ドレスローザ編
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ジャック視点
一度倒れたと思ったら、目を覚ました男は『何か』が違っていた。
男の目をジャックは自分同様破壊や殺戮を好むもののそれだと評したが、今の男の目はそんな穏やかなものではない。薄暗く、仄かに鈍く金色の瞳が防寒帽の陰から覗いている。
今まではずっとジャック達を拘束するだけに徹していたにも関わらず、一度倒れて目を覚ました途端変貌した。
まるで檻から放たれた猛獣だ。猛獣が目の前にいる。
犬や猫のような畜生共へ比べればそれはずいぶんとヒトの形をしていた。ふざけた防寒帽のつまらなさなど遙か彼方。今まで大人しかった小動物などそこにはいない。
猛獣はジャックの問いへ答えなかった。一度言ったものを繰り返すことが愚かだと思っているのか、“答えるつもりが無い”のか。
笑った男の姿が再び掻き消える。今度は頭上でも背後でもなく、それどころか狙いはジャックですらない。ジャックの足下にいた部下共が一息で数十人の単位で倒れていく。
ミンク族共もいきなり倒れたそれに驚いており、あの男の実力がミンク族共には知られていないことは分かった。とはいえ男はジャックが探しにきた『雷ぞう』ではない。
だから殺していい。
「『KORO』を用意しろ!」
後ろの方から命令に対する返事が聞こえる。同時に男が何かに気付いたようにその返事が聞こえた方へ向かおうとジャックへ背を向けるのに、ジャックは悪魔の実の姿であるマンモスの姿になって男を踏みつけた。
男はジャックの象足へは気付いていただろう。逃げることも出来ただろうが、男が逃げたとしてもそのまま近くに倒れていたミンク族のヤツが踏み潰れるだけだった。
案の定そのミンク族を助けてジャックを見上げた男に、ジャックはほくそ笑む。それから電撃を纏わせた剣を振りかぶっていた犬を凪ぎ払い、倒れたところに足を振り下ろした。
小気味のいい感触と悲鳴。そのまま全体重を振り下ろした足へと掛ければ、犬を助ける為に戻ってきて踏み潰された男が痛みを逃がす為か地面を引っかいている。
犬と男の殆どは無事だった。だが持ち上げてやった象足の下で、男の片足は太股の途中から綺麗に潰れて肉片と化している。
呻きながら男が体を仰向けにし、ジャックを睨む。その眼にはまだ抵抗の意志が残っていた。
「ペンギ――」
誰かが男を呼ぶ。そうだ男の名前は『ペンギン』なんてふざけたものだったなと思い出したジャックの視線の先で、男は驚くことに持っていたナイフで自分の潰された足の残骸を斬り捨てた。
流石に驚いたジャックに背後から部下がガスマスクを持ってくる。それを受け取って装着したところで、片足で立ち上がろうとしていた男へ毒ガス発射装置の噴射口を向けた。
蔓延した毒ガスのかすむ視界の中、マスク越しに見つけた男の首を掴んで持ち上げる。ガスの噴射の勢いでかガスの毒でか、男は息苦しそうではあったがまだ生きていた。
面白そうな男だったが、流石に毒ガスには勝てないらしい。無くなった足からは血が滴っていて、少し揺さぶると男が被っていた帽子が脱げて地面の血溜まりへと落ちた。
途端に広がる黒髪と、帽子が無くなったことで全貌が分かるようになった顔立ち。男の顔は思わず笑ってしまうほど女々しかった。
「面白い若造だな」
「……そ、って、褒めて、るのか?」
返事があったことへ眼を見開けば、ジャックにぶら下げられた男はジャックを見る。まだ喋れる気力があるのかと思うと同時に、やはり面白いヤツだと思った。
部下がミンク族の犬と猫を引きずって連れてきて、磔台へ繋げる。この男も見せしめの一つとして磔にさせようとしたところで、男が口角を上げて千切れた脚を振った。飛び散った血が顔に掛かる。
「ハッ……、おとこ、前が、上がった、っ、ね?」
金色の眼を鈍く光らせて笑う男を、ジャックは叩きつける様に空いていた磔台へ押しつけた。今度こそ笑う余裕を失っただろう喀血する男はしかし、落ち着きを取り戻すと再び笑みを浮かべる。
そこにきてようやく、ジャックは男へ対して恐怖に似た何かを覚えた。自身のボスであるカイドウと対面したときのような、何かを。
だがそれは『死に損ないを見た勘違いである』と思い直して男を磔にする。犬と猫が何か喚いているが、雷ぞうの居場所以外は聞くつもりがなかった。
「ワノ国の武人はどこだ。言わなければこの男を殺す」
磔にした奴らへそう脅しを掛ける。だがミンク族共はそれでもジャックが望む言葉は吐かない。
ならこの男を殺すかと曲刀を構えたところで、男が小さく声を上げて笑った。
「何がおかしい?」
「ふふ……。オレはあの“本体”が普段『抑圧』してるもので構成されてるもんでなぁ。“アイツ”はお優しい上に普段から遠慮も手加減も躊躇もしてるからね。更に言うなら“アイツ”、自分の出来る事をちゃんと知らないんですよ」
さっきまでとは違う流暢で統一されない口調。
「やろうとすれば世界の破滅も復元もなんのその。でも“アイツ”の望みはそんなちっぽけなモノではない。今この場で言うなら――“アイツ”の大切なハートのクルーと、そのクルーが守ろうとしたミンク族を守ること。それが“アイツ”の望みで“アイツ”の『影』たるオレの役目」
自由も片足も奪われているというのに『男』が笑みを深くした。寒気や恐怖心なんてものでは言い表せない、得体の知れないモノが全身を駆け巡る。
その衝動のままに曲刀を振り上げた。片手だけ手錠が外れて男が隠し持っていたのか銃を構える。
引き金が引かれたが、銃弾はジャックへは当たらなかった。
どこか見当違いな方角へ、鋭い音を立てて放たれた銃弾と切断された腕。銃を握ったままの腕が落ちる。
片手と片腕が無くなって、残る一本となってしまった腕に全身の自重が掛かったことで男が呻いた。
それでもまだ消えない男の瞳の奥の火に、今度こそ。
一度倒れたと思ったら、目を覚ました男は『何か』が違っていた。
男の目をジャックは自分同様破壊や殺戮を好むもののそれだと評したが、今の男の目はそんな穏やかなものではない。薄暗く、仄かに鈍く金色の瞳が防寒帽の陰から覗いている。
今まではずっとジャック達を拘束するだけに徹していたにも関わらず、一度倒れて目を覚ました途端変貌した。
まるで檻から放たれた猛獣だ。猛獣が目の前にいる。
犬や猫のような畜生共へ比べればそれはずいぶんとヒトの形をしていた。ふざけた防寒帽のつまらなさなど遙か彼方。今まで大人しかった小動物などそこにはいない。
猛獣はジャックの問いへ答えなかった。一度言ったものを繰り返すことが愚かだと思っているのか、“答えるつもりが無い”のか。
笑った男の姿が再び掻き消える。今度は頭上でも背後でもなく、それどころか狙いはジャックですらない。ジャックの足下にいた部下共が一息で数十人の単位で倒れていく。
ミンク族共もいきなり倒れたそれに驚いており、あの男の実力がミンク族共には知られていないことは分かった。とはいえ男はジャックが探しにきた『雷ぞう』ではない。
だから殺していい。
「『KORO』を用意しろ!」
後ろの方から命令に対する返事が聞こえる。同時に男が何かに気付いたようにその返事が聞こえた方へ向かおうとジャックへ背を向けるのに、ジャックは悪魔の実の姿であるマンモスの姿になって男を踏みつけた。
男はジャックの象足へは気付いていただろう。逃げることも出来ただろうが、男が逃げたとしてもそのまま近くに倒れていたミンク族のヤツが踏み潰れるだけだった。
案の定そのミンク族を助けてジャックを見上げた男に、ジャックはほくそ笑む。それから電撃を纏わせた剣を振りかぶっていた犬を凪ぎ払い、倒れたところに足を振り下ろした。
小気味のいい感触と悲鳴。そのまま全体重を振り下ろした足へと掛ければ、犬を助ける為に戻ってきて踏み潰された男が痛みを逃がす為か地面を引っかいている。
犬と男の殆どは無事だった。だが持ち上げてやった象足の下で、男の片足は太股の途中から綺麗に潰れて肉片と化している。
呻きながら男が体を仰向けにし、ジャックを睨む。その眼にはまだ抵抗の意志が残っていた。
「ペンギ――」
誰かが男を呼ぶ。そうだ男の名前は『ペンギン』なんてふざけたものだったなと思い出したジャックの視線の先で、男は驚くことに持っていたナイフで自分の潰された足の残骸を斬り捨てた。
流石に驚いたジャックに背後から部下がガスマスクを持ってくる。それを受け取って装着したところで、片足で立ち上がろうとしていた男へ毒ガス発射装置の噴射口を向けた。
蔓延した毒ガスのかすむ視界の中、マスク越しに見つけた男の首を掴んで持ち上げる。ガスの噴射の勢いでかガスの毒でか、男は息苦しそうではあったがまだ生きていた。
面白そうな男だったが、流石に毒ガスには勝てないらしい。無くなった足からは血が滴っていて、少し揺さぶると男が被っていた帽子が脱げて地面の血溜まりへと落ちた。
途端に広がる黒髪と、帽子が無くなったことで全貌が分かるようになった顔立ち。男の顔は思わず笑ってしまうほど女々しかった。
「面白い若造だな」
「……そ、って、褒めて、るのか?」
返事があったことへ眼を見開けば、ジャックにぶら下げられた男はジャックを見る。まだ喋れる気力があるのかと思うと同時に、やはり面白いヤツだと思った。
部下がミンク族の犬と猫を引きずって連れてきて、磔台へ繋げる。この男も見せしめの一つとして磔にさせようとしたところで、男が口角を上げて千切れた脚を振った。飛び散った血が顔に掛かる。
「ハッ……、おとこ、前が、上がった、っ、ね?」
金色の眼を鈍く光らせて笑う男を、ジャックは叩きつける様に空いていた磔台へ押しつけた。今度こそ笑う余裕を失っただろう喀血する男はしかし、落ち着きを取り戻すと再び笑みを浮かべる。
そこにきてようやく、ジャックは男へ対して恐怖に似た何かを覚えた。自身のボスであるカイドウと対面したときのような、何かを。
だがそれは『死に損ないを見た勘違いである』と思い直して男を磔にする。犬と猫が何か喚いているが、雷ぞうの居場所以外は聞くつもりがなかった。
「ワノ国の武人はどこだ。言わなければこの男を殺す」
磔にした奴らへそう脅しを掛ける。だがミンク族共はそれでもジャックが望む言葉は吐かない。
ならこの男を殺すかと曲刀を構えたところで、男が小さく声を上げて笑った。
「何がおかしい?」
「ふふ……。オレはあの“本体”が普段『抑圧』してるもので構成されてるもんでなぁ。“アイツ”はお優しい上に普段から遠慮も手加減も躊躇もしてるからね。更に言うなら“アイツ”、自分の出来る事をちゃんと知らないんですよ」
さっきまでとは違う流暢で統一されない口調。
「やろうとすれば世界の破滅も復元もなんのその。でも“アイツ”の望みはそんなちっぽけなモノではない。今この場で言うなら――“アイツ”の大切なハートのクルーと、そのクルーが守ろうとしたミンク族を守ること。それが“アイツ”の望みで“アイツ”の『影』たるオレの役目」
自由も片足も奪われているというのに『男』が笑みを深くした。寒気や恐怖心なんてものでは言い表せない、得体の知れないモノが全身を駆け巡る。
その衝動のままに曲刀を振り上げた。片手だけ手錠が外れて男が隠し持っていたのか銃を構える。
引き金が引かれたが、銃弾はジャックへは当たらなかった。
どこか見当違いな方角へ、鋭い音を立てて放たれた銃弾と切断された腕。銃を握ったままの腕が落ちる。
片手と片腕が無くなって、残る一本となってしまった腕に全身の自重が掛かったことで男が呻いた。
それでもまだ消えない男の瞳の奥の火に、今度こそ。