トットランド編
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サンジ視点
事実は違えど、世間的には『ビッグマム暗殺未遂』と大々的に報じられた世界新聞の記事を読んでから、サンジは再び船縁に座っていたペンギンを見た。
ビッグマムの元から逃走する最中には追求も何も出来なかったし今でも確認はしていないが、あのペンギンこそが史上最高額の賞金が懸けられている『死告シャイタン』なのだろう。
カカオ島からルフィを抱えて逃げる直前、ペンギンが黒い外套を羽織って叫んだ名乗りを聞いていた。
あの場で広げられた覇気の異様なまでの威力を味わった。おそらくは手加減をされていたのだろうそれはルフィやゾロ、今までに出会った敵の誰とも比べものにならない感触だったのを覚えている。
それ以外にもあの牛とも山羊ともとれない白い獣の姿や、お茶会の会場でビッグマムと対等以上に渡り合っていた実力。まだジェルマに軟禁されていた頃に侵入してきていた様子を思い起こせば、ペンギンが並みの存在ではないことなど誰でも理解出来る。
ギャングベッジとの共同戦線を張る時に聞いた『死告シャイタンの子孫』だという話も当然誤魔化す為の嘘だ。
何故そんな嘘を吐いていたのかという疑問と、何故『ペンギン』と名乗ってハートの海賊団に居るのかという質問。分からない事は多いが、何よりも『ローは知っているのか』が気になった。
知らずにルフィ達へ同行させたのか。知っていて同行させたのか。だとすればそれは何故なのか。
サンジを連れ戻すメンバーの中でペンギンだけが仲間外れだった。
ビッグマムのナワバリを抜けてからは何もない限り船縁に座って海を眺めている男に歩み寄る。外へ向かって座っている男の頭にはトラ男が被っていた帽子。結わえずに降ろされた黒髪が潮風に揺れていた。
「ペンギン」
声をかければ振り返る。帽子の陰から覗く紫色の眼。
「何か用ですか?」
「用は無ェんだけど、落ち着いて話してなかったと思ってな」
ペンギンの座っている縁に寄りかかって煙草に火を点けた。ペンギンはまた海原へ顔を向ける。サンジも同じ様に眺めてみるが目立つものは何も無かった。
千年以上存在しているという賞金首『死告シャイタン』
ということはこんな光景も千年以上見続けているのか。
「飽きねえか? 海を見続けて」
「飽きませんねぇ。海は兄や知人を彷彿とさせる色なので」
その“知人”にローは入ってないなと思う。彼は青より黄色のイメージが強い。
「今更なんだが、悪かったな。オレが面倒かけて」
「船長に比べれば易しいモンですよ。あの人は一人でパンクハザードやドレスローザに行ってしまうしぃ」
「ドレスローザに追いかけていったから、ゾウじゃジャックにやられたのか?」
振り向いたペンギンはしかし、すぐに海へ視線を戻す。
「……あれは分身みてぇなモンだし、自分で自分に課してる条件とかもあるからなぁ」
「ああ、オレもレディは蹴れねェ」
「それに、船長達に嫌われたくない」
さざ波の音。ペンギンは海を見ている。
サンジだってルフィ達に嫌われたいなんて思ったことはない。ゾロとだっていつもケンカをしているが心底嫌悪することは今までもこれからも無いだろうし、ゾロだってサンジを心底憎むなんて事はないだろうと思っている。
それはある種の信頼で、無意識も同然の確信だ。
ペンギンは海を見ている。
「“ロー”は俺を奇異な眼で見ない。それが良かった」
「ルフィだってそんな眼で見ない」
「ふふ、それに関しては出会う順番の話かなぁ。でも時々現れるそんな人たちが俺は好きで、近く遠く見守っていたいと思ってる」
海を見ているようで、もっと遙か遠くを見ている眼。
「……俺が『シャイタン』であることは、船長も知ってるよ」
「そうなのか」
「でもあの白い獣の姿とか、全力の覇気だとかは知らない。他にももっと色々なことを俺は隠していて、それら全てを知られたら俺はきっと絶望するし、それら全てが切っ掛けになって船長達が傷つくなら守るとも思う。――君が、ヴィンスモークという血の禍根を一人でどうにかしようとしたよりもっと辛い選択をしてでもね」
今は何もない手首。そこに実の父親に填められた爆弾の重みを覚えていた。目の前のペンギンが何度も物理的に外してくれたが、自分で戻してくれと頼んだ手枷だ。
きっとこれからも忘れる事はない。レイジュという姉が伝えてくれた事実を忘れることが無いように。
「サンジ君は、もうそんな心配は無ぇ?」
「……ああ。無ェよ。ウチの船長は大物だからな」
「そっか。良かったぁ。イチジ君も安心するだろうなぁ」
「――ちょっと待て。なんでそこでイチジが出てくる。そういやペンギンお前、ヤケにイチジと親しげだったな」
カカオ島を脱出する際に限らずジェルマの城で食事をしていた時もお茶会の会場が崩れ落ちる時も、そういえばペンギンはイチジの近くにいたと思い出した。一度であればたまたまだろうが、それが二度三度と続けば嫌が応でも意図的なものだと察せられる。
指摘されたペンギンはここでようやく困ったような呆れたような、しかし楽しんでもいるような笑みを浮かべた。
「彼とはちょっとした縁があったんだぁ。それこそ君がいたレストランへ食べに行った頃からのなぁ」
「はぁ?」
「キスする位置に意味があるって知ってるぅ?」
「キスする位置?」
話の繋がりが全く分からずに聞き返せばペンギンが小さく声を挙げて笑う。史上最高額の賞金が懸かっているとは微塵たりとも思えない楽しげな笑みだった。
事実は違えど、世間的には『ビッグマム暗殺未遂』と大々的に報じられた世界新聞の記事を読んでから、サンジは再び船縁に座っていたペンギンを見た。
ビッグマムの元から逃走する最中には追求も何も出来なかったし今でも確認はしていないが、あのペンギンこそが史上最高額の賞金が懸けられている『死告シャイタン』なのだろう。
カカオ島からルフィを抱えて逃げる直前、ペンギンが黒い外套を羽織って叫んだ名乗りを聞いていた。
あの場で広げられた覇気の異様なまでの威力を味わった。おそらくは手加減をされていたのだろうそれはルフィやゾロ、今までに出会った敵の誰とも比べものにならない感触だったのを覚えている。
それ以外にもあの牛とも山羊ともとれない白い獣の姿や、お茶会の会場でビッグマムと対等以上に渡り合っていた実力。まだジェルマに軟禁されていた頃に侵入してきていた様子を思い起こせば、ペンギンが並みの存在ではないことなど誰でも理解出来る。
ギャングベッジとの共同戦線を張る時に聞いた『死告シャイタンの子孫』だという話も当然誤魔化す為の嘘だ。
何故そんな嘘を吐いていたのかという疑問と、何故『ペンギン』と名乗ってハートの海賊団に居るのかという質問。分からない事は多いが、何よりも『ローは知っているのか』が気になった。
知らずにルフィ達へ同行させたのか。知っていて同行させたのか。だとすればそれは何故なのか。
サンジを連れ戻すメンバーの中でペンギンだけが仲間外れだった。
ビッグマムのナワバリを抜けてからは何もない限り船縁に座って海を眺めている男に歩み寄る。外へ向かって座っている男の頭にはトラ男が被っていた帽子。結わえずに降ろされた黒髪が潮風に揺れていた。
「ペンギン」
声をかければ振り返る。帽子の陰から覗く紫色の眼。
「何か用ですか?」
「用は無ェんだけど、落ち着いて話してなかったと思ってな」
ペンギンの座っている縁に寄りかかって煙草に火を点けた。ペンギンはまた海原へ顔を向ける。サンジも同じ様に眺めてみるが目立つものは何も無かった。
千年以上存在しているという賞金首『死告シャイタン』
ということはこんな光景も千年以上見続けているのか。
「飽きねえか? 海を見続けて」
「飽きませんねぇ。海は兄や知人を彷彿とさせる色なので」
その“知人”にローは入ってないなと思う。彼は青より黄色のイメージが強い。
「今更なんだが、悪かったな。オレが面倒かけて」
「船長に比べれば易しいモンですよ。あの人は一人でパンクハザードやドレスローザに行ってしまうしぃ」
「ドレスローザに追いかけていったから、ゾウじゃジャックにやられたのか?」
振り向いたペンギンはしかし、すぐに海へ視線を戻す。
「……あれは分身みてぇなモンだし、自分で自分に課してる条件とかもあるからなぁ」
「ああ、オレもレディは蹴れねェ」
「それに、船長達に嫌われたくない」
さざ波の音。ペンギンは海を見ている。
サンジだってルフィ達に嫌われたいなんて思ったことはない。ゾロとだっていつもケンカをしているが心底嫌悪することは今までもこれからも無いだろうし、ゾロだってサンジを心底憎むなんて事はないだろうと思っている。
それはある種の信頼で、無意識も同然の確信だ。
ペンギンは海を見ている。
「“ロー”は俺を奇異な眼で見ない。それが良かった」
「ルフィだってそんな眼で見ない」
「ふふ、それに関しては出会う順番の話かなぁ。でも時々現れるそんな人たちが俺は好きで、近く遠く見守っていたいと思ってる」
海を見ているようで、もっと遙か遠くを見ている眼。
「……俺が『シャイタン』であることは、船長も知ってるよ」
「そうなのか」
「でもあの白い獣の姿とか、全力の覇気だとかは知らない。他にももっと色々なことを俺は隠していて、それら全てを知られたら俺はきっと絶望するし、それら全てが切っ掛けになって船長達が傷つくなら守るとも思う。――君が、ヴィンスモークという血の禍根を一人でどうにかしようとしたよりもっと辛い選択をしてでもね」
今は何もない手首。そこに実の父親に填められた爆弾の重みを覚えていた。目の前のペンギンが何度も物理的に外してくれたが、自分で戻してくれと頼んだ手枷だ。
きっとこれからも忘れる事はない。レイジュという姉が伝えてくれた事実を忘れることが無いように。
「サンジ君は、もうそんな心配は無ぇ?」
「……ああ。無ェよ。ウチの船長は大物だからな」
「そっか。良かったぁ。イチジ君も安心するだろうなぁ」
「――ちょっと待て。なんでそこでイチジが出てくる。そういやペンギンお前、ヤケにイチジと親しげだったな」
カカオ島を脱出する際に限らずジェルマの城で食事をしていた時もお茶会の会場が崩れ落ちる時も、そういえばペンギンはイチジの近くにいたと思い出した。一度であればたまたまだろうが、それが二度三度と続けば嫌が応でも意図的なものだと察せられる。
指摘されたペンギンはここでようやく困ったような呆れたような、しかし楽しんでもいるような笑みを浮かべた。
「彼とはちょっとした縁があったんだぁ。それこそ君がいたレストランへ食べに行った頃からのなぁ」
「はぁ?」
「キスする位置に意味があるって知ってるぅ?」
「キスする位置?」
話の繋がりが全く分からずに聞き返せばペンギンが小さく声を挙げて笑う。史上最高額の賞金が懸かっているとは微塵たりとも思えない楽しげな笑みだった。