原作前日常編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主視点
船長が変なものを拾ってきたというので食堂へと向かうと、天井付近を青い蝶が飛んでいた。フワリと羽ばたいて肩へと留まるその蝶を横目に、白い物体を抱いている船長へ話し掛ける。
「シャチが呼びに来たんですけど、何かあったんですか?」
「丁度いいとこにきた。拾ったんだ」
「非常食として?」
「喰わねぇよっ!」
そう言って抱いていた白い物体こと、シロクマのミンク族の子供を差し出されて受け取った。まだ固くなってもいないふわふわした毛並みに、思い切り抱き締めたくなるのを堪えて抱く。
シロクマの視線がシルビの肩へと向けられていて、『見えているのか』と思った。
蝶が肩から舞い上がるのに合わせて視線が動き、それを追うように何かを呟く。なんて言ったのかを『×××』で理解して、それから腹が減ってはいないかと尋ねた。
キョトンとした顔でシルビを見つめたシロクマが、ゆるゆると頷くのに船長達からおお、と感歎の声が上がる。
「牛乳温めて砂糖溶かした奴を作ってもらっていいですか? 温度は人肌より低いくらいで」
料理番へ頼めば頷いて動き始めた。さっきの『非常食』発言は冗談だし、船長がどんな理由でこのシロクマを拾ってきたのか分からないが、とりあえずは餌付けだろう。
しばらくして出来上がったそれを指先に付け、舐めるように口元へ持っていけば、匂いを嗅いでから舐め始める。指先では間に合わず皿へ顔を突っ込もうとするのをやんわりと阻止して、シロクマの食事風景へ見惚れていた船長へ声を掛けた。
「この子見ていてもらっていいですか?」
「何するんだ」
「貴方が拾った付近に親が居ねぇか見に行くんですよ。親が居るなら返したほうがいい」
そこで至極残念そうにする船長に、アンタはどういう目的でこのシロクマを拉致ってきたんだと追及しかけたが、それは後でも出来る。
まずはどんな経緯で連れて帰ってきたのであれ、自然に帰すことを考えるべきだ。
「場所は分かるか」
「大丈夫です。あ、ワカメ連れて行きますね。この子は多分お腹一杯になったら寝ると思うので、あまり気にしなくて大丈夫かと。でもゲップを出してやったのがいいのかぁ? もう赤ちゃんではないので大丈夫だとは思うんですけれど……」
「飼育員に転職できるな」
ハリセンを幻覚で作り出し船長を叩いておく。痛みで呻く船長を無視してシロクマの食事風景に和んでいたワカメを呼んで、船の外へと出た。
が、寒かったので一度戻る。そういえば自分が外へ行かなかったのは寒かったからだと思い出した。寒いのは昔から苦手である。
上着代わりのストールだけでは暖かさが足りず、仕方無しに指を鳴らし、晴の炎で自分の周囲の空気の運動を活性化させて空気を温めながら向かった先で、後ろを付いて来ていたワカメが思わずと言ったように声を出した。
「……ヒド」
狩りにしては獲物を持ち帰っていないので、おそらく『駆除』なのだろう。あのシロクマの子が住んでいたと思われる場所は巣だと思われる場所は大小様々なミンク族の死体で埋め尽くされている。
毛皮と雪の地面に赤い血が飛び散り、ここに動いている生物はいない。足を踏み出してその住処と呼ぶには凄惨な現場へと入り確認していく。
赤く小さな足跡は、船長が連れて来たシロクマのものだろうか。
死体の傍でしゃがんで死体検分をすれば、銃で撃たれた跡があった。傷口を押せばまだ血が出ることからして、時間もさほど経っていない。
「害獣、だったのかな?」
「害獣な訳無ぇだろぉ。町からは遠いし、この辺に集落を作って住んでたぁ?」
「じゃあ、なんで……」
ワカメの言葉を遮るように茂みが揺れ、シルビとワカメは咄嗟に武器を構えた。だが茂みから出てきたのは人間で、シルビ達を見て両手を上げて怯える。
「ヒッ、お助けっ!」
「あ、いや、申し訳ない。生き残りかと思ったんです」
武器を降ろして謝罪すれば、茂みから出てきた男は安心したように息を吐いて手を降ろした。
「コイツらの生き残りなんざいねえさ。全滅したよ」
「全滅……。何かあったんですか?」
シルビが尋ねれば男は遺体の一つへ近付いてその毛並みを撫でる。もう死んでいるせいでツヤも無いだろうそれに、男は少し寂しそうだった。
「化物だってんで、殺されたのさ」
「化物?」
「二本足で歩く動物みてェなバケモノだってよ。……おれァそんな必要ねえって言ったのによぉ……」
ひたすら死体を撫でる男に、ワカメが判断を求めるようにシルビを見る。男の話が正しければ船長の拾ってきたあのシロクマは、この集落の最後の生き残りだ。
この島へ戻してもたった一匹で生きていくことになる。狭い住処で、人間に追われ、誰とも番になることも出来ずに。
だから『兄さん』が連れて来たのかと理解して、シルビは首へ巻いていたストールを口元へ引き上げる。
「貴方は何故ここへ?」
「……こいつらの埋葬さ。つっても燃やすだけだけどな。若い連中は殺すだけ殺しておいて死体の始末はしねえのさ。おれ一人じゃ埋葬しきれなくて、他ん所でも死体が残ってやがる」
ゾッとした。
船長が変なものを拾ってきたというので食堂へと向かうと、天井付近を青い蝶が飛んでいた。フワリと羽ばたいて肩へと留まるその蝶を横目に、白い物体を抱いている船長へ話し掛ける。
「シャチが呼びに来たんですけど、何かあったんですか?」
「丁度いいとこにきた。拾ったんだ」
「非常食として?」
「喰わねぇよっ!」
そう言って抱いていた白い物体こと、シロクマのミンク族の子供を差し出されて受け取った。まだ固くなってもいないふわふわした毛並みに、思い切り抱き締めたくなるのを堪えて抱く。
シロクマの視線がシルビの肩へと向けられていて、『見えているのか』と思った。
蝶が肩から舞い上がるのに合わせて視線が動き、それを追うように何かを呟く。なんて言ったのかを『×××』で理解して、それから腹が減ってはいないかと尋ねた。
キョトンとした顔でシルビを見つめたシロクマが、ゆるゆると頷くのに船長達からおお、と感歎の声が上がる。
「牛乳温めて砂糖溶かした奴を作ってもらっていいですか? 温度は人肌より低いくらいで」
料理番へ頼めば頷いて動き始めた。さっきの『非常食』発言は冗談だし、船長がどんな理由でこのシロクマを拾ってきたのか分からないが、とりあえずは餌付けだろう。
しばらくして出来上がったそれを指先に付け、舐めるように口元へ持っていけば、匂いを嗅いでから舐め始める。指先では間に合わず皿へ顔を突っ込もうとするのをやんわりと阻止して、シロクマの食事風景へ見惚れていた船長へ声を掛けた。
「この子見ていてもらっていいですか?」
「何するんだ」
「貴方が拾った付近に親が居ねぇか見に行くんですよ。親が居るなら返したほうがいい」
そこで至極残念そうにする船長に、アンタはどういう目的でこのシロクマを拉致ってきたんだと追及しかけたが、それは後でも出来る。
まずはどんな経緯で連れて帰ってきたのであれ、自然に帰すことを考えるべきだ。
「場所は分かるか」
「大丈夫です。あ、ワカメ連れて行きますね。この子は多分お腹一杯になったら寝ると思うので、あまり気にしなくて大丈夫かと。でもゲップを出してやったのがいいのかぁ? もう赤ちゃんではないので大丈夫だとは思うんですけれど……」
「飼育員に転職できるな」
ハリセンを幻覚で作り出し船長を叩いておく。痛みで呻く船長を無視してシロクマの食事風景に和んでいたワカメを呼んで、船の外へと出た。
が、寒かったので一度戻る。そういえば自分が外へ行かなかったのは寒かったからだと思い出した。寒いのは昔から苦手である。
上着代わりのストールだけでは暖かさが足りず、仕方無しに指を鳴らし、晴の炎で自分の周囲の空気の運動を活性化させて空気を温めながら向かった先で、後ろを付いて来ていたワカメが思わずと言ったように声を出した。
「……ヒド」
狩りにしては獲物を持ち帰っていないので、おそらく『駆除』なのだろう。あのシロクマの子が住んでいたと思われる場所は巣だと思われる場所は大小様々なミンク族の死体で埋め尽くされている。
毛皮と雪の地面に赤い血が飛び散り、ここに動いている生物はいない。足を踏み出してその住処と呼ぶには凄惨な現場へと入り確認していく。
赤く小さな足跡は、船長が連れて来たシロクマのものだろうか。
死体の傍でしゃがんで死体検分をすれば、銃で撃たれた跡があった。傷口を押せばまだ血が出ることからして、時間もさほど経っていない。
「害獣、だったのかな?」
「害獣な訳無ぇだろぉ。町からは遠いし、この辺に集落を作って住んでたぁ?」
「じゃあ、なんで……」
ワカメの言葉を遮るように茂みが揺れ、シルビとワカメは咄嗟に武器を構えた。だが茂みから出てきたのは人間で、シルビ達を見て両手を上げて怯える。
「ヒッ、お助けっ!」
「あ、いや、申し訳ない。生き残りかと思ったんです」
武器を降ろして謝罪すれば、茂みから出てきた男は安心したように息を吐いて手を降ろした。
「コイツらの生き残りなんざいねえさ。全滅したよ」
「全滅……。何かあったんですか?」
シルビが尋ねれば男は遺体の一つへ近付いてその毛並みを撫でる。もう死んでいるせいでツヤも無いだろうそれに、男は少し寂しそうだった。
「化物だってんで、殺されたのさ」
「化物?」
「二本足で歩く動物みてェなバケモノだってよ。……おれァそんな必要ねえって言ったのによぉ……」
ひたすら死体を撫でる男に、ワカメが判断を求めるようにシルビを見る。男の話が正しければ船長の拾ってきたあのシロクマは、この集落の最後の生き残りだ。
この島へ戻してもたった一匹で生きていくことになる。狭い住処で、人間に追われ、誰とも番になることも出来ずに。
だから『兄さん』が連れて来たのかと理解して、シルビは首へ巻いていたストールを口元へ引き上げる。
「貴方は何故ここへ?」
「……こいつらの埋葬さ。つっても燃やすだけだけどな。若い連中は殺すだけ殺しておいて死体の始末はしねえのさ。おれ一人じゃ埋葬しきれなくて、他ん所でも死体が残ってやがる」
ゾッとした。