ゾウ編
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夢主視点
片付けて風呂場を後にすれば外から鐘の音が鳴り響いていた。ジャックの襲撃の際の鐘の音とは響き方が違うそれに、襲撃ではないなと思うものの警戒は解けない。
飛び起きたミンク達が都市の方へと走っていく。今の時間はイヌアラシ公爵が統べる時間だろうにそれも関係がないとばかりの動きだ。
「何があった?」
「さぁ?」
「あ、船長! ペンちゃん!」
シルビ達を探していたらしいバンダナが走ってくる。昨日は結構飲んでいたように思ったのだがあんなに激しく動いて平気なのだろうかと思っていると、目の前へ到着する前に案の定顔を青くして口を押さえていた。
「二日酔いの薬、用意しましょうか?」
「ペンちゃんのクソ苦いんだよね……じゃねえや。なんか『侍が来た』とかでミンク達が騒ぎ始めたんですよ。襲撃とはちょっと違うみてえなんですけど、オレらはどうしたもんかと思って」
「『侍』?」
「ああ、そういやゾウの足を登ってくる途中で狐火屋達が落ちたな」
狐火屋とは錦えもん達だ。そう言われて思い出せば昨日の宴には居なかった事を思い出す。
シルビが『シャイタン』としてゴーイングルフィセンパイ号の傍で別れた時はまだ一緒にいたし、なのでイヌアラシ公爵達の元へ居るものだと思っていたが、まさかズニーシャの足を登ってくる段階ではぐれていたとは。ということは彼等だけで一晩掛けてズニーシャの足を登り直していたのだろう。
「ジャック共が『雷ぞう』ってのを探してたが、ミンク達は知らないって言ってただろ? その『侍』達ってのも『雷ぞう』ってのを探しに来たのかね?」
「敵意が無けりゃ『侍』が来てもミンク達は排除しようとする筈はありませんよ。『光月家』じゃねぇのならそこまで丁重な扱いにはならねぇと思いますけど、現段階でミンク族達は来た侍達が誰か分かってねぇから騒いでるんじゃねぇですか?」
ミンク族とこのズニーシャと、ワノ国の中でも『光月家』は密接な関わりがある。その歴史は数百年に及ぶもので、シルビも一応は関わっているのだ。関わっている、と表現していいものかどうか微妙な関係だが。
ゴーイングルフィセンパイ号の上で錦えもんはシルビへ『光月家』を知っているのかと聞いてきたが、逆に『光月家』関係者かと訊ねたら曖昧にぼかしていた。その事から錦えもんが『光月家』を知っているないし『光月家』とミンク達の関係を知っているとは考えている。
今のところはそれだけだ。
「そんなにここへ『雷ぞう』がいるって考えられてんのかね?」
「可能性はありますよ。俺達ハートに教えられてねぇだけなら尚更。少なくともその『雷ぞう』が光月家関係者なら、彼等は守るでしょう」
「光月家?」
「石工の一族ですよ」
鐘の音が止んで更に暫くすると、廃墟と化しているクラウ都へ行っていたミンク達がぞろぞろと戻ってくる。その中には夜明け前にどこかへ行っていたロビン達やルフィ達の姿もあった。
ロビンがシルビやその隣に立っていた船長に気付いて軽く手を挙げる。その傍には錦えもん達がいて、錦えもんはシルビの見覚えがない子供を背負っていた。
「おーいトラ男! ニンジャ見に行くぞ!」
「忍者?」
「ニンジャがいるんだってよ!」
ルフィの全く説明にはなっていない言葉に、けれどもやはり『雷ぞう』を隠していたかと思う。戻ってきたミンク達を見やれば目の合ったペドロが少し気まずげにしていた。
「くじらの森にいる『雷ぞう』へ会いに行くんだ。お前も一応同盟組んでる訳だし一緒に来ねーか?」
「ここが襲撃された原因か?」
「まー、そう言ったらアレだけどよ。色々事情があるっぽいぜ」
ウソップに言われて船長が僅かに考え込む。そうして顔を上げたかと思うとシルビの腕を掴んで歩き出した。
「コイツも連れてく。ウチの副船長だからいいだろ」
「ちょっ」
「そうね。私も彼には来て一緒に話を聞いて欲しいわ」
ニッコリと笑うロビンは少し嫌がらせも入ってはいないか。
「……まず、その方々の紹介をしてもらってもいいですかねぇ」
『ペンギン』は初対面であるという体を悟らせる為の発言をすれば、ブルックがそう言えばとばかりにこちらを振り向いた。眼球のない眼窩が多分シルビへ向けられる。
「そう言えばペンギンさんは重体でしたから聞いていませんでしたね。コチラはワノ国の侍の錦えもんサンとカン十郎サン。それと光月モモの助サンです。モモの助サンは光月家の跡取り何だそうですよ」
「光月? “石工”の光月の跡目ですか?」
「!? お主ナニユエそれを知っておる!?」
錦えもんとカン十郎だけではなく、イヌアラシやネコマムシまでシルビを振り返った。ルフィ達は不思議そうだがそれは分かっていないだけだろう。
言ってはいけない事だったかと内心少し焦りながら、けれども出来るだけ冷静に言い訳を考える。
「ネコマムシの旦那は聞いたと思いますが、俺は『死告シャイタン』の血筋の者です。……秘匿された歴史も、あれの血を継ぐ者としてある程度叩き込まれております」
シルビこそが『死告シャイタン』であることを告げられない以上、シルビが色々知っている理由はそうして嘘を吐くしかない。いつか『自分が死告シャイタンである』と大々的に名乗れた暁には、それらが嘘だと謝罪しなければならないだろうが。
けれどもまぁ、その辺りはその時にならねば分からない。
『死告シャイタン』の血筋の者と聞いて、イヌアラシと侍達が驚いている。ネコマムシはそう言えば聞いていたと合点がいった風情の顔をしていた。
「なんと、シャイタン殿の血筋か。先日お会いしたがなかなか神妙なお方でござった」
「……アレはただのどうしようもない奴です」
多分錦えもんは褒めているのだろうと思うことにする。目の前で評価されるのは何とも言えない気分だ。
自分がどうしようもない奴であることは確かである。腕を掴んでいた船長や近くにいたバンダナ、ロビンが色々なモノを飲み込んだような顔をしていたが、彼らにとってさえ『死告シャイタン』は不可解な存在でしかあるまい。
シルビがあの『死告シャイタン』の関係者なら、という事でシルビも同行を許されくじらの森へと向かう。くじらの森へ入り、大樹へ絡み付く蔓の上を登っていく。先頭を歩くネコマムシの旦那の上に乗って、ルフィやチョッパーが『ニンジャへ会える』と興奮していた。いったいどういう『ニンジャ』を想像しているのかは知らない。
前を歩いている錦えもんに背負われていたモモの助が苦しげに顔をしかめている。
「ウゥ……やはり気分が優れぬ錦えもん」
「下で待っていてもよいのですぞモモの助様」
錦えもんの背中へ額を押しつけ気分の悪さを和らげようとしているが、そんな事で良くなるとは思えない。
「くじらに近づくほど大きな“声”が聞こえるのでござる」
「体質がおでん様に似ておりますなァ」
「あの、錦えもん殿。もしよろしければ俺が抱えましょう」
出来るだけ差し出がましくないように申し出たのはモモの助の『“声”が聞こえる』という発言が気になったからだ。
この場所へ限った事ではないが、時々に『“声”が聞こえる』という、そういう体質を持つ者の事を知っている。かく言うシルビだってある意味では同じなのだろう。
「いや、相済まぬがこの方は我らの主君故。ロー殿の部下であろうとそうおいそれと預けられぬでござる」
「では、モモの助殿が耐えられなくなったら仰ってください。多分多少は力になれますから」
錦えもんの背中からモモの助がシルビを見やる。気分が悪いのに無理をするのは医療従事者としてはあまり看過したくはないが、彼が自分で待つ気はないのなら仕方がない。
「もう一人似た様な事を言う男がいたな」
「――わしもそれを思い出しよったぜよ」
イヌアラシとネコマムシが呟いていた。
最後尾付近にいた船長の傍へまで戻れば、船長がこちらを見下ろしてくる。そういえばこの人も『D』だ。
「船長は、特に“声”は聞こえてませんね?」
「お前には聞こえてるのか」
聞こえていると言えば聞こえている。だがそれはいつものことであるし気にする程の雑音でもない。
聞こえているのはこの動く巨大な象。ズニーシャの“声”だ。おそらくはモモの助が聞いているモノも同じだろう。
とはいえシルビには、普段からズニーシャだけではなく、海王類や鳥や動植物の声が聞こえてはいるのだ。けれどもそれは普通に生きている者なら当然のことである。本当に無音の世界なんてそうそう無い。
「気分悪くは」
「ありません。――海王類と会話するのと同じ感じです。言語は人が喋るものだけどは限りません。ワカメの妹だって、鳥の声が聞こえていたでしょう?」
「血筋的なものか?」
「あの子が光月家の血筋なら可能性はあるかと」
あとはロジャーの様な『Dの一族』とかなのだが、同じくDの一族であるはずの船長は特に気分が悪い様子は無かった。だから大丈夫ではあるのだろう。
「気分が悪くなったら言ってくださいね? ちょっとなら鎮められますから」
反り返るくじらの尾の部分へ設けられた隠し扉を開けて、長い下り階段を降りていく。その先から何かの雄叫びが聞こえていた。階段の四方へ反響して聞こえてくるソレは、シルビからするとズニーシャ達の声無き声よりも耳に痛い。
階段を降りきった先は広い空間になっており、そこに光月家の家紋と赤く巨大な正方形の“歴史の本文”が安置されている。シルビも数百年ぶりにここへ来たのだが、今はそのポーネグリフへ顔のデカい男が鎖で拘束されていた。
服装からしてワノ国の者であることは分かる。が、泣き喚いている姿からはおよそ一般大衆がイメージする『忍者』とはかけ離れていた。現に男を見てルフィ達もイメージと違うとショックを受けている。
シルビが壁へ描かれていた光月家の家紋を見上げていれば、同じくそれに気付いたロビンが驚いていた。
「あれは、『光月家』の家紋……!? それにあの赤い石は……!? 見たこともない色……真っ赤な」
「ああ! “ポーネグリフ”じゃ!」
「家紋は何百年も前からあるものだ。ゆガラの事は知ってるニコ・ロビン! 『オハラ』はあの文字を解読したと聞く」
イヌアラシ公爵の口から出た『オハラ』の名前にシルビはそっとロビンを見やるが、ロビンは目の前にポーネグリフがあるという興奮からかさほど気にしている様子を表へ出していない。
「なぜ赤い色をしているの?」
「用途が違うのだ。アレを読めるか?」
「ええ……読んでもいい?」
「勿論だ」
許可をもらったロビンがポーネグリフへ駆け寄ろうとし、しかし思い出したようにシルビを振り返った。
「手伝ってくれる?」
期待と興奮へ煌めいている女性の視線を受けて誰が断れようか。
肩を竦めてシルビもポーネグリフへと歩み寄れば、拘束を解いた忍者とルフィ達が言い合いしている。
「男ァみんな、忍者が好きなのさ!」
「照れるでござるんですけどー!」
ルフィ達が矢継ぎ早に『雷ぞう』というワノ国の忍者へ忍術のリクエストをして騒いでいる。見た目からのイメージは諦めたが、忍術の方への夢はまだ諦めていないらしい。
土遁だの火遁だのと、やけに忍法の名前に詳しくそれらを挙げていくルフィやウソップに紛れ、あのゾロや船長までリクエストしていた。ポーネグリフに彫り込まれた文字へ指を這わせていたところでソレが聞こえ、シルビは思わず振り返る。
「船長! 俺だって“分身の術”くらい出来るんだけどぉおお!?」
船長が雷ぞうへ『分身の術』をリクエストしていたのが聞こえたのだ。
シルビだって分身の術くらい出来る。正確には分身を見せる事が出来るのだが敵を騙すという点では同じなので無問題だ。イブリスだってある意味では分身である。
更に言うならルフィ達の言う火遁や水遁だって出来なくはない。火を吹けばいいのか燃えればいいのか知らないが死ぬ気の炎で代用できるし、水遁だって海面を歩けるのだから問題はない筈だ。土遁はどんなものか分からないので保留。
つまり何が言いたいのかというと、わざわざ忍者へ忍法を見せてもらわずとも船長にはシルビがいるということだ。
「お前は忍者じゃねえだろ」
「職業『忍者』だったらいいのかぁ!? 忍者の何がいいんですぅ!? 民衆へ紛れ込んで地道な情報収集や情報操作が主な仕事で、戦忍でもなけりゃ普通は戦いもしねぇ仕事の、どこがぁ!?」
「詳しいなオイ」
「畜生っ……口寄せの術で蟾蜍を呼ぶか煮えたぎった釜から子供を放り投げろぉ!」
「エグいわッ!」
口寄せの術はシルビの場合エレボスで代用していいだろうか。
「えーい黙れ!“理想”を押しつけるなァ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか雷ぞうが怒鳴る。シルビとしては嫉妬こそしているが別に理想を押しつけてはいなかった。むしろ全部出来ないと言って失望されてしまえばいいと思う。特に船長に。
だが忍法を見せてもらえないと知ってあからさまにガッカリするルフィ達の落ち込みように、雷ぞうが耐えかねたように忍術を披露し始めた。静かで強靱な心を極めることが云々と言っていたくせに、しっかりと大衆がイメージする『忍者』像を壊さぬよう巻物を口へくわえ、分身したり手裏剣を投げたり飛び跳ねて最終的に堂々と名乗ってポーズを取っている。
「『モテ期』は来ねェが『無敵』の忍者! 『霧の雷ぞう』只今ァ~あ、参・上ォ! 忍! 忍!」
ルフィ達が感動しているところ悪いが、投げた手裏剣は回収して欲しい。
片付けて風呂場を後にすれば外から鐘の音が鳴り響いていた。ジャックの襲撃の際の鐘の音とは響き方が違うそれに、襲撃ではないなと思うものの警戒は解けない。
飛び起きたミンク達が都市の方へと走っていく。今の時間はイヌアラシ公爵が統べる時間だろうにそれも関係がないとばかりの動きだ。
「何があった?」
「さぁ?」
「あ、船長! ペンちゃん!」
シルビ達を探していたらしいバンダナが走ってくる。昨日は結構飲んでいたように思ったのだがあんなに激しく動いて平気なのだろうかと思っていると、目の前へ到着する前に案の定顔を青くして口を押さえていた。
「二日酔いの薬、用意しましょうか?」
「ペンちゃんのクソ苦いんだよね……じゃねえや。なんか『侍が来た』とかでミンク達が騒ぎ始めたんですよ。襲撃とはちょっと違うみてえなんですけど、オレらはどうしたもんかと思って」
「『侍』?」
「ああ、そういやゾウの足を登ってくる途中で狐火屋達が落ちたな」
狐火屋とは錦えもん達だ。そう言われて思い出せば昨日の宴には居なかった事を思い出す。
シルビが『シャイタン』としてゴーイングルフィセンパイ号の傍で別れた時はまだ一緒にいたし、なのでイヌアラシ公爵達の元へ居るものだと思っていたが、まさかズニーシャの足を登ってくる段階ではぐれていたとは。ということは彼等だけで一晩掛けてズニーシャの足を登り直していたのだろう。
「ジャック共が『雷ぞう』ってのを探してたが、ミンク達は知らないって言ってただろ? その『侍』達ってのも『雷ぞう』ってのを探しに来たのかね?」
「敵意が無けりゃ『侍』が来てもミンク達は排除しようとする筈はありませんよ。『光月家』じゃねぇのならそこまで丁重な扱いにはならねぇと思いますけど、現段階でミンク族達は来た侍達が誰か分かってねぇから騒いでるんじゃねぇですか?」
ミンク族とこのズニーシャと、ワノ国の中でも『光月家』は密接な関わりがある。その歴史は数百年に及ぶもので、シルビも一応は関わっているのだ。関わっている、と表現していいものかどうか微妙な関係だが。
ゴーイングルフィセンパイ号の上で錦えもんはシルビへ『光月家』を知っているのかと聞いてきたが、逆に『光月家』関係者かと訊ねたら曖昧にぼかしていた。その事から錦えもんが『光月家』を知っているないし『光月家』とミンク達の関係を知っているとは考えている。
今のところはそれだけだ。
「そんなにここへ『雷ぞう』がいるって考えられてんのかね?」
「可能性はありますよ。俺達ハートに教えられてねぇだけなら尚更。少なくともその『雷ぞう』が光月家関係者なら、彼等は守るでしょう」
「光月家?」
「石工の一族ですよ」
鐘の音が止んで更に暫くすると、廃墟と化しているクラウ都へ行っていたミンク達がぞろぞろと戻ってくる。その中には夜明け前にどこかへ行っていたロビン達やルフィ達の姿もあった。
ロビンがシルビやその隣に立っていた船長に気付いて軽く手を挙げる。その傍には錦えもん達がいて、錦えもんはシルビの見覚えがない子供を背負っていた。
「おーいトラ男! ニンジャ見に行くぞ!」
「忍者?」
「ニンジャがいるんだってよ!」
ルフィの全く説明にはなっていない言葉に、けれどもやはり『雷ぞう』を隠していたかと思う。戻ってきたミンク達を見やれば目の合ったペドロが少し気まずげにしていた。
「くじらの森にいる『雷ぞう』へ会いに行くんだ。お前も一応同盟組んでる訳だし一緒に来ねーか?」
「ここが襲撃された原因か?」
「まー、そう言ったらアレだけどよ。色々事情があるっぽいぜ」
ウソップに言われて船長が僅かに考え込む。そうして顔を上げたかと思うとシルビの腕を掴んで歩き出した。
「コイツも連れてく。ウチの副船長だからいいだろ」
「ちょっ」
「そうね。私も彼には来て一緒に話を聞いて欲しいわ」
ニッコリと笑うロビンは少し嫌がらせも入ってはいないか。
「……まず、その方々の紹介をしてもらってもいいですかねぇ」
『ペンギン』は初対面であるという体を悟らせる為の発言をすれば、ブルックがそう言えばとばかりにこちらを振り向いた。眼球のない眼窩が多分シルビへ向けられる。
「そう言えばペンギンさんは重体でしたから聞いていませんでしたね。コチラはワノ国の侍の錦えもんサンとカン十郎サン。それと光月モモの助サンです。モモの助サンは光月家の跡取り何だそうですよ」
「光月? “石工”の光月の跡目ですか?」
「!? お主ナニユエそれを知っておる!?」
錦えもんとカン十郎だけではなく、イヌアラシやネコマムシまでシルビを振り返った。ルフィ達は不思議そうだがそれは分かっていないだけだろう。
言ってはいけない事だったかと内心少し焦りながら、けれども出来るだけ冷静に言い訳を考える。
「ネコマムシの旦那は聞いたと思いますが、俺は『死告シャイタン』の血筋の者です。……秘匿された歴史も、あれの血を継ぐ者としてある程度叩き込まれております」
シルビこそが『死告シャイタン』であることを告げられない以上、シルビが色々知っている理由はそうして嘘を吐くしかない。いつか『自分が死告シャイタンである』と大々的に名乗れた暁には、それらが嘘だと謝罪しなければならないだろうが。
けれどもまぁ、その辺りはその時にならねば分からない。
『死告シャイタン』の血筋の者と聞いて、イヌアラシと侍達が驚いている。ネコマムシはそう言えば聞いていたと合点がいった風情の顔をしていた。
「なんと、シャイタン殿の血筋か。先日お会いしたがなかなか神妙なお方でござった」
「……アレはただのどうしようもない奴です」
多分錦えもんは褒めているのだろうと思うことにする。目の前で評価されるのは何とも言えない気分だ。
自分がどうしようもない奴であることは確かである。腕を掴んでいた船長や近くにいたバンダナ、ロビンが色々なモノを飲み込んだような顔をしていたが、彼らにとってさえ『死告シャイタン』は不可解な存在でしかあるまい。
シルビがあの『死告シャイタン』の関係者なら、という事でシルビも同行を許されくじらの森へと向かう。くじらの森へ入り、大樹へ絡み付く蔓の上を登っていく。先頭を歩くネコマムシの旦那の上に乗って、ルフィやチョッパーが『ニンジャへ会える』と興奮していた。いったいどういう『ニンジャ』を想像しているのかは知らない。
前を歩いている錦えもんに背負われていたモモの助が苦しげに顔をしかめている。
「ウゥ……やはり気分が優れぬ錦えもん」
「下で待っていてもよいのですぞモモの助様」
錦えもんの背中へ額を押しつけ気分の悪さを和らげようとしているが、そんな事で良くなるとは思えない。
「くじらに近づくほど大きな“声”が聞こえるのでござる」
「体質がおでん様に似ておりますなァ」
「あの、錦えもん殿。もしよろしければ俺が抱えましょう」
出来るだけ差し出がましくないように申し出たのはモモの助の『“声”が聞こえる』という発言が気になったからだ。
この場所へ限った事ではないが、時々に『“声”が聞こえる』という、そういう体質を持つ者の事を知っている。かく言うシルビだってある意味では同じなのだろう。
「いや、相済まぬがこの方は我らの主君故。ロー殿の部下であろうとそうおいそれと預けられぬでござる」
「では、モモの助殿が耐えられなくなったら仰ってください。多分多少は力になれますから」
錦えもんの背中からモモの助がシルビを見やる。気分が悪いのに無理をするのは医療従事者としてはあまり看過したくはないが、彼が自分で待つ気はないのなら仕方がない。
「もう一人似た様な事を言う男がいたな」
「――わしもそれを思い出しよったぜよ」
イヌアラシとネコマムシが呟いていた。
最後尾付近にいた船長の傍へまで戻れば、船長がこちらを見下ろしてくる。そういえばこの人も『D』だ。
「船長は、特に“声”は聞こえてませんね?」
「お前には聞こえてるのか」
聞こえていると言えば聞こえている。だがそれはいつものことであるし気にする程の雑音でもない。
聞こえているのはこの動く巨大な象。ズニーシャの“声”だ。おそらくはモモの助が聞いているモノも同じだろう。
とはいえシルビには、普段からズニーシャだけではなく、海王類や鳥や動植物の声が聞こえてはいるのだ。けれどもそれは普通に生きている者なら当然のことである。本当に無音の世界なんてそうそう無い。
「気分悪くは」
「ありません。――海王類と会話するのと同じ感じです。言語は人が喋るものだけどは限りません。ワカメの妹だって、鳥の声が聞こえていたでしょう?」
「血筋的なものか?」
「あの子が光月家の血筋なら可能性はあるかと」
あとはロジャーの様な『Dの一族』とかなのだが、同じくDの一族であるはずの船長は特に気分が悪い様子は無かった。だから大丈夫ではあるのだろう。
「気分が悪くなったら言ってくださいね? ちょっとなら鎮められますから」
反り返るくじらの尾の部分へ設けられた隠し扉を開けて、長い下り階段を降りていく。その先から何かの雄叫びが聞こえていた。階段の四方へ反響して聞こえてくるソレは、シルビからするとズニーシャ達の声無き声よりも耳に痛い。
階段を降りきった先は広い空間になっており、そこに光月家の家紋と赤く巨大な正方形の“歴史の本文”が安置されている。シルビも数百年ぶりにここへ来たのだが、今はそのポーネグリフへ顔のデカい男が鎖で拘束されていた。
服装からしてワノ国の者であることは分かる。が、泣き喚いている姿からはおよそ一般大衆がイメージする『忍者』とはかけ離れていた。現に男を見てルフィ達もイメージと違うとショックを受けている。
シルビが壁へ描かれていた光月家の家紋を見上げていれば、同じくそれに気付いたロビンが驚いていた。
「あれは、『光月家』の家紋……!? それにあの赤い石は……!? 見たこともない色……真っ赤な」
「ああ! “ポーネグリフ”じゃ!」
「家紋は何百年も前からあるものだ。ゆガラの事は知ってるニコ・ロビン! 『オハラ』はあの文字を解読したと聞く」
イヌアラシ公爵の口から出た『オハラ』の名前にシルビはそっとロビンを見やるが、ロビンは目の前にポーネグリフがあるという興奮からかさほど気にしている様子を表へ出していない。
「なぜ赤い色をしているの?」
「用途が違うのだ。アレを読めるか?」
「ええ……読んでもいい?」
「勿論だ」
許可をもらったロビンがポーネグリフへ駆け寄ろうとし、しかし思い出したようにシルビを振り返った。
「手伝ってくれる?」
期待と興奮へ煌めいている女性の視線を受けて誰が断れようか。
肩を竦めてシルビもポーネグリフへと歩み寄れば、拘束を解いた忍者とルフィ達が言い合いしている。
「男ァみんな、忍者が好きなのさ!」
「照れるでござるんですけどー!」
ルフィ達が矢継ぎ早に『雷ぞう』というワノ国の忍者へ忍術のリクエストをして騒いでいる。見た目からのイメージは諦めたが、忍術の方への夢はまだ諦めていないらしい。
土遁だの火遁だのと、やけに忍法の名前に詳しくそれらを挙げていくルフィやウソップに紛れ、あのゾロや船長までリクエストしていた。ポーネグリフに彫り込まれた文字へ指を這わせていたところでソレが聞こえ、シルビは思わず振り返る。
「船長! 俺だって“分身の術”くらい出来るんだけどぉおお!?」
船長が雷ぞうへ『分身の術』をリクエストしていたのが聞こえたのだ。
シルビだって分身の術くらい出来る。正確には分身を見せる事が出来るのだが敵を騙すという点では同じなので無問題だ。イブリスだってある意味では分身である。
更に言うならルフィ達の言う火遁や水遁だって出来なくはない。火を吹けばいいのか燃えればいいのか知らないが死ぬ気の炎で代用できるし、水遁だって海面を歩けるのだから問題はない筈だ。土遁はどんなものか分からないので保留。
つまり何が言いたいのかというと、わざわざ忍者へ忍法を見せてもらわずとも船長にはシルビがいるということだ。
「お前は忍者じゃねえだろ」
「職業『忍者』だったらいいのかぁ!? 忍者の何がいいんですぅ!? 民衆へ紛れ込んで地道な情報収集や情報操作が主な仕事で、戦忍でもなけりゃ普通は戦いもしねぇ仕事の、どこがぁ!?」
「詳しいなオイ」
「畜生っ……口寄せの術で蟾蜍を呼ぶか煮えたぎった釜から子供を放り投げろぉ!」
「エグいわッ!」
口寄せの術はシルビの場合エレボスで代用していいだろうか。
「えーい黙れ!“理想”を押しつけるなァ!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか雷ぞうが怒鳴る。シルビとしては嫉妬こそしているが別に理想を押しつけてはいなかった。むしろ全部出来ないと言って失望されてしまえばいいと思う。特に船長に。
だが忍法を見せてもらえないと知ってあからさまにガッカリするルフィ達の落ち込みように、雷ぞうが耐えかねたように忍術を披露し始めた。静かで強靱な心を極めることが云々と言っていたくせに、しっかりと大衆がイメージする『忍者』像を壊さぬよう巻物を口へくわえ、分身したり手裏剣を投げたり飛び跳ねて最終的に堂々と名乗ってポーズを取っている。
「『モテ期』は来ねェが『無敵』の忍者! 『霧の雷ぞう』只今ァ~あ、参・上ォ! 忍! 忍!」
ルフィ達が感動しているところ悪いが、投げた手裏剣は回収して欲しい。