トットランド編
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夢主視点
うっかり外套とランタンをそのままに船へと戻ってきてナミへ見られてしまったがそれはこの際諦めるとして、今は出来るだけ無事に逃げることを考える。船に乗って海へ出てしまった以上進路は何処へでも行けるが、地上ではない分船が破損してしまえば足場に困ることになるのだ。
ビッグマム共々追ってきた艦隊からの砲弾を、槍で逐一打ち返す。流石に船の上に落ちなさそうなものはスルーしているが、それ以外はこまめに排除しなければならなかった。一つ一つがやけに大きいのだ。
更には鏡の中から火の付いた矢が飛んできていた。おそらくはブリュレの能力によるものだろう。そのせいで船の外からだけではなく船の中からの崩壊も防がなければならない。
「どうにかできんのかっ?」
「ビッグ・マム海賊団の奴らに『シャイタン』としての姿を見られたからなぁ。これ以上の行き過ぎた加勢は『シャイタンは麦藁のルフィを贔屓してる』って思われるからぁ」
ジンベエの傍に降ってきた砲丸を打ち返す。シルビだってそういったしがらみがなければガンガン能力を使っていただろう。
だが駄目なのだ。『死告シャイタン』が麦藁のルフィを贔屓していると世界に知られれば世界政府をも敵に回すことになる。それはまだルフィ達には早いだろう。
第一、ここでルフィ達に肩入れしてしまった場合、ハートの海賊団の立場はどうなるというのだ。正体を隠しているとはいえ本来シルビはあの海賊団の一員である。なのに自分の船より他の船の為になど、船長がふてくされるに決まっていた。
それは本意ではない。
「みんな! 船の中にある鏡を全部……」
「ナミ! 大変だよ!」
追いかけてくるビッグマムに魂を入れられた海が高波を作り上げていた。サニー号の何倍もの高波の上には未だ正気の戻る様子がないビッグマム。
流石にこれは自分がどうにかした方がいいかと考えた直後、ジンベエが高波を見上げていたシルビの肩へ手を置いた。
「少しの間舵を頼む」
「何か手がぁ?」
「グリーンルームへ逃げる」
操舵を代わったジンベエがブルック達へマストにロープを結ぶように言いつける。訳の分からないままそれに従うチョッパー達とは対照的に、シルビは少しワクワクしていた。
グリーンルームとは高波が崩れ落ちず、飛び水の空洞部分が出来た時のその空洞部分のことである。太陽光の影響で波が緑色に輝くことからそう呼ばれているのだが、サーフィンでもしていないとその楽しさは分からないだろう。
シルビは潜水専門なところがあるが海は嫌いではない。
ブルック達はグリーンルームを知らないらしく、舵を切って今まで逃げていた高波へ向かう事に阿鼻叫喚状態だった。マストを操る為に結んだロープを掴んだジンベエが戻ってくる。
「風を作れるかっ」
「合点承知」
代わった舵から船尾を振り返り、指を鳴らす。崩れていく高波の空洞部分にいるということもあって水しぶきが降ってきていた。船長から借りた帽子を服の中に入れておいて本当に良かったと思う。
追い風を受け止めたマストが大きく膨らむ。
「ええ船とええ航海士もおる! 操舵がよけりゃあこの船は無敵じゃのう!」
申し訳ないがその意見には反論したい。シルビにとって最強の船は『ブルーライトニング』であるし、最速の船は『パラス・アテナ』だ。サニー号もいい船ではあるがそこまで褒めるのは少し違っていた。
ポーラータンク号は最強だとか最速だとか無敵だとかを評する段階ではない。
船の後ろで波が崩れていく。本来であれば波に飲まれて今頃海に沈んでいただろうシルビ達は無事だ。
そしてその予測は、ビッグマム達にはどう認識されたか。誰にも気付かれずに逃げられたのなら少しの間は気が休まるだろう。しかし誰かに、例えばビッグマムの肩に乗っていた飴の男が沈んでいない船の影を見ていたりブリュレが鏡の中から無事な船を見ていたりすれば、『麦藁の一味の船は沈んだ』という認識は簡単にひっくり返る。
ましてやこの船はルフィ達を迎えにも行かなければならない。
ナミが船中の鏡を割れと指示を出している。どうやらルフィが鏡越しにそう言ってきたらしい。
他の海賊団の一員で乗せてもらっている立場なので率先して割るのもどうかと思い、シルビは砕けて散らばった鏡の破片を拾い集めると甲板から海へと放り捨てた。こうすることで鏡の向こう側に海水が流れ、向こうは余計に船が沈んだとうまく勘違いしてくれる筈だ。
追ってくる様子が今のところみられない海原を眺める。とりあえず今のうちに結婚式の現場に突入するからと着ていた礼服をもっと動きやすいものに着替えてしまいたかった。
「あー……コーラが足りねぇとか言ってたし、それも増やしておくかぁ」
先ほど高波に飲まれる前に聞こえていた叫びを思い出して呟く。しかし勝手に増やしてしまっていいのだろうかと考え直したところで、後ろから呼びかけられた。
「ペンギン君」
振り返った先に、ナミ。
「キャロットやブルック達はいいって言ってたけど、あなたは着替える? 礼服って動きにくいし」
爆発した厨房の残骸。船大工が合流したら船全体を総点検してもらうべきだろう。
トットランドへ着く前から使わせてもらっていた男部屋で持ってきた荷物を広げて着替え、船長から借りた帽子を被る寸前で手を止めた。
もう船長の匂いなど全くしない。そんなこと分かっているつもりだったのにそのモフモフへ顔を埋めてみる。
「――何してんの?」
「ぅおわっ!?」
いきなり声をかけられて驚いた。振り返ればドアのところに着替え終えたらしいナミが立ってシルビを見ている。
「の、ノック……」
「窓から着替え終わってるのは見えたもの。一応ノックもしたわ」
要するにシルビが気づけなかっただけらしい。恥ずかしい姿を見られてしまったなと思いながら船長の帽子を荷物の中へ片づける。ビッグマムの縄張りから逃げられるまではしまっておいた方が良いだろう。
立ち上がって追っ手の警戒の為にも部屋の外へ出ようとしたところで、ナミが後ろ手にドアを閉めた。
「ナミ航海士?」
「教えてほしいことがあるの。貴方の先祖だっていう『死告シャイタン』のことで」
シルビの吐いた嘘ではシャイタンの弟の子孫だった筈だがその辺の誤差はまあいいだろう。どうせ嘘だし。
「――アンタ。千年も生きてるっていうのは、ほんとう?」
「嘘」
防寒帽も船長の帽子も被っていないまま答える。
「ロビィには教えた。ブルック楽士は察してくれた。ジンベエは知らねぇ。迷惑になるからキミには教えない。でも千年前から……“千年以上前”から俺はいる」
船室の外はまだ静かだ。室内になった鏡は既に割られている。だからブリュレによってこの話がバレることもないだろう。
出来る限り穏やかな目でナミを見る。
「怖ぇ?」
「そうね。怖いというより、ビッグマムといいサンジ君といい厄介ごとばかりで頭が痛いわ」
「俺にはその頭痛を消すことは出来ねぇよ。『死告シャイタン』はこれ以上この場には現れない。現れることは出来ねぇ」
「でしょうね。その代わり“ペンギン君”が頑張ってくれるわ」
「……。『ハートの海賊団のペンギン』はそこまで強くねぇよ。懸賞金だって懸かってねぇし」
「あっそ。じゃあここで初めて懸賞金が懸かる訳ね」
なんて事のない言い方をしているがナミはずっとシルビを睨んでいた。それも当然だと思うのであえて何も言わず甘受する。
この状況で、それでも出し惜しみをしているのはシルビだ。そんなシルビを眺めてナミが呆れた様に息を吐く。
「アンタってあれね。変なところがサンジ君に少し似てるわ。トラ男くんに同情する」
いったい自分のどこがサンジに似ているのかと考える。追っ手にはまだ見つかっていない甲板の上だ。
タイミング的に料理が出来る点ではないだろうとは思っているが、だとしたら他になにがあるのかも分からなかった。ナミはそれを教えてくれるつもりはないらしく、チョッパーに呼ばれてしまって会話もそれきりだ。
だいたい船長に同情するという意味も分からない。このサンジ奪還に付いてきたのも船長に言われたから以外に理由もなく、シルビがサンジに似ているところがあるとかはナミの主観である。
だがしかし、もし仮に船長がナミと同じ事を考えてシルビをこちらへ同行させたのだとしたら。
「……サンジ君に似てるとこなんてあるかぁ?」
「サンジさんにですか?」
周囲の海原を監視しながらの呟きに返事が返ってくる。ブルックがシルビを見た。
「そうですねぇ。どうしてそうお思いに?」
「ナミ航海士に『死告シャイタン』だとバレたぁ。その後、変なところがサンジ君に似ていてトラファルガーに同情するってぇ」
「嗚呼。お気持ち察します」
「誰の」
「トラ男さんの」
粘り気のある水飴の海。海王類の一匹でもいれば船を引導してもらうのに。
「君にも船長の気持ちが分かるとぉ?」
「気持ちが分かると言いますか……貴方もサンジさんにも直して欲しいところがあるというべきでしょうか」
「直して欲しいところ」
「自己犠牲は褒められたモノではありません」
眼球の無い眼窩がぽっかりとシルビへ向けられる。それを見つめてから、シルビは船縁の上へと登って座った。
普段であれば死告シャイタンの時に好んでする座り方だ。ハートの船は潜水艦だからということもあってあまりしない。
「犠牲って言葉は好まねぇよ」
「ですが今回のサンジさんの行動はそれでした。同時に、トラ男さんもどこかで貴方に対してそう思ったのでしょう」
モコモ公国で、ズニーシャが襲撃される前の船長との会話を思い出す。サンジ奪還について行けと言う彼は最後、何を言い掛けていたのか。
それを問いただしたくもある。
マストの上の見張り台にいたチョッパーが、船影が見えてきたと叫んでいた。ジンベエがただ逃げるだけでは面白くないと砲撃準備を促してくる。
船縁の上に立ち上がればなるほど確かに追いかけてくる船影が見えた。先頭はやはり水飴の波に乗ったビッグマムか。
指を鳴らして槍を出す。サンジとの類似点や船長が言いたかったのだろう事は後回しだ。
空には地上の喧噪など知ったことかとばかりに月が昇っている。今夜は満月だ。
うっかり外套とランタンをそのままに船へと戻ってきてナミへ見られてしまったがそれはこの際諦めるとして、今は出来るだけ無事に逃げることを考える。船に乗って海へ出てしまった以上進路は何処へでも行けるが、地上ではない分船が破損してしまえば足場に困ることになるのだ。
ビッグマム共々追ってきた艦隊からの砲弾を、槍で逐一打ち返す。流石に船の上に落ちなさそうなものはスルーしているが、それ以外はこまめに排除しなければならなかった。一つ一つがやけに大きいのだ。
更には鏡の中から火の付いた矢が飛んできていた。おそらくはブリュレの能力によるものだろう。そのせいで船の外からだけではなく船の中からの崩壊も防がなければならない。
「どうにかできんのかっ?」
「ビッグ・マム海賊団の奴らに『シャイタン』としての姿を見られたからなぁ。これ以上の行き過ぎた加勢は『シャイタンは麦藁のルフィを贔屓してる』って思われるからぁ」
ジンベエの傍に降ってきた砲丸を打ち返す。シルビだってそういったしがらみがなければガンガン能力を使っていただろう。
だが駄目なのだ。『死告シャイタン』が麦藁のルフィを贔屓していると世界に知られれば世界政府をも敵に回すことになる。それはまだルフィ達には早いだろう。
第一、ここでルフィ達に肩入れしてしまった場合、ハートの海賊団の立場はどうなるというのだ。正体を隠しているとはいえ本来シルビはあの海賊団の一員である。なのに自分の船より他の船の為になど、船長がふてくされるに決まっていた。
それは本意ではない。
「みんな! 船の中にある鏡を全部……」
「ナミ! 大変だよ!」
追いかけてくるビッグマムに魂を入れられた海が高波を作り上げていた。サニー号の何倍もの高波の上には未だ正気の戻る様子がないビッグマム。
流石にこれは自分がどうにかした方がいいかと考えた直後、ジンベエが高波を見上げていたシルビの肩へ手を置いた。
「少しの間舵を頼む」
「何か手がぁ?」
「グリーンルームへ逃げる」
操舵を代わったジンベエがブルック達へマストにロープを結ぶように言いつける。訳の分からないままそれに従うチョッパー達とは対照的に、シルビは少しワクワクしていた。
グリーンルームとは高波が崩れ落ちず、飛び水の空洞部分が出来た時のその空洞部分のことである。太陽光の影響で波が緑色に輝くことからそう呼ばれているのだが、サーフィンでもしていないとその楽しさは分からないだろう。
シルビは潜水専門なところがあるが海は嫌いではない。
ブルック達はグリーンルームを知らないらしく、舵を切って今まで逃げていた高波へ向かう事に阿鼻叫喚状態だった。マストを操る為に結んだロープを掴んだジンベエが戻ってくる。
「風を作れるかっ」
「合点承知」
代わった舵から船尾を振り返り、指を鳴らす。崩れていく高波の空洞部分にいるということもあって水しぶきが降ってきていた。船長から借りた帽子を服の中に入れておいて本当に良かったと思う。
追い風を受け止めたマストが大きく膨らむ。
「ええ船とええ航海士もおる! 操舵がよけりゃあこの船は無敵じゃのう!」
申し訳ないがその意見には反論したい。シルビにとって最強の船は『ブルーライトニング』であるし、最速の船は『パラス・アテナ』だ。サニー号もいい船ではあるがそこまで褒めるのは少し違っていた。
ポーラータンク号は最強だとか最速だとか無敵だとかを評する段階ではない。
船の後ろで波が崩れていく。本来であれば波に飲まれて今頃海に沈んでいただろうシルビ達は無事だ。
そしてその予測は、ビッグマム達にはどう認識されたか。誰にも気付かれずに逃げられたのなら少しの間は気が休まるだろう。しかし誰かに、例えばビッグマムの肩に乗っていた飴の男が沈んでいない船の影を見ていたりブリュレが鏡の中から無事な船を見ていたりすれば、『麦藁の一味の船は沈んだ』という認識は簡単にひっくり返る。
ましてやこの船はルフィ達を迎えにも行かなければならない。
ナミが船中の鏡を割れと指示を出している。どうやらルフィが鏡越しにそう言ってきたらしい。
他の海賊団の一員で乗せてもらっている立場なので率先して割るのもどうかと思い、シルビは砕けて散らばった鏡の破片を拾い集めると甲板から海へと放り捨てた。こうすることで鏡の向こう側に海水が流れ、向こうは余計に船が沈んだとうまく勘違いしてくれる筈だ。
追ってくる様子が今のところみられない海原を眺める。とりあえず今のうちに結婚式の現場に突入するからと着ていた礼服をもっと動きやすいものに着替えてしまいたかった。
「あー……コーラが足りねぇとか言ってたし、それも増やしておくかぁ」
先ほど高波に飲まれる前に聞こえていた叫びを思い出して呟く。しかし勝手に増やしてしまっていいのだろうかと考え直したところで、後ろから呼びかけられた。
「ペンギン君」
振り返った先に、ナミ。
「キャロットやブルック達はいいって言ってたけど、あなたは着替える? 礼服って動きにくいし」
爆発した厨房の残骸。船大工が合流したら船全体を総点検してもらうべきだろう。
トットランドへ着く前から使わせてもらっていた男部屋で持ってきた荷物を広げて着替え、船長から借りた帽子を被る寸前で手を止めた。
もう船長の匂いなど全くしない。そんなこと分かっているつもりだったのにそのモフモフへ顔を埋めてみる。
「――何してんの?」
「ぅおわっ!?」
いきなり声をかけられて驚いた。振り返ればドアのところに着替え終えたらしいナミが立ってシルビを見ている。
「の、ノック……」
「窓から着替え終わってるのは見えたもの。一応ノックもしたわ」
要するにシルビが気づけなかっただけらしい。恥ずかしい姿を見られてしまったなと思いながら船長の帽子を荷物の中へ片づける。ビッグマムの縄張りから逃げられるまではしまっておいた方が良いだろう。
立ち上がって追っ手の警戒の為にも部屋の外へ出ようとしたところで、ナミが後ろ手にドアを閉めた。
「ナミ航海士?」
「教えてほしいことがあるの。貴方の先祖だっていう『死告シャイタン』のことで」
シルビの吐いた嘘ではシャイタンの弟の子孫だった筈だがその辺の誤差はまあいいだろう。どうせ嘘だし。
「――アンタ。千年も生きてるっていうのは、ほんとう?」
「嘘」
防寒帽も船長の帽子も被っていないまま答える。
「ロビィには教えた。ブルック楽士は察してくれた。ジンベエは知らねぇ。迷惑になるからキミには教えない。でも千年前から……“千年以上前”から俺はいる」
船室の外はまだ静かだ。室内になった鏡は既に割られている。だからブリュレによってこの話がバレることもないだろう。
出来る限り穏やかな目でナミを見る。
「怖ぇ?」
「そうね。怖いというより、ビッグマムといいサンジ君といい厄介ごとばかりで頭が痛いわ」
「俺にはその頭痛を消すことは出来ねぇよ。『死告シャイタン』はこれ以上この場には現れない。現れることは出来ねぇ」
「でしょうね。その代わり“ペンギン君”が頑張ってくれるわ」
「……。『ハートの海賊団のペンギン』はそこまで強くねぇよ。懸賞金だって懸かってねぇし」
「あっそ。じゃあここで初めて懸賞金が懸かる訳ね」
なんて事のない言い方をしているがナミはずっとシルビを睨んでいた。それも当然だと思うのであえて何も言わず甘受する。
この状況で、それでも出し惜しみをしているのはシルビだ。そんなシルビを眺めてナミが呆れた様に息を吐く。
「アンタってあれね。変なところがサンジ君に少し似てるわ。トラ男くんに同情する」
いったい自分のどこがサンジに似ているのかと考える。追っ手にはまだ見つかっていない甲板の上だ。
タイミング的に料理が出来る点ではないだろうとは思っているが、だとしたら他になにがあるのかも分からなかった。ナミはそれを教えてくれるつもりはないらしく、チョッパーに呼ばれてしまって会話もそれきりだ。
だいたい船長に同情するという意味も分からない。このサンジ奪還に付いてきたのも船長に言われたから以外に理由もなく、シルビがサンジに似ているところがあるとかはナミの主観である。
だがしかし、もし仮に船長がナミと同じ事を考えてシルビをこちらへ同行させたのだとしたら。
「……サンジ君に似てるとこなんてあるかぁ?」
「サンジさんにですか?」
周囲の海原を監視しながらの呟きに返事が返ってくる。ブルックがシルビを見た。
「そうですねぇ。どうしてそうお思いに?」
「ナミ航海士に『死告シャイタン』だとバレたぁ。その後、変なところがサンジ君に似ていてトラファルガーに同情するってぇ」
「嗚呼。お気持ち察します」
「誰の」
「トラ男さんの」
粘り気のある水飴の海。海王類の一匹でもいれば船を引導してもらうのに。
「君にも船長の気持ちが分かるとぉ?」
「気持ちが分かると言いますか……貴方もサンジさんにも直して欲しいところがあるというべきでしょうか」
「直して欲しいところ」
「自己犠牲は褒められたモノではありません」
眼球の無い眼窩がぽっかりとシルビへ向けられる。それを見つめてから、シルビは船縁の上へと登って座った。
普段であれば死告シャイタンの時に好んでする座り方だ。ハートの船は潜水艦だからということもあってあまりしない。
「犠牲って言葉は好まねぇよ」
「ですが今回のサンジさんの行動はそれでした。同時に、トラ男さんもどこかで貴方に対してそう思ったのでしょう」
モコモ公国で、ズニーシャが襲撃される前の船長との会話を思い出す。サンジ奪還について行けと言う彼は最後、何を言い掛けていたのか。
それを問いただしたくもある。
マストの上の見張り台にいたチョッパーが、船影が見えてきたと叫んでいた。ジンベエがただ逃げるだけでは面白くないと砲撃準備を促してくる。
船縁の上に立ち上がればなるほど確かに追いかけてくる船影が見えた。先頭はやはり水飴の波に乗ったビッグマムか。
指を鳴らして槍を出す。サンジとの類似点や船長が言いたかったのだろう事は後回しだ。
空には地上の喧噪など知ったことかとばかりに月が昇っている。今夜は満月だ。