ドレスローザ編
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夢主視点
ジャック率いる襲撃者達との攻防も五日目。その間シルビはずっと幻覚製の鎖でジャックとその部下でも腹心らしい者達を数名拘束し続けていた。
ネコマムシとイヌアラシは昼夜交互に入れ替わり立ち替わりジャック達を退けようとしている。ハートのクルー達はシルビ以外ネコマムシの撤退に合わせて休息を命じていた。
シャチやベポは毎回一緒に残ると騒いでいたが、下手に残って重傷を負われても困るのだ。ベポの願いでハートの海賊団はネコマムシへ助力しているが、そのクルー達を守るのが留守を任されたシルビの役目でもある。
鎖ですり切れて指先の感覚が無い。その程度ならこの騒動が収束してから治療すればいいので構わないが、どうもジャックを窺っていると奴はシルビの疲弊を待っているようだった。
シャチに言った通り持久戦に入っている。問題があるとすればこちらの戦力は減っていく一方であることに対し、ジャック側は海からどんどん援軍が来ていた。
いっそのことその援軍もろとも鎖で雁字搦めにして海へ放り投げてしまった方がいいのかと考えた直後、わき腹に熱が走る。
撃たれたのだと分かったが、撃たれること自体はこの五日間にもあったのでおかしいことではない。おかしいと思ったのはその痛みがやけに意識を奪っていったことだ。
銃弾が海楼石で出来たものだったとしても、シルビに海楼石が効く訳がない。ではどうして、と考えかけた刹那、意識が強引に引きずり降ろされた。
目を開けると青い空間の中。青い一人掛けの椅子とテーブルの向こう、ソファへ横向きに寝そべっている男がいる。
「――今忙しかったんだけどぉ!」
目を開けた男の目は“金色”。
シルビと同じツナギを着てしかし防寒帽は被っておらず、起き上がった男はシルビと同じ容姿をしていながらその眼の色だけが違う。
男は何よりも人に近く、けれども完全に人だとは言えない存在だ。もう一人の自分。今の場合は『シャドウ』と呼ぶのが正しいのか『ペルソナ』と呼ぶのが正しいのか。
ともあれシルビと眼の色と防寒帽を被っていないこと以外同じ外見で現れた“イブリス”に、シルビは訝しく思いながらも反応を待った。彼が現れる時はいつだって何かをしなければならない時だ。
“イブリス”が微笑む。
「あの子がベルベットルームに来たぞ。死にかけたのか諦めたのかは知らないけどね」
「……あの子?」
いつの間にか背後に、くじらの森へ置いてきたはずのロシナンテが立っていた。
「勝手に呼んだことは謝るよ。でも教えなかったら教えなかったで怒ると思ってな」
「……何の話だぁ」
「ドレスローザ」
イブリスは続ける。
「愛した子と兄の対決の結末を見たくねえのか? 守ろうとして守れなかった国の未来は? やっと見つけたお前を受け入れてくれた彼を、少しくらい驚かせて発破をかけるのもいい」
統一されない口調。誰のことを言っているのかは既に理解したが、しかしそれでシルビがそちらへ注意を向けられるかとなれば別の話だ。
今こうしている間にもゾウはどうなっているのか。シルビの意識がここにあるという事は現実世界でのシルビは意識を失っている。意識を失っているという事は幻覚で作っていた鎖は消えてしまった筈だ。
となれば当然、ジャックが動き出しミンク族が窮地に陥っているのではと。
そう考えるとシルビは何も言えなかった。
“イブリス”はしかし、呆れたように笑う。
「『死告シャイタン』としてこの世界で恐れられている奴が何を恐れているんだ。お前の足枷はお前が勝手に付けているものだろう?」
「“イブリス”」
「行きなよ。どっちも心配してるんでしょ?」
『九人目の口調』でそう言った“イブリス”が、ソファから立ち上がってシルビへ歩み寄ってきたかと思うとすれ違いざまにシルビの防寒帽を奪った。それを自身の頭へ被せて“イブリス”はそのままシルビの腕を掴んで歩き出す。
引きずられるまま進む先には一つの青い扉。
「まっ、待って! イブリス!」
「待たん。貴様はいつも変に思いきりが足りないのだ」
言うなり開け放たれた扉から外へ放り出される。ゾウの皮膚とは違う堅い岩場の上へ繋がっていたらしい扉の向こうに、シルビから遅れて幽霊であるロシナンテまでも放り出された。
「こちらは心配しないでください。首だけになろうと貴方が無事なら問題ねえ」
「そういう問題じゃ――うぷっ」
顔面に私服と『死告シャイタン』の黒い外套とランタンが投げつけられる。そうして目の前で閉められ、消えていく青い扉にシルビは今度こそ唖然として動けなかった。
背後の島の中心部からは爆音や人の悲鳴が聞こえている。ロシナンテが困った様子でシルビの肩へ手を置いた。
渡された黒い外套。これはつまり『死告シャイタン』として動けと言うことなのだろう。確かにその方が『ペンギン』に比べればずいぶんと自由度が違った。
だが『死告シャイタン』がトラファルガー・ローを贔屓する理由は世間的に存在していない。なのに気にかけてしまえば、危険を負うのはシルビではないのだ。
「……徹底的に、傍観者に徹しろってかぁ」
ジャック率いる襲撃者達との攻防も五日目。その間シルビはずっと幻覚製の鎖でジャックとその部下でも腹心らしい者達を数名拘束し続けていた。
ネコマムシとイヌアラシは昼夜交互に入れ替わり立ち替わりジャック達を退けようとしている。ハートのクルー達はシルビ以外ネコマムシの撤退に合わせて休息を命じていた。
シャチやベポは毎回一緒に残ると騒いでいたが、下手に残って重傷を負われても困るのだ。ベポの願いでハートの海賊団はネコマムシへ助力しているが、そのクルー達を守るのが留守を任されたシルビの役目でもある。
鎖ですり切れて指先の感覚が無い。その程度ならこの騒動が収束してから治療すればいいので構わないが、どうもジャックを窺っていると奴はシルビの疲弊を待っているようだった。
シャチに言った通り持久戦に入っている。問題があるとすればこちらの戦力は減っていく一方であることに対し、ジャック側は海からどんどん援軍が来ていた。
いっそのことその援軍もろとも鎖で雁字搦めにして海へ放り投げてしまった方がいいのかと考えた直後、わき腹に熱が走る。
撃たれたのだと分かったが、撃たれること自体はこの五日間にもあったのでおかしいことではない。おかしいと思ったのはその痛みがやけに意識を奪っていったことだ。
銃弾が海楼石で出来たものだったとしても、シルビに海楼石が効く訳がない。ではどうして、と考えかけた刹那、意識が強引に引きずり降ろされた。
目を開けると青い空間の中。青い一人掛けの椅子とテーブルの向こう、ソファへ横向きに寝そべっている男がいる。
「――今忙しかったんだけどぉ!」
目を開けた男の目は“金色”。
シルビと同じツナギを着てしかし防寒帽は被っておらず、起き上がった男はシルビと同じ容姿をしていながらその眼の色だけが違う。
男は何よりも人に近く、けれども完全に人だとは言えない存在だ。もう一人の自分。今の場合は『シャドウ』と呼ぶのが正しいのか『ペルソナ』と呼ぶのが正しいのか。
ともあれシルビと眼の色と防寒帽を被っていないこと以外同じ外見で現れた“イブリス”に、シルビは訝しく思いながらも反応を待った。彼が現れる時はいつだって何かをしなければならない時だ。
“イブリス”が微笑む。
「あの子がベルベットルームに来たぞ。死にかけたのか諦めたのかは知らないけどね」
「……あの子?」
いつの間にか背後に、くじらの森へ置いてきたはずのロシナンテが立っていた。
「勝手に呼んだことは謝るよ。でも教えなかったら教えなかったで怒ると思ってな」
「……何の話だぁ」
「ドレスローザ」
イブリスは続ける。
「愛した子と兄の対決の結末を見たくねえのか? 守ろうとして守れなかった国の未来は? やっと見つけたお前を受け入れてくれた彼を、少しくらい驚かせて発破をかけるのもいい」
統一されない口調。誰のことを言っているのかは既に理解したが、しかしそれでシルビがそちらへ注意を向けられるかとなれば別の話だ。
今こうしている間にもゾウはどうなっているのか。シルビの意識がここにあるという事は現実世界でのシルビは意識を失っている。意識を失っているという事は幻覚で作っていた鎖は消えてしまった筈だ。
となれば当然、ジャックが動き出しミンク族が窮地に陥っているのではと。
そう考えるとシルビは何も言えなかった。
“イブリス”はしかし、呆れたように笑う。
「『死告シャイタン』としてこの世界で恐れられている奴が何を恐れているんだ。お前の足枷はお前が勝手に付けているものだろう?」
「“イブリス”」
「行きなよ。どっちも心配してるんでしょ?」
『九人目の口調』でそう言った“イブリス”が、ソファから立ち上がってシルビへ歩み寄ってきたかと思うとすれ違いざまにシルビの防寒帽を奪った。それを自身の頭へ被せて“イブリス”はそのままシルビの腕を掴んで歩き出す。
引きずられるまま進む先には一つの青い扉。
「まっ、待って! イブリス!」
「待たん。貴様はいつも変に思いきりが足りないのだ」
言うなり開け放たれた扉から外へ放り出される。ゾウの皮膚とは違う堅い岩場の上へ繋がっていたらしい扉の向こうに、シルビから遅れて幽霊であるロシナンテまでも放り出された。
「こちらは心配しないでください。首だけになろうと貴方が無事なら問題ねえ」
「そういう問題じゃ――うぷっ」
顔面に私服と『死告シャイタン』の黒い外套とランタンが投げつけられる。そうして目の前で閉められ、消えていく青い扉にシルビは今度こそ唖然として動けなかった。
背後の島の中心部からは爆音や人の悲鳴が聞こえている。ロシナンテが困った様子でシルビの肩へ手を置いた。
渡された黒い外套。これはつまり『死告シャイタン』として動けと言うことなのだろう。確かにその方が『ペンギン』に比べればずいぶんと自由度が違った。
だが『死告シャイタン』がトラファルガー・ローを贔屓する理由は世間的に存在していない。なのに気にかけてしまえば、危険を負うのはシルビではないのだ。
「……徹底的に、傍観者に徹しろってかぁ」