トットランド編
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夢主視点
鏡を出る直前、【白澤】の姿でペコムズ達を背負った。外にいる者達が中から出てくる者を警戒して注視しているというのなら、その度肝を抜いてしまえばいい。
そうすればごく僅かであっても時間が稼げる。
本当は分かっているのだ。そんな事ですら殆ど無意味な行動であるということも。
全員が生きて帰ることはペドロが死んでしまった今は既に不可能となっている。だがそれでも生存率を稼げるというのなら、シルビの見た目などどうでもいい。
船長に会いたい。
会って怒られるのでも呆れられるのでも失望されるのでも何でも良いから、あの人の顔を生きて見たいと思った。
イブリスはジャックとサブジェイに。シルビは誰にもつかない。ペンギンはトラファルガーのもの。
だとしてもペンギンの生死は結局シルビが握っている。肉体的にも精神的にも。
周囲の視線がペコムズとシルビとで二分している。その状況で石畳に着地しながら顔を上げサンジを探した。見つけたサンジとしっかり目が合ったのを確認してから、シルビは背負っていたルフィを屋根より高く投げ飛ばす。
「サンジ君がいる。信じて」
「おう」
小声の応酬。高く投げ飛ばされていったルフィを追いかけようとする敵に、指を鳴らして黒い外套を作り出し羽織った。
空中でサンジがルフィをキャッチする。ママの傘下がそれを追おうとするのにシルビは息を吸って声を張り上げた。
「――さぁ! この『死告シャイタン』を倒せる者はこの国にはいるかぁ!?」
跳ばした覇気にカカオ島の民衆が倒れていく。民衆だけではない。実力の足りないビッグマムの子供達も臣下達もだ。
ペコムズを抑えつけてその目を潰そうとしていた者達が気を失って倒れていく。ママの能力によって魂を分け与えられていた物質達から魂が抜けていっていた。
泡を吹いて大勢の者達が倒れ伏すなか、それでも残っていた者達はしかし、シルビに襲いかかることも出来ないまま立ち尽くしていた。当たり前だ。
この場で、この状況で、そんな大物が出てくるなど誰が予想できようか。
ルフィを抱えたサンジが驚いた様に一瞬だけ振り返る。だがそのせいで覇気がかろうじて効かなかった者の攻撃を受けて落下してしまっていた。サンジ達を巻き込まないようにと覇気の威力を抑えたのが逆に良くなかったらしい。
助けに行こうと足を踏み出した先でいくつもの銃口が向けられる。史上最高額というネームバリューによる行動停止の時間は終わった。
判断に迷ってしまった一瞬、視界に何か赤いものが入り込む。
「――え」
港の方から聞こえた爆発音と同時に感じた僅かな浮遊感。瞬きをした後視界に映り込んだのは赤いレイドスーツを身に纏ったイチジの姿だった。
「イ、チジ、君?」
見上げた先には相変わらずサングラスに隠された表情。見ればイチジは攻撃を受けて墜落したサンジとルフィを守る様に立っており、彼の姉弟である三人もそれぞれサンジとルフィを守る様に囲んでいた。
「ジェルマ66!」
誰かが叫ぶ。
「何で、お前らが……」
「奇遇だなサンジ。オレ達もコイツらに、一泡吹かせたいと思ってた!」
サンジの問いかけに答えるイチジ。その彼の、マントの端を掴んでシルビを隠す様に上げられた腕の中から抜け出そうとすると、マントを引いて更に隠される。
直後四方から止めどなく銃撃が襲いかかってきた。
見ればイチジ達はシルビや背後のサンジを庇う様子は見せても、自身の身を守ろうとする様子は無い。というより銃弾が全くといってもいい程効いていなかった。
これがヴィンスモークの科学力で与えられた彼らの身体能力の一つなのだろう。お茶会の会場ではまともに見ていなかったが、確かにこれは戦力増強として欲しがる者が出てもおかしくはない。
その代償に何かが失われない限り。
「サンジ。その負傷者を連れてさっさと島を出て行け。――足手まといだ!」
「この島は私達『ジェルマ66』の獲物よサンジ!」
誰かがバズーカを持ってこいと怒鳴っていた。
イチジ達の様子からして、例えバズーカ砲を持ってこられてもまだ余裕でいられるのだろう。当たって地面に落ちる銃弾が幾重にも乾いた音を立てている。
とはいえ全ての痛みまでを感じないとは思えないし、腕の中にシルビを庇っている状態ではイチジも動きにくい筈だ。
「イチジ君」
「……今だ――」
「『今だけ』はもうナシだぁ。一生のお願いは一生に一回だって教わってねぇ?」
「あらあら、その通りねイチジ」
背後でレイジュが小さく笑った。それを合図とするかの様にイチジからサンジまでの五人が一斉にその場から散る。十数年以上離れていた兄弟もいるというのに息がピッタリだ。
疲れ果てたのかいつの間にか眠っているらしいルフィを抱えたサンジが港へ向かう。それを付かず離れずの距離をとりながらレイジュ達が援護していた。
シルビは結局イチジに抱えられたまま、付いてくる追っ手に向けて召喚器を向ける程度しか出来ない。
『死告シャイタン』の名を名乗った覚悟が、無意味になってしまっていた。
「イチジ君」
片腕でシルビを抱いたままの青年に呼びかける。たまにしがみついていないと振り落とされそうになるところに、守りながら行動するのは苦手か不慣れなのだろうなとぼんやり思った。
「なんだ」
イチジに向かって放たれる銃弾を全て撃ち落とす。
「ありがとう」
「……フン。礼を言われる覚えは」
「俺を好きだと言ってくれてぇ」
ブリュレの泣き声がまだ聞こえる。もういい年だというのに彼女は少女の様に泣いていた。兄を想う弟妹の泣き声は他人のそれであったとしても心に響く。
立ちはだかる兵士達を倒しながらイチジがシルビを抱く腕に力を込めた。
「あの時は言えなかったからぁ。……俺、あんまり他人から『好き』だって言われた事無ぇんだよ。そこに居ていいとか、存在していていいとか」
父親に首を絞められた記憶がある。死んでしまえと言われた記憶もある。
自分で自分を化け物だと認識している。
だからこそシルビは頑張って『人でありたい』と願っていた。今の上司であるローはシルビに『ここに居ていい』とは言ってくれても、きっと好きだとか嫌いだといった感情の揺らぎはない。多分。
あってもそれはそれで多分今の様にとても困るのだろうけれど、ローがシルビを傍に居させてくれる、居場所をくれることだけは変わりないと理解した。だからその場所を守りたいと思う。何を賭けても。
「――あ」
「どうした」
「何でもねぇ。やっとここに来させられた理由が分かった気がしただけぇ」
ブルックはサンジとシルビが似ていると言った。
サンジは自分の居場所をくれた麦藁の一味を守る為自分に嘘を吐いてまでルフィ達を拒絶し、シルビはロー達全員に嘘を吐いてハートの海賊団を守っていた。
辛いのは自分だけでいい。自身の知る苦労を誰かが知ることなど無くていい。
そう思っての行動はけれども、きっとどこかで大切にしたい誰かを傷つけた。
「――フッ」
不意にイチジが笑う。
「イチジ君?」
「オレにはお前を手に入れられない。オレにはお前の言う度胸も覚悟も無いだろう」
「そもそも伴侶を求めてもいねぇんだけどぉ」
「同時に拒まれて気付いたが、オレは“オレの為”にお前を傍に置きたかった」
「自分の為ぇ?」
「そうだ」
イチジがシルビの腕を掴み、服越しながらも口付けた。
「オレのことを知らなくてもオレを受け入れてくれるだろうお前が欲しかったんだ。――お前を手に入れたヤツが羨ましい」
サングラス越しの視線。後ろからは相変わらず銃弾やら追っ手やらが襲いかかってきているというのに、シルビは目を瞬かせてイチジを見上げた。
シルビを“手に入れたヤツ”とはいったい誰のことを言っているのか。特にそんな人物に思い当たる者はいなかった。いずれシルビが出会う誰かの事を言っているのだとしたら、それはそれで気が長い話である。
それとも兄の事だろうかと内心で疑問に思っていると、シルビが悩んでいることを察したのかイチジが僅かに口角を上げた。
「諦めないからな」
「……束縛は嫌われるぜぇ。俺に」
「それは困る――“火花”!」
顔を上げたイチジが叫ぶ。
「“光拳”!」
サンジに襲いかかろうとしていた男達がイチジの発した眩しい光線に貫かれて倒れていった。サンジがイチジを振り返る。
「飛べ。サンジ!」
それは兄としての激励だったのか見送りの言葉だったのか。港へ向かって離れていくサンジにイチジがようやくシルビを降ろす。
周囲には大勢の敵が居るというのにイチジは悠然とシルビを見下ろし、掴んでいた腕を名残惜しそうに離した。
離す直前僅かに引かれた腕はけれども、ただ引かれただけ。
「……アレは、出来損ないでも弟の一人だ」
「俺、麦藁の一味じゃあねぇんだけどぉ」
「構わない」
空に飛び上がったサンジを再び叩き落とそうとしたビッグマムの息子の一人が、ヨンジに捕まってハンマー投げの様に振り回される。巻き込まれた追っ手がバラバラと落ちてくるのを眺めてから、シルビはイチジを見上げた。
年下なのに既に追い抜かれた背丈。見合い写真を渡された頃に会っていれば見下ろすことが出来ていただろうか。
何かを言おうと思ったものの、結局何も言えずにイチジへ背を向ける。地面を蹴ってサンジを追いかけた。
きっと後ろではイチジがシルビかサンジの背中を見ているのだろう。どちらの背中を見ているのかが少し気になったが、振り返りはしなかった。
逃げるのが遅いとサンジを捕まえ逃げるサポートをしたニジがサンジを更に先へと放り投げる。流石に光の早さで追いかける事は出来ないので指を鳴らして転移した。
港の直前でサンジを撃ち落とそうとした集団をレイジュが毒を吹きかけて阻止している。その頭上を通り越したところでシルビは空中を蹴って進んでいるサンジの腕を掴んだ。
「ペンギンッ!?」
「一気に跳ぶ。背中に乗れぇ」
宙を蹴って【白澤】の姿に変わる。一瞬驚いたサンジがしかし背中に飛び乗るのを確認し、沖合に見えたサニー号を見据えた。
光速とまではいかずとも、空中を蹴って進むよりは速く安定した速度を出せるその姿でサニー号の甲板へと一直線に突き進む。マストの上にキャロットの姿が見え、甲板にもブルックやナミ達が見えたところで宙返りをして人型に戻った。
鏡を出る直前、【白澤】の姿でペコムズ達を背負った。外にいる者達が中から出てくる者を警戒して注視しているというのなら、その度肝を抜いてしまえばいい。
そうすればごく僅かであっても時間が稼げる。
本当は分かっているのだ。そんな事ですら殆ど無意味な行動であるということも。
全員が生きて帰ることはペドロが死んでしまった今は既に不可能となっている。だがそれでも生存率を稼げるというのなら、シルビの見た目などどうでもいい。
船長に会いたい。
会って怒られるのでも呆れられるのでも失望されるのでも何でも良いから、あの人の顔を生きて見たいと思った。
イブリスはジャックとサブジェイに。シルビは誰にもつかない。ペンギンはトラファルガーのもの。
だとしてもペンギンの生死は結局シルビが握っている。肉体的にも精神的にも。
周囲の視線がペコムズとシルビとで二分している。その状況で石畳に着地しながら顔を上げサンジを探した。見つけたサンジとしっかり目が合ったのを確認してから、シルビは背負っていたルフィを屋根より高く投げ飛ばす。
「サンジ君がいる。信じて」
「おう」
小声の応酬。高く投げ飛ばされていったルフィを追いかけようとする敵に、指を鳴らして黒い外套を作り出し羽織った。
空中でサンジがルフィをキャッチする。ママの傘下がそれを追おうとするのにシルビは息を吸って声を張り上げた。
「――さぁ! この『死告シャイタン』を倒せる者はこの国にはいるかぁ!?」
跳ばした覇気にカカオ島の民衆が倒れていく。民衆だけではない。実力の足りないビッグマムの子供達も臣下達もだ。
ペコムズを抑えつけてその目を潰そうとしていた者達が気を失って倒れていく。ママの能力によって魂を分け与えられていた物質達から魂が抜けていっていた。
泡を吹いて大勢の者達が倒れ伏すなか、それでも残っていた者達はしかし、シルビに襲いかかることも出来ないまま立ち尽くしていた。当たり前だ。
この場で、この状況で、そんな大物が出てくるなど誰が予想できようか。
ルフィを抱えたサンジが驚いた様に一瞬だけ振り返る。だがそのせいで覇気がかろうじて効かなかった者の攻撃を受けて落下してしまっていた。サンジ達を巻き込まないようにと覇気の威力を抑えたのが逆に良くなかったらしい。
助けに行こうと足を踏み出した先でいくつもの銃口が向けられる。史上最高額というネームバリューによる行動停止の時間は終わった。
判断に迷ってしまった一瞬、視界に何か赤いものが入り込む。
「――え」
港の方から聞こえた爆発音と同時に感じた僅かな浮遊感。瞬きをした後視界に映り込んだのは赤いレイドスーツを身に纏ったイチジの姿だった。
「イ、チジ、君?」
見上げた先には相変わらずサングラスに隠された表情。見ればイチジは攻撃を受けて墜落したサンジとルフィを守る様に立っており、彼の姉弟である三人もそれぞれサンジとルフィを守る様に囲んでいた。
「ジェルマ66!」
誰かが叫ぶ。
「何で、お前らが……」
「奇遇だなサンジ。オレ達もコイツらに、一泡吹かせたいと思ってた!」
サンジの問いかけに答えるイチジ。その彼の、マントの端を掴んでシルビを隠す様に上げられた腕の中から抜け出そうとすると、マントを引いて更に隠される。
直後四方から止めどなく銃撃が襲いかかってきた。
見ればイチジ達はシルビや背後のサンジを庇う様子は見せても、自身の身を守ろうとする様子は無い。というより銃弾が全くといってもいい程効いていなかった。
これがヴィンスモークの科学力で与えられた彼らの身体能力の一つなのだろう。お茶会の会場ではまともに見ていなかったが、確かにこれは戦力増強として欲しがる者が出てもおかしくはない。
その代償に何かが失われない限り。
「サンジ。その負傷者を連れてさっさと島を出て行け。――足手まといだ!」
「この島は私達『ジェルマ66』の獲物よサンジ!」
誰かがバズーカを持ってこいと怒鳴っていた。
イチジ達の様子からして、例えバズーカ砲を持ってこられてもまだ余裕でいられるのだろう。当たって地面に落ちる銃弾が幾重にも乾いた音を立てている。
とはいえ全ての痛みまでを感じないとは思えないし、腕の中にシルビを庇っている状態ではイチジも動きにくい筈だ。
「イチジ君」
「……今だ――」
「『今だけ』はもうナシだぁ。一生のお願いは一生に一回だって教わってねぇ?」
「あらあら、その通りねイチジ」
背後でレイジュが小さく笑った。それを合図とするかの様にイチジからサンジまでの五人が一斉にその場から散る。十数年以上離れていた兄弟もいるというのに息がピッタリだ。
疲れ果てたのかいつの間にか眠っているらしいルフィを抱えたサンジが港へ向かう。それを付かず離れずの距離をとりながらレイジュ達が援護していた。
シルビは結局イチジに抱えられたまま、付いてくる追っ手に向けて召喚器を向ける程度しか出来ない。
『死告シャイタン』の名を名乗った覚悟が、無意味になってしまっていた。
「イチジ君」
片腕でシルビを抱いたままの青年に呼びかける。たまにしがみついていないと振り落とされそうになるところに、守りながら行動するのは苦手か不慣れなのだろうなとぼんやり思った。
「なんだ」
イチジに向かって放たれる銃弾を全て撃ち落とす。
「ありがとう」
「……フン。礼を言われる覚えは」
「俺を好きだと言ってくれてぇ」
ブリュレの泣き声がまだ聞こえる。もういい年だというのに彼女は少女の様に泣いていた。兄を想う弟妹の泣き声は他人のそれであったとしても心に響く。
立ちはだかる兵士達を倒しながらイチジがシルビを抱く腕に力を込めた。
「あの時は言えなかったからぁ。……俺、あんまり他人から『好き』だって言われた事無ぇんだよ。そこに居ていいとか、存在していていいとか」
父親に首を絞められた記憶がある。死んでしまえと言われた記憶もある。
自分で自分を化け物だと認識している。
だからこそシルビは頑張って『人でありたい』と願っていた。今の上司であるローはシルビに『ここに居ていい』とは言ってくれても、きっと好きだとか嫌いだといった感情の揺らぎはない。多分。
あってもそれはそれで多分今の様にとても困るのだろうけれど、ローがシルビを傍に居させてくれる、居場所をくれることだけは変わりないと理解した。だからその場所を守りたいと思う。何を賭けても。
「――あ」
「どうした」
「何でもねぇ。やっとここに来させられた理由が分かった気がしただけぇ」
ブルックはサンジとシルビが似ていると言った。
サンジは自分の居場所をくれた麦藁の一味を守る為自分に嘘を吐いてまでルフィ達を拒絶し、シルビはロー達全員に嘘を吐いてハートの海賊団を守っていた。
辛いのは自分だけでいい。自身の知る苦労を誰かが知ることなど無くていい。
そう思っての行動はけれども、きっとどこかで大切にしたい誰かを傷つけた。
「――フッ」
不意にイチジが笑う。
「イチジ君?」
「オレにはお前を手に入れられない。オレにはお前の言う度胸も覚悟も無いだろう」
「そもそも伴侶を求めてもいねぇんだけどぉ」
「同時に拒まれて気付いたが、オレは“オレの為”にお前を傍に置きたかった」
「自分の為ぇ?」
「そうだ」
イチジがシルビの腕を掴み、服越しながらも口付けた。
「オレのことを知らなくてもオレを受け入れてくれるだろうお前が欲しかったんだ。――お前を手に入れたヤツが羨ましい」
サングラス越しの視線。後ろからは相変わらず銃弾やら追っ手やらが襲いかかってきているというのに、シルビは目を瞬かせてイチジを見上げた。
シルビを“手に入れたヤツ”とはいったい誰のことを言っているのか。特にそんな人物に思い当たる者はいなかった。いずれシルビが出会う誰かの事を言っているのだとしたら、それはそれで気が長い話である。
それとも兄の事だろうかと内心で疑問に思っていると、シルビが悩んでいることを察したのかイチジが僅かに口角を上げた。
「諦めないからな」
「……束縛は嫌われるぜぇ。俺に」
「それは困る――“火花”!」
顔を上げたイチジが叫ぶ。
「“光拳”!」
サンジに襲いかかろうとしていた男達がイチジの発した眩しい光線に貫かれて倒れていった。サンジがイチジを振り返る。
「飛べ。サンジ!」
それは兄としての激励だったのか見送りの言葉だったのか。港へ向かって離れていくサンジにイチジがようやくシルビを降ろす。
周囲には大勢の敵が居るというのにイチジは悠然とシルビを見下ろし、掴んでいた腕を名残惜しそうに離した。
離す直前僅かに引かれた腕はけれども、ただ引かれただけ。
「……アレは、出来損ないでも弟の一人だ」
「俺、麦藁の一味じゃあねぇんだけどぉ」
「構わない」
空に飛び上がったサンジを再び叩き落とそうとしたビッグマムの息子の一人が、ヨンジに捕まってハンマー投げの様に振り回される。巻き込まれた追っ手がバラバラと落ちてくるのを眺めてから、シルビはイチジを見上げた。
年下なのに既に追い抜かれた背丈。見合い写真を渡された頃に会っていれば見下ろすことが出来ていただろうか。
何かを言おうと思ったものの、結局何も言えずにイチジへ背を向ける。地面を蹴ってサンジを追いかけた。
きっと後ろではイチジがシルビかサンジの背中を見ているのだろう。どちらの背中を見ているのかが少し気になったが、振り返りはしなかった。
逃げるのが遅いとサンジを捕まえ逃げるサポートをしたニジがサンジを更に先へと放り投げる。流石に光の早さで追いかける事は出来ないので指を鳴らして転移した。
港の直前でサンジを撃ち落とそうとした集団をレイジュが毒を吹きかけて阻止している。その頭上を通り越したところでシルビは空中を蹴って進んでいるサンジの腕を掴んだ。
「ペンギンッ!?」
「一気に跳ぶ。背中に乗れぇ」
宙を蹴って【白澤】の姿に変わる。一瞬驚いたサンジがしかし背中に飛び乗るのを確認し、沖合に見えたサニー号を見据えた。
光速とまではいかずとも、空中を蹴って進むよりは速く安定した速度を出せるその姿でサニー号の甲板へと一直線に突き進む。マストの上にキャロットの姿が見え、甲板にもブルックやナミ達が見えたところで宙返りをして人型に戻った。