トットランド編
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夢主視点
「少し前にドレスローザの王と会ったんだけど、彼は俺の理想に近い『王』であったぜぇ」
ドレスローザでの騒動の最中、リク・ドルド三世から統治者としての理想の返事を貰った。王とは自らなるものではなく周囲からならされるもの。
けれどもそれが唯一の答えとは言えないのが現実である。
現にシルビの故郷では王はいない。あの国は民主制をとってそれぞれの島で代表を立てていた。その代表が話し合って国を動かしている。
逆にこのジェルマではヴィンスモーク家という“王族”が完全に国を統治していた。国民一人一人から土地の隅々までヴィンスモーク家が生殺与奪を握っている。
問題はどちらが“上手くいくのか”ということであれば、上手くいくのは当然前者だとシルビは答えるだろう。下手な統治者が存在する国は端から見れば上手くいっているようであっても、何処かで必ず綻びが生じている。
「少なくとも、サンジ君の言った『部下を人とも思わない王族の驕り』というのは正しい。何故なら国というのは国民がいなければ成立しねぇからだぁ」
「国民ならいる」
「その国民達の思想を奪って操っていては、それは統治ではなく『独裁』であることはぁ?」
イチジは答えなかった。
「『王には王たる条理がある』。そうだなぁ。それも正しい。でもイチジ君。君はその『王たる条理』の何を知ったつもりでいるんだぁ?」
「……君など付けるな」
「だって君年下だろぉ?」
「いくつだ」
「二十四。年長者だと敬ってくれるのかぁ?」
からかうつもりで言えば睨まれる。最近の若い子はローも含めて、少しからかうとすぐに機嫌を悪くするから困ったものだ。今はからかっていないが。
爆弾付き手枷の填められた手で被っていた帽子の唾を摘む。フードではないがまあいいだろう。
「申し訳ないが君を、ヴィンスモーク・ジャッジという科学者上がりを『王』と評価することは現段階で既に出来ねぇ。国民の上に立つ者として彼はその責務を果たせていねぇし、そもそもにして国民に自ら従わせているのではなく『従うようにさせている』時点で王の器ではねぇよ」
王の器ではない。自分で言っておいてしっくりときた表現だった。
科学者と統治者とでは畑が違う。それなのにヴィンスモーク・ジャッジが国王になったから、この国やその息子達はこんなにも歪んでいるのだろうか。そう考えてしまうくらいにはこの国は歪だった。
クローン国民の思想をどういう風に染めているのかは知らないが、そうして染めてしまっている時点で『自分には統治者として立てられる才はない』と認めている様なものである。
シルビは王の制定者ではない。シルビの持論がこの世の唯一の理でもないし、国の特色を考えればその数だけ様々な王や統治者がいるのも当然である。
だがそれを差し引いても、ジャッジのやっていることは王族のそれではないし王としての条理とは言い難かった。
「様々な国を今までに見てきている俺の持論ではあるがね、ヴィンスモーク・イチジ第一王位後継者殿。君の父親がやっていることは研究の延長だぁ」
『ペンギン』ではなく『死告シャイタン』として告げる。イチジはシルビの正体など何も知りはしないだろうが、この言葉を言うにはただの海賊であってはならない。
ただの海賊であるままに言えば、何を言ったところでそれは多数弱者の戯れ言だととられてしまう。彼らは既にそういう思考と思想で生きてきていたのだから。
サングラスの向こうのイチジの目は見えない。だが雰囲気から吐き出したいことを全て抱え込んで吐き出さまいとしていることは伺えた。最近会っていないが、どこぞのストライプな仮面を被った金髪の海賊よりは思考が読みにくい。
「……サンジが正しいというのか」
「正しい正しくないではなく、人は元々弱い存在であるということだよ。弱いから集まって身を守ろうとするし強さを求める」
「弱者は弱者だ」
「そう思わなかった者が国を作り始めた」
「ならより強い者が統治すればいい。そしてそれはこのジェルマが相応しい」
「何故?」
率直に訊ね返せばイチジは戸惑ったようだった。
「もし仮に、ジェルマが統治者として相応しいというのなら、世界は何故未だに君達へ頭を下げねぇ? 自分達を統べるものとして認めねぇ? ――君達にその『素質が無い』からだろぉ」
「弱者が素質を判断できないだけだ」
「では問おう一国の後継者。『君が成し得た世界に残っているのは何人?』」
シルビは国に興味はない。興味がないからこそ適当な言い回しで好き勝手にほざける。
「海軍元帥になったサカズキ君へも同じ質問をした。あの子は答えてくれなかったけれど、弱者は物の様に扱って捨てていいと考えているゴリッパな思想の元に国を動かしている王族の一人である君は、ちゃんと答えを持っているのだろうなぁ?」
あの時サカズキは答えなかった。彼の場合は己の正義を遵守した先という意味であったけれど、武力で征服しようとしているジェルマの一人である彼へ訊ねるのも同じことだろう。
武力で弱者を殺し続けた先に、残っているのは何人なのか。
ドレスローザでリク王が『殺戮国家に未来などない』と言っていたのを思い出す。殺戮国家。戦争国家。独裁国家。
どの王が正しいのかは、王族でも統治者でもないシルビには分からない。
あまりイジメても仕方が無かろうと、息を吐いてイチジへ背を向けた。サンジの元へ戻って彼を見守っていた方がいいだろう。その方が、ルフィ達がこちらへ合流しに来たら一緒に逃げられる。
ルフィ達は南西の海岸から上陸した。そこからプリンによってサンジが連れて来られなかったことは既に判明しているだろうし、となればサンジを探しているのだろうと考える。
プリンの情報通りに動いてサンジと会えていないことについても考えるべきなのだろうが、シルビ一人ではまだ何も出来そうになかった。
部屋を出ようと扉へ手をかけたところで、後ろからイチジが近付いてきて扉を押さえるように手を突く。振り向けば腕の長さ分しかない距離の先でイチジがシルビを見下ろしていた。
「――なら、なんで人間は戦争をする」
「譲れねぇ想いがあるからだろうよ」
信念のぶつけ合い。思想の違い。争いは亡べない。
最後の一人になってしまう可能性のあるシルビとしては、サカズキやジャッジの思想はあまり受け入れられなかった。しかし特別何かを手出しするつもりもない。
シルビの目的はルフィ達とサンジの奪還だ。ジェルマ国がどうなろうと知ったことではない。
今度こそもういいだろうとイチジから視線を逸らす。扉に突かれていた手が、何を思ったのかシルビの腕を掴んだ。再びイチジを見上げる羽目になってその顔色を見やり、シルビはどうしようもない程深くため息を吐いた。
「俺は教育係じゃねぇんだよ?」
本当にその一言へ尽きる。ローは自分からついて行こうと決めた船長だからまだ許せるが、こんな赤の他人の面倒までは見きれない。
「俺サンジ君のとこに行きてぇんだけどぉ」
「……サンジ」
「今の君よりちゃんとした信念を持ってる。彼を見た方が色々と学べるんじゃねぇの?」
「オレも行く」
シルビの腕を掴んだままイチジが反対の手でゆっくりと扉を押し開ける。シルビとしてはサンジが父親や兄弟からの暴言で落ち込んでいるだろうから慰めに行きたいのだが、イチジはおそらく違う理由でサンジへ会いに行こうとしていた。
お気に入りのぬいぐるみを抱える子供のように腕を掴まれたまま、シルビはイチジと一緒にサンジの元へ向かう。その途中で棒付き飴をくわえながら歩いてきたフランが、シルビを見て手を振ってきた。
「さっきのコゼットさんですケドー、顔ボッコボコにされて医務室に連れてかれましたー」
「黙って見てたのかぁ?」
「だってミーじゃ治せねーですしー? っていうか何で手繋いで歩いてんですー?」
不可抗力である。
イチジの手を『拒絶』して離れフランの頭を撫でた。イチジがカエル頭のフランをまじまじと眺めているが、フランが気にしている様子がないあたり既に幻覚が見破られていることには気付いていたのだろう。
それでいて放置しているのもどうかとは思うが。
「医務室の場所、どこだぁ?」
「少し前にドレスローザの王と会ったんだけど、彼は俺の理想に近い『王』であったぜぇ」
ドレスローザでの騒動の最中、リク・ドルド三世から統治者としての理想の返事を貰った。王とは自らなるものではなく周囲からならされるもの。
けれどもそれが唯一の答えとは言えないのが現実である。
現にシルビの故郷では王はいない。あの国は民主制をとってそれぞれの島で代表を立てていた。その代表が話し合って国を動かしている。
逆にこのジェルマではヴィンスモーク家という“王族”が完全に国を統治していた。国民一人一人から土地の隅々までヴィンスモーク家が生殺与奪を握っている。
問題はどちらが“上手くいくのか”ということであれば、上手くいくのは当然前者だとシルビは答えるだろう。下手な統治者が存在する国は端から見れば上手くいっているようであっても、何処かで必ず綻びが生じている。
「少なくとも、サンジ君の言った『部下を人とも思わない王族の驕り』というのは正しい。何故なら国というのは国民がいなければ成立しねぇからだぁ」
「国民ならいる」
「その国民達の思想を奪って操っていては、それは統治ではなく『独裁』であることはぁ?」
イチジは答えなかった。
「『王には王たる条理がある』。そうだなぁ。それも正しい。でもイチジ君。君はその『王たる条理』の何を知ったつもりでいるんだぁ?」
「……君など付けるな」
「だって君年下だろぉ?」
「いくつだ」
「二十四。年長者だと敬ってくれるのかぁ?」
からかうつもりで言えば睨まれる。最近の若い子はローも含めて、少しからかうとすぐに機嫌を悪くするから困ったものだ。今はからかっていないが。
爆弾付き手枷の填められた手で被っていた帽子の唾を摘む。フードではないがまあいいだろう。
「申し訳ないが君を、ヴィンスモーク・ジャッジという科学者上がりを『王』と評価することは現段階で既に出来ねぇ。国民の上に立つ者として彼はその責務を果たせていねぇし、そもそもにして国民に自ら従わせているのではなく『従うようにさせている』時点で王の器ではねぇよ」
王の器ではない。自分で言っておいてしっくりときた表現だった。
科学者と統治者とでは畑が違う。それなのにヴィンスモーク・ジャッジが国王になったから、この国やその息子達はこんなにも歪んでいるのだろうか。そう考えてしまうくらいにはこの国は歪だった。
クローン国民の思想をどういう風に染めているのかは知らないが、そうして染めてしまっている時点で『自分には統治者として立てられる才はない』と認めている様なものである。
シルビは王の制定者ではない。シルビの持論がこの世の唯一の理でもないし、国の特色を考えればその数だけ様々な王や統治者がいるのも当然である。
だがそれを差し引いても、ジャッジのやっていることは王族のそれではないし王としての条理とは言い難かった。
「様々な国を今までに見てきている俺の持論ではあるがね、ヴィンスモーク・イチジ第一王位後継者殿。君の父親がやっていることは研究の延長だぁ」
『ペンギン』ではなく『死告シャイタン』として告げる。イチジはシルビの正体など何も知りはしないだろうが、この言葉を言うにはただの海賊であってはならない。
ただの海賊であるままに言えば、何を言ったところでそれは多数弱者の戯れ言だととられてしまう。彼らは既にそういう思考と思想で生きてきていたのだから。
サングラスの向こうのイチジの目は見えない。だが雰囲気から吐き出したいことを全て抱え込んで吐き出さまいとしていることは伺えた。最近会っていないが、どこぞのストライプな仮面を被った金髪の海賊よりは思考が読みにくい。
「……サンジが正しいというのか」
「正しい正しくないではなく、人は元々弱い存在であるということだよ。弱いから集まって身を守ろうとするし強さを求める」
「弱者は弱者だ」
「そう思わなかった者が国を作り始めた」
「ならより強い者が統治すればいい。そしてそれはこのジェルマが相応しい」
「何故?」
率直に訊ね返せばイチジは戸惑ったようだった。
「もし仮に、ジェルマが統治者として相応しいというのなら、世界は何故未だに君達へ頭を下げねぇ? 自分達を統べるものとして認めねぇ? ――君達にその『素質が無い』からだろぉ」
「弱者が素質を判断できないだけだ」
「では問おう一国の後継者。『君が成し得た世界に残っているのは何人?』」
シルビは国に興味はない。興味がないからこそ適当な言い回しで好き勝手にほざける。
「海軍元帥になったサカズキ君へも同じ質問をした。あの子は答えてくれなかったけれど、弱者は物の様に扱って捨てていいと考えているゴリッパな思想の元に国を動かしている王族の一人である君は、ちゃんと答えを持っているのだろうなぁ?」
あの時サカズキは答えなかった。彼の場合は己の正義を遵守した先という意味であったけれど、武力で征服しようとしているジェルマの一人である彼へ訊ねるのも同じことだろう。
武力で弱者を殺し続けた先に、残っているのは何人なのか。
ドレスローザでリク王が『殺戮国家に未来などない』と言っていたのを思い出す。殺戮国家。戦争国家。独裁国家。
どの王が正しいのかは、王族でも統治者でもないシルビには分からない。
あまりイジメても仕方が無かろうと、息を吐いてイチジへ背を向けた。サンジの元へ戻って彼を見守っていた方がいいだろう。その方が、ルフィ達がこちらへ合流しに来たら一緒に逃げられる。
ルフィ達は南西の海岸から上陸した。そこからプリンによってサンジが連れて来られなかったことは既に判明しているだろうし、となればサンジを探しているのだろうと考える。
プリンの情報通りに動いてサンジと会えていないことについても考えるべきなのだろうが、シルビ一人ではまだ何も出来そうになかった。
部屋を出ようと扉へ手をかけたところで、後ろからイチジが近付いてきて扉を押さえるように手を突く。振り向けば腕の長さ分しかない距離の先でイチジがシルビを見下ろしていた。
「――なら、なんで人間は戦争をする」
「譲れねぇ想いがあるからだろうよ」
信念のぶつけ合い。思想の違い。争いは亡べない。
最後の一人になってしまう可能性のあるシルビとしては、サカズキやジャッジの思想はあまり受け入れられなかった。しかし特別何かを手出しするつもりもない。
シルビの目的はルフィ達とサンジの奪還だ。ジェルマ国がどうなろうと知ったことではない。
今度こそもういいだろうとイチジから視線を逸らす。扉に突かれていた手が、何を思ったのかシルビの腕を掴んだ。再びイチジを見上げる羽目になってその顔色を見やり、シルビはどうしようもない程深くため息を吐いた。
「俺は教育係じゃねぇんだよ?」
本当にその一言へ尽きる。ローは自分からついて行こうと決めた船長だからまだ許せるが、こんな赤の他人の面倒までは見きれない。
「俺サンジ君のとこに行きてぇんだけどぉ」
「……サンジ」
「今の君よりちゃんとした信念を持ってる。彼を見た方が色々と学べるんじゃねぇの?」
「オレも行く」
シルビの腕を掴んだままイチジが反対の手でゆっくりと扉を押し開ける。シルビとしてはサンジが父親や兄弟からの暴言で落ち込んでいるだろうから慰めに行きたいのだが、イチジはおそらく違う理由でサンジへ会いに行こうとしていた。
お気に入りのぬいぐるみを抱える子供のように腕を掴まれたまま、シルビはイチジと一緒にサンジの元へ向かう。その途中で棒付き飴をくわえながら歩いてきたフランが、シルビを見て手を振ってきた。
「さっきのコゼットさんですケドー、顔ボッコボコにされて医務室に連れてかれましたー」
「黙って見てたのかぁ?」
「だってミーじゃ治せねーですしー? っていうか何で手繋いで歩いてんですー?」
不可抗力である。
イチジの手を『拒絶』して離れフランの頭を撫でた。イチジがカエル頭のフランをまじまじと眺めているが、フランが気にしている様子がないあたり既に幻覚が見破られていることには気付いていたのだろう。
それでいて放置しているのもどうかとは思うが。
「医務室の場所、どこだぁ?」