。
船は渦潮に一度飲まれつつ、再び浮上して少し離れたシルビが飛び込んだのとは違う浜に流れ着いたという。その鯉はそれ以上は知らず、ではルフィはどうなったのだろうかと考えていれば今度は小さい魚が何かをくわえて近付いてきた。
先ほど拾ったのだというそれを受け取れば、ビブルカードだ。
おそらくはルフィか、違っていてもルフィの仲間の誰かのものだ。それ以外の誰かのビブルカードがこのタイミングで流れてくると考える方が無理がある。サニー号が渦潮に巻き込まれた時にでも流れてしまったのだろう。
ともあれこれがルフィのものだと確認が出来れば無事なのかどうかは分かる。鯉と魚にお礼を言って地上に戻れば、ナミ達が海をのぞき込むようにして待っていた。
「ルフィは!?」
「一応船は少し離れたところの浜に流れ着いたらしいです。ビブルカードが見つかったんですけど、コレってルフィ君のですか?」
ビブルカードをナミに渡して預かってもらっていた船長の帽子を受け取る。髪をまとめて帽子の中に納めながら被れば、どうやら渡したビブルカードはルフィのそれだったようだった。
ということは、ルフィは無事だ。
ナミやサンジがそのビブルカードを眺めて話し合っているのを眺めていると、ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。振り向けばチョッパーがシルビを見上げている。
「な、な、ペンギン。ペンギンは魚の言葉が分かるのか?」
目を輝かせて訊くようなことではないだろうに。どう答えたものかと悩みながら視線を合わせる為にしゃがむ。
「魚に限らず動物も植物の言葉も分かりますよ。ゾウでズニーシャの言葉も分かっていたでしょう?」
とはいえ正確には感覚的な理解とこちらの言葉を分かってもらえるといったところだが。
「スゲーな! オレも動物の言葉ならちょっとは分かるけど植物や魚は無理だ。あ、じゃああそこの鳥の言葉とかも分かるのか?」
チョッパーが指差した方角を見やれば確かに鳥が一羽松の木に留まっていた。立ち上がって振り向いたシルビと目が合う。
すい、と伸ばした腕に松の木に留まっていた鳥が翼を広げて羽ばたく。飛び上がったかと思うと近付いてくる鳥にシルビはちょっと腕を伸ばしたことを後悔した。
遠目だったこともありてっきりトンビだと思っていたのだが、飛んできたのはトンビより大きい鷹だったのである。流石にこの大きさの鳥が迫ってくるとぶつからずに腕へ留まってくれるだろうと分かっていても身構えてしまう。
鋭い爪でそれでも器用にシルビの腕を傷つけない様に留まった鷹は、シルビの目を見ると小さく鳴いた。
「餌が無ぇのかなぁ。ちょっと痩せてるなぁ」
「確かにちょっと痩せてるな。羽に艶もねェし」
口元に差し出したシルビの指を甘噛みしてくる姿は可愛い。
「ちょっと訊きてぇんだけど、この国の地形ってどうなってるか分かるかぁ? 俺の記憶じゃ古くて不安があってなぁ」
訊ねると鷹は知っていたのか羽を広げて鳴いた。
ルフィの生存は確定したので後は自力で合流するだろうと結論を出したらしいナミ達がこちらにやってくる。シルビの腕に留まっている鷹に驚いていたが、大人しいと分かるとキャロットやナミは興味津々だ。
「どうします? この子が一応この国の各領地に案内は出来るそうですが」
「領地?」
「ワノ国の中で拠点を作るなら見知っている場所を選んでるんじゃねぇかと。それとも人里を見つけて情報収集しますか? あまりお勧めできませんが」
「どうしてオススメ出来ないの?」
「ワノ国は長い間鎖国状態――外から人を入れねぇし外に人を出すことも無かった国なんだぁ。それによって独自の文化が生まれて発達してる。俺らのこの格好じゃ異国人だってすぐに分かっちまうんだぁ」
キャロットでも分かる様にかみ砕いて説明すればブルックが自分の服を摘んで見下ろした。彼の場合は服どころの問題ではない。
ましてやキャロットやチョッパーの様な半獣の姿の仲間がいれば誤魔化すのは更に難しくなる。錦えもんが居てくれれば何かしらの策を講じてくれるだろうがその彼と合流するところで困っているのだ。
「どうします? ルフィさんもいないし錦えもんさん達とも連絡が取れないのは面倒ですよ」
「――あ」
思い出して声が出てしまう。その声にブルック達がそろってシルビに顔を向けるのに、シルビは鷹を留まらせていない方の手で口を隠した。
連絡手段があることを思い出してしまったのである。
「……船長に繋がる、電伝虫、持ってました」
ふざけているつもりはないがふざけている様に聞こえてしまうだろう真面目な話、シルビはワノ国に正しい入国方法で立ち入ったことがなかった。
というよりも、大抵の国や島で正式な入国をした覚えがない。
この大航海世界ではパスポートという概念が無く殆どが自由に出入りできる代わりに、少数の島や国では外部からの立ち入りを拒絶していることがあった。かく言うシルビの故郷も世間的には鎖国状態の島である。正しくは入国制限程度なのだが知らぬ者が多すぎて入国者は殆どいない。
話を戻すが、だからシルビはワノ国の正しい入港の仕方など知らなかった。
腰を下ろしたサニー号の船縁。背後の甲板ではナミ達が届いた新聞に書かれている『世界会議』の記事を読んで騒いでいる。
シルビは死告シャイタンとしてであっても世界会議には基本ノータッチだ。一応『世界政府の宿敵』という扱いなのだから、敵ということになる政府の会議に顔を出す必要はないだろう。それに会議の会場が気に食わなかった。
ただ今回はドレスローザやトットランドで姿を現してしまったこともあり、議題の一つとして取り上げられているかも知れない。後者はともかくドレスローザでの件に関しては世界的に報じられた。
船長を死なせないこととコラソンの願いを叶えるという結果は果たせたので文句は無かったが、必要以上に警戒されて五老星や“更にその上”が出てこられても面白くない。
新聞に掲載されている写真にはルフィ達の知り合いも何人か写っているらしい。それぞれ縁の深い知り合いを見つけては懐かしがっているのを横目に、シルビは進路の先にある海域を見た。
「まぁ、見えずに入れねぇ島よりマシかなぁ」
荒れ狂う潮と波。嫌な気配を覚える悪天候。けれども物理的に見えている以上腕のいい航海士が乗っていれば進めないこともないだろう。
「えーッ!? いつでも悪天候!? じゃ行くしかないんですか!? “侍”が強い上に入国も困難とはそりゃ鎖国国家」
「いやいや俺の故郷よりマシでしょう。俺の故郷は――タコ?」
騒ぐブルックを振り返った先、ブルックと入国方法について話していたらしいナミの隣に、いつの間にかタコが立っていた。
軟体動物かつ水の外だというのに、見事に自身の体を支えて自立している。珍しいと思うと同時に何故船へ乗り込んできているのかと警戒すれば、そのタコが唐突に自分の額を叩いた。
見事な音がする。同時に船が激しく進み出した。
「わー魚群!」
「鯉の群!?」
船と同じくらいの大きさの魚を、それでも鯉だと判断できる柔軟さは素晴らしい。
ルフィが鯉を食べる為に捕まえようと水面に飛び出した鯉へと飛びかかっていく。ナミが怒っているがシルビも少し鯉こくは食べたかった。
水はわき出たばかりの水の様に澄みきっており鯉の群がその色彩も豊かに眺めることが出来る。タコが頭を叩く度に荒々しくなる水流にけれどもシルビは特に身を守ることなく帽子を押さえて進路の先を見た。
滝がある。
「鯉が滝を登ってる!」
「なんで!?」
「河流の先に滝って! どういう水の流れだ!?」
「……竜門かぁ」
同じく前方の滝に気付いたサンジ達が驚いているが、シルビとしては思い至るものがあっただけにそこまで驚きはしなかった。
鯉の滝登り。あるいは竜門の滝登り。この世界は時としてそういうことがある。熟語などになぞらえた光景だ。
見ているだけなら楽しいが自然法則はどうなっているのかと疑問に思うことも昔はあった。しかしいつの頃からか『この世界はそんなものだ』と思うことで深く考えないようにしたもの確かである。
法則や原理を追求しようとすればドツボにハマるのが分かっている行為は推奨出来ない。
ともあれ船は滝を登ろうとする鯉の群に巻き込まれ滝へ突っ込んでいく。このままでは滝壺に飲まれてしまうかと危惧してシルビが船首へ向かおうとすると、鯉を諦めたらしいルフィが戻ってきた。
「ルフィ! 船が沈んじゃうって!」
「おう!任せとけ! しっかり捕まってろ!」
「あ、待っ――」
シルビが制止するよりも早く、ルフィが腕を伸ばして滝を登っていた鯉を掴む。ルフィの腕を手綱代わりに船が鯉に引かれていく。
これはこれで船がひっくり返りそうで怖い。何せ滝に対してほぼ垂直だ。
「ルフィ君ルフィ君! あんまり無茶しねぇでぇ! この船応急処置しか出来てねぇんだからぁ!」
「サニー号は壊れねェ!」
その信頼はいいが自信はどこか来ているのか。
サニー号はそんなシルビの心配を余所にぐんぐんと滝を登っていく。ポーラータンク号では絶対に出来ないなと思ったところで滝を登りきった。
だが一難去ってはまた一難というところか、滝を登ってくる河流と滝に向かおうとする河流とのぶつかりあいによって生じた渦潮が発生している。
渦潮の向こうには陸が見えていた。
「人命優先でぇ! 船は後で探すの手伝うからぁ!」
「ナミさん、キャロットちゃん! オレに捕まれ! 陸に飛ぶ!」
「待ってくれサンジ! オレ達も!」
「ムリだ。重すぎる!」
「見捨てるなよー!」
「ああほらチョッパー船医とブルックさんは俺に捕まりなさい」
チョッパーとブルックをそれぞれ抱き抱える。二人とも悪魔の実の能力者なので渦潮に飲まれるのは危険すぎた。一応ブルックは海の上を走れるが流石に渦潮の上は無理だろう。
膨らんだルフィの腹を飛び台にサンジが陸へ向かって飛び上がる。
「ルフィ君!」
「先に行け!」
そう言われてしまってはシルビとしては遠慮も出来ない。チョッパーとブルックを置いたら船に戻ってくるかと考えながら船縁を蹴った。ルフィの腹による飛び上がりの補助は特にいらない。
陸に足を着けてブルックとチョッパーを降ろす。一足先に到着していたサンジが船を振り返っているが、ルフィが飛んでくる様子は無かった。
「ルフィ君は?」
「見えねェ。船もだ」
振り返って確認すれば確かにサニー号の姿は見えない。更に言えばルフィの姿もどこにも見えず、状況的に悪い予感しかしなかった。
渦潮に巻き込まれて転覆したサニー号に巻き込まれ、ルフィも海に沈んでしまった可能性だ。
同じ可能性に思い至ったのだろうサンジが着ていた上着を脱ぎ始める。そのまま飛び込もうとするサンジを止めて、シルビはナミを振り返った。
「ナミさん。あの渦潮の海流は読めますかぁ?」
「え、えっと……ここからなら向こうにいく流れがあるかも」
「じゃあそっちに行って見ましょう。そうでなくともこんな崖より浜を探してそこから海に入った方がいいです」
自分達の船と船長が見当たらないことで不安になっているだろうが、ここは出来るだけ冷静でいたほうがいい。ましてや現在のこのワノ国はどこに味方がいるのかも分からない状況である。
早めに先に入国しているだろう船長達と合流して情報を得たい。だがその為にルフィの安否の確認が先だ。
近くで見つけた浜から海をのぞき込む。滝の時とは違ってここは波が荒い程度の海だった。本当に法則も理論も無視した世界だなと考えつつ、シルビはやはり海に飛び込もうとしているサンジを押さえて海に手を浸す。
「何してんだ。さっさとルフィを――」
「誰が答えてくれぇ。太陽のついた船と麦わら帽子の少年を見なかったかぁ?」
シルビの行動にサンジだけではなくブルック達も不思議がっていたが、いたずらに荒れた海に入って探すよりこちらの方が安全だし楽だろう。しばらくするとやはりあの滝を登ってきたのだろう鯉の一匹がすいと近付いてきた。
水面の下で口をパクパクと動かす。巨体のせいで結構恐怖心をあおるそれはしかし、水中と空気中という違いの為か何を言いたいのか全く分からない。
「ちょっと潜ってくるのでここに居てもらっていいですか?」
「お前が潜んのか」
「だってサンジさん。貴方魚の言葉分かります?」
そう訊ねるサンジだけではなくナミとブルックも物言いたげに黙り込む。まだ何も知らないキャロットとチョッパーは暢気に『ペンギン魚と喋れんのか!?』と感心していた。無邪気は羨ましい。
服の下にしまっていた船長の帽子をナミに渡す。これを持ったまま海に潜るのは流石に遠慮したかった。
海に潜ると浜で何かを伝えようとしてきてくれた鯉が近付いてくる。身をすり寄せてくるそれに手を伸ばして鱗を撫でてやれば、鯉は優雅に尾を振ってシルビの周りを一周した。
「船も麦藁の少年も見た? それ、どこに行ったか分かるかぁ?」
やはり水中であったほうが水棲生物の言葉は分かり易い。
ルフィはやはりサニー号と渦潮に巻き込まれたようだった。というのもあの船の上に乗ってきたタコがルフィにしがみついたせいで船を離れるタイミングを逃していたらしい。
船は渦潮に一度飲まれつつ、再び浮上して少し離れたシルビが飛び込んだのとは違う浜に流れ着いたという。その鯉はそれ以上は知らず、ではルフィはどうなったのだろうかと考えていれば今度は小さい魚が何かをくわえて近付いてきた。
先ほど拾ったのだというそれを受け取れば、ビブルカードだ。
おそらくはルフィか、違っていてもルフィの仲間の誰かのものだ。それ以外の誰かのビブルカードがこのタイミングで流れてくると考える方が無理がある。サニー号が渦潮に巻き込まれた時にでも流れてしまったのだろう。
ともあれこれがルフィのものだと確認が出来れば無事なのかどうかは分かる。鯉と魚にお礼を言って地上に戻れば、ナミ達が海をのぞき込むようにして待っていた。
「ルフィは!?」
「一応船は少し離れたところの浜に流れ着いたらしいです。ビブルカードが見つかったんですけど、コレってルフィ君のですか?」
ビブルカードをナミに渡して預かってもらっていた船長の帽子を受け取る。髪をまとめて帽子の中に納めながら被れば、どうやら渡したビブルカードはルフィのそれだったようだった。
ということは、ルフィは無事だ。
ナミやサンジがそのビブルカードを眺めて話し合っているのを眺めていると、ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。振り向けばチョッパーがシルビを見上げている。
「な、な、ペンギン。ペンギンは魚の言葉が分かるのか?」
目を輝かせて訊くようなことではないだろうに。どう答えたものかと悩みながら視線を合わせる為にしゃがむ。
「魚に限らず動物も植物の言葉も分かりますよ。ゾウでズニーシャの言葉も分かっていたでしょう?」
とはいえ正確には感覚的な理解とこちらの言葉を分かってもらえるといったところだが。
「スゲーな! オレも動物の言葉ならちょっとは分かるけど植物や魚は無理だ。あ、じゃああそこの鳥の言葉とかも分かるのか?」
チョッパーが指差した方角を見やれば確かに鳥が一羽松の木に留まっていた。立ち上がって振り向いたシルビと目が合う。
すい、と伸ばした腕に松の木に留まっていた鳥が翼を広げて羽ばたく。飛び上がったかと思うと近付いてくる鳥にシルビはちょっと腕を伸ばしたことを後悔した。
遠目だったこともありてっきりトンビだと思っていたのだが、飛んできたのはトンビより大きい鷹だったのである。流石にこの大きさの鳥が迫ってくるとぶつからずに腕へ留まってくれるだろうと分かっていても身構えてしまう。
鋭い爪でそれでも器用にシルビの腕を傷つけない様に留まった鷹は、シルビの目を見ると小さく鳴いた。
「餌が無ぇのかなぁ。ちょっと痩せてるなぁ」
「確かにちょっと痩せてるな。羽に艶もねェし」
口元に差し出したシルビの指を甘噛みしてくる姿は可愛い。
「ちょっと訊きてぇんだけど、この国の地形ってどうなってるか分かるかぁ? 俺の記憶じゃ古くて不安があってなぁ」
訊ねると鷹は知っていたのか羽を広げて鳴いた。
ルフィの生存は確定したので後は自力で合流するだろうと結論を出したらしいナミ達がこちらにやってくる。シルビの腕に留まっている鷹に驚いていたが、大人しいと分かるとキャロットやナミは興味津々だ。
「どうします? この子が一応この国の各領地に案内は出来るそうですが」
「領地?」
「ワノ国の中で拠点を作るなら見知っている場所を選んでるんじゃねぇかと。それとも人里を見つけて情報収集しますか? あまりお勧めできませんが」
「どうしてオススメ出来ないの?」
「ワノ国は長い間鎖国状態――外から人を入れねぇし外に人を出すことも無かった国なんだぁ。それによって独自の文化が生まれて発達してる。俺らのこの格好じゃ異国人だってすぐに分かっちまうんだぁ」
キャロットでも分かる様にかみ砕いて説明すればブルックが自分の服を摘んで見下ろした。彼の場合は服どころの問題ではない。
ましてやキャロットやチョッパーの様な半獣の姿の仲間がいれば誤魔化すのは更に難しくなる。錦えもんが居てくれれば何かしらの策を講じてくれるだろうがその彼と合流するところで困っているのだ。
「どうします? ルフィさんもいないし錦えもんさん達とも連絡が取れないのは面倒ですよ」
「――あ」
思い出して声が出てしまう。その声にブルック達がそろってシルビに顔を向けるのに、シルビは鷹を留まらせていない方の手で口を隠した。
連絡手段があることを思い出してしまったのである。
「……船長に繋がる、電伝虫、持ってました」