トットランド編
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夢主視点
朝になって外が騒がしいと思っていると、どうやら遠征に出ていた長男と次男が帰ってきたらしい。長女のレイジュと四男のヨンジはシルビ達がトットランドへ来る途中で遭遇したことを考えると、今もこのヴィンスモーク城の何処かへいるのだろう。
そういえばサンジには、レイジュやヨンジに会ったこともルフィ達のことも告げていなかったと思い出した。レイジュやヨンジはともかく、ルフィ達の事は言っておかねば駄目だった気もする。
しかし現状、サンジは未だにシルビが何者であるのかも知らない。ローの帽子で何となく察したりしないかと思っていたが、ゾウでハートの皆を助けてくれたとしてもその中の一人など大して記憶へ残っていないのだろう。ただでさえ怪我人が多くててんやわんやだったはずだ。
サンジ付きの侍女らしい使用人が、朝食は帰ってきたイチジとニジが一息ついてからだと知らせてきた。それにおざなりな返事を返してバルコニーへ煙草を吸いに行ってしまうサンジは、なんだかんだ言って使用人の使い方を知っているらしい。
「俺は腹が減ったかなぁ」
「どこかで食ってこい」
「酷でぇなぁ。ホールケーキアイランドから甘い匂いがしてくるのも問題だよなぁ。腹が減ると同時に胸焼けもする」
匂いだけで甘いモノは遠慮したくなる。しかし塩っ気のあるものもあれば意外とイケるかもしれない。
糖尿病予備軍の集会所にしか思えない島からの匂いはさておき、シルビは帽子の角度を直しながら城下の騒がしさを見下ろした。
イチジとニジが戻ってきたということは着実にサンジとプリンの結婚挙式が近付きつつある。花婿の身内として彼等は急いで帰ってきたのだろう。急いでかどうかは分からないが。
一度二人を観察しに行ったほうがいいのだろうかと考える。サンジの兄弟であり三男である彼の事実上兄だ。
「何処かで食べ物漁ってくるぅ」
「好きに――イヤ待て。その前に手枷返せ」
「なんでぇ?」
「アイツ等に手枷が無いことがバレたら面倒だろ」
その『面倒』というのは爆発させられたら困るとかそういう意味だろうか。生憎シルビは『拒絶』出来れば手枷が爆発したところで死にやしない。爆発するタイミングが分からなかったら多少は怪我をするだろうが。
しかしサンジは当然そんなシルビの事情は知らず、純粋にシルビを心配しているのだろう。優しいなと思いつつ差し出されていたサンジの両手首に自分の手首を透過させる。
「これでいいぃ?」
「ああ」
手枷の戻ってきた手首を眺めるサンジには悪いが、そちらは幻覚製の見た目だけの手枷だ。
兵士や使用人の会話を盗み聞いて、長男と次男の居場所を推測し観察しに行ってみると次男は着替えもそこそこにチョコを摘んでいた。
少し遅いがこれから朝食だよなと思うが、まぁ、遠征から無事に戻ってきて小腹を満たそうとしているのだろうと考える事にする。使用人なのだろう侍女はニコニコと笑っていたが、よく見れば震えていたので粗相をして機嫌を悪くすることを恐れているのかも知れなかった。
彼を観察しても特に有益となる情報は手に入らなさそうだなと判断し、早々に次男のところからは立ち去る。立ち去り際に背後から侍女の悲鳴と謝罪の声と、ニジのものと思われる怒声が響いていた。
さて次はと長男のところへ向かえば、長男は次男のニジと違って一人で着替えや支度をしているようである。サンジとそう変わらない広さの部屋へ忍び込めば、イチジは一人で鏡に向き合いながらスカーフを整えていた。
彼もニジも、兵士達と同じくサングラスを着用している。この国の奴等はこぞってサングラスか好きなのだろう。兵士達で考えたら複製による生誕の副作用で光に弱いとかそういうこともあるだろうが、まさか王族であるイチジ達まで複製ということはあるまい。それに兄弟であるサンジはサングラスをしていなかった。
「――見ていて楽しいか」
不意にイチジが口を開く。彼からすれば自身以外誰もいないはずの部屋だというのにその言葉は誰かへ問いかけるもので、シルビが眉根を潜めればイチジは結局納得のいく結び方にならなかったらしいスカーフを首から外しながら振り返った。
そうして、シルビのいる方を見やる。
シルビは現在幻覚を掛けていて姿は見えない筈だ。現にここへ来るまでにすれ違った城の使用人や兵士達はシルビを認識していなかった。チョコを食べていたニジだって呑気なもので、シルビの存在に気付けていなかったのだ。
だというのに今、目の前にいる赤い髪の青年はサングラス越しながらもまっすぐにシルビを見つめている。
これはもしかしたらと思う。思って寄りかかっていた壁から背を離し、イチジへとゆっくり歩み寄った。
シルビの動きへ合わせて彼の視線も動く。そうして目の前に立って手を差し出してみれば、多少の警戒だけをしながら結べなかったスカーフを渡された。
「使用人を使えばいいのにぃ」
「何か言ったか」
声は聞こえていない。見えているのは姿だけ。その事実にため息を吐く。
時々いるのだ。超直感を持っている訳でも無いのに地味に耐性があり、幻覚が効きにくい者が。
手を伸ばしてスカーフを結んでやるとイチジは鏡を振り返り、スカーフの具合を確認して満足したようだった。そうして改めてシルビへと向き直り眺め回すようにシルビを観察する。
「胸は無いが顔はいいな」
とりあえず平手打ちをした。
叩かれた衝撃で顔を逸らすことになったイチジがゆっくりと首の角度を直す。そうして不満だとばかりにシルビを見下ろすのに、シルビは仕方なく指を鳴らし限定して幻覚を解いた。
「俺は男だよ節穴野郎」
「……勿体ないな」
「流石男を花嫁にしかけたヤツは言うことが違うなぁ」
「男を花嫁にするわけないだろ」
「反故になったが見合いはしかけただろぉ。――まぁいい」
十一年前。シルビが故郷で見合い相手として話が来た相手が彼、ヴィンスモーク・イチジだ。当時は当然世間を知らない子供であっただろう彼も、流石に反故になって会ってすらいない見合い相手など覚えていない様である。
シルビは写真を見たので覚えてはいるが、そうでなくともこの特徴的な髪型と色は忘れにくいだろう。
「侵入者か」
「今更な質問だなぁ。そうだよ」
「目的は」
「君の弟さんのサンジ君」
「……海賊の手下か」
手下というか、一応海賊だ。こんなところへいようとシルビはハートの海賊段副船長『ペンギン』である。
「悪いことは言わない。帰れ」
「帰ろうにも仲間とはぐれてしまってねぇ」
「カエルのことか」
「カエル? ……ああ、あれは違う」
カエルの被り物をしたフランも、どうやらイチジは見つけていたようだ。となると彼の幻術耐性は相当なものである。例え遺伝子をいじられて肉体改造をされていたとしても幻術は関係ないのだから。
食事の時間までこの部屋で時間を潰すつもりらしいイチジが椅子へ腰を下ろす。ニジと違ってチョコを摘んだりはしないらしい。
イチジの視線がシルビの手首へと向けられたことに気付いて腕を上げる。元々サンジが付けていた手枷がそこにはあった。幻覚がよく効いていなかったのから、最初から彼にはこれが見えてもいたのだろう。
いつ爆発するのか分からない手枷を付けている相手に、よくもまぁ首のスカーフを巻かせたものである。
手招かれて歩み寄れば両手を頬へ添えて顔を覗き込まれた。よく見えないのならサングラスを外せばいいのにとそのサングラスへ手を伸ばしたところでイチジが呟く。
「朝焼けと夕焼けの色だ」
こいつは本当に王族なのだろうかという疑問が浮かんだ。王族と言えば王族なのだろうが、どうにも今までに出会ったいわゆる『高貴な血』の気配がしなかった。
朝になって外が騒がしいと思っていると、どうやら遠征に出ていた長男と次男が帰ってきたらしい。長女のレイジュと四男のヨンジはシルビ達がトットランドへ来る途中で遭遇したことを考えると、今もこのヴィンスモーク城の何処かへいるのだろう。
そういえばサンジには、レイジュやヨンジに会ったこともルフィ達のことも告げていなかったと思い出した。レイジュやヨンジはともかく、ルフィ達の事は言っておかねば駄目だった気もする。
しかし現状、サンジは未だにシルビが何者であるのかも知らない。ローの帽子で何となく察したりしないかと思っていたが、ゾウでハートの皆を助けてくれたとしてもその中の一人など大して記憶へ残っていないのだろう。ただでさえ怪我人が多くててんやわんやだったはずだ。
サンジ付きの侍女らしい使用人が、朝食は帰ってきたイチジとニジが一息ついてからだと知らせてきた。それにおざなりな返事を返してバルコニーへ煙草を吸いに行ってしまうサンジは、なんだかんだ言って使用人の使い方を知っているらしい。
「俺は腹が減ったかなぁ」
「どこかで食ってこい」
「酷でぇなぁ。ホールケーキアイランドから甘い匂いがしてくるのも問題だよなぁ。腹が減ると同時に胸焼けもする」
匂いだけで甘いモノは遠慮したくなる。しかし塩っ気のあるものもあれば意外とイケるかもしれない。
糖尿病予備軍の集会所にしか思えない島からの匂いはさておき、シルビは帽子の角度を直しながら城下の騒がしさを見下ろした。
イチジとニジが戻ってきたということは着実にサンジとプリンの結婚挙式が近付きつつある。花婿の身内として彼等は急いで帰ってきたのだろう。急いでかどうかは分からないが。
一度二人を観察しに行ったほうがいいのだろうかと考える。サンジの兄弟であり三男である彼の事実上兄だ。
「何処かで食べ物漁ってくるぅ」
「好きに――イヤ待て。その前に手枷返せ」
「なんでぇ?」
「アイツ等に手枷が無いことがバレたら面倒だろ」
その『面倒』というのは爆発させられたら困るとかそういう意味だろうか。生憎シルビは『拒絶』出来れば手枷が爆発したところで死にやしない。爆発するタイミングが分からなかったら多少は怪我をするだろうが。
しかしサンジは当然そんなシルビの事情は知らず、純粋にシルビを心配しているのだろう。優しいなと思いつつ差し出されていたサンジの両手首に自分の手首を透過させる。
「これでいいぃ?」
「ああ」
手枷の戻ってきた手首を眺めるサンジには悪いが、そちらは幻覚製の見た目だけの手枷だ。
兵士や使用人の会話を盗み聞いて、長男と次男の居場所を推測し観察しに行ってみると次男は着替えもそこそこにチョコを摘んでいた。
少し遅いがこれから朝食だよなと思うが、まぁ、遠征から無事に戻ってきて小腹を満たそうとしているのだろうと考える事にする。使用人なのだろう侍女はニコニコと笑っていたが、よく見れば震えていたので粗相をして機嫌を悪くすることを恐れているのかも知れなかった。
彼を観察しても特に有益となる情報は手に入らなさそうだなと判断し、早々に次男のところからは立ち去る。立ち去り際に背後から侍女の悲鳴と謝罪の声と、ニジのものと思われる怒声が響いていた。
さて次はと長男のところへ向かえば、長男は次男のニジと違って一人で着替えや支度をしているようである。サンジとそう変わらない広さの部屋へ忍び込めば、イチジは一人で鏡に向き合いながらスカーフを整えていた。
彼もニジも、兵士達と同じくサングラスを着用している。この国の奴等はこぞってサングラスか好きなのだろう。兵士達で考えたら複製による生誕の副作用で光に弱いとかそういうこともあるだろうが、まさか王族であるイチジ達まで複製ということはあるまい。それに兄弟であるサンジはサングラスをしていなかった。
「――見ていて楽しいか」
不意にイチジが口を開く。彼からすれば自身以外誰もいないはずの部屋だというのにその言葉は誰かへ問いかけるもので、シルビが眉根を潜めればイチジは結局納得のいく結び方にならなかったらしいスカーフを首から外しながら振り返った。
そうして、シルビのいる方を見やる。
シルビは現在幻覚を掛けていて姿は見えない筈だ。現にここへ来るまでにすれ違った城の使用人や兵士達はシルビを認識していなかった。チョコを食べていたニジだって呑気なもので、シルビの存在に気付けていなかったのだ。
だというのに今、目の前にいる赤い髪の青年はサングラス越しながらもまっすぐにシルビを見つめている。
これはもしかしたらと思う。思って寄りかかっていた壁から背を離し、イチジへとゆっくり歩み寄った。
シルビの動きへ合わせて彼の視線も動く。そうして目の前に立って手を差し出してみれば、多少の警戒だけをしながら結べなかったスカーフを渡された。
「使用人を使えばいいのにぃ」
「何か言ったか」
声は聞こえていない。見えているのは姿だけ。その事実にため息を吐く。
時々いるのだ。超直感を持っている訳でも無いのに地味に耐性があり、幻覚が効きにくい者が。
手を伸ばしてスカーフを結んでやるとイチジは鏡を振り返り、スカーフの具合を確認して満足したようだった。そうして改めてシルビへと向き直り眺め回すようにシルビを観察する。
「胸は無いが顔はいいな」
とりあえず平手打ちをした。
叩かれた衝撃で顔を逸らすことになったイチジがゆっくりと首の角度を直す。そうして不満だとばかりにシルビを見下ろすのに、シルビは仕方なく指を鳴らし限定して幻覚を解いた。
「俺は男だよ節穴野郎」
「……勿体ないな」
「流石男を花嫁にしかけたヤツは言うことが違うなぁ」
「男を花嫁にするわけないだろ」
「反故になったが見合いはしかけただろぉ。――まぁいい」
十一年前。シルビが故郷で見合い相手として話が来た相手が彼、ヴィンスモーク・イチジだ。当時は当然世間を知らない子供であっただろう彼も、流石に反故になって会ってすらいない見合い相手など覚えていない様である。
シルビは写真を見たので覚えてはいるが、そうでなくともこの特徴的な髪型と色は忘れにくいだろう。
「侵入者か」
「今更な質問だなぁ。そうだよ」
「目的は」
「君の弟さんのサンジ君」
「……海賊の手下か」
手下というか、一応海賊だ。こんなところへいようとシルビはハートの海賊段副船長『ペンギン』である。
「悪いことは言わない。帰れ」
「帰ろうにも仲間とはぐれてしまってねぇ」
「カエルのことか」
「カエル? ……ああ、あれは違う」
カエルの被り物をしたフランも、どうやらイチジは見つけていたようだ。となると彼の幻術耐性は相当なものである。例え遺伝子をいじられて肉体改造をされていたとしても幻術は関係ないのだから。
食事の時間までこの部屋で時間を潰すつもりらしいイチジが椅子へ腰を下ろす。ニジと違ってチョコを摘んだりはしないらしい。
イチジの視線がシルビの手首へと向けられたことに気付いて腕を上げる。元々サンジが付けていた手枷がそこにはあった。幻覚がよく効いていなかったのから、最初から彼にはこれが見えてもいたのだろう。
いつ爆発するのか分からない手枷を付けている相手に、よくもまぁ首のスカーフを巻かせたものである。
手招かれて歩み寄れば両手を頬へ添えて顔を覗き込まれた。よく見えないのならサングラスを外せばいいのにとそのサングラスへ手を伸ばしたところでイチジが呟く。
「朝焼けと夕焼けの色だ」
こいつは本当に王族なのだろうかという疑問が浮かんだ。王族と言えば王族なのだろうが、どうにも今までに出会ったいわゆる『高貴な血』の気配がしなかった。