トットランド編
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夢主視点
ホールケーキアイランドの北西に位置する場所にそのアジトは設けられていた。
ジェルマの船がそうであったように島へ接続している訳ではなくわざわざ建設されたらしい砦の様相をした城こそ、ビッグマムを倒す為に協力しあうことが“出来るかも知れない”相手であるファイアタンク海賊団のアジトであるらしい。その証拠なのか門の上にはシンプルながらも『FIRE TANK』と掘られていた。
雨上がりの湿った空気の中で案の定寝入ってしまったフランを揺すり上げながらそれを見上げていると、門が開いて一人の男が出てくる。おそらくシルビに気付いて出てきたのだろうその男は両腰に銃を提げた腕の長い男だ。
「ニョロロロ! 何者だアンタ」
「……ここってファイアタンク海賊団のアジトで合ってるかぁ?」
「合ってレロ」
どっちなのか分からない。仕方ないのでそのまま話を続ける。
「海侠のジンベエの知己のペンギンと言うんだが、彼とここで待ち合わせをしている」
「ああ、聞いてるぜ。アンタがペンギンレロか。その背中のは誰レロ?」
「俺の知り合い。中へ入ってもぉ?」
さり気なく男を警戒しつつ階段を昇った。男はカメレオンの様に長いのを丸められた舌を揺らしながらシルビをサングラス越しに観察していたが、シルビが階段を昇りきったところで何かが腑に落ちないように首を傾げる。
そうして歩み寄ってきたかと思うとシルビが被っていた帽子を取ろうとしてきた。反射的に後退してその手から逃げる。
「……いきなり何を」
「いやァ、見覚えのある帽子だと思って」
トラファルガー・ローの帽子なのだから当然新聞に掲載されている写真や手配書で見たことはあるだろう。被っている人間が違うだけだ。
借り物であることを言う必要はないだろうが、何か言った方がいいだろうかと考えていると男の後ろの扉が再び開いた。男と同時に見やれば様子を見に来たのかジンベエが顔を出したところで。
「待っておったぞペンギン。探し人は見つかったんか」
「もうおねむの時間だけどなぁ」
背負っていたフランが見えるように体を傾ければフランの頭が重そうに揺れる。寝ている時もカエルの被り物が消えていないのは流石だ。これが有幻覚なのか本物なのかは未だに不明だが。
「ルフィ達はまだ来とらんがおいおいやってくるじゃろう。おんしは先に入って身なりを綺麗にするといい」
「身なり?」
「頭目は汚ェのとはお会いにならねェんだ。その小汚ェ帽子も洗え」
「――はぁ?」
思わず男を睨んでしまったが、最後に洗ったのは船長と別れる前のゾウでのことなので確かに汚れてはいるだろう。
およそ海賊のアジトだとは思えない立派な浴室と石鹸。男なので泡風呂にまではしなくていいと言ったのに、せっかくだからと泡風呂にされてしまった。
とはいえ温かい湯船の中は極楽である。これでこのまま温かい布団に潜り込んで寝ることが出来たら更に天国だろう。現実はそうはいかないが。
同じ湯船の中では、先に来てやはり同じように身綺麗にすることを命じられたブルックが全身の力を抜いて浸かっていた。というかアレは悪魔の実の能力者故に動けなくなっているといったほうが正しいのか。
フランは結局揺さぶっても起きなかったので頼んで寝台を用意してもらった。一緒に話を聞いてもらおうと思って連れてきたのだが疲れて寝ているのなら起こしたくはない。
そういう甘やかしがママンなんぞと言われる所以だろうが。
「あー……それにしてもペンギンさん。あなたはダルくならないんですねぇ」
「? ああ、俺は別に悪魔の実の能力者じゃねぇですもん」
白い泡を両手ですくい上げて息を吹きかける。飛んでいった泡の一部がブルックのアフロにくっついていた。
「悪魔の実を食べようと思ったこともありません。お風呂に入れねぇなんて絶対に嫌です」
「ヨホホ。そーいう理由で食べない人もいるんですね」
他に多彩な能力を持っているシルビだからこその理由にも思えたが黙る。能力者が悪魔の実を食べた理由など人それぞれだろう。
ブルックに声をかけて先に風呂から上がり、ファイアタンクの船員に頼んで用意して貰った桶で帽子を洗った。ゾウのコテージで洗った時と同じ手順を繰り返し、なんとはなしに乾いたばかりのそれを顔へ近付けてみる。
当然だがトラファルガーの匂いはしない。
「おい、アンタの連れが起きたみてェだぜ」
「――っ」
後ろからいきなり声を掛けられて持っていた帽子を叩きつける様に置く。それから振り返れば更衣室の出入り口で、ファイアタンクの船員の横に目元をこすりながらフランが立っていた。
「ママーン……」
「だからママンじゃねぇってぇ。ほらおいでぇ、風呂入りゃ少しはサッパリするからぁ」
帽子の匂いなんかを嗅いでいたことは気付かれなかったらしい。寝起きでよたよたと歩み寄ってくるフランを抱き留めれば、フランを連れてきてくれた船員が去っていく。お礼を言い逃したが後でもチャンスはあるだろう。
浴室へ向かうフランを見送って、先程叩き置いてしまった帽子を振り返った。形は崩れていない。
「……いや、匂いが残ってるなんて微塵も思ってなかったしぃ」
鏡を見ながらそれを被ったところで、浴室からブルックの悲鳴とフランの楽しげな声が聞こえた。
「ほうほう、つまりママン。利害の一致で麦藁の一味とファイアタンク海賊団がビッグマムの娘の結婚式を台無しにしようとしてるんですな?」
「簡単にまとめすぎだろぉ。概ね合ってるけどもぉ」
風呂から上がったフランに、ファイアタンクから提供された着替えを渡しながらここに至るまでの経緯を説明すると、フランはいつも通りのだらけた様子で状況をまとめた。
フランはシルビ達の“故郷”からヴィンスモークの動向を探るように命じられている。そのヴィンスモークがどんな状況に陥ろうと手出しすることはないだろうが、だからといって監視しているヴィンスモーク諸共窮地に陥ってもよろしくはない。最悪監視が出来なくなってしまってもだ。
ビッグマム達はヴィンスモークを裏切って殺すつもりである。まずは既に数時間を切った明日の結婚式でヴィンスモークの長であるジャッジやその子供達を。となれば大抵イチジ達の傍にいるフランも巻き込まれる可能性が高かった。
フランはシルビと違い、幻覚は有能でも戦闘能力自体においてはそれほどではない。姿が見えずとも攻撃が当たることはあるのだ。
それならばシルビが居ることもあり、ヴィンスモークの傍よりも麦藁の一味とファイアタンク側からの監視に切り替えた方が安全度は高くなる。こちらにはヴィンスモーク・サンジがいるので彼の動向という意味でも命令違反にはならない。
「かーほーごー」
「煩せぇ」
遅れて到着したルフィとサンジが身支度を整え、揃ってファイアタンクの船員に案内された応接室でシルビは相変わらず姿をシルビ以外に見えなくさせているフランと一緒に、四角くテーブルを囲うように繋がったソファの後ろへと立った。
そう狭い部屋ではないが並べられたソファにルフィ達が座り、更にその周りにファイアタンクの船員達が警戒する様に並ぶと狭苦しく感じられる。そうでなくともジンベエやペドロなどは体格が良いしブルックも骨だけとはいえ長身だ。
ファイアタンクの船員の一人がやけにシルビを見てくるなと思いながらその視線を無視していると、角の当たりでチョッパーの隣に座ったサンジが不思議で仕方がないといった様子でシルビを振り返る。
「お前、ルフィ達の連れだったのか」
「ああ、そういえばペンギンはジェルマに潜入しに行ったんだったな! サンジと会えてたのか?」
テーブルの上に出されていたお茶菓子を頬張りながらチョッパーが話に入ってきたが、それに驚いたのはサンジだ。
シルビはといえば、名乗るのを忘れていたなと思った程度である。
「ペ……ペンギンってアイツかッ!? ゾウでぶっ倒れてた!」
ゾウでドレスローザに居たメンバーと合流前に単独行動となってしまったサンジの認識では、なるほど確かにシルビこと『ペンギン』は重傷人のはずである。
ルフィやハートの皆、ミンク族達には説明し終わっていたので忘れかけていたが、サンジからすればペンギンという男は両腕と片脚を失っていた筈の人物のままだ。
「ゾウではどうもありがとうございました。ハートの海賊団副船長でペンギンと呼ばれております」
「腕と脚はトラ男が繋げたのか?」
「違うんだサンジ。ペンギンは」
チョッパーが説明をしようとしたところで応接室の扉が開いた。
「よし、全員揃ってるな? 少しは汚れは落ちたか?」
靴音を響かせて入ってきた男の顔は、手配書で見たことがある。高い鼻に帽子。不機嫌そうな目つきに濃い髭の跡。紫煙をゆるやかに立ち上らせる葉巻にフランがくしゃみをした。
ファイアタンク海賊団の船長である、カポネ・“ギャング”・ベッジだ。
ルフィの向かいの席へ話し合いという場に慣れた様子で腰を下ろした彼は、余裕のある態度でシルビを含めたルフィ一味を見回した。
「さて、あと三時間半だ。決めようか。まず手を組むかどうかから。ウチとしちゃあお前らはただの邪魔者。ここで全員消すってのが一番世話がねェが……」
「おれが死んだらビッグマム暗殺のチャンスはゼロあ。『式』自体がなくなるからな。おれは開演二時間前には戻らなきゃ怪しまれる」
サンジが正論らしく言い返す。シルビがここにいることへの疑問と手足の謎は、今は脇に寄せておくらしい。別にそのまま放置してくれても良いのだけれど。
ビッグマムに敵対する者達同士、いがみ合っている時間も惜しいとばかりにジンベエがこのまま手を組めるかとルフィへ尋ねた。だが当のルフィは全く違うことを気にしていたらしく、ファイアタンク側に座っていたスーツの男に向かって声を掛けた。
「お前シーザーだろォ!」
シーザー。確かパンクハザードに船長が会いに行った人物の一人でもある研究者だったか。
ルフィの言葉に動揺しきっているのを見てシルビもなるほどコレがシーザー・クラウンかと思う。シルビよりもちゃんと顔を知っていたらしいナミやサンジはどうもこの席に着く前から気付いていたようだが、チョッパーは気付いていなかったらしい。
「どうしてここにいるんだ!」
「居たくていると思うか! この戯け者め! てめぇらのせいでビッグマムに引き渡されちまって絶体絶命の所をまたコイツに『心臓』をつかまれて言いなりだ! トラファルガー・ローに伝えろ。今度会ったら必ず殺すと!」
「――誰を殺すってぇ?」
ホールケーキアイランドの北西に位置する場所にそのアジトは設けられていた。
ジェルマの船がそうであったように島へ接続している訳ではなくわざわざ建設されたらしい砦の様相をした城こそ、ビッグマムを倒す為に協力しあうことが“出来るかも知れない”相手であるファイアタンク海賊団のアジトであるらしい。その証拠なのか門の上にはシンプルながらも『FIRE TANK』と掘られていた。
雨上がりの湿った空気の中で案の定寝入ってしまったフランを揺すり上げながらそれを見上げていると、門が開いて一人の男が出てくる。おそらくシルビに気付いて出てきたのだろうその男は両腰に銃を提げた腕の長い男だ。
「ニョロロロ! 何者だアンタ」
「……ここってファイアタンク海賊団のアジトで合ってるかぁ?」
「合ってレロ」
どっちなのか分からない。仕方ないのでそのまま話を続ける。
「海侠のジンベエの知己のペンギンと言うんだが、彼とここで待ち合わせをしている」
「ああ、聞いてるぜ。アンタがペンギンレロか。その背中のは誰レロ?」
「俺の知り合い。中へ入ってもぉ?」
さり気なく男を警戒しつつ階段を昇った。男はカメレオンの様に長いのを丸められた舌を揺らしながらシルビをサングラス越しに観察していたが、シルビが階段を昇りきったところで何かが腑に落ちないように首を傾げる。
そうして歩み寄ってきたかと思うとシルビが被っていた帽子を取ろうとしてきた。反射的に後退してその手から逃げる。
「……いきなり何を」
「いやァ、見覚えのある帽子だと思って」
トラファルガー・ローの帽子なのだから当然新聞に掲載されている写真や手配書で見たことはあるだろう。被っている人間が違うだけだ。
借り物であることを言う必要はないだろうが、何か言った方がいいだろうかと考えていると男の後ろの扉が再び開いた。男と同時に見やれば様子を見に来たのかジンベエが顔を出したところで。
「待っておったぞペンギン。探し人は見つかったんか」
「もうおねむの時間だけどなぁ」
背負っていたフランが見えるように体を傾ければフランの頭が重そうに揺れる。寝ている時もカエルの被り物が消えていないのは流石だ。これが有幻覚なのか本物なのかは未だに不明だが。
「ルフィ達はまだ来とらんがおいおいやってくるじゃろう。おんしは先に入って身なりを綺麗にするといい」
「身なり?」
「頭目は汚ェのとはお会いにならねェんだ。その小汚ェ帽子も洗え」
「――はぁ?」
思わず男を睨んでしまったが、最後に洗ったのは船長と別れる前のゾウでのことなので確かに汚れてはいるだろう。
およそ海賊のアジトだとは思えない立派な浴室と石鹸。男なので泡風呂にまではしなくていいと言ったのに、せっかくだからと泡風呂にされてしまった。
とはいえ温かい湯船の中は極楽である。これでこのまま温かい布団に潜り込んで寝ることが出来たら更に天国だろう。現実はそうはいかないが。
同じ湯船の中では、先に来てやはり同じように身綺麗にすることを命じられたブルックが全身の力を抜いて浸かっていた。というかアレは悪魔の実の能力者故に動けなくなっているといったほうが正しいのか。
フランは結局揺さぶっても起きなかったので頼んで寝台を用意してもらった。一緒に話を聞いてもらおうと思って連れてきたのだが疲れて寝ているのなら起こしたくはない。
そういう甘やかしがママンなんぞと言われる所以だろうが。
「あー……それにしてもペンギンさん。あなたはダルくならないんですねぇ」
「? ああ、俺は別に悪魔の実の能力者じゃねぇですもん」
白い泡を両手ですくい上げて息を吹きかける。飛んでいった泡の一部がブルックのアフロにくっついていた。
「悪魔の実を食べようと思ったこともありません。お風呂に入れねぇなんて絶対に嫌です」
「ヨホホ。そーいう理由で食べない人もいるんですね」
他に多彩な能力を持っているシルビだからこその理由にも思えたが黙る。能力者が悪魔の実を食べた理由など人それぞれだろう。
ブルックに声をかけて先に風呂から上がり、ファイアタンクの船員に頼んで用意して貰った桶で帽子を洗った。ゾウのコテージで洗った時と同じ手順を繰り返し、なんとはなしに乾いたばかりのそれを顔へ近付けてみる。
当然だがトラファルガーの匂いはしない。
「おい、アンタの連れが起きたみてェだぜ」
「――っ」
後ろからいきなり声を掛けられて持っていた帽子を叩きつける様に置く。それから振り返れば更衣室の出入り口で、ファイアタンクの船員の横に目元をこすりながらフランが立っていた。
「ママーン……」
「だからママンじゃねぇってぇ。ほらおいでぇ、風呂入りゃ少しはサッパリするからぁ」
帽子の匂いなんかを嗅いでいたことは気付かれなかったらしい。寝起きでよたよたと歩み寄ってくるフランを抱き留めれば、フランを連れてきてくれた船員が去っていく。お礼を言い逃したが後でもチャンスはあるだろう。
浴室へ向かうフランを見送って、先程叩き置いてしまった帽子を振り返った。形は崩れていない。
「……いや、匂いが残ってるなんて微塵も思ってなかったしぃ」
鏡を見ながらそれを被ったところで、浴室からブルックの悲鳴とフランの楽しげな声が聞こえた。
「ほうほう、つまりママン。利害の一致で麦藁の一味とファイアタンク海賊団がビッグマムの娘の結婚式を台無しにしようとしてるんですな?」
「簡単にまとめすぎだろぉ。概ね合ってるけどもぉ」
風呂から上がったフランに、ファイアタンクから提供された着替えを渡しながらここに至るまでの経緯を説明すると、フランはいつも通りのだらけた様子で状況をまとめた。
フランはシルビ達の“故郷”からヴィンスモークの動向を探るように命じられている。そのヴィンスモークがどんな状況に陥ろうと手出しすることはないだろうが、だからといって監視しているヴィンスモーク諸共窮地に陥ってもよろしくはない。最悪監視が出来なくなってしまってもだ。
ビッグマム達はヴィンスモークを裏切って殺すつもりである。まずは既に数時間を切った明日の結婚式でヴィンスモークの長であるジャッジやその子供達を。となれば大抵イチジ達の傍にいるフランも巻き込まれる可能性が高かった。
フランはシルビと違い、幻覚は有能でも戦闘能力自体においてはそれほどではない。姿が見えずとも攻撃が当たることはあるのだ。
それならばシルビが居ることもあり、ヴィンスモークの傍よりも麦藁の一味とファイアタンク側からの監視に切り替えた方が安全度は高くなる。こちらにはヴィンスモーク・サンジがいるので彼の動向という意味でも命令違反にはならない。
「かーほーごー」
「煩せぇ」
遅れて到着したルフィとサンジが身支度を整え、揃ってファイアタンクの船員に案内された応接室でシルビは相変わらず姿をシルビ以外に見えなくさせているフランと一緒に、四角くテーブルを囲うように繋がったソファの後ろへと立った。
そう狭い部屋ではないが並べられたソファにルフィ達が座り、更にその周りにファイアタンクの船員達が警戒する様に並ぶと狭苦しく感じられる。そうでなくともジンベエやペドロなどは体格が良いしブルックも骨だけとはいえ長身だ。
ファイアタンクの船員の一人がやけにシルビを見てくるなと思いながらその視線を無視していると、角の当たりでチョッパーの隣に座ったサンジが不思議で仕方がないといった様子でシルビを振り返る。
「お前、ルフィ達の連れだったのか」
「ああ、そういえばペンギンはジェルマに潜入しに行ったんだったな! サンジと会えてたのか?」
テーブルの上に出されていたお茶菓子を頬張りながらチョッパーが話に入ってきたが、それに驚いたのはサンジだ。
シルビはといえば、名乗るのを忘れていたなと思った程度である。
「ペ……ペンギンってアイツかッ!? ゾウでぶっ倒れてた!」
ゾウでドレスローザに居たメンバーと合流前に単独行動となってしまったサンジの認識では、なるほど確かにシルビこと『ペンギン』は重傷人のはずである。
ルフィやハートの皆、ミンク族達には説明し終わっていたので忘れかけていたが、サンジからすればペンギンという男は両腕と片脚を失っていた筈の人物のままだ。
「ゾウではどうもありがとうございました。ハートの海賊団副船長でペンギンと呼ばれております」
「腕と脚はトラ男が繋げたのか?」
「違うんだサンジ。ペンギンは」
チョッパーが説明をしようとしたところで応接室の扉が開いた。
「よし、全員揃ってるな? 少しは汚れは落ちたか?」
靴音を響かせて入ってきた男の顔は、手配書で見たことがある。高い鼻に帽子。不機嫌そうな目つきに濃い髭の跡。紫煙をゆるやかに立ち上らせる葉巻にフランがくしゃみをした。
ファイアタンク海賊団の船長である、カポネ・“ギャング”・ベッジだ。
ルフィの向かいの席へ話し合いという場に慣れた様子で腰を下ろした彼は、余裕のある態度でシルビを含めたルフィ一味を見回した。
「さて、あと三時間半だ。決めようか。まず手を組むかどうかから。ウチとしちゃあお前らはただの邪魔者。ここで全員消すってのが一番世話がねェが……」
「おれが死んだらビッグマム暗殺のチャンスはゼロあ。『式』自体がなくなるからな。おれは開演二時間前には戻らなきゃ怪しまれる」
サンジが正論らしく言い返す。シルビがここにいることへの疑問と手足の謎は、今は脇に寄せておくらしい。別にそのまま放置してくれても良いのだけれど。
ビッグマムに敵対する者達同士、いがみ合っている時間も惜しいとばかりにジンベエがこのまま手を組めるかとルフィへ尋ねた。だが当のルフィは全く違うことを気にしていたらしく、ファイアタンク側に座っていたスーツの男に向かって声を掛けた。
「お前シーザーだろォ!」
シーザー。確かパンクハザードに船長が会いに行った人物の一人でもある研究者だったか。
ルフィの言葉に動揺しきっているのを見てシルビもなるほどコレがシーザー・クラウンかと思う。シルビよりもちゃんと顔を知っていたらしいナミやサンジはどうもこの席に着く前から気付いていたようだが、チョッパーは気付いていなかったらしい。
「どうしてここにいるんだ!」
「居たくていると思うか! この戯け者め! てめぇらのせいでビッグマムに引き渡されちまって絶体絶命の所をまたコイツに『心臓』をつかまれて言いなりだ! トラファルガー・ローに伝えろ。今度会ったら必ず殺すと!」
「――誰を殺すってぇ?」