トットランド編
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夢主視点
天気の変化は立ちこめる暗雲だけではなく、風まで強くなってきている。
被っていた帽子が吹き飛ばされては困るので脱いで服の下へ突っ込んだ。これは船長から預かってきた帽子である。汚したところで洗濯するのはシルビだろうが、だからこそ無為に汚したくもない。
脱いだ帽子の代わりに外套のフードを被る。途端に降り出した水飴の雨に空を見上げた。
近くの山が口を開けてその水飴を舐めている。ルフィがサンジの飯以外は水飴だって口に入れるものかとうつ伏せに寝返りを打っていた。
「――ビッグマムの能力は何なんです?」
「人の“魂”を自由にやりとり出来る『ソルソル』の実の能力よ。この動く樹とか周りの物たちも全部そうらしいわ」
ナミの説明を聞きながら指を鳴らす。有幻覚製の傘を広げて差した。
魂を自由にすることが出来る能力で、どうして天候を操ることが出来ているのかという繋がりがよく分からない。だが樹や草花だけではなく山という物質の集合体に関しても魂を分け与える事が出来ている様子から推測すると、雲などにももしかしたら魂を与えているのか。
普通の雨水よりも重い水飴が傘の皮膜を激しく叩いている。その音へ紛れて近付いてくる地響きにも似たそれにホールケーキ城のある方角を見やれば、地平を覆うように何かがこちらへ向かってきていた。
人の群だ。おそらくはビックマムの手下の軍団なのだろう。ナミが武器を手に持ちこそすれ巨木の口の中へと隠れに行ってしまった。
ルフィが未だに荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がり、近付いてくる軍団を睨む。
「隠れましょ! 二人とも!」
「イヤだ」
「ルフィ! お願い。隠れるだけで良いから!」
よくぞここまで大勢の配下がいるものだと思える大軍。けれどもルフィはここから動く気がないらしい。
いつサンジが戻ってくるのか分からないから。『ここで待っている』と約束をしたから。
約束は守らなければいけない。その気持ちは痛い程に分かる。
腰に提げていたウォレットチェーンの飾り部分へそっと触れた。少し水飴の雨に濡れてしまっているのが残念でならないが、まだ手入れはしてやれそうにない。
差していた傘の皮膜を閉じて持ち手を軸に一回転させる。長い槍へと変貌したそれの柄先を地面に突いてコチラへ気付いたらしい大軍を眺めた。
「ペンギン君まで!」
「ここでルフィ君を置いて逃げは出来ねぇでしょう。――少しもらっていきますね。後でまた合流しましょう」
言い置いてルフィ達から離れるように走り出す。大軍の一部がシルビの動きに反応して群から離れるのに、横目でその一部が少ないことを確認して舌打ちをこぼした。
今のシルビの名前である『ペンギン』は、ハートの海賊団の一員だという世間的評価以外をおそらく持っていない。賞金だって『ペンギン』には懸かっていないのだ。それに関しては船員全員に賞金が懸かっている麦藁の一味が少し珍しいくらいであるが。
『ペンギン』の首へ賞金が懸かるかも知れない場面は何度かあったが、それらをシルビは『死告シャイタン』というかつての名前の為に潰してきた。だからシルビが覚えている限り、世間的に『ハートの海賊団のペンギン』なんてものはモブにも等しい。
多分今回のサンジ奪還に至るトットランド潜入メンバーの中でも、シルビこと『ペンギン』はキャロット同様“名無し”も同然なのだろう。キャロットなら見た目でミンク族だと分かるだろうからその戦闘力を警戒される可能性を考えると、下手するとシルビは一番情報が入らなくて不可解要素だ。
ではその“不可解要素”をビッグマムの配下はどう判断するのか。
答えは両極端に『要警戒』とするか『警戒するだけ無駄』とするかだろう。そして現状、ルフィから離れたシルビを追ってきた軍団は元の半数も満たない。
ルフィを捕まえるなり倒すなりが主な目的としても、ルフィの元へナミも残っているにしてもこれはあまりにも少なかった。
つまりシルビはさほど警戒されていないのだ。
今までヴィンスモークの動向を探る為にビッグマム側からは離れていたとはいえ、正直舐められたモノである。
大分走ってルフィ達から十分離れただろう場所で足を止めて振り返った。案の定軍団のごく一部しかシルビを追ってこなかったようだ。更に言うなら懸賞金が懸かっていそうな大物の姿すら無い。
いるのはチェスの姿を模した兵士達と、それより多少は格が上だと思われる屈強そうな者達が数名だけ。おそらくは指揮官とかそういう感じか。
「流石に舐めすぎじゃねぇ?」
「逃げるのは諦めたか? “オンナ”ぁ!」
「――あ?」
軍団から聞こえた声に思わず間抜けた声が出た。
「今までどこに隠れていたのか知らないが“麦わら”と合流して姿を現したのが運の尽きだったな“オンナ”! お前も“麦ワラ”共々生け捕りにしてやる! そのカワイイ顔に傷を付けたくなければ大人しく――」
「――なるほど。なるほどぉ」
まだ何が喋っているようだったが、それはシルビの耳へ入りはしても認識は敢えてしない。認識したところで不快になるだけだと分かっている。
つまりコイツらは、シルビのことを今までずっと『女』だと思い込んでいたらしい。確かにトットランドへ来てからは普段の防寒帽を被らす素顔は晒しがちだった。髪も結わえずに下ろしたままでプリンにも女性と間違えられたのを覚えている。
だが、シルビは男だ。
何度も女、女と連呼され、堪忍袋とは言わないが何かが切れる音が自身の中でした気がする。ポケットに持っていた“匣”を取り出して左手で指を鳴らした。
燃え上がる黒い炎。
「分け与えられた“だけ”の魂如きが、――この俺に楯突くんじゃねぇ」
数刻後。
チェスを模した兵士の最後の一体を貪った、シルビの相棒兼愛玩動物が子猫ほどの大きさに戻ってシルビの元へと戻ってくる。口の周りを赤い舌で綺麗に舐めとってシルビを見上げるその異形の姿を、シルビは笑みを浮かべて抱き上げた。
「美味かったかぁ?」
「ガァ」
「はいガァ」
その相棒を腕の中で揺すり上げて周囲を見回す。
倒れているチェスを模した兵士達や屈強そうな者達の残骸。巻き込まれてしまったらしくそれらが倒れている周辺の草花も、シルビが来た時は顔があって歌ったり喋ったりしていたのに今は枯れてしまっていた。草花には悪いことをしたと思うが、下手に残っていてシルビの事をビッグマムへ報告されても困るのでこれで正解なのかもしれない。
甘い香りも今は空から降る水飴のそれくらいしかしなかった。この一体だけお菓子も生きる草花も全てが朽ち果ててしまっている。
相棒『エレボス』に適う存在などそうそう居やしないだろう。シルビですら倒すのは難しく“受け入れている”からこそこうして扱えるだけなのだ。
世界を滅ぼせる力を軽々しく有している存在。それが『エレボス』である。
本来ならこんな簡単に出して扱ってはいけない。だからシルビだって滅多には出さない様に気を付けている。コイツのせいで大事な鬼子が世界ごと消滅しかけたのは、まだシルビにとってはそう遠い過去ではない。
そんな危険な存在を出したのは、女と思われていた事へ腹が立ったという理由の他に、徹底的に潰さなければどこからビッグマムへ情報が漏れるのか分からなくなったというちゃんとした言い訳があった。この周辺に限らずトットランドの動く物は、ビッグマムの能力で魂を分け与えられて生きているらしい。
だとすれば全てはビッグマムの支配下。なまじ兵士だけを片付けようともその戦法が周辺の非戦闘生物達からも伝わってしまう。そうして対策を練られてしまえばなるほど戦況はビッグマムへの利が増えるだけだ。
なるほどトットランドは正しく恐ろしい意味で『敵地』である。
「でもまぁ、攻略出来ねぇ訳じゃねぇなぁ」
「ガァ?」
「ルフィ君達の様子を見に――行く前にここから逃げよう」
エレボスを抱き直して指を鳴らした。ルフィ達が居た筈の方角からチェス兵を連れた何者かがやってきたのだ。
ルフィ達がどうなったのかは不明だが、一応逃げたシルビの様子を見に来たらしい。『生け捕り』と言っていたから捕まえられたと思って迎えにきたという可能性もある。
しかし幻覚によってシルビの姿が見えない筈の彼らは、朽ち果てた周辺の大地を見やって言葉を無くしていた。
「な、な、なんだコリャぁああああ!?」
「チェス戎兵たちも全部やられてる! しかも地面まで枯れてるだぁああ!? なんだってんだチクショウ!」
地面が枯れ果てた事に関しては少し申し訳ない。
ルフィとナミはどうやら捕まってしまったらしい。シルビを確保しに来たつもりが枯れ果てた大地を見る羽目になった兵士達に紛れて本陣へ合流し、捕まってしまった二人を捜すも見える場所には姿が無かった。
これは誰かの能力で見えなくされているとか何処かへ収納されてしまっているのかと考える。そうだとしたらその場所が分からなければ流石に助け出すのは難しいだろう。
「あの“オンナ”はどうやら逃げたらしい」
女ではないし逃げてもいない。
「戦った辺りの場所が綺麗に枯れてやがった。何かの能力者なのかも知れねェ。捜索班には能力に警戒するように伝えろ!」
残っていたチェス戎兵が敬礼をして走っていく。ルフィが奮戦したのか大軍の殆どのチェス戎兵が地面へ転がっていた。
それを片付けるつもりは彼らには無いらしい。使い捨ても甚だしい扱いだと思いこそすれ、魂を分け与える事が出来る者が頂点にいるのならそういう思考になっても仕方がないのかも知れなかった。何度倒れようとまた魂を分け与えて動かせばいいのだ。
ビッグマムの能力の制限が分からないので詳しいことは言えないが、どんなに働いたとしても使い捨てのような感覚だなとは思った。ヴィンスモークのクローン兵もそういう感じだが。
幻覚で姿を消し、城へ戻る大軍の中にいた大柄な男の肩へと勝手に座らせてもらい、自分の足で歩くことなく城へと向かう。ヴィンスモークの猫車は当然だが既に城へと到着しており、兵士達の話を聞く限りビッグマムとの会食の席に居るようだった。
「“麦藁”どもは囚人図書室に連れて行く。誰かママに報告をしろ」
城内へ入って足代わりにしていた男の肩から降りたところで、帰ってきた大軍の中にいた者の一人がそう指示を出しているのが聞こえる。失敗したピエロの様な見た目の男だ。
アレがルフィとナミを捕まえているのかと思いながら観察していれば、男は兄姉らしい者達と共に何処かへ向かっていく。『囚人図書室』というからには牢屋か拘置所だろうが、図書室というのがよく分からない。
すぐに助けに行くことは可能だ。あの男へついて行ってルフィ達の姿が確認出来たところで奪還すればいい。しかし問題は奪還して自由を得たルフィがどう行動するかだ。
ここが城内だと知ってそのまま何処かへ居るであろうサンジの元へ走るか、それとも。
「ルフィ君のとの付き合い短けぇから分かんねぇなぁ」
仕方なく、他の情報を収集してからルフィ達を助けに行くことにする。せめてサンジ達やビッグマムの居場所、城内の見取りを把握しておいた方が動きやすいのは当然の話だろう。
ついでに言うならヴィンスモークと一緒に居るであろうフランを確認しておきたい。
フランを確認する。正確にはフランと連絡が取りやすいようにしておきたいというのがシルビの考えだ。
幻術使いのフランは使い勝手が良い。今でもシルビが幻覚で周囲の兵士達に自身の姿が認識出来ないようにしていることから分かるように、幻術は潜入向きのスキルでもあるのである。
姿を認識出来無くさせれば堂々と盗み聞きをしていてもバレない。勝手に立ち入っても気付かれず、場合によっては情報操作だってお手の物だ。そういう理由もあって故郷でも幻術使いは重宝されている。
城の中は城と言うだけあって広い。城門を抜けて入ってきたのだろうとは予測が出来ているが、だからといって客間や謁見の間がどこへあるのかが分からなかった。海賊の治めている城で謁見の間があるのかどうかも不明だが。
「どっかにブルック楽士とペドロもいる筈なんだけどなぁ。騒ぎがあった様子は無ぇし、写しの入手に成功したか策を考えてるところか……」
確認しておきたいことが多すぎる。とにかくフランに会えずともヴィンスモークのいる場所は調べておかねばと考えたところで遠くから爆発音が響いた。
距離があるからか建造の関係でかそう大きなものでは無かったが、シルビと同じくそれに気付いたらしい周囲の兵士達が何事かと慌て始める。慌てるということは日常茶飯事のモノではないということで、更に言うならタイミング的に、ポーネグリフの写しを取りに潜入している筈のブルック達が動き出したか見つかってしまったか。前者なら下手に動くと邪魔になる。
「侵入者だ!」
「宝物の間だァ!」
行く先々で情報が少しずつシルビの耳へも入ってきた。宝物の間付近で侵入者が暴れており、その宝物の間とやらは四階にある。
シルビが今いる場所は二階だ。宝物庫が四階にあるというのも少し変わった話だが、おそらくはビッグマムの住居スペースに近い場所という可能性があった。大切なモノなどは傍に置いておきたいというのは典型的な考え方である。
とすれば四階はビッグマムがいる可能性が高く、城内にビッグマムの子供達の部屋もあるとしたら、それはビッグマムの部屋と同じ階か下の階だ。曲がりなりにも『城』なのだからそういう法則に乗っ取って考えていいだろう。多分。
客はそれより出入り口に近い場所へ作られた客室へいるのではないだろうか。そして周囲の雰囲気からして二階にはいない。
「……三階に行ってみるかぁ」
階段を探そうと走り出す。そうして走り出した先で侵入者騒動ほどではないが何か兵士達が騒いでいるのが聞こえた。
チェス戎兵達の制止をどんどん振り切って進んでいるのは、二年前のアマゾネス・リリーや魚人島で会った覚えのある『海侠のジンベエ』だった。
なんだって彼がここにと不思議に思うものの、彼はルフィの知人であることを思い出して彼を観察する。ジンベエはどこへ向かおうとしているのか、兵士が口々に城内を歩き回らないで欲しいと言っているのをなあなあで流していた。ジンベエはあまりにも平然としているが、兵士の様子を見るにそもそも城への出入り自体が禁止されているようでもある。
一応彼には『死告シャイタン』ではなく『ペンギン』としても会ったことがあった。少しだけとはいえ会話もしているから覚えている可能性もある。
少し考えてから隠れていた物陰から飛び出し、ジンベエの進行を止めようとしていた兵士達を素早く気絶させた。兵士の一人へ短い悲鳴をわざと上げさせ、それにジンベエが足を止めるのに幻覚を解いてその前へと立つ。
「お久しぶりですジンベエさ――」
「何者じゃあキサマ!?」
「――あれぇ?」
警戒された。
忘れられているのか実は記憶すらされていなかったのか、シルビを睨んで身構えるジンベエに考えが狂う。シルビの予想ではすぐに『ペンギン』だと分かってくれるかと思っていたのだ。
だがすぐに、そんな訳がないと思い出した。
「ペンギンですジンベエさん! ごめんなさい今防寒帽被ってませんでしたぁ!」
「ペンギン?」
「二年前にお会いしたでしょう!? ハートの海賊団のペンギンですぅ!」
シルビがそこまで言って、少し記憶を探るように視線をさまよわせてやっと思い出したらしい。
「おおペンギンか。久しいのう。帽子で覚えておったわ。――イヤまて。おぬしが何故こんなところにおるんじゃ?」
「ルフィ君達と一緒に来たんです。麦藁の一味とハートの海賊団が海賊同盟を組んでることはご存じでしょう?」
「……まだ破棄はしておらなんだか」
気持ちは分かる。海賊同盟とは結成しても割とすぐに反故となるのがよくある話だ。
しかし同盟相手がルフィだとそうはならないというべきか。結局今は海賊同盟どころか“忍者海賊ミンク侍同盟”なんて珍妙な同盟になってしまっている。ふと気付いたが、これで魚人のジンベエまでその同盟に賛同するなんてことがあったらどこに“魚人”を挟むのだろう。
「して、何故おぬしがここに?」
「ルフィ君達が捕まってしまったので助けに行く前に情報収集をと。えっと、ルフィ君が何処へいるかは知ってますか?」
「探しとるところなんじゃが」
「囚人図書館に。ですがそれの場所はまだ」
「それならわしが知っておる」
城内の見取りやフランを探すという考えはジンベエを見つけたことで予定変更も変更となってしまった。だが一応は協力者が増えたという考えでいいのだろうと良い方向へ考えておく。
ジンベエが場所を知っているという囚人図書室へ一緒に向かいながら、シルビ達がどうしてここにいるかなどの説明をした。とはいえジンベエは四皇ビッグマムの娘とヴィンスモークの息子の結婚のことや、その花婿がサンジであること。そのサンジを奪還しにルフィ達が来ていることも知っていた。
地下にあるという囚人図書室は、ビッグマムの息子の一人の能力によって囚人を“本の中へ閉じこめている”のだという。
「四階の宝物の間辺りが騒がしいのはブルック楽士達のせいだと思うんです」
「じゃろうな。しかし四階はビッグマムのいる女王の間が近い。今は近づかんほうがいいじゃろう」
やはりビッグマムは四階付近にいることが多いのか。
曲がり角を曲がったところで廊下を走る兵士の姿が見えた。それに気付いてやり過ごすか気絶させるかと考えたらしいジンベエの前に立って、兵士達へ向けて伸ばした指を鳴らす。
一瞬燃え上がった藍色の炎に、ジンベエが首を傾げるのに振り返って笑みを返した。そうしている間に兵士達がシルビ達の脇を抜けて走り去っていく。シルビ達の存在など視界に入れてすらいない様に。
「……能力者じゃったんか」
「いいえ。……貴方はコレと同じモノを見たことがある筈です」
ペンギンの姿では初めてであるが、『死告シャイタン』の姿で死ぬ気の炎を使ったことがある。それをジンベエは目の当たりにもしていた筈だ。
炎の色は違うがそれなりに大々的に使っていたので察することは出来ると予想する。実際、同じモノと聞いて考え込むジンベエはすぐに思い出したようだった。
「シャイ――シャイタンッ!?」
瞠目してシルビを見やる視線は、『何』に気付いてしまったのかを雄弁に語っている。驚きすぎて眼が飛び出してしまいそうだった。
シルビは言葉を無くしているジンベエを見上げて笑う。
「ふふ、ルフィ君達にはバレてねぇんだぁ。ハートの海賊団のペンギンっていうのも本当の事だしなぁ」
「あ、お……おぬし、何をこんな、こんなところで何を」
喘ぐように訪ねてくるジンベエに笑みを深めた。『ペンギン』ではなく『死告シャイタン』の口調と雰囲気を作って答えるのはしっかりと“同一”だと知らしめる為だ。
正体をバラしてしまうのは、ジンベエならブルック同様大丈夫だと判断しての理由である。
「ルフィ君達と一緒に、同盟相手の仲間の奪還だよ」
天気の変化は立ちこめる暗雲だけではなく、風まで強くなってきている。
被っていた帽子が吹き飛ばされては困るので脱いで服の下へ突っ込んだ。これは船長から預かってきた帽子である。汚したところで洗濯するのはシルビだろうが、だからこそ無為に汚したくもない。
脱いだ帽子の代わりに外套のフードを被る。途端に降り出した水飴の雨に空を見上げた。
近くの山が口を開けてその水飴を舐めている。ルフィがサンジの飯以外は水飴だって口に入れるものかとうつ伏せに寝返りを打っていた。
「――ビッグマムの能力は何なんです?」
「人の“魂”を自由にやりとり出来る『ソルソル』の実の能力よ。この動く樹とか周りの物たちも全部そうらしいわ」
ナミの説明を聞きながら指を鳴らす。有幻覚製の傘を広げて差した。
魂を自由にすることが出来る能力で、どうして天候を操ることが出来ているのかという繋がりがよく分からない。だが樹や草花だけではなく山という物質の集合体に関しても魂を分け与える事が出来ている様子から推測すると、雲などにももしかしたら魂を与えているのか。
普通の雨水よりも重い水飴が傘の皮膜を激しく叩いている。その音へ紛れて近付いてくる地響きにも似たそれにホールケーキ城のある方角を見やれば、地平を覆うように何かがこちらへ向かってきていた。
人の群だ。おそらくはビックマムの手下の軍団なのだろう。ナミが武器を手に持ちこそすれ巨木の口の中へと隠れに行ってしまった。
ルフィが未だに荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がり、近付いてくる軍団を睨む。
「隠れましょ! 二人とも!」
「イヤだ」
「ルフィ! お願い。隠れるだけで良いから!」
よくぞここまで大勢の配下がいるものだと思える大軍。けれどもルフィはここから動く気がないらしい。
いつサンジが戻ってくるのか分からないから。『ここで待っている』と約束をしたから。
約束は守らなければいけない。その気持ちは痛い程に分かる。
腰に提げていたウォレットチェーンの飾り部分へそっと触れた。少し水飴の雨に濡れてしまっているのが残念でならないが、まだ手入れはしてやれそうにない。
差していた傘の皮膜を閉じて持ち手を軸に一回転させる。長い槍へと変貌したそれの柄先を地面に突いてコチラへ気付いたらしい大軍を眺めた。
「ペンギン君まで!」
「ここでルフィ君を置いて逃げは出来ねぇでしょう。――少しもらっていきますね。後でまた合流しましょう」
言い置いてルフィ達から離れるように走り出す。大軍の一部がシルビの動きに反応して群から離れるのに、横目でその一部が少ないことを確認して舌打ちをこぼした。
今のシルビの名前である『ペンギン』は、ハートの海賊団の一員だという世間的評価以外をおそらく持っていない。賞金だって『ペンギン』には懸かっていないのだ。それに関しては船員全員に賞金が懸かっている麦藁の一味が少し珍しいくらいであるが。
『ペンギン』の首へ賞金が懸かるかも知れない場面は何度かあったが、それらをシルビは『死告シャイタン』というかつての名前の為に潰してきた。だからシルビが覚えている限り、世間的に『ハートの海賊団のペンギン』なんてものはモブにも等しい。
多分今回のサンジ奪還に至るトットランド潜入メンバーの中でも、シルビこと『ペンギン』はキャロット同様“名無し”も同然なのだろう。キャロットなら見た目でミンク族だと分かるだろうからその戦闘力を警戒される可能性を考えると、下手するとシルビは一番情報が入らなくて不可解要素だ。
ではその“不可解要素”をビッグマムの配下はどう判断するのか。
答えは両極端に『要警戒』とするか『警戒するだけ無駄』とするかだろう。そして現状、ルフィから離れたシルビを追ってきた軍団は元の半数も満たない。
ルフィを捕まえるなり倒すなりが主な目的としても、ルフィの元へナミも残っているにしてもこれはあまりにも少なかった。
つまりシルビはさほど警戒されていないのだ。
今までヴィンスモークの動向を探る為にビッグマム側からは離れていたとはいえ、正直舐められたモノである。
大分走ってルフィ達から十分離れただろう場所で足を止めて振り返った。案の定軍団のごく一部しかシルビを追ってこなかったようだ。更に言うなら懸賞金が懸かっていそうな大物の姿すら無い。
いるのはチェスの姿を模した兵士達と、それより多少は格が上だと思われる屈強そうな者達が数名だけ。おそらくは指揮官とかそういう感じか。
「流石に舐めすぎじゃねぇ?」
「逃げるのは諦めたか? “オンナ”ぁ!」
「――あ?」
軍団から聞こえた声に思わず間抜けた声が出た。
「今までどこに隠れていたのか知らないが“麦わら”と合流して姿を現したのが運の尽きだったな“オンナ”! お前も“麦ワラ”共々生け捕りにしてやる! そのカワイイ顔に傷を付けたくなければ大人しく――」
「――なるほど。なるほどぉ」
まだ何が喋っているようだったが、それはシルビの耳へ入りはしても認識は敢えてしない。認識したところで不快になるだけだと分かっている。
つまりコイツらは、シルビのことを今までずっと『女』だと思い込んでいたらしい。確かにトットランドへ来てからは普段の防寒帽を被らす素顔は晒しがちだった。髪も結わえずに下ろしたままでプリンにも女性と間違えられたのを覚えている。
だが、シルビは男だ。
何度も女、女と連呼され、堪忍袋とは言わないが何かが切れる音が自身の中でした気がする。ポケットに持っていた“匣”を取り出して左手で指を鳴らした。
燃え上がる黒い炎。
「分け与えられた“だけ”の魂如きが、――この俺に楯突くんじゃねぇ」
数刻後。
チェスを模した兵士の最後の一体を貪った、シルビの相棒兼愛玩動物が子猫ほどの大きさに戻ってシルビの元へと戻ってくる。口の周りを赤い舌で綺麗に舐めとってシルビを見上げるその異形の姿を、シルビは笑みを浮かべて抱き上げた。
「美味かったかぁ?」
「ガァ」
「はいガァ」
その相棒を腕の中で揺すり上げて周囲を見回す。
倒れているチェスを模した兵士達や屈強そうな者達の残骸。巻き込まれてしまったらしくそれらが倒れている周辺の草花も、シルビが来た時は顔があって歌ったり喋ったりしていたのに今は枯れてしまっていた。草花には悪いことをしたと思うが、下手に残っていてシルビの事をビッグマムへ報告されても困るのでこれで正解なのかもしれない。
甘い香りも今は空から降る水飴のそれくらいしかしなかった。この一体だけお菓子も生きる草花も全てが朽ち果ててしまっている。
相棒『エレボス』に適う存在などそうそう居やしないだろう。シルビですら倒すのは難しく“受け入れている”からこそこうして扱えるだけなのだ。
世界を滅ぼせる力を軽々しく有している存在。それが『エレボス』である。
本来ならこんな簡単に出して扱ってはいけない。だからシルビだって滅多には出さない様に気を付けている。コイツのせいで大事な鬼子が世界ごと消滅しかけたのは、まだシルビにとってはそう遠い過去ではない。
そんな危険な存在を出したのは、女と思われていた事へ腹が立ったという理由の他に、徹底的に潰さなければどこからビッグマムへ情報が漏れるのか分からなくなったというちゃんとした言い訳があった。この周辺に限らずトットランドの動く物は、ビッグマムの能力で魂を分け与えられて生きているらしい。
だとすれば全てはビッグマムの支配下。なまじ兵士だけを片付けようともその戦法が周辺の非戦闘生物達からも伝わってしまう。そうして対策を練られてしまえばなるほど戦況はビッグマムへの利が増えるだけだ。
なるほどトットランドは正しく恐ろしい意味で『敵地』である。
「でもまぁ、攻略出来ねぇ訳じゃねぇなぁ」
「ガァ?」
「ルフィ君達の様子を見に――行く前にここから逃げよう」
エレボスを抱き直して指を鳴らした。ルフィ達が居た筈の方角からチェス兵を連れた何者かがやってきたのだ。
ルフィ達がどうなったのかは不明だが、一応逃げたシルビの様子を見に来たらしい。『生け捕り』と言っていたから捕まえられたと思って迎えにきたという可能性もある。
しかし幻覚によってシルビの姿が見えない筈の彼らは、朽ち果てた周辺の大地を見やって言葉を無くしていた。
「な、な、なんだコリャぁああああ!?」
「チェス戎兵たちも全部やられてる! しかも地面まで枯れてるだぁああ!? なんだってんだチクショウ!」
地面が枯れ果てた事に関しては少し申し訳ない。
ルフィとナミはどうやら捕まってしまったらしい。シルビを確保しに来たつもりが枯れ果てた大地を見る羽目になった兵士達に紛れて本陣へ合流し、捕まってしまった二人を捜すも見える場所には姿が無かった。
これは誰かの能力で見えなくされているとか何処かへ収納されてしまっているのかと考える。そうだとしたらその場所が分からなければ流石に助け出すのは難しいだろう。
「あの“オンナ”はどうやら逃げたらしい」
女ではないし逃げてもいない。
「戦った辺りの場所が綺麗に枯れてやがった。何かの能力者なのかも知れねェ。捜索班には能力に警戒するように伝えろ!」
残っていたチェス戎兵が敬礼をして走っていく。ルフィが奮戦したのか大軍の殆どのチェス戎兵が地面へ転がっていた。
それを片付けるつもりは彼らには無いらしい。使い捨ても甚だしい扱いだと思いこそすれ、魂を分け与える事が出来る者が頂点にいるのならそういう思考になっても仕方がないのかも知れなかった。何度倒れようとまた魂を分け与えて動かせばいいのだ。
ビッグマムの能力の制限が分からないので詳しいことは言えないが、どんなに働いたとしても使い捨てのような感覚だなとは思った。ヴィンスモークのクローン兵もそういう感じだが。
幻覚で姿を消し、城へ戻る大軍の中にいた大柄な男の肩へと勝手に座らせてもらい、自分の足で歩くことなく城へと向かう。ヴィンスモークの猫車は当然だが既に城へと到着しており、兵士達の話を聞く限りビッグマムとの会食の席に居るようだった。
「“麦藁”どもは囚人図書室に連れて行く。誰かママに報告をしろ」
城内へ入って足代わりにしていた男の肩から降りたところで、帰ってきた大軍の中にいた者の一人がそう指示を出しているのが聞こえる。失敗したピエロの様な見た目の男だ。
アレがルフィとナミを捕まえているのかと思いながら観察していれば、男は兄姉らしい者達と共に何処かへ向かっていく。『囚人図書室』というからには牢屋か拘置所だろうが、図書室というのがよく分からない。
すぐに助けに行くことは可能だ。あの男へついて行ってルフィ達の姿が確認出来たところで奪還すればいい。しかし問題は奪還して自由を得たルフィがどう行動するかだ。
ここが城内だと知ってそのまま何処かへ居るであろうサンジの元へ走るか、それとも。
「ルフィ君のとの付き合い短けぇから分かんねぇなぁ」
仕方なく、他の情報を収集してからルフィ達を助けに行くことにする。せめてサンジ達やビッグマムの居場所、城内の見取りを把握しておいた方が動きやすいのは当然の話だろう。
ついでに言うならヴィンスモークと一緒に居るであろうフランを確認しておきたい。
フランを確認する。正確にはフランと連絡が取りやすいようにしておきたいというのがシルビの考えだ。
幻術使いのフランは使い勝手が良い。今でもシルビが幻覚で周囲の兵士達に自身の姿が認識出来ないようにしていることから分かるように、幻術は潜入向きのスキルでもあるのである。
姿を認識出来無くさせれば堂々と盗み聞きをしていてもバレない。勝手に立ち入っても気付かれず、場合によっては情報操作だってお手の物だ。そういう理由もあって故郷でも幻術使いは重宝されている。
城の中は城と言うだけあって広い。城門を抜けて入ってきたのだろうとは予測が出来ているが、だからといって客間や謁見の間がどこへあるのかが分からなかった。海賊の治めている城で謁見の間があるのかどうかも不明だが。
「どっかにブルック楽士とペドロもいる筈なんだけどなぁ。騒ぎがあった様子は無ぇし、写しの入手に成功したか策を考えてるところか……」
確認しておきたいことが多すぎる。とにかくフランに会えずともヴィンスモークのいる場所は調べておかねばと考えたところで遠くから爆発音が響いた。
距離があるからか建造の関係でかそう大きなものでは無かったが、シルビと同じくそれに気付いたらしい周囲の兵士達が何事かと慌て始める。慌てるということは日常茶飯事のモノではないということで、更に言うならタイミング的に、ポーネグリフの写しを取りに潜入している筈のブルック達が動き出したか見つかってしまったか。前者なら下手に動くと邪魔になる。
「侵入者だ!」
「宝物の間だァ!」
行く先々で情報が少しずつシルビの耳へも入ってきた。宝物の間付近で侵入者が暴れており、その宝物の間とやらは四階にある。
シルビが今いる場所は二階だ。宝物庫が四階にあるというのも少し変わった話だが、おそらくはビッグマムの住居スペースに近い場所という可能性があった。大切なモノなどは傍に置いておきたいというのは典型的な考え方である。
とすれば四階はビッグマムがいる可能性が高く、城内にビッグマムの子供達の部屋もあるとしたら、それはビッグマムの部屋と同じ階か下の階だ。曲がりなりにも『城』なのだからそういう法則に乗っ取って考えていいだろう。多分。
客はそれより出入り口に近い場所へ作られた客室へいるのではないだろうか。そして周囲の雰囲気からして二階にはいない。
「……三階に行ってみるかぁ」
階段を探そうと走り出す。そうして走り出した先で侵入者騒動ほどではないが何か兵士達が騒いでいるのが聞こえた。
チェス戎兵達の制止をどんどん振り切って進んでいるのは、二年前のアマゾネス・リリーや魚人島で会った覚えのある『海侠のジンベエ』だった。
なんだって彼がここにと不思議に思うものの、彼はルフィの知人であることを思い出して彼を観察する。ジンベエはどこへ向かおうとしているのか、兵士が口々に城内を歩き回らないで欲しいと言っているのをなあなあで流していた。ジンベエはあまりにも平然としているが、兵士の様子を見るにそもそも城への出入り自体が禁止されているようでもある。
一応彼には『死告シャイタン』ではなく『ペンギン』としても会ったことがあった。少しだけとはいえ会話もしているから覚えている可能性もある。
少し考えてから隠れていた物陰から飛び出し、ジンベエの進行を止めようとしていた兵士達を素早く気絶させた。兵士の一人へ短い悲鳴をわざと上げさせ、それにジンベエが足を止めるのに幻覚を解いてその前へと立つ。
「お久しぶりですジンベエさ――」
「何者じゃあキサマ!?」
「――あれぇ?」
警戒された。
忘れられているのか実は記憶すらされていなかったのか、シルビを睨んで身構えるジンベエに考えが狂う。シルビの予想ではすぐに『ペンギン』だと分かってくれるかと思っていたのだ。
だがすぐに、そんな訳がないと思い出した。
「ペンギンですジンベエさん! ごめんなさい今防寒帽被ってませんでしたぁ!」
「ペンギン?」
「二年前にお会いしたでしょう!? ハートの海賊団のペンギンですぅ!」
シルビがそこまで言って、少し記憶を探るように視線をさまよわせてやっと思い出したらしい。
「おおペンギンか。久しいのう。帽子で覚えておったわ。――イヤまて。おぬしが何故こんなところにおるんじゃ?」
「ルフィ君達と一緒に来たんです。麦藁の一味とハートの海賊団が海賊同盟を組んでることはご存じでしょう?」
「……まだ破棄はしておらなんだか」
気持ちは分かる。海賊同盟とは結成しても割とすぐに反故となるのがよくある話だ。
しかし同盟相手がルフィだとそうはならないというべきか。結局今は海賊同盟どころか“忍者海賊ミンク侍同盟”なんて珍妙な同盟になってしまっている。ふと気付いたが、これで魚人のジンベエまでその同盟に賛同するなんてことがあったらどこに“魚人”を挟むのだろう。
「して、何故おぬしがここに?」
「ルフィ君達が捕まってしまったので助けに行く前に情報収集をと。えっと、ルフィ君が何処へいるかは知ってますか?」
「探しとるところなんじゃが」
「囚人図書館に。ですがそれの場所はまだ」
「それならわしが知っておる」
城内の見取りやフランを探すという考えはジンベエを見つけたことで予定変更も変更となってしまった。だが一応は協力者が増えたという考えでいいのだろうと良い方向へ考えておく。
ジンベエが場所を知っているという囚人図書室へ一緒に向かいながら、シルビ達がどうしてここにいるかなどの説明をした。とはいえジンベエは四皇ビッグマムの娘とヴィンスモークの息子の結婚のことや、その花婿がサンジであること。そのサンジを奪還しにルフィ達が来ていることも知っていた。
地下にあるという囚人図書室は、ビッグマムの息子の一人の能力によって囚人を“本の中へ閉じこめている”のだという。
「四階の宝物の間辺りが騒がしいのはブルック楽士達のせいだと思うんです」
「じゃろうな。しかし四階はビッグマムのいる女王の間が近い。今は近づかんほうがいいじゃろう」
やはりビッグマムは四階付近にいることが多いのか。
曲がり角を曲がったところで廊下を走る兵士の姿が見えた。それに気付いてやり過ごすか気絶させるかと考えたらしいジンベエの前に立って、兵士達へ向けて伸ばした指を鳴らす。
一瞬燃え上がった藍色の炎に、ジンベエが首を傾げるのに振り返って笑みを返した。そうしている間に兵士達がシルビ達の脇を抜けて走り去っていく。シルビ達の存在など視界に入れてすらいない様に。
「……能力者じゃったんか」
「いいえ。……貴方はコレと同じモノを見たことがある筈です」
ペンギンの姿では初めてであるが、『死告シャイタン』の姿で死ぬ気の炎を使ったことがある。それをジンベエは目の当たりにもしていた筈だ。
炎の色は違うがそれなりに大々的に使っていたので察することは出来ると予想する。実際、同じモノと聞いて考え込むジンベエはすぐに思い出したようだった。
「シャイ――シャイタンッ!?」
瞠目してシルビを見やる視線は、『何』に気付いてしまったのかを雄弁に語っている。驚きすぎて眼が飛び出してしまいそうだった。
シルビは言葉を無くしているジンベエを見上げて笑う。
「ふふ、ルフィ君達にはバレてねぇんだぁ。ハートの海賊団のペンギンっていうのも本当の事だしなぁ」
「あ、お……おぬし、何をこんな、こんなところで何を」
喘ぐように訪ねてくるジンベエに笑みを深めた。『ペンギン』ではなく『死告シャイタン』の口調と雰囲気を作って答えるのはしっかりと“同一”だと知らしめる為だ。
正体をバラしてしまうのは、ジンベエならブルック同様大丈夫だと判断しての理由である。
「ルフィ君達と一緒に、同盟相手の仲間の奪還だよ」