ドレスローザ編
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夢主視点
シルビの入れ墨を入れていない左腕の包帯を解いて、ローの右腕へと巻き付ける。清潔だとは言い難いが何も巻かずにいるよりは断然マシだった。
包帯を巻いている間に先へ逃げていくマンシェリー姫達を見送ると、周囲はやけに静まりかえる。騒乱とはかけ離れたひまわりの花畑を眺めながら、シルビは再びフードを深く被り直してこっそり半獣の姿になり疲れを癒した。
「この戦い、ドフラミンゴを倒せたとしても世界に大きな波紋を呼ぶぞ。キミ達は“台風の目”になる」
キャベツという名前でいいのか金髪の男が静かに言う。落ち着いた声が『兄』に似ているなとぼんやり思った。どうせならもう少し声に抑揚が無くていい。
「ああ――そのつもりだ」
寝転がったままローが答える。
「……その覚悟は立派だけれど、いつか重荷に思ってしまうことがあるだろう事を忘れんなよぉ」
「シャイタン?」
「重荷は時に自由を奪う。自分で望んで背負った筈が、重くて動けなくする時もある。――俺は、『シャイタン』なんて自分から名乗ったことはねぇ」
台地の下では収縮する糸の恐怖から少しでも逃げようと“鳥籠”の中心部へ集まろうとしている民衆の声が聞こえていた。
悲鳴や怒鳴り声。
重い地響き。
誰かを呼ぶ声。
爆発音。
ロシナンテが兄を止めることとローの珀鉛病を治すことで悩んでいたように、シルビだって『死告シャイタン』と『ペンギン』の立場で悩む。奇しくもどちらも切っ掛けはトラファルガー・ローだった。
王宮の屋上から黒いゴムボールのようなモノがドフラミンゴを吹き飛ばす。城下の街へ一直線に飛ばされていったドフラミンゴに、驚いたのはシルビだけではなくローとキャベツもだ。
覇気をまとい、ゴムの性質を上手く利用して圧倒できるだけの力を得たのだろう。
「なんて変わりようだ……!」
絶句するのも分かる変わり様だった。けれどもだからといって、勝てるのかどうかとなればまた話は違ってくる。
中心部へ向かって迫り来る糸とルフィがドフラミンゴを倒すのはどちらが先かというチキンレースにもなっている状況で、ただ呑気にルフィが勝つのを待っている訳にもいかないだろう。
半獣化をやめてフードを外し、シルビはランタンの提げられた棒を握る。
「おいペ――死告屋、何を」
『ペンギン』と呼びかけたローを肩越しに振り返り、けれども何も言わずにシルビは棒の先端を地面へと突き刺した。
ランタンが揺れる。
「――『もし』ルフィ君が『負けた』としても、俺はここで諦めねぇよ」
突き刺した棒の先から炎が。
『希望はあるのだ! どうか諦めないでくれ!』
拡声器を通したリク王の声が国中に響き渡る。涙声混じりのそれはけれども微塵たりとも全てを諦めていない声だった。
十年続いた悪夢のような現実。諦めなかった者達の最後の決着をつけるときが今であるのなら、シルビはそれを手助けしたっていいはずだ。
いつだってシルビは自身の感情のままに動く権利を持っている。それだけは八桁近い年月を生きても変わらないし変えようと思わない。
だからまだ『兄』を助けることを諦めていないように、この国で生き延びようとするリク王を、国民を、ルフィとロー達を助けようと手を貸すことは、決しておかしいことではないはずだ。
地面へ突き刺したランタンのぶら下がった棒を両手で握りしめる。王宮がこの“鳥カゴ”の中心部らしいから、シルビが立っている位置はちょうどその中心と殆ど変わらない筈だ。
奇跡があるなら今起きて欲しい。そして“奇跡”は起こせずともシルビには。
地面へ突き刺した棒の先端から幾筋もの螺旋状に黒い炎が燃え上がって広がっていく。背後でキャベツの驚く声がしたがシルビにはそれを聞いている余裕はない。
螺旋状に広がっていく黒い炎は地面を這って国の四方八方へ広がっていった。突如燃え広がっていく炎に驚く声がそこかしこから聞こえてくるが、この炎は水を掛けたって消えはしない。
炎の先端が、収縮していく糸へ触れるのを『×××』で確認する。
「――一介の能力者が俺に勝てると思ってんじゃねぇえええええええええ!」
叫ぶと同時に糸の進行を鈍らせるように青い炎が高く燃え上がった。離れた王宮の台地からでも目視する程高く燃え上がったそれに、けれども目に見えて収縮していた糸の進行が遅くなるのが分かる。
とはいえ確実に糸は進んでいるのだ。これだけの広範囲にある糸を、シルビ一人で確実に止めるなんてことは出来やしない。きっと獣の『白澤』の姿になればまた少しは違うかも知れないが、ロー達へ見られたくないという思いが勝ってしまった。
指を鳴らしてリク王の元へ第八の炎で繋げれば、リク王が驚きながら糸を見上げている顔が見える。
「……リク王」
「ぁ……シャイタン……?」
驚きにか喘ぐような声で炎の輪越しに名を呼ばれた。
「糸の、収縮を遅らせることしか出来ねぇ……から、急いで避難――」
「――ああ! ああ分かった! ありがとう!」
お礼を言われても、シルビとしてはこれしか出来ない事が口惜しいというのに。
視界が眩んで棒へすがる様にズルリとその場へ座り込む。棒を掴み続けている右手の甲へ額を押し当て、疲労を少しでも拭おうと意識して呼吸を繰り返した。
今までに国一つを守ろうとしたことがあっただろうか。そう考えて結構あったなと思い出す。
ただそれは国一つではなくて世界一つで、こんな気力を残すようなやり方でなくて、死ぬ気でだった。
「……ふふ」
「シャイタン……?」
キャベツに心配げに声を掛けられて肩越しに振り返る。そうしてキャベツの隣で無理に半身を起こしていたローと目が合った。
その目からは幻滅されたのか怖がられたのか、怯えられたのか嫌われたのかも分からない。あとで謝ればいいのかも分からないままその目にシルビの方が怯えてキャベツの声で少しだけ落ち着く。
「……キャベツ君、だったかぁ?」
「キャベンデッシュだ。なんだ?」
「悪ぃけど何でもいいから“その声”で喋っててくれるかぁ?」
「べ、別にいいが……」
「……死告屋。オレは――」
「寝てろぉ」
いきなり喋ってろと言われて戸惑うキャベンデッシュの横から、ローが聞いてくるのを遮るように言い捨てる。寝て少しでも身体を休めて欲しいという意味で言ったのだが、ローはこんな時だというのに何故か酷く不満そうに口をへの字へ曲げて寝転がった。
ローの声なんてこの騒動が終わってちゃんと生き延びて、ハートの海賊団の元へ戻ってきてくれれば好きなだけ聞ける。だから今無理に聞く必要はない。
シルビ達のいる王宮のある台地の二段目辺りへ、ルフィによってドフラミンゴが激突する。その震動でランタンが揺れた。身を乗り出してキャベンデッシュがシルビよりも前へ出て、断層の縁から燃え伸びている炎を避けつつ身を乗り出して眼下を確認した。
「なんて破壊力だ! これで生きてられるハズがない!」
嬉しそうに叫ぶキャベンデッシュとは逆に、シルビは頭上を見上げる。張り巡らされた『鳥カゴ』はそれを出した能力者であるドフラミンゴが台地へ激突しても消えていない。
ということはまだ終わっていないのだ。
トドメを刺そうと飛んでいたゴムボールの様なルフィの姿が失速し、小さくなって地上へ落ちていく。覇気の使い過ぎか体力の限界か。
「ルッ――」
「ウィーハハハ!」
頭上から突如聞こえた笑い声に仰ぎ見れば、王宮の外壁上からプロレスマスクを被った巨漢がシルビ達には目もくれずに地上へ向かって飛び降りていった。
「待ってろ! 今殺して! “奪ってやる”ゴムゴムの実ィ~!」
「ジーザス・バージェス!」
キャベンデッシュが叫んだ名前には聞き覚えがある。というよりは手配書での見覚えか。エースを海軍へ引き渡し頂上戦争の切っ掛けを作った黒ヒゲ海賊団の一員だ。叫んでいた内容からして、乱戦に次ぐ乱戦で消耗して動けないだろうルフィを殺し、ゴムゴムの実を手に入れるつもりなのだろう。
バージェスの落ちていった先を眺めていると強い地響きと共に先程ドフラミンゴが激突した二段目が砕けていった。シルビ達のいる四段目もその崩壊の影響で地面が傾く。
地面から抜けそうになった棒を慌てて支え、街を見下ろせばドフラミンゴが降りていくのが見えた。ルフィはまだ立ち上がれそうにない。
「シャイタン! なんかこう、打開策はないのか!?」
「最後まで諦めねぇこと」
端的に告げて立ち上がる。中央街に落ちてしまったルフィの周囲から民衆が逃げ、けれどもすぐに違う集団が駆け寄っていくのが見えた。
「最後に倒れるまで足掻くことが、未来を掴む為の必須条件だぁ」
諦めた者へ奇跡は微笑んでくれない。シルビはそんな、今までにも何度もまだ決まっていない運命が近づく音へ耳を傾けてきた。
奇跡を起こすのがたった一人の意志からでもあるのなら、破滅もたった一人の意志から起こる。ではそのたった一人同士が争ったなら。
やはり希望と絶望では、絶望に底があると今でも思っている。
燃え広がっていた炎が揺らぐ感覚に国を覆う糸を見やれば、糸の収縮速度が押さえきれずに速まっているのが分かった。シルビが遅くする前の元の速度より早いそれに、舌打ちをして両手で棒を握る。
これ以上の死ぬ気の炎の流出は、シルビのほうが危ういかも知れない。そう思いながら『×××』で糸の状況を探ったところ、その糸へ抵抗している者が居ることに気付いた。
「……押し返してる?」
頭痛を堪えながら『×××』を使い続ければ、一人また一人と糸を押し返そうとしている手があることが知れる。
イトイトの実の能力によるモノだ。故に普通の建物とは違い武装色の覇気をまとったり、海楼石を用いたりすれば切れることはないだろう。だがだからと言って、押し返そうとするのは無謀にすら思えた。
シルビでさえ進行速度を遅らせるので今は精一杯なのだ。せめてもう少しシルビに覚悟があれば違っただろうに。
後ろから青い蝶がふわりと現れ、ランタンの提げられたシルビが握る棒の天辺へと留まった。それだけではなく、シルビの脇を誰かが走り抜けていく。
赤い帽子に黒いモッサリとした上着。シルビよりもだいぶ高い長身。こけて転びそうになりながらも、シルビにしか見えていないだろうその姿が台地を飛び降りていった。
「ぇ――」
驚くシルビの頭上で棒の先へ留まっていた蝶が羽をはためかせる。見上げれば蝶はもう一度羽をはためかせた。
奇跡があるなら今起きろと願ったのは誰か。
「――おい」
後ろから小さく呼ばれて振り返る。
シルビの入れ墨を入れていない左腕の包帯を解いて、ローの右腕へと巻き付ける。清潔だとは言い難いが何も巻かずにいるよりは断然マシだった。
包帯を巻いている間に先へ逃げていくマンシェリー姫達を見送ると、周囲はやけに静まりかえる。騒乱とはかけ離れたひまわりの花畑を眺めながら、シルビは再びフードを深く被り直してこっそり半獣の姿になり疲れを癒した。
「この戦い、ドフラミンゴを倒せたとしても世界に大きな波紋を呼ぶぞ。キミ達は“台風の目”になる」
キャベツという名前でいいのか金髪の男が静かに言う。落ち着いた声が『兄』に似ているなとぼんやり思った。どうせならもう少し声に抑揚が無くていい。
「ああ――そのつもりだ」
寝転がったままローが答える。
「……その覚悟は立派だけれど、いつか重荷に思ってしまうことがあるだろう事を忘れんなよぉ」
「シャイタン?」
「重荷は時に自由を奪う。自分で望んで背負った筈が、重くて動けなくする時もある。――俺は、『シャイタン』なんて自分から名乗ったことはねぇ」
台地の下では収縮する糸の恐怖から少しでも逃げようと“鳥籠”の中心部へ集まろうとしている民衆の声が聞こえていた。
悲鳴や怒鳴り声。
重い地響き。
誰かを呼ぶ声。
爆発音。
ロシナンテが兄を止めることとローの珀鉛病を治すことで悩んでいたように、シルビだって『死告シャイタン』と『ペンギン』の立場で悩む。奇しくもどちらも切っ掛けはトラファルガー・ローだった。
王宮の屋上から黒いゴムボールのようなモノがドフラミンゴを吹き飛ばす。城下の街へ一直線に飛ばされていったドフラミンゴに、驚いたのはシルビだけではなくローとキャベツもだ。
覇気をまとい、ゴムの性質を上手く利用して圧倒できるだけの力を得たのだろう。
「なんて変わりようだ……!」
絶句するのも分かる変わり様だった。けれどもだからといって、勝てるのかどうかとなればまた話は違ってくる。
中心部へ向かって迫り来る糸とルフィがドフラミンゴを倒すのはどちらが先かというチキンレースにもなっている状況で、ただ呑気にルフィが勝つのを待っている訳にもいかないだろう。
半獣化をやめてフードを外し、シルビはランタンの提げられた棒を握る。
「おいペ――死告屋、何を」
『ペンギン』と呼びかけたローを肩越しに振り返り、けれども何も言わずにシルビは棒の先端を地面へと突き刺した。
ランタンが揺れる。
「――『もし』ルフィ君が『負けた』としても、俺はここで諦めねぇよ」
突き刺した棒の先から炎が。
『希望はあるのだ! どうか諦めないでくれ!』
拡声器を通したリク王の声が国中に響き渡る。涙声混じりのそれはけれども微塵たりとも全てを諦めていない声だった。
十年続いた悪夢のような現実。諦めなかった者達の最後の決着をつけるときが今であるのなら、シルビはそれを手助けしたっていいはずだ。
いつだってシルビは自身の感情のままに動く権利を持っている。それだけは八桁近い年月を生きても変わらないし変えようと思わない。
だからまだ『兄』を助けることを諦めていないように、この国で生き延びようとするリク王を、国民を、ルフィとロー達を助けようと手を貸すことは、決しておかしいことではないはずだ。
地面へ突き刺したランタンのぶら下がった棒を両手で握りしめる。王宮がこの“鳥カゴ”の中心部らしいから、シルビが立っている位置はちょうどその中心と殆ど変わらない筈だ。
奇跡があるなら今起きて欲しい。そして“奇跡”は起こせずともシルビには。
地面へ突き刺した棒の先端から幾筋もの螺旋状に黒い炎が燃え上がって広がっていく。背後でキャベツの驚く声がしたがシルビにはそれを聞いている余裕はない。
螺旋状に広がっていく黒い炎は地面を這って国の四方八方へ広がっていった。突如燃え広がっていく炎に驚く声がそこかしこから聞こえてくるが、この炎は水を掛けたって消えはしない。
炎の先端が、収縮していく糸へ触れるのを『×××』で確認する。
「――一介の能力者が俺に勝てると思ってんじゃねぇえええええええええ!」
叫ぶと同時に糸の進行を鈍らせるように青い炎が高く燃え上がった。離れた王宮の台地からでも目視する程高く燃え上がったそれに、けれども目に見えて収縮していた糸の進行が遅くなるのが分かる。
とはいえ確実に糸は進んでいるのだ。これだけの広範囲にある糸を、シルビ一人で確実に止めるなんてことは出来やしない。きっと獣の『白澤』の姿になればまた少しは違うかも知れないが、ロー達へ見られたくないという思いが勝ってしまった。
指を鳴らしてリク王の元へ第八の炎で繋げれば、リク王が驚きながら糸を見上げている顔が見える。
「……リク王」
「ぁ……シャイタン……?」
驚きにか喘ぐような声で炎の輪越しに名を呼ばれた。
「糸の、収縮を遅らせることしか出来ねぇ……から、急いで避難――」
「――ああ! ああ分かった! ありがとう!」
お礼を言われても、シルビとしてはこれしか出来ない事が口惜しいというのに。
視界が眩んで棒へすがる様にズルリとその場へ座り込む。棒を掴み続けている右手の甲へ額を押し当て、疲労を少しでも拭おうと意識して呼吸を繰り返した。
今までに国一つを守ろうとしたことがあっただろうか。そう考えて結構あったなと思い出す。
ただそれは国一つではなくて世界一つで、こんな気力を残すようなやり方でなくて、死ぬ気でだった。
「……ふふ」
「シャイタン……?」
キャベツに心配げに声を掛けられて肩越しに振り返る。そうしてキャベツの隣で無理に半身を起こしていたローと目が合った。
その目からは幻滅されたのか怖がられたのか、怯えられたのか嫌われたのかも分からない。あとで謝ればいいのかも分からないままその目にシルビの方が怯えてキャベツの声で少しだけ落ち着く。
「……キャベツ君、だったかぁ?」
「キャベンデッシュだ。なんだ?」
「悪ぃけど何でもいいから“その声”で喋っててくれるかぁ?」
「べ、別にいいが……」
「……死告屋。オレは――」
「寝てろぉ」
いきなり喋ってろと言われて戸惑うキャベンデッシュの横から、ローが聞いてくるのを遮るように言い捨てる。寝て少しでも身体を休めて欲しいという意味で言ったのだが、ローはこんな時だというのに何故か酷く不満そうに口をへの字へ曲げて寝転がった。
ローの声なんてこの騒動が終わってちゃんと生き延びて、ハートの海賊団の元へ戻ってきてくれれば好きなだけ聞ける。だから今無理に聞く必要はない。
シルビ達のいる王宮のある台地の二段目辺りへ、ルフィによってドフラミンゴが激突する。その震動でランタンが揺れた。身を乗り出してキャベンデッシュがシルビよりも前へ出て、断層の縁から燃え伸びている炎を避けつつ身を乗り出して眼下を確認した。
「なんて破壊力だ! これで生きてられるハズがない!」
嬉しそうに叫ぶキャベンデッシュとは逆に、シルビは頭上を見上げる。張り巡らされた『鳥カゴ』はそれを出した能力者であるドフラミンゴが台地へ激突しても消えていない。
ということはまだ終わっていないのだ。
トドメを刺そうと飛んでいたゴムボールの様なルフィの姿が失速し、小さくなって地上へ落ちていく。覇気の使い過ぎか体力の限界か。
「ルッ――」
「ウィーハハハ!」
頭上から突如聞こえた笑い声に仰ぎ見れば、王宮の外壁上からプロレスマスクを被った巨漢がシルビ達には目もくれずに地上へ向かって飛び降りていった。
「待ってろ! 今殺して! “奪ってやる”ゴムゴムの実ィ~!」
「ジーザス・バージェス!」
キャベンデッシュが叫んだ名前には聞き覚えがある。というよりは手配書での見覚えか。エースを海軍へ引き渡し頂上戦争の切っ掛けを作った黒ヒゲ海賊団の一員だ。叫んでいた内容からして、乱戦に次ぐ乱戦で消耗して動けないだろうルフィを殺し、ゴムゴムの実を手に入れるつもりなのだろう。
バージェスの落ちていった先を眺めていると強い地響きと共に先程ドフラミンゴが激突した二段目が砕けていった。シルビ達のいる四段目もその崩壊の影響で地面が傾く。
地面から抜けそうになった棒を慌てて支え、街を見下ろせばドフラミンゴが降りていくのが見えた。ルフィはまだ立ち上がれそうにない。
「シャイタン! なんかこう、打開策はないのか!?」
「最後まで諦めねぇこと」
端的に告げて立ち上がる。中央街に落ちてしまったルフィの周囲から民衆が逃げ、けれどもすぐに違う集団が駆け寄っていくのが見えた。
「最後に倒れるまで足掻くことが、未来を掴む為の必須条件だぁ」
諦めた者へ奇跡は微笑んでくれない。シルビはそんな、今までにも何度もまだ決まっていない運命が近づく音へ耳を傾けてきた。
奇跡を起こすのがたった一人の意志からでもあるのなら、破滅もたった一人の意志から起こる。ではそのたった一人同士が争ったなら。
やはり希望と絶望では、絶望に底があると今でも思っている。
燃え広がっていた炎が揺らぐ感覚に国を覆う糸を見やれば、糸の収縮速度が押さえきれずに速まっているのが分かった。シルビが遅くする前の元の速度より早いそれに、舌打ちをして両手で棒を握る。
これ以上の死ぬ気の炎の流出は、シルビのほうが危ういかも知れない。そう思いながら『×××』で糸の状況を探ったところ、その糸へ抵抗している者が居ることに気付いた。
「……押し返してる?」
頭痛を堪えながら『×××』を使い続ければ、一人また一人と糸を押し返そうとしている手があることが知れる。
イトイトの実の能力によるモノだ。故に普通の建物とは違い武装色の覇気をまとったり、海楼石を用いたりすれば切れることはないだろう。だがだからと言って、押し返そうとするのは無謀にすら思えた。
シルビでさえ進行速度を遅らせるので今は精一杯なのだ。せめてもう少しシルビに覚悟があれば違っただろうに。
後ろから青い蝶がふわりと現れ、ランタンの提げられたシルビが握る棒の天辺へと留まった。それだけではなく、シルビの脇を誰かが走り抜けていく。
赤い帽子に黒いモッサリとした上着。シルビよりもだいぶ高い長身。こけて転びそうになりながらも、シルビにしか見えていないだろうその姿が台地を飛び降りていった。
「ぇ――」
驚くシルビの頭上で棒の先へ留まっていた蝶が羽をはためかせる。見上げれば蝶はもう一度羽をはためかせた。
奇跡があるなら今起きろと願ったのは誰か。
「――おい」
後ろから小さく呼ばれて振り返る。