トットランド編
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夢主視点
船長を殺すなんてシルビが居る限りは出来ないだろう事を、それでも宣言されて少し頭に血が昇った。ベッジが不問にしてくれたからいいものの、こんな話し合いの場であれは暴挙以外の何者でもない。
「――ペンギン? ペンギンって言ったらオマエ、ゾウで死んでたヤツだろ!」
「勝手に殺してんじゃねぇよ」
やっと緊張から解放されたらしいシーザーが怒鳴る。そういえば彼もゾウにはチョッパー達共々行っているのだ。襲撃直後のゾウからトットランドへ連れてこられるまではミンク族達やハートのクルー達の惨状を眼にしていた筈である。助けてくれていたかは知らないが。
そうであればシーザーも『両手と脚が失われたペンギン』を目撃している可能性があった。というより今の言葉からして確実に見ている。それでいて勝手に死んだと思っていたというところか。
フランが胡乱げな眼でシルビを見てくるのを無視し腕を組んだ。
「それより話し合いを」
「嗚呼、そうだったな。作戦は完璧なものを考えてある」
シルビの行動のせいで順番通りにはいかなかったが手を組んで『連合軍』としてビッグ・マムに対抗する事だけは決まった。次の議題はどうやってビッグマムを暗殺するかである。
「『ビッグマム暗殺』には興味ねェが、――そもそもビッグマムは銃や大砲で死ぬ様な人間なのか? 印象的にはまるで『鉄の風船』! とても殺せる気がしねェ」
「そうだな。『暗殺』と言うからには一瞬で仕留めなければ。取り囲まれて返り討ちに遭うだけだ」
「やっぱすげェのか『四皇』は」
「勿論怪物よ! 寝てる間にブルックを取り戻すだけで――あんまり苦労しなかったけど。でも背筋が凍ったわ」
ブルックを取り返したのはシルビだ。そのシルビ当人は別に背筋すら凍った覚えはないが。
「ですがなぜ幹部達が集う『お茶会』を暗殺の場に選んだのですか? ベッジさん」
「まァ素直な質問だな。――まず答えておこう。相手が四皇でも軽々しく暗殺出来るだろう奴等は存在するし、ある条件下で『五秒』あればソイツ等でなくともビッグマムの首は取れる」
そうベッジが断言するのにチョッパーやキャロットが唾を飲み込んでいた。
「だが前者の奴等に今から手を借りるなんて無理な話だ。だからオレはハナから後者の計画で事を運んでる」
「ちなみにその暗殺可能なヤツ等とは何者だ?」
「新世界の『ボンゴレ』という世界政府非加盟国家にある『ヴァリアー』という暗殺部隊だ。特殊な能力を持って生まれる国民性でな、その能力を駆使して暗躍する部隊らしい。ちなみに、オレの部下にもその国出身のヤツが一人居てな」
ベッジがそう自慢げに鼻を高くしてソファの背後に控えていた部下の一人を指差した。先程ベッジが部屋に入ってくる前にシルビをやけに見てきた男だ。
シルビよりも年上そうな男は自分の頭目の紹介に答える様にルフィ達へ頭を提げ愛想笑いをする。その男の手には確かに“雷のリング”が填められていた。ということは硬化の性質を持つ雷の死炎を扱えるのだろう。
「ボンゴレってのはあの史上最高額の賞金首『死告シャイタン』の出身地だと言われてる。つまりこいつはあのシャイタンと同じ能力を使えるってこった」
「シャイタン……」
ジンベエとブルックの視線がシルビへ向けられた。
「シルビならオレも会ったぞ」
「フハハ。そうか、あの賞金首はドレスローザに出たんだったな。ならヤツの能力の一部くらいはオマエも見ているだろ。それをコイツも……」
「というかベッジ。悪いケドそこのペンギン君もそこの出身よ?」
ナミの割り込みでベッジの自慢話が止まる。しん、と静まりかえる部屋にベッジの妻らしいシフォンの抱いていた赤ん坊の鼻提灯が弾けた。
「……なん、だと?」
震える声でベッジがシルビを睨む。その後ろにいた雷のリングを填めた部下は青ざめた表情にもさもありなんといった雰囲気が見え隠れしており、おそらくシルビを見た時から気付いていたのだろう。だから見ていた。
シルビは内心で冷や汗を掻く。この流れだとナミ達が、シルビがゾウで吐いた『シャイタンの子孫』という嘘まで暴露してしまうのではと思ったからである。
それは困るのだ。本当は子孫ではなく本人だし『シャイタンに子孫などいない』ことはボンゴレの国民なら周知の事実である。シルビの嘘などベッジの部下になった男に早々に気付かれてしまう。
ここまでかと覚悟を決めかけたところで、救ってくれたのは意外にもその男だった。
「あの、相談役ですよね? ワタシ、ヴェスプッチの派閥に居りましたナリオと言います」
「ヴェスプッチ……」
「兄と共々あの人の部下やってたんですがね。どうにもあの人の思想には付いていけないと思っていた頃に海に突き落とされてしまいまして……。頭目に助けて頂いて恩を返している次第です。こんなところで相談役にお会いできるとは思っておりませんでした」
ある意味懐かしい名前が出てくる。
「シャイタンの名がドレスローザで出たことを知ったときは驚きましたが、貴方がハートの海賊団に居るというのでしたら納得がいきます。確かあの時ドレスローザにはトラファルガーが居ましたよね?」
「……うん」
「懐の大きい方だ。多少の縁でも助けずにはいられなかったのでしょう。ましてや船長と呼んでいるのであれば」
ベッジの部下のナリオの認識では、シャイタンの正体であるシルビがドレスローザに現れたのは現在シルビが所属しているハートの海賊団の船長があの場に居たから。
しかし今の話を聞いたナミ達は前提として『シルビはシャイタンの子孫』という嘘情報を持っている。
その為、今の話を聞いた限りでは『シャイタンがドレスローザに出たのは子孫のシルビの関係者がそこにいたから』という考え方も出来るようになるだろう。となれば、ゾウでシルビの手足を治したという行動とその理由に更なる信憑性と関連性が出るのではないだろうか。
勿論その通りに思い込んでくれるとは限らない。だからシルビはナリオが矛盾を口にしてしまう前に誤魔化す事にした。
「トラファルガーは故郷にも行ったから余計にそうなのかもなぁ」
「なんと、ではヴェスプッチや兄に会いませんでしたでしょうか。ワタシの兄もワタシと同じで雷の死炎使いでして、ボウガンを愛用しておりました」
「ボ――。あ」
ヴェスプッチの部下で、シャチにやられた男がボウガン使いだったことを思い出す。上司共々海の藻屑となったことも。
国に徒なす者として粛清されたのだと告げていいのかどうか戸惑われた。
「アンタの兄貴はあのデブと一緒に海の底デスよー」
逡巡している間にソファの背もたれへ頬杖を突いていたフランが口を開く。ベッジ達の視線が一斉にフランへ向けられるのは幻覚を解きでもしたからだろう。
ベッジの部下の中には突然現れた侵入者として武器を構えようとしている者までいた。当然といえば当然であるその行動はけれども目を見開いたサンジによって止まる。
「おまえ、ジェルマの城で時々イチジの傍にいた……」
「オヤ、見えてたんですかー? 確かにミーはあのフレミングヤローの傍に居ましたけどアンタには見えてねーと思ってましたー」
まだイチジのことをフレミング野郎と言うか。こっそりナミとブルックが片手をフレミングの法則を示す形にして吹き出しかけていた。
「おい麦わら、そいつもオマエ等の連れか?」
「ミーは麦藁なんて興味ねーですよー。ママンに連れてこられただけだしー」
「だから俺をママンって呼ぶんじゃねぇよ。お前を産んだ覚えはねぇ」
「ペンギンと言ったな。お前の知り合いか」
「ミーはアンタが言った『ヴァリアー』デスよー」
途端にベッジが声無く心底驚いたとばかりの表情を浮かべる。ナリオはフランが見えるようになった瞬間から顔を青ざめさせているし、ルフィ達は話の展開についていけていない。
もしかしてコレは自分が収拾をつけなければならないのだろうかとシルビは頭を抱えたくなった。
頭を抱えたくなろうと誰かが司会役を買って出なければ進行しない。
「あー、ルフィ君達にも分かる様に説明させてもらうけど、この子はフラン。ジェルマに潜入してヴィンスモークを監視してた『ヴァリアー』の幹部だぁ」
幹部というか幹部補佐というか。
「サンジ君を探しに行ったジェルマでフランを見つけてなぁ。その後ビッグマムに騙されていることを知ったからその情報をリークして、ついでにこっちのサンジ君奪還にも少し手を貸してもらえたらと思って連れてきたんだぁ。ファイアタンクに同じ故郷出身者がいるのは予想外だったけどぉ」
「ジェルマに潜入ならフラン様がいるのも納得できます」
ナリオが頷くのに周囲のファイアタンクの船員達がそんなものなのかと思っているようだった。ちゃっかりフランのことを様付けしているが。
「ですがミスタ・ベッジ。フランはヴァリアーの中でも情報収集向きの隊員です。よってこの子を戦力扱いするのはやめて頂きたい」
「なるほど。んで、テメェはどういう立場なんだ?」
「ハートの海賊団の副船長ですよ。少なくともこの場では」
トラファルガーが、ハートの皆がシルビのことを『ペンギン』という間は。あるいは預かってきた帽子を被っている間は、確実にシルビは『ペンギン』だ。同じ故郷出身で色々知っている者がいようと賞金首としての呼び名を知る者がいようとそれは変わらない。
『イブリス』はジャックとサブジェイのもの。『シルビ』は誰の元にもつかない。そして『ペンギン』はトラファルガーのものなのだから。
ジンベエが複雑そうな顔をしている横でブルックは理解を示すような雰囲気をしている。シルビとトラファルガーの関係をあまり知らないジンベエと知っているブルックとの差だろう。
「ふん。思ったより食えねェ奴らしいな」
鼻を鳴らしたベッジが葉巻を指で摘んで紫煙を吐き出す。
「話を戻すが、オレが考えてる計画はシーザーの捕獲から始まっている」
ボンゴレの者を計画に練り込む気は無いらしく、着々と自身の考えていた暗殺計画の説明を再開するベッジにシルビは被っていた帽子の角度を直した。
ベッジはシーザーに開発させた猛毒ガスを仕込んだKXランチャーをビッグマムにぶつけるつもりだったらしい。だが普通に撃ったところでビッグマムにその弾は届かないだろうし、届いたところでビッグマムの皮膚へ刺さることすら難しい。
なので計画に必須だった条件は『ランチャーを発射させる為に誰にも手出しされない五秒間』『弾が刺さるようにビッグマムが衰弱していること』の二つ。そしてその二つが『お茶会』でこそ揃うのだと言う。
「おれ達が傘下に入って一年以上経ちゅが、ママはケガをしねェ。街を壊す時も船を沈める時も銃弾や砲弾を食らっても、あの強靱な肉体にはカスリ傷一つつかねェ。まさに『鉄の風船』とはよく言ったな」
シルビも一定の条件下であればカスリ傷一つ付かずにいられる。だがビッグマムはシルビではないので確かに凄いことだろう。
「――だが一度だけママがカスリ傷を負ったのを見たんでちゅよ」
「『マザー・カルメル』の写真事件レロね!」
「マザー……?」
「茶会ではママの正面の席にはいつもある写真が大切に置かれ誰も座る事はない。ママにとって何より大事な宝の様だ」
「写真が?」
「そう、それが『マザー・カルメル』の写真だ!」
『マザー・カルメル』という名前に聞き覚えがある気がして、考えている間にも話は進んでいく。その人物はビッグマムの恩人らしいが詳細は家族も知らず、分かっているのは失踪したらしいという曖昧なことだけだという。
ビッグマムの恩人というのであれば彼女より年上だろうから『ペンギン』になる前、下手をすればロジャーと出会う前ですらあるかもしれない。そこまで考えて思い出した。
「“山姥”カルメル!」
「あん?」
「そういやあの女失踪してたなぁ! 子供に復讐されて野垂れ死んだのかと思ってたぁ……」
六十年近く昔の話だ。孤児を集めては育て、素質のありそうな子供を政府へ売り渡し金を得る人身売買を生業とした女がいた。百年ほど前には巨兵海賊団の残党が捕まって行われた処刑の際に政府と手を組んで一芝居を打ち、巨人達の信用を得ることすら出来た女である。
修道服を着ていたくせに煙草を吸い、世話をしている子供達をその実商品としか考えていなかった様な人であったが、完全に悪人という訳ではなかった。
『アンタにガキがいればイイ商品になりそうだけどねェ』
『生憎俺は自分の子供を捨てるような人でなしじゃねぇ』
彼女は誘拐だけはしなかったのだ。
とはいえ子供を騙して政府へ売っていたのは間違いない。政府に売られた子供は平穏な家庭へ引き取られた風を装い、将来的には海軍に入れられるなどの処置がされていた。カルメルに引き取られた時点で自分の人生が決まっていたと気付かなかった子供がゼロだとは言えないだろう。
実際シルビは気付いてしまった子供に出会ったことがある。海兵になっていたその子供はけれども彼女を恨んではいなかったが。
その子供が恨んでいなかっただけで他の子供も同様かは分からない。だから復讐されて死んだと思っていたのだ。
そのシルビが知っているカルメルがビッグマムの言っている『恩人』であるのなら、ビッグマムもかつてはカルメルに引き取られた孤児ということになる。とすればビッグマムが何故海賊になっているのかが疑問だがそれはさておき。
「『マザー・カルメル』を知っとるのか?」
「六十年近く前にいたブローカーだぁ。俺も数える程度しか会ったことはねぇし本当にあの女のことなのか確証も無ぇ」
「数える程度って、六十年前の相手に?」
「え、あ、えーと、その……」
「まぁいい。写真がママの唯一の弱点であることは変わりねェ」
シフォンの話ではその写真を給仕が落としてしまった事があるらしい。ママはその途端大音量の奇声と覇王色の覇気を発動し、周囲の者達は気を失ってバタバタと倒れていった。
写真を落とされたショックへ奇声を発したママはその後膝を突き、その膝をすりむいて血を流していたという。
「ならば今日、茶会の会場でその写真を真っ二つに叩き割ったらどうなる!? ママは衰弱し! 会場の誰も動けない五秒以上の時間! KXランチャーはその時最大の効果を示しビッグマムは死ぬ!」
つまりベッジが言いたいのは、ママの体に抵抗力を失わせるには奇声を発するほどのショックが必要で、そのショックを生み出す効果が恩人の写真にあるということだ。そしてその写真はお茶会でママ以外の眼にも触れる。
五秒という時間はビッグマムが奇声を発して自ら作り出すので、こちらは耳栓をして奇声をきかないようにすればいい。ランチャーを打ち込みママを暗殺した後はガスガスの実の能力者故に空を飛べるシーザーが脱出用の“鏡”を持って会場に突入し、全員が鏡に飛び込んで逃走。チョッパー達がブリュレを捕虜にしていた事は大手柄だった。
船に鏡を用意しておけばそのまま鏡の世界を経由して誰にも邪魔されることなく船へと向かう事が出来る。それで最短距離で島から脱出が可能だと、ベッジは自分の考えた作戦に満足げだった。
シルビとしては奇声と一緒に発動されるであろう覇気の対策は大丈夫なのだろうかとか、皮膚の抵抗力が下がってランチャーが当たったとしても毒が本当に効くのかとか疑問点がいくつかある。覇気はシルビやレイリーに鍛えられたルフィなら平気だろうが他の面々はどの程度なのか知らないし、毒だってルフィがヨロイオコゼを食べた時言っていた様に抗体を持っていたらどうするのか。
考えを詰めたいところであったが、茶会の時間までもう二時間半しかなくなっており準備を始める頃合いになってしまった。
船長を殺すなんてシルビが居る限りは出来ないだろう事を、それでも宣言されて少し頭に血が昇った。ベッジが不問にしてくれたからいいものの、こんな話し合いの場であれは暴挙以外の何者でもない。
「――ペンギン? ペンギンって言ったらオマエ、ゾウで死んでたヤツだろ!」
「勝手に殺してんじゃねぇよ」
やっと緊張から解放されたらしいシーザーが怒鳴る。そういえば彼もゾウにはチョッパー達共々行っているのだ。襲撃直後のゾウからトットランドへ連れてこられるまではミンク族達やハートのクルー達の惨状を眼にしていた筈である。助けてくれていたかは知らないが。
そうであればシーザーも『両手と脚が失われたペンギン』を目撃している可能性があった。というより今の言葉からして確実に見ている。それでいて勝手に死んだと思っていたというところか。
フランが胡乱げな眼でシルビを見てくるのを無視し腕を組んだ。
「それより話し合いを」
「嗚呼、そうだったな。作戦は完璧なものを考えてある」
シルビの行動のせいで順番通りにはいかなかったが手を組んで『連合軍』としてビッグ・マムに対抗する事だけは決まった。次の議題はどうやってビッグマムを暗殺するかである。
「『ビッグマム暗殺』には興味ねェが、――そもそもビッグマムは銃や大砲で死ぬ様な人間なのか? 印象的にはまるで『鉄の風船』! とても殺せる気がしねェ」
「そうだな。『暗殺』と言うからには一瞬で仕留めなければ。取り囲まれて返り討ちに遭うだけだ」
「やっぱすげェのか『四皇』は」
「勿論怪物よ! 寝てる間にブルックを取り戻すだけで――あんまり苦労しなかったけど。でも背筋が凍ったわ」
ブルックを取り返したのはシルビだ。そのシルビ当人は別に背筋すら凍った覚えはないが。
「ですがなぜ幹部達が集う『お茶会』を暗殺の場に選んだのですか? ベッジさん」
「まァ素直な質問だな。――まず答えておこう。相手が四皇でも軽々しく暗殺出来るだろう奴等は存在するし、ある条件下で『五秒』あればソイツ等でなくともビッグマムの首は取れる」
そうベッジが断言するのにチョッパーやキャロットが唾を飲み込んでいた。
「だが前者の奴等に今から手を借りるなんて無理な話だ。だからオレはハナから後者の計画で事を運んでる」
「ちなみにその暗殺可能なヤツ等とは何者だ?」
「新世界の『ボンゴレ』という世界政府非加盟国家にある『ヴァリアー』という暗殺部隊だ。特殊な能力を持って生まれる国民性でな、その能力を駆使して暗躍する部隊らしい。ちなみに、オレの部下にもその国出身のヤツが一人居てな」
ベッジがそう自慢げに鼻を高くしてソファの背後に控えていた部下の一人を指差した。先程ベッジが部屋に入ってくる前にシルビをやけに見てきた男だ。
シルビよりも年上そうな男は自分の頭目の紹介に答える様にルフィ達へ頭を提げ愛想笑いをする。その男の手には確かに“雷のリング”が填められていた。ということは硬化の性質を持つ雷の死炎を扱えるのだろう。
「ボンゴレってのはあの史上最高額の賞金首『死告シャイタン』の出身地だと言われてる。つまりこいつはあのシャイタンと同じ能力を使えるってこった」
「シャイタン……」
ジンベエとブルックの視線がシルビへ向けられた。
「シルビならオレも会ったぞ」
「フハハ。そうか、あの賞金首はドレスローザに出たんだったな。ならヤツの能力の一部くらいはオマエも見ているだろ。それをコイツも……」
「というかベッジ。悪いケドそこのペンギン君もそこの出身よ?」
ナミの割り込みでベッジの自慢話が止まる。しん、と静まりかえる部屋にベッジの妻らしいシフォンの抱いていた赤ん坊の鼻提灯が弾けた。
「……なん、だと?」
震える声でベッジがシルビを睨む。その後ろにいた雷のリングを填めた部下は青ざめた表情にもさもありなんといった雰囲気が見え隠れしており、おそらくシルビを見た時から気付いていたのだろう。だから見ていた。
シルビは内心で冷や汗を掻く。この流れだとナミ達が、シルビがゾウで吐いた『シャイタンの子孫』という嘘まで暴露してしまうのではと思ったからである。
それは困るのだ。本当は子孫ではなく本人だし『シャイタンに子孫などいない』ことはボンゴレの国民なら周知の事実である。シルビの嘘などベッジの部下になった男に早々に気付かれてしまう。
ここまでかと覚悟を決めかけたところで、救ってくれたのは意外にもその男だった。
「あの、相談役ですよね? ワタシ、ヴェスプッチの派閥に居りましたナリオと言います」
「ヴェスプッチ……」
「兄と共々あの人の部下やってたんですがね。どうにもあの人の思想には付いていけないと思っていた頃に海に突き落とされてしまいまして……。頭目に助けて頂いて恩を返している次第です。こんなところで相談役にお会いできるとは思っておりませんでした」
ある意味懐かしい名前が出てくる。
「シャイタンの名がドレスローザで出たことを知ったときは驚きましたが、貴方がハートの海賊団に居るというのでしたら納得がいきます。確かあの時ドレスローザにはトラファルガーが居ましたよね?」
「……うん」
「懐の大きい方だ。多少の縁でも助けずにはいられなかったのでしょう。ましてや船長と呼んでいるのであれば」
ベッジの部下のナリオの認識では、シャイタンの正体であるシルビがドレスローザに現れたのは現在シルビが所属しているハートの海賊団の船長があの場に居たから。
しかし今の話を聞いたナミ達は前提として『シルビはシャイタンの子孫』という嘘情報を持っている。
その為、今の話を聞いた限りでは『シャイタンがドレスローザに出たのは子孫のシルビの関係者がそこにいたから』という考え方も出来るようになるだろう。となれば、ゾウでシルビの手足を治したという行動とその理由に更なる信憑性と関連性が出るのではないだろうか。
勿論その通りに思い込んでくれるとは限らない。だからシルビはナリオが矛盾を口にしてしまう前に誤魔化す事にした。
「トラファルガーは故郷にも行ったから余計にそうなのかもなぁ」
「なんと、ではヴェスプッチや兄に会いませんでしたでしょうか。ワタシの兄もワタシと同じで雷の死炎使いでして、ボウガンを愛用しておりました」
「ボ――。あ」
ヴェスプッチの部下で、シャチにやられた男がボウガン使いだったことを思い出す。上司共々海の藻屑となったことも。
国に徒なす者として粛清されたのだと告げていいのかどうか戸惑われた。
「アンタの兄貴はあのデブと一緒に海の底デスよー」
逡巡している間にソファの背もたれへ頬杖を突いていたフランが口を開く。ベッジ達の視線が一斉にフランへ向けられるのは幻覚を解きでもしたからだろう。
ベッジの部下の中には突然現れた侵入者として武器を構えようとしている者までいた。当然といえば当然であるその行動はけれども目を見開いたサンジによって止まる。
「おまえ、ジェルマの城で時々イチジの傍にいた……」
「オヤ、見えてたんですかー? 確かにミーはあのフレミングヤローの傍に居ましたけどアンタには見えてねーと思ってましたー」
まだイチジのことをフレミング野郎と言うか。こっそりナミとブルックが片手をフレミングの法則を示す形にして吹き出しかけていた。
「おい麦わら、そいつもオマエ等の連れか?」
「ミーは麦藁なんて興味ねーですよー。ママンに連れてこられただけだしー」
「だから俺をママンって呼ぶんじゃねぇよ。お前を産んだ覚えはねぇ」
「ペンギンと言ったな。お前の知り合いか」
「ミーはアンタが言った『ヴァリアー』デスよー」
途端にベッジが声無く心底驚いたとばかりの表情を浮かべる。ナリオはフランが見えるようになった瞬間から顔を青ざめさせているし、ルフィ達は話の展開についていけていない。
もしかしてコレは自分が収拾をつけなければならないのだろうかとシルビは頭を抱えたくなった。
頭を抱えたくなろうと誰かが司会役を買って出なければ進行しない。
「あー、ルフィ君達にも分かる様に説明させてもらうけど、この子はフラン。ジェルマに潜入してヴィンスモークを監視してた『ヴァリアー』の幹部だぁ」
幹部というか幹部補佐というか。
「サンジ君を探しに行ったジェルマでフランを見つけてなぁ。その後ビッグマムに騙されていることを知ったからその情報をリークして、ついでにこっちのサンジ君奪還にも少し手を貸してもらえたらと思って連れてきたんだぁ。ファイアタンクに同じ故郷出身者がいるのは予想外だったけどぉ」
「ジェルマに潜入ならフラン様がいるのも納得できます」
ナリオが頷くのに周囲のファイアタンクの船員達がそんなものなのかと思っているようだった。ちゃっかりフランのことを様付けしているが。
「ですがミスタ・ベッジ。フランはヴァリアーの中でも情報収集向きの隊員です。よってこの子を戦力扱いするのはやめて頂きたい」
「なるほど。んで、テメェはどういう立場なんだ?」
「ハートの海賊団の副船長ですよ。少なくともこの場では」
トラファルガーが、ハートの皆がシルビのことを『ペンギン』という間は。あるいは預かってきた帽子を被っている間は、確実にシルビは『ペンギン』だ。同じ故郷出身で色々知っている者がいようと賞金首としての呼び名を知る者がいようとそれは変わらない。
『イブリス』はジャックとサブジェイのもの。『シルビ』は誰の元にもつかない。そして『ペンギン』はトラファルガーのものなのだから。
ジンベエが複雑そうな顔をしている横でブルックは理解を示すような雰囲気をしている。シルビとトラファルガーの関係をあまり知らないジンベエと知っているブルックとの差だろう。
「ふん。思ったより食えねェ奴らしいな」
鼻を鳴らしたベッジが葉巻を指で摘んで紫煙を吐き出す。
「話を戻すが、オレが考えてる計画はシーザーの捕獲から始まっている」
ボンゴレの者を計画に練り込む気は無いらしく、着々と自身の考えていた暗殺計画の説明を再開するベッジにシルビは被っていた帽子の角度を直した。
ベッジはシーザーに開発させた猛毒ガスを仕込んだKXランチャーをビッグマムにぶつけるつもりだったらしい。だが普通に撃ったところでビッグマムにその弾は届かないだろうし、届いたところでビッグマムの皮膚へ刺さることすら難しい。
なので計画に必須だった条件は『ランチャーを発射させる為に誰にも手出しされない五秒間』『弾が刺さるようにビッグマムが衰弱していること』の二つ。そしてその二つが『お茶会』でこそ揃うのだと言う。
「おれ達が傘下に入って一年以上経ちゅが、ママはケガをしねェ。街を壊す時も船を沈める時も銃弾や砲弾を食らっても、あの強靱な肉体にはカスリ傷一つつかねェ。まさに『鉄の風船』とはよく言ったな」
シルビも一定の条件下であればカスリ傷一つ付かずにいられる。だがビッグマムはシルビではないので確かに凄いことだろう。
「――だが一度だけママがカスリ傷を負ったのを見たんでちゅよ」
「『マザー・カルメル』の写真事件レロね!」
「マザー……?」
「茶会ではママの正面の席にはいつもある写真が大切に置かれ誰も座る事はない。ママにとって何より大事な宝の様だ」
「写真が?」
「そう、それが『マザー・カルメル』の写真だ!」
『マザー・カルメル』という名前に聞き覚えがある気がして、考えている間にも話は進んでいく。その人物はビッグマムの恩人らしいが詳細は家族も知らず、分かっているのは失踪したらしいという曖昧なことだけだという。
ビッグマムの恩人というのであれば彼女より年上だろうから『ペンギン』になる前、下手をすればロジャーと出会う前ですらあるかもしれない。そこまで考えて思い出した。
「“山姥”カルメル!」
「あん?」
「そういやあの女失踪してたなぁ! 子供に復讐されて野垂れ死んだのかと思ってたぁ……」
六十年近く昔の話だ。孤児を集めては育て、素質のありそうな子供を政府へ売り渡し金を得る人身売買を生業とした女がいた。百年ほど前には巨兵海賊団の残党が捕まって行われた処刑の際に政府と手を組んで一芝居を打ち、巨人達の信用を得ることすら出来た女である。
修道服を着ていたくせに煙草を吸い、世話をしている子供達をその実商品としか考えていなかった様な人であったが、完全に悪人という訳ではなかった。
『アンタにガキがいればイイ商品になりそうだけどねェ』
『生憎俺は自分の子供を捨てるような人でなしじゃねぇ』
彼女は誘拐だけはしなかったのだ。
とはいえ子供を騙して政府へ売っていたのは間違いない。政府に売られた子供は平穏な家庭へ引き取られた風を装い、将来的には海軍に入れられるなどの処置がされていた。カルメルに引き取られた時点で自分の人生が決まっていたと気付かなかった子供がゼロだとは言えないだろう。
実際シルビは気付いてしまった子供に出会ったことがある。海兵になっていたその子供はけれども彼女を恨んではいなかったが。
その子供が恨んでいなかっただけで他の子供も同様かは分からない。だから復讐されて死んだと思っていたのだ。
そのシルビが知っているカルメルがビッグマムの言っている『恩人』であるのなら、ビッグマムもかつてはカルメルに引き取られた孤児ということになる。とすればビッグマムが何故海賊になっているのかが疑問だがそれはさておき。
「『マザー・カルメル』を知っとるのか?」
「六十年近く前にいたブローカーだぁ。俺も数える程度しか会ったことはねぇし本当にあの女のことなのか確証も無ぇ」
「数える程度って、六十年前の相手に?」
「え、あ、えーと、その……」
「まぁいい。写真がママの唯一の弱点であることは変わりねェ」
シフォンの話ではその写真を給仕が落としてしまった事があるらしい。ママはその途端大音量の奇声と覇王色の覇気を発動し、周囲の者達は気を失ってバタバタと倒れていった。
写真を落とされたショックへ奇声を発したママはその後膝を突き、その膝をすりむいて血を流していたという。
「ならば今日、茶会の会場でその写真を真っ二つに叩き割ったらどうなる!? ママは衰弱し! 会場の誰も動けない五秒以上の時間! KXランチャーはその時最大の効果を示しビッグマムは死ぬ!」
つまりベッジが言いたいのは、ママの体に抵抗力を失わせるには奇声を発するほどのショックが必要で、そのショックを生み出す効果が恩人の写真にあるということだ。そしてその写真はお茶会でママ以外の眼にも触れる。
五秒という時間はビッグマムが奇声を発して自ら作り出すので、こちらは耳栓をして奇声をきかないようにすればいい。ランチャーを打ち込みママを暗殺した後はガスガスの実の能力者故に空を飛べるシーザーが脱出用の“鏡”を持って会場に突入し、全員が鏡に飛び込んで逃走。チョッパー達がブリュレを捕虜にしていた事は大手柄だった。
船に鏡を用意しておけばそのまま鏡の世界を経由して誰にも邪魔されることなく船へと向かう事が出来る。それで最短距離で島から脱出が可能だと、ベッジは自分の考えた作戦に満足げだった。
シルビとしては奇声と一緒に発動されるであろう覇気の対策は大丈夫なのだろうかとか、皮膚の抵抗力が下がってランチャーが当たったとしても毒が本当に効くのかとか疑問点がいくつかある。覇気はシルビやレイリーに鍛えられたルフィなら平気だろうが他の面々はどの程度なのか知らないし、毒だってルフィがヨロイオコゼを食べた時言っていた様に抗体を持っていたらどうするのか。
考えを詰めたいところであったが、茶会の時間までもう二時間半しかなくなっており準備を始める頃合いになってしまった。