トットランド編
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サンジ視点
城のバルコニーで見下ろした両手首には手枷が填められていた。島から逃げようとすれば爆発するというそれは、サンジが下手な真似をすれば大切な両手を間違いなく消し飛ばすだろう。
命が残ったとしても、料理を作る為の手がなくなってしまえばそれは死んでいるのと同じ事だ。油跳ねや火による小さな火傷や、包丁で付いた傷以外はつけないようにずっと大切にしてきた手。
頭を抱えて叫んだところで奇跡は起きない。
「――ああ良かった。怪我の治療はしてもらえたんだなぁ」
奇跡は。
人払いはしていたし父も姉も部屋を去って行っていた。だから自分以外に誰もいないはずのバルコニーで聞こえた声に、サンジは驚いて顔を上げる。
目の前のサンジが肘を付いていた欄干へ、軽やかに着地する靴先。そこから上へ存在しているのは当然ながら人の姿をしていて、羽織った外套と黒い長髪が風と着地の反動で広がっている。
ローが被っていたのと同じゴマフアザラシの毛並みのような模様をした帽子の陰から、紫色の瞳がサンジを見下ろして細められた。どこか見覚えがあるような懐かしさと何処から現れたのか分からない驚きと、敵なのかどうか分からない警戒が滲んだのは、サンジが“一人”だったからだろうか。
欄干へ着地し、呆然としているサンジと目線を合わせる様にしゃがんで両手でフワモコの帽子を押さえたソイツは、紫色の瞳にサンジを映す。
「こんにちはぁ?」
「……だ、誰だアンタ」
「何だと思うぅ?」
サンジを映す紫色に昔読んだ本の内容を思い出したのは、幼い自分が閉じ込められていた場所へ戻ってきたからか。
紫の眼は悪魔の印。何かを代償に願いを叶えてくれる空想の存在。幼い頃のサンジは、それでも自分を助けてくれる“悪魔”を望んでいた。
「――悪魔か?」
吐き出す様にそう言えば、目の前の“悪魔”はおかしそうに微笑む。その表情に見覚えがある気がした。
「君はいつも初対面で失礼だなぁ。まぁそう呼ばれたこともあるし怒りはしねぇよ。『君だって悪意があった訳じゃねぇ』」
「……前に会ったことがあったか?」
「そうだねぇ。二度ほどあるのだけれど君は覚えてねぇかもしれない。まぁそれは些細な話だから気にしなくていいよ」
「逆に気になる言い方だ」
「本当にそれは些細な話なんだぁ。俺も言われなくちゃ思い出さなかっただろうなぁ。――逃げねぇの?」
欄干から足を投げ出して建物側を向きながら座った“悪魔”に、両手首の手枷を見下ろす。
「――逃げられない」
城のバルコニーで見下ろした両手首には手枷が填められていた。島から逃げようとすれば爆発するというそれは、サンジが下手な真似をすれば大切な両手を間違いなく消し飛ばすだろう。
命が残ったとしても、料理を作る為の手がなくなってしまえばそれは死んでいるのと同じ事だ。油跳ねや火による小さな火傷や、包丁で付いた傷以外はつけないようにずっと大切にしてきた手。
頭を抱えて叫んだところで奇跡は起きない。
「――ああ良かった。怪我の治療はしてもらえたんだなぁ」
奇跡は。
人払いはしていたし父も姉も部屋を去って行っていた。だから自分以外に誰もいないはずのバルコニーで聞こえた声に、サンジは驚いて顔を上げる。
目の前のサンジが肘を付いていた欄干へ、軽やかに着地する靴先。そこから上へ存在しているのは当然ながら人の姿をしていて、羽織った外套と黒い長髪が風と着地の反動で広がっている。
ローが被っていたのと同じゴマフアザラシの毛並みのような模様をした帽子の陰から、紫色の瞳がサンジを見下ろして細められた。どこか見覚えがあるような懐かしさと何処から現れたのか分からない驚きと、敵なのかどうか分からない警戒が滲んだのは、サンジが“一人”だったからだろうか。
欄干へ着地し、呆然としているサンジと目線を合わせる様にしゃがんで両手でフワモコの帽子を押さえたソイツは、紫色の瞳にサンジを映す。
「こんにちはぁ?」
「……だ、誰だアンタ」
「何だと思うぅ?」
サンジを映す紫色に昔読んだ本の内容を思い出したのは、幼い自分が閉じ込められていた場所へ戻ってきたからか。
紫の眼は悪魔の印。何かを代償に願いを叶えてくれる空想の存在。幼い頃のサンジは、それでも自分を助けてくれる“悪魔”を望んでいた。
「――悪魔か?」
吐き出す様にそう言えば、目の前の“悪魔”はおかしそうに微笑む。その表情に見覚えがある気がした。
「君はいつも初対面で失礼だなぁ。まぁそう呼ばれたこともあるし怒りはしねぇよ。『君だって悪意があった訳じゃねぇ』」
「……前に会ったことがあったか?」
「そうだねぇ。二度ほどあるのだけれど君は覚えてねぇかもしれない。まぁそれは些細な話だから気にしなくていいよ」
「逆に気になる言い方だ」
「本当にそれは些細な話なんだぁ。俺も言われなくちゃ思い出さなかっただろうなぁ。――逃げねぇの?」
欄干から足を投げ出して建物側を向きながら座った“悪魔”に、両手首の手枷を見下ろす。
「――逃げられない」