ドレスローザ編
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夢主視点
多分感情のままに飛びつこうとしたのだろうローの身体は、しかしロシナンテの身体をすり抜けた。真後ろにいたシルビへ激突しかけたのを慌てて抱き留めて、抱きついた相手がシルビであることに気付いて顔を上げたローが、シルビを突き飛ばしながら必死そうにロシナンテへ手を伸ばす。
「――っなんで触れねえんだ!」
「……生者が死者に触れることも、死者が生者へ触れることも本来は許されねぇことだからだよ」
突き飛ばされたことで船縁へぶつけた背中の痛みを我慢しながら言えば、ローの動きが止まる。シルビからその表情は見えないが、きっと泣きそうな顔をしているのだろう。
ロシナンテは困ったように微笑んでローを見下ろしていた。その手が強く握りしめられている事に気付いたのはシルビだけか。
触れられないと言われても納得が出来ないとばかりに手を伸ばし続けていたローが、やがて力無く両腕を下ろしてうなだれる。更にその場へ膝を突いてしまうのにシルビは何も言えず、両手でフードの縁を深く引っ張った。
奇跡があるなら今起きろ。けれどもこれは“奇跡”ではない。
一度死んでしまったものを生き返らせることはやってはいけなかった。シルビの手からもこぼれ落ちてしまう砂粒はある。ロシナンテはそうしてこぼれ落ちてしまった砂の一つで、彼だけを特別扱いも出来ない。
エースやロジャー、オハラやフレバンスだって同じだ。一つを特別扱いするのなら全てを救わない理由が消えてしまう。
全てを救わない理由が消えたら、シルビはいったい。
「――コラさん」
涙が落ちるような声にロシナンテがしゃがむ。伸ばされたローの手はやっぱりロシナンテへ触れることは出来ず、惜しむ様に甲板へと落ちた。
「オレはアンタに、一緒に生きて欲しかった。でも……、オレを生かしてくれて、ありがとう」
泣くのを必死に堪えていた掠れた声によるそれに、ロシナンテが笑う。笑って、止めどなく溢れている涙を一度だけ拭った。そうして再びローへ笑顔を向け、触れないローの頭を撫でるように手を伸ばす。
今度こそ本当に充分だとばかりに立ち上がったロシナンテがシルビを見るのに、シルビは目元を擦ってからランタンの明かりを強くした。その明かりへ照らされるようにしてロシナンテの姿が薄れていく。
薄れて消えていくロシナンテの向こうから飛んできた三匹の蝶が、新しく何処からともなく現れた四匹目の蝶と一緒に海原へと舞い上がっていった。
シルビの周囲を飛んでいた青い蝶が、それを追いかけるように飛んでいくのに手を伸ばして、結局届くことなく手を降ろす。
ランタンの灯が消えた。
「――ごめんなさい」
「……謝んな」
立ち上がったローへ掛ける言葉に悩んで、結局いつも通りの言葉しか言えなかった。それをすぐに否定する『船長』も大概だが。
タオルか何かを渡すべきなのかもしれないが、生憎手元へ手頃なものが無かった。幻覚で作り出しても良かったが、それはそれでどうかとも思う。
結局何も出来ないまま手持ち無沙汰になって、ランタンを腰のベルトへ引っかけるに留める。ドレスローザへいた間は殆ど棍棒にぶら下げていたのでその感覚も久しぶりだった。
ランタンのカラビナを掛けたところで顔を手で拭ったローが振り返る。色々言いたいことは多いだろうが、それはシルビもだったし話すには一晩では足りない。曖昧に愛想笑いを浮かべてみるもローには何の意味もなく、すぐにシルビもそれを止めて俯いた。
全面的に悪いのはシルビである。ロシナンテのことを黙っていたのも、勝手にドレスローザへ来たのも、あんな最悪な別れを繰り返させたのも。
「……時々、ああやって死者の魂が傍に来るんです。俺はその心残りを聞いてやるとか、説得をする程度しか『兄』を手伝えなくて」
「言うな」
「他にも色々、まだ貴方に言ってねぇことが沢山あります。シャイタンであることだけではなく、その理由とか正体とか、でもそれを言って怖がられるのは――」
「ペンギン」
名を呼ばれて身を竦ませる。ローの顔を見ることが出来なくてひたすら俯いていた。
長く生きている分、誰かの死に見合うことは多い。自分が殺した誰かであったり、寿命や事故で死んでしまった誰かであったり。
『兄』に出会って、『白澤』になって長く生きて、それでも誰かに“おいていかれる”事も嫌われることも怖い。
でもやめられない自分が馬鹿だと。
「“シルビ”」
本名を呼ばれて肩に手を置かれた。ちゃんと表情は取り繕えているだろうかと思いながら、何を言われてもいいように覚悟しながら顔を上げれば、予想に反してローの帽子を被せられただけだった。
思った以上に強く押しつけられたそれに、驚くのと慌てるのとで帽子の唾を持っているローの手を遠慮もなく掴む。ドフラミンゴに腕を切断された後の時とは違い、暖かさがちゃんとあった。
「怖がられる心配する前にオレの話をちゃんと聞け。――右腕繋いでくれて、助かった」
「……せん――」
「あと、心配かけて悪かった。……来てくれて、ありがとう」
「っ――」
両腕を伸ばしてローにしがみつく。
『ペンギン』はローが死んでも泣いてやらないと言ったが、今のシルビは『シャイタン』だし、ローも死んでいないので泣いていいのだ。
頭上から離れろという声が聞こえたが、ローは無理にシルビを引き剥がそうとはしなかった。
多分感情のままに飛びつこうとしたのだろうローの身体は、しかしロシナンテの身体をすり抜けた。真後ろにいたシルビへ激突しかけたのを慌てて抱き留めて、抱きついた相手がシルビであることに気付いて顔を上げたローが、シルビを突き飛ばしながら必死そうにロシナンテへ手を伸ばす。
「――っなんで触れねえんだ!」
「……生者が死者に触れることも、死者が生者へ触れることも本来は許されねぇことだからだよ」
突き飛ばされたことで船縁へぶつけた背中の痛みを我慢しながら言えば、ローの動きが止まる。シルビからその表情は見えないが、きっと泣きそうな顔をしているのだろう。
ロシナンテは困ったように微笑んでローを見下ろしていた。その手が強く握りしめられている事に気付いたのはシルビだけか。
触れられないと言われても納得が出来ないとばかりに手を伸ばし続けていたローが、やがて力無く両腕を下ろしてうなだれる。更にその場へ膝を突いてしまうのにシルビは何も言えず、両手でフードの縁を深く引っ張った。
奇跡があるなら今起きろ。けれどもこれは“奇跡”ではない。
一度死んでしまったものを生き返らせることはやってはいけなかった。シルビの手からもこぼれ落ちてしまう砂粒はある。ロシナンテはそうしてこぼれ落ちてしまった砂の一つで、彼だけを特別扱いも出来ない。
エースやロジャー、オハラやフレバンスだって同じだ。一つを特別扱いするのなら全てを救わない理由が消えてしまう。
全てを救わない理由が消えたら、シルビはいったい。
「――コラさん」
涙が落ちるような声にロシナンテがしゃがむ。伸ばされたローの手はやっぱりロシナンテへ触れることは出来ず、惜しむ様に甲板へと落ちた。
「オレはアンタに、一緒に生きて欲しかった。でも……、オレを生かしてくれて、ありがとう」
泣くのを必死に堪えていた掠れた声によるそれに、ロシナンテが笑う。笑って、止めどなく溢れている涙を一度だけ拭った。そうして再びローへ笑顔を向け、触れないローの頭を撫でるように手を伸ばす。
今度こそ本当に充分だとばかりに立ち上がったロシナンテがシルビを見るのに、シルビは目元を擦ってからランタンの明かりを強くした。その明かりへ照らされるようにしてロシナンテの姿が薄れていく。
薄れて消えていくロシナンテの向こうから飛んできた三匹の蝶が、新しく何処からともなく現れた四匹目の蝶と一緒に海原へと舞い上がっていった。
シルビの周囲を飛んでいた青い蝶が、それを追いかけるように飛んでいくのに手を伸ばして、結局届くことなく手を降ろす。
ランタンの灯が消えた。
「――ごめんなさい」
「……謝んな」
立ち上がったローへ掛ける言葉に悩んで、結局いつも通りの言葉しか言えなかった。それをすぐに否定する『船長』も大概だが。
タオルか何かを渡すべきなのかもしれないが、生憎手元へ手頃なものが無かった。幻覚で作り出しても良かったが、それはそれでどうかとも思う。
結局何も出来ないまま手持ち無沙汰になって、ランタンを腰のベルトへ引っかけるに留める。ドレスローザへいた間は殆ど棍棒にぶら下げていたのでその感覚も久しぶりだった。
ランタンのカラビナを掛けたところで顔を手で拭ったローが振り返る。色々言いたいことは多いだろうが、それはシルビもだったし話すには一晩では足りない。曖昧に愛想笑いを浮かべてみるもローには何の意味もなく、すぐにシルビもそれを止めて俯いた。
全面的に悪いのはシルビである。ロシナンテのことを黙っていたのも、勝手にドレスローザへ来たのも、あんな最悪な別れを繰り返させたのも。
「……時々、ああやって死者の魂が傍に来るんです。俺はその心残りを聞いてやるとか、説得をする程度しか『兄』を手伝えなくて」
「言うな」
「他にも色々、まだ貴方に言ってねぇことが沢山あります。シャイタンであることだけではなく、その理由とか正体とか、でもそれを言って怖がられるのは――」
「ペンギン」
名を呼ばれて身を竦ませる。ローの顔を見ることが出来なくてひたすら俯いていた。
長く生きている分、誰かの死に見合うことは多い。自分が殺した誰かであったり、寿命や事故で死んでしまった誰かであったり。
『兄』に出会って、『白澤』になって長く生きて、それでも誰かに“おいていかれる”事も嫌われることも怖い。
でもやめられない自分が馬鹿だと。
「“シルビ”」
本名を呼ばれて肩に手を置かれた。ちゃんと表情は取り繕えているだろうかと思いながら、何を言われてもいいように覚悟しながら顔を上げれば、予想に反してローの帽子を被せられただけだった。
思った以上に強く押しつけられたそれに、驚くのと慌てるのとで帽子の唾を持っているローの手を遠慮もなく掴む。ドフラミンゴに腕を切断された後の時とは違い、暖かさがちゃんとあった。
「怖がられる心配する前にオレの話をちゃんと聞け。――右腕繋いでくれて、助かった」
「……せん――」
「あと、心配かけて悪かった。……来てくれて、ありがとう」
「っ――」
両腕を伸ばしてローにしがみつく。
『ペンギン』はローが死んでも泣いてやらないと言ったが、今のシルビは『シャイタン』だし、ローも死んでいないので泣いていいのだ。
頭上から離れろという声が聞こえたが、ローは無理にシルビを引き剥がそうとはしなかった。